民法2 要件事実概論 要件事実の考え方、要件事実の例

01 要件事実の考え方

法律は、要件を満たすと効果が発生し、権利または義務が生じるという関係にあります。訴訟においては、前記事で記したように、審理を合理的に進めるために、判断してほしい権利・義務を訴えた側が提示し(これを請求の趣旨と呼び、ドイツ語のAntragの略語でAntと表記することがあります)、そのために必要と考えられる法律要件に基づいて、必要な事実の有無を主張・立証するという手順が取られますが、この際の判断してほしい権利・義務のことを訴訟物(ドイツ語のStreitgegenstandの略語で、Stgと表記することがあります)と呼び、法律要件や必要な事実の有無を構成するものを要件事実と呼びます。また、当然のことですが、紛争になるので、訴訟においては双方の言い分が食い違い、実際の事実がどうであったのか裁判所には不明なことがあります。

そこで、裁判においては、双方から言い分を主張させ、それを裏づける証拠を提出させた上で、どのような事実があったのか裁判所が認定するということを行います。このとき、訴訟物を根拠づける法律要件を整理するため、まず当事者に言い分を主張させる整理の仕方を「言い分方式」と呼びます。

それでは、簡単な事例を見ながら整理してみましょう。

事例)

(Xの言い分)私は、令和6年1月1日に、かつて私が新車で買った自動車Zを、Yに100万円で売り、即日引渡しました。代金の支払い日は同年1月末限りという約束でした。しかし、Yはいろいろ文句を言ってその代金を支払ってくれません。そこで、私は裁判を起こしてでも、代金100万円の支払いを求めたいと思っています。 

(Yの言い分)私は、令和6年1月1日に、Xの車Zを買う話をしたのですが、結局、代金の折り合いがつきませんでした。なお、当該車については、Xが自分で買ったものではなく、Xの父から贈与を受けたものだと聞いています。

としましょう。この場合、Xが原告として、Yを被告として訴えたとします。訴訟物(Stg)は、売買契約に基づく代金支払請求権一個であり、請求の趣旨(Ant)は、被告(Y)は、原告(X)に対し、100万円を支払え、というものになるということになります。

これらの請求権を基礎づける要件は、法律の規定とその解釈によって決まります。今回のような売買契約の場合、「売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを訳することによって、その効力を生ずる」(民法555条)と条文に記載があります。また、同条の本質的要素として、「目的物が特定していること」「代金額が特定できること」が必要とされています。

要件事実は、訴訟物(Stg)を根拠づけるため必要最低限の事実から構成されます。条文上、要求されておらず、解釈上も必須でないと考えられるものは、要件事実となりません。なので、今回の事例(本件と呼ぶ)では、売買代金請求では、「代金の支払時期は?」「売主が目的物を所有しているのか?」、「目的物を引き渡したことは?」というようなことを原告から積極的に主張する必要はありません。

さらに、誰(原告か、被告か)がその要件事実を主張・立証すべきかの分配は、実務上、「権利の発生の点」については、これを主張しようとする者に立証責任があり、権利の発生を否定する点(障害・消滅・阻止)については、否定しようとする者に立証責任があります。これを法律要件分類説といいます。

以上を前提に、事例で請求原因を検討すると、

請求原因は、X(請求の原因)、これをドイツ語でKlagegrundといい、Kgと略して表記することがあります。そして、原告は被告に対し、令和6年1月1日、車Zを代金100万円で売った、ということになります。これをブロックダイヤグラムという表記方法で記すと、

Kg(売買)

X→Y R6.1.1 車Z

売買契約 代金100万円

と記します。これを認否する必要があり、Y(被告)は、結局金額について折り合わず、売買契約は成立しなかったと主張しているので、請求原因(kg)に対する認否は否認ということになります。よって、Y(請求原因に対する認否)請求原因(あ)は否認する、ということになります。これをブロックダイヤグラムで記すと、

Kg(売買)

X→Y R6.1.1 車Z

売買契約 代金100万円

×

表記上、○を認める、×を否認、△を不知、顕を顕著な事実ということを意味する表記とします。当事者の主張を整理すると、

1 請求原因

あ XはYに対し、令和6年1月1日、車Zを代金100万円で売った。

い よって、原告は、被告に対し、上記売買契約に基づき、代金100万円の支払いを求める。

2 請求原因に対する認否

  請求原因(あ)は否認する。

 →(い)部分は実務上「よって書き」と呼ばれ、原告の主張を締めくくり、請求の趣旨と結びつける記載です。事実ではないので認否は不要です。

02 要件事実の例

また、次の事例で再度確認してみましょう。

事例

(Xの言い分)私は、2019年1月1日に、先祖代々受け継いで私が所有していた土地Aを、是非ほしいと言ってきたYに代金2000万円で売りました。しかし、Yはいろいろ文句を言ってその代金を支払ってくれません。そこで、私は代金2000万円の支払いを求めたいと思っています。

(Yの言い分)私は、2019年1月1日に、Xの土地Aを買う話をしましたが、私がほしいと言ったわけではなく、Xから、相続税の支払いができないので、買い受けてほしいと言われたものです。また結局、代金の折り合いがつかず、話は流れました。なお仮に、売買契約が成立していたとしても、もう古い話ですし、代金の支払い債務は時効になっていると思います。

この場合は、Stgは、売買契約に基づく代金支払請求権1個、Antは、被告は、原告に対し、2000万円を支払え、というものになります。

X(請求の原因) Kg

あ 原告は被告に対し、2019年1月1日、土地Aを代金2000万円で売った。

Y(請求原因に対する認否)

請求原因(あ)は否認する。

となり、ブロックダイヤグラムでシンプルに書くと、

Kg(売買)

X→Y 2019.1.1 土地A

売買 代金2000万円

×

となります。本件で、Yは請求原因を否認しつつも、もし請求原因が証拠から認定された場合に備えて、請求原因が存在することによる法律効果の発生の障害となり、権利を消滅させ、又は権利の行使を阻止する事実を主張しています。このような事実を抗弁(抗弁は、EinredeといいEと略します)といいます。

Y(抗弁) Einrede

カ 2024年1月1日は経過した。

キ 被告は、原告に対し、2024年6月1日の本件口頭弁論期日において、上記時効を援用するとの意思表示をした。

ク (あ)の際、Xは本件債権が行使できることについて知っていた。

抗弁は、「請求原因と両立し、法的効果を打ち消す事実」と表現されることもあります。ただし、両立するか否かの判断は、法的効果と比較するのではなく、要件となる事実で比較しなければならないことに注意する必要があります。

具体例を挙げると、たとえば、Xが契約の成立を主張し、Yが公序良俗違反による無効(90条)を主張する場合、「公序良俗違反によって契約は無効だから、契約成立の請求原因と両立しない」と考えるのは誤りとなります。無効の要件となる事実と比較して両立すると考えるのが正しいことになります。効果と比較するのではなく、要件で比較することが大事なわけです。

先程の土地の売買契約の当事者の主張を整理しましょう。

1 請求原因(kg)

あ 原告は被告に対し、2019年1月1日、土地Aを代金2000万円で売った。

い よって、原告は、被告に対し、上記売買契約に基づき、代金2000万円の支払いを求める。

2 請求原因に対する認否

請求原因(あ)は否認する。

3 抗弁(消滅時効)E

カ 2024年1月1日は経過した。

キ 被告は、原告に対し、2024年6月1日の本件口頭弁論期日において、上記時効を援用するとの意思表示をした。

ク (あ)の際、Xは本件債権が行使できることについて知っていた。

ブロックダイヤグラムでまとめると、

Kg(売買)

X→Y 2019.1.1

土地A売買

代金2000万円

×

 

E(消滅時効)

2024.1.1 経過
Y→X 2024.6.1

本件口頭弁論期日において時効遠洋の意思表示

(あ)の際、Xは本件債権が行使できることについて知っていた。

となりますね。ちなみに、これに対して、再抗弁することを、ドイツ語でReplikといい、Rと略し表記します。抗弁と両立し、抗弁の法的効果を打ち消す事実と言えます。抗弁や再抗弁がどこまで法的に存在するかは、条文の解釈によることになります。

たとえば、消滅時効の抗弁に対しては、「時効完成猶予の再抗弁」「時効援用権の喪失の再抗弁」などが考えられます。なお、再抗弁に対して再々抗弁(Duplik)、 再々々抗弁(Triplik)が存在する場合もあります。

また、要件事実にまつわるその他の概念としては、時的因子と時的要素があります。時的因子とは、事実を特定するための日時のことをいい、前述の「○月○日に」などの日付や時刻をいいます。これは、行為を特定するためのものなので、当事者の主張と異なる日時で、裁判所が事実を特定することも許されます。

これに対して、時的要素とは、「事実相互の時間的先後関係が要件事実の要素となっている場合」をいいます。具体例としては、契約に「先だって」代理人に代理権を授与したこと、などで、当事者の主張と異なる先後関係を裁判所が認定することは、その要件事実を認めないことと同義となります。

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