ヨガが呼吸から入る理由
ヨガのクラスに初めて出ると、最初に呼吸の説明があります。ポーズを習いに来たつもりの人にとっては、遠回りに感じるかもしれません。
しかし呼吸を先に扱うのには理由があります。呼吸は、ポーズの深さと安全性の両方を決めるからです。この記事では、なぜ呼吸から入るのか、そして初心者が実際に何を意識すればよいのかを整理します。
この記事は運動としてのヨガについて書いたもので、病気の治療や診断に関するものではありません。持病がある方、妊娠中の方、痛みがある方は、始める前に医師にご相談ください。
1. 力むと呼吸が止まる
初心者がポーズを取るとき、もっとも頻繁に起きるのは息を止めてしまうことです。難しい形を作ろうとすると、無意識に息が止まります。
息が止まると、いくつかのことが同時に起こります。首や肩に余分な力が入る。姿勢を保つための細かい調整ができなくなる。そして、自分がどれくらいの負荷をかけているか分からなくなります。
ここが重要です。呼吸は、負荷の目安になります。呼吸が続けられないポーズは、その日のその人にとって強すぎます。逆にいえば、呼吸が続いている限り、その形は無理をしていません。
インストラクターが「呼吸を止めないで」と言うのは、精神論ではなく安全のための指標を示しているということです。
2. 腹式呼吸と胸式呼吸
ヨガのクラスで扱われる呼吸には、大きく2つの型があります。
| 腹式呼吸 | 胸式呼吸 | |
|---|---|---|
| 動く場所 | お腹がふくらむ・へこむ | 肋骨が広がる・閉じる |
| 体感 | 落ち着く方向 | 目が覚める方向 |
| よく使う場面 | リラックス系のクラス、終わりの休息 | 動きの多いクラス、ピラティス |
どちらが正しいというものではなく、クラスの目的によって使い分けます。初心者のうちは、指示されたほうをやってみて、体の中で何が動いているかを確かめるだけで十分です。
やってみると分かること
仰向けになって、片手をお腹、片手を胸に置きます。普通に呼吸をして、どちらの手が動くかを見てください。
デスクワークの時間が長い人は、胸だけがわずかに動いて、お腹がほとんど動かないことがあります。これは姿勢の癖と関係していると考えられており、意識的に腹式呼吸をやってみると、最初はうまくいかないことがあります。
できなくても問題ありません。できないことに気づいた時点で、それが練習の対象になります。
3. 鼻で吸って鼻で吐く
多くのヨガのクラスでは、鼻呼吸を基本とします。理由はいくつか挙げられますが、実践上もっとも分かりやすいのは呼吸の速さをコントロールしやすいことです。
口で呼吸すると、量も速さも大きくなりがちです。鼻だと通り道が狭いため、自然にゆっくりになります。ゆっくり吐けると、それだけ長く動きを保てます。
ただし、鼻が詰まっているとき、強度の高いクラスで息が上がったときなどは、無理に鼻にこだわる必要はありません。呼吸が続くことのほうが優先です。
4. 「吐く」から始める
呼吸を整えようとするとき、多くの人はまず大きく吸おうとします。しかし、実際にやってみると分かるのですが、肺に空気が残っている状態では、たくさん吸えません。
だから順序としては、先に吐き切るほうが機能します。吐き切れば、吸う動作は自然に起こります。
クラスの中で「息が浅い」と感じたら、吸うことを頑張るのではなく、吐く時間を長くしてみてください。吸う4秒に対して吐く6〜8秒、といった配分が一つの目安です。
吐く時間を長くすると、多くの人が落ち着く方向に感じます。これは、呼吸のリズムと自律神経の働きに関係があると考えられています。ただし感じ方には個人差があり、誰にでも同じように起こるわけではありません。
5. 動きと呼吸を合わせる
ヨガでは、動きに呼吸を対応させます。おおまかな原則は次のとおりです。
- 体を伸ばす・開く・持ち上げる動き——吸う
- 体を丸める・閉じる・ねじる・下げる動き——吐く
この対応には理由があります。体を丸めるとお腹が圧迫されるため、吸いにくくなります。逆に胸を開く動きでは、肋骨が広がるので吸いやすくなります。体の構造に沿った対応だということです。
初心者のうちは、動きを覚えるだけで手一杯になり、呼吸まで気が回らないことがあります。それで構いません。まず止めないこと、次に吐く動きを合わせること、という順序で身につけていけば十分です。
6. 動きのないときの呼吸
クラスの終わりには、仰向けで休む時間(シャヴァーサナ)があります。ここで何もしないことに落ち着かなさを感じる人がいます。
この時間にやることは、呼吸を変えようとしないことです。深くしようとも、ゆっくりにしようともせず、今の呼吸を眺めます。
意識が別のことに移っても構いません。気づいたら呼吸に戻る。この「気づいて戻る」という動作の繰り返しが、この時間の中身です。うまくできているかどうかを判定する必要はありません。
7. クラスの外でも使える場面
呼吸を意識する練習は、マットの上だけのものではありません。次のような場面で使ったという声を聞きます。
- 緊張する場面の前に、吐く時間を長くする
- デスクワークの合間に、肋骨が動く呼吸を数回だけやってみる
- 眠る前に、仰向けで呼吸を数える
ただし、これらは効果を保証するものではありません。感じ方には個人差があります。試してみて、自分に合うようなら続ける、という程度の距離感が現実的です。
8. 数えるという方法
呼吸に集中しようとしても、意識がすぐ別のことに移ってしまう——これはほとんどの人に起こります。対処として単純で効きやすいのが、数えることです。
吸いながら1、2、3、4。吐きながら1、2、3、4、5、6。数えている間は、他のことを考えにくくなります。数を見失ったら、また1から始めます。見失うこと自体は失敗ではありません。
秒数はあくまで目安で、人によって快適な長さが違います。苦しくならない範囲で、吐く側が吸う側より長くなるように調整してください。息が苦しくなったら、それは長すぎるということです。
9. よくある誤解
「深呼吸をたくさんすればよい」
大きく吸うことを繰り返すと、かえって息苦しくなったり、めまいのような感覚が出たりすることがあります。量より、吐き切ることとリズムのほうが大切です。クラス中に頭がぼんやりしてきたら、いったん普通の呼吸に戻してください。
「呼吸法は上級者のもの」
逆です。初心者ほど呼吸から入る意味があります。体が硬いうちは、形を作ろうとして無理が出やすく、その無理を検知する手段が呼吸だからです。
「肩が上がるのは間違い」
強く吸えば肩は動きます。問題なのは、肩に力が入ったまま固まっていることであって、動くこと自体ではありません。吐くときに肩の力が抜けていれば、多くの場合それで十分です。
10. 体が硬くても関係ない
「体が硬いのでヨガは無理です」という声をよく聞きます。しかし呼吸に関していえば、柔軟性はほとんど関係ありません。
むしろ、体が硬い人のほうが呼吸を指標として使う意味が大きくなります。柔らかい人は、無理な形でも入ってしまうため、負荷に気づきにくいことがあります。硬い人は、入らないところで止まるので、そこで呼吸を確かめれば安全な範囲が分かります。
クラスに出るかどうかを柔軟性で判断する必要はありません。判断の材料になるのは、痛みがあるかどうかと、医師の指示があるかどうかです。
当スタジオの考え方
オンザショアのヨガクラスでは、呼吸の指示を必ず入れています。ただし、指示どおりにできているかを厳しく見るためではありません。
呼吸の指示は、その人が今どれくらいの負荷をかけているかを、本人が自分で確かめるための道具です。呼吸が乱れていれば強すぎる。楽すぎれば、もう少し深くできる。インストラクターが外から判断するより、本人が呼吸で判断するほうが正確です。
初心者の方には、ポーズの形よりも先に、この判断ができるようになることをお伝えしています。形は後からついてきます。
まとめ
- 呼吸が止まるポーズは、その日のその人には強すぎる。呼吸は負荷の目安。
- 腹式・胸式に優劣はない。クラスの目的で使い分ける。
- 鼻呼吸は速さをコントロールしやすい。詰まっていれば無理をしない。
- 整えるときは吐き切るほうが先。吐く時間を長くしてみる。
- 動きとの対応は「開く=吸う/閉じる=吐く」。体の構造に沿っている。
- 休息の時間は、呼吸を変えようとせず気づいて戻るだけでよい。
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