西洋政治思想史(12)

政治思想基礎 第十一講 現代思想の源流 (2) ニーチェ & (3) フロイト 法学部 萩原能久 http://www.law.keio.ac.jp/̃hagiwara/ hagiwara@law.keio.ac.jp マルクス、ニーチェ、フロイト、「この三人に共通な意図に遡ってみるなら、そこに見いだされるのは、まず意識を 全体として、<虚偽>意識とみなそうとする」決意である。…彼らがともに戦いを挑んだ「デカルト主義」におい ては意識と意味が一致するのだが「マルクス、ニーチェ、フロイト以後、われわれはそのことを疑うようになった。」 … ポール・リクール「三人の懐疑の巨人」in 『フロイトを読む』 現代思想の源流(2) Friedrich Nietzsche1844̃1900 Ⅰヤヌスとしてのニーチェ:その多面的「評判」…妹エリザベートによる『力への意志』刊行の問題 アンチ・キリスト/道徳の解体者 or ニヒリスト/生の哲学 ファシズムをもたらした権力意志の哲学/貴族趣味的文化保守主義者 現代思想の先駆者/啓蒙理性の批判者/差異の重要性の発見者 ニーチェ哲学のある種の「でたらめさ」と20 世紀の現実 文明=理性に内在する残虐さ・自己破壊、善にひそむ悪と「哲学」の無力、意味と自由の喪失 Ⅱ道徳批判…「力への意志」 他者に優越の感情を持ちたい人間 「みずから卑しめるものは、高められたいのだ。」 「自己自身を軽蔑する者は、軽蔑する者としての自分をなおも尊敬しているのだ。」 力への意志と「ルサンチマン」 道徳の歴史に表現されているのは、奴隷や抑圧された者たちが、あるいは出来の悪い連中や自分自身に悩んでいる 者たちが、さらには中途半端な輩たちが、自分に都合のいい価値判断を貫徹させるためのひとつの力への意志であ る。(遺稿) キリスト教道徳:弱者のルサンチマン そして犠牲と奉仕と愛のまなざしのあるところ、そこにもまた支配者になろうとする意志がある。つまり、そのと き、弱者は隠れた道を通って強者の城内に忍び込み、さらには主人の心臓のなかにまでもぐりこみ ‐ 力を盗む のである。(ツァラトゥストラ) Ⅲ学問批判 真理への意志など自己保存の道具に過ぎない。認識は力の道具にすぎないのであって、人間理性は力への意志に奉 仕して成長してきたのである。 「永劫回帰」の思想 すべての事物(美・醜、善・悪、強者・悪者)が力への意志の無限運動のなかで、無限に、何度でも回帰す るという現実をそのまま認め、肯定すること。 正午と真夜中の出会い「生成に存在の刻印を与えること ‐ これが最高の力への意志である。」 Ⅳディオニュソスとアポロ … 『悲劇の誕生』 ポリス的な政治共同体と祝祭芸術の融合の夢想 … R ワーグナーとの共通点 ディオニュソス:暗黒、酒と狂宴の神。衝動と情念、混沌的世界の象徴。音楽 アポロ:光の神。秩序と分別の象徴。造形芸術 アポロに対するディオニュソスの対立と後者の優位? 生におけるこの両者の拮抗・調和関係とそれによる生そのものの豊饒化 ソクラテス以降の「哲学」によるアポロ的なものの条理と芸術(悲劇)の解体 ディオニュソスなきアポロという(近代)理性の歪み → 理性の横暴・反理性の暴動 ヨーロッパ近代=ディオニュソス的なものから離反し、英雄ではなく「賎民」の「畜群道徳」が支配 「弱者の道徳」に対する「強者の徳」:人間的価値すべてを超克した「超人」 ニーチェの(反)道徳論のいかがわしさ → (弱者の)ルサンチマンと強者の正当化的隠れ蓑 主体批判 主体など存在しない、それはフィクションにすぎないということの意味 デカルト的なcogito までをも否定したときの「批判」とは何か。 → 市民社会の神話暴露 →ニーチェ哲学が必然的にもつ絶望的ニヒリズムがゆえの「力への決断」 現代思想的意義:ディオニュソス的なものの発見と、その根源を忘却した「理性」の野蛮性の告発 現代思想の源流(3)SiegmundFreud 1856̃1939 自由恋愛を説く「性の共産主義者」?無意識の発見? Ⅰフロイト精神分析論の 3 本柱 1.無意識という心的過程 2.「抵抗」と「抑圧」の理論 3.性と「エディプス・コンプレックス」 1. 無意識という心的過程 催眠術療法との出会い 「快楽原則」(性的衝動)と「現実原則」(自己保存衝動) 現実原則は自己保存のために快楽原則を「抑圧」「昇華」する。 es、超自我、自我 2. 「抵抗」と「抑圧」 トラウマ的体験を人が忘れるのは、その恐怖、苦痛を意識下に追いやってしまう verdrängen(=抑圧)か らである。そうであるならばその感情を発散させるsublimieren(=昇華)させるのではなく、その抑圧を 発見し、それを否認・承認することで解消することが必要。 抑圧の中心にある性的衝動 3. 性とエディプス・コンプレックス 口唇期 → 肛門期 → 性器期の発展過程を経て、思春期までに潜伏するリビドー(性的エネルギー) 「エディプス・コンプレックス」: 男の子は母親にリビドーを集中させ、父親をライバル視する。 文明過程としてのエディプス:『トーテムとタブー』 すべての年少男子と女性を支配下に置く原始群団の家父長に対する「父親殺し」 トーテムとはこの原初的反抗の象徴的反復 この父親殺しの罪の意識と贖罪の意識という二律背反 →トーテム殺害の禁制と家父長の神格化 →近親相姦のタブー Ⅱ『文化の不安』 文化:本能の抑圧の所産 その形成過程で行き場を失ったタナトスの攻撃本能は内面化され、各人の「超自我」のなかに蓄積されて (=昇華)、罪悪感として逆に人間を不幸にする。 性に対してそれを敵視するのが文化 『人はなぜ戦争をするのか』、 エロス:維持し結合しようとする愛の衝動 タナトス:攻撃・破壊衝動 ・すべての生の現象はこの両者のおりなしによって生起する、その意味で両者ともに「必要」であり、人 間から攻撃と破壊の衝動を除去できない。 ・それにもかかわらないフロイトのオプティミズム 知性が欲動生活に比べて無力だということをいくら強調しようと、またそれがいかに正しいことであろうと ─ こ の知性の弱さは一種独特なものなのだ。なるほど、知性の声は弱々しい。けれどもこの知性の声は、聞き入れられ るまではつぶやきを止めないのであり、しかも、何度か黙殺されたあと、結局は聞き入れられるのである。これが われわれが人類の将来についてオプティミステックでありうる数少ない理由の一つである。 『ある幻想の未来』 Ⅲタナトス:死の本能?ローレンツのフロイト批判 「種の保存」を果たす攻撃本能の機能錯誤 殺戮抑制本能に欠ける人類の武器発明 処方箋としての、武器使用と本能的殺戮抑制のあいだでの失われたバランス回復 **************参考文献***************

ポール・リクール『フロイトを読む─解釈学試論』、新曜社 フリードリッヒ・ニーチェ『悲劇の誕生』、岩波文庫 『ニーチェ・セレクション』、平凡社ライブラリー 永井均『これがニーチェだ』、講談社現代新書 タルモ・クンナス『精神の売春としての政治─ニーチェ哲学における政治的なもの』、法政大学出版局 ギュンター・ロールモーザー『ニーチェと解放の終焉』、白水叢書<36> 『世界の名著(60)フロイト』、中公バックス ジークムント・フロイト『人はなぜ戦争をするのか エロスとタナトス』光文社古典新訳文庫 コンラート・ローレンツ『攻撃─悪の自然史』、みすず書房 リチャード・バーンスタイン『根源悪の系譜:カントからアーレントまで』、法政大学出版局

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【監修者】宮川涼
プロフィール早稲田大学大学院文学研究科哲学専攻修士号修了、同大学大学院同専攻博士課程中退。日本倫理学会員 早稲田大学大学院文学研究科にてカント哲学を専攻する傍ら、精神分析学、スポーツ科学、文学、心理学など幅広く研究に携わっている。

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