ピラティス
1 ピラティスとヨガの違いとは?
ピラティスは、ヨガと並んで女性に人気のエクササイズです。どちらかを体験してみたいと考えている方も多いはず。しかし、改めて考えてみると分かりにくいのがピラティスとヨガの違いです。先に一言で両者の違いについて説明すると、ヨガが修行や精神安定、メンタルケア、心身を整えるために行うものであるのに対して、ピラティスは、インナーマッスルを鍛えるエクササイズです。(▶ピラティスの効果についてはこちら)
端的にまとめてしまうと、ヨガは精神面を重視したエクササイズ、ピラティスは身体の筋肉を重視したエクササイズという違いがあるのです。
ピラティスとヨガの違いについて
2 ピラティスの誕生秘話
もともと、ピラティスは、リハビリのために考案されたエクササイズです。ピラティスが誕生したのは第一次世界大戦中。イギリスの捕虜の兵士を収容する施設で、戦争で負傷した人のリハビリ目的でピラティスは考案されました。
ピラティスを生み出したのは、ドイツ人の従軍看護士であったJoseph Pilates(ジョセフ・ピラティス、以下カタカナで表記します)。ピラティスの名前も彼の名前にそのまま由来しています。
ジョセフ・ピラティスは限られた設備しかない捕虜収容施設のベッドの上でも、負傷した場所のリハビリを行えるようにピラティスのエクササイズを開発しました。
幼少期、リウマチ熱やくる病を患い、病弱だった彼は、病気を克服するためボクシングや体操、ヨガ、スキー、ダイビングなど様々なスポーツに取り組み、強靭な肉体を手に入れました。
その後、彼は体操選手になるためのトレーニングを行い、それがサーカス芸人のキャリアに繋がります。19世紀終わりから20世紀の初頭にかけては、筋肉質な男性と女性は憧れの対象ではなく、変わり者と捉えられていました。ピラティスも例外ではなく、あくまで当時はいわゆる「サーカス芸」とみなされていました。
しかし、その後ピラティスは大きな転機を迎えます。第一次世界大戦が勃発した1914年に、ジョセフ・ピラティスはドイツのサーカス団と共に英国を巡業してていましたが、敵国人として逮捕されてしまいます。そして、収監されたイギリスのマン島収容所で、後に彼の名が付けられた独自のワークアウトメソッドが確立されたのです。
マン島収容所で生まれたピラティス
ジョセフ・ピラティスは、収監時代、暇つぶしに島の痩せこけた猫たちがネズミや鳥を追いかけているのを眺めていると、そのエネルギーと敏捷性に驚嘆しました。それは、マン島に収容されている人々の身体的、精神的状態とは大きくかけ離れたものでした。
そこで、ピラティスは猫の動きを研究し、頻繁なストレッチが猫たちに活力を与えていると結論付けました。そしてピラティスは、人間の筋肉を伸ばすための一連の運動を考案しはじめ、収容所にあった病院のベッドを利用して、荒削りながらもワークアウト器具を作り上げます。
ジョセフ・ピラティス
自分の身体で試した結果に満足したピラティスは、その療法を収容所の囚人たちにも教えました。まさに、囚われの聴衆を相手に指導していたのです。
こうした彼の収監時代の経験をもとに開発されたピラティスは、第一次世界大戦中に兵士のリハビリとして用いられるようになります。ピラティスを実践していた兵士たちは、世界最大のパンデミックとよばれる「スペイン風邪」が流行した当時、誰一人スペイン風邪で命を落とさなかった、という逸話もあるほどです。
3 アメリカでのピラティスブーム
戦後、ジョセフ・ピラティスはアメリカに渡り、ニューヨーク8番街にあった建物の3階スペースに住まいを構えます。そのすぐ隣では、ニューヨークシティ・バレエ団がリハーサルを行っていました。
そのアパート兼ジムのスペースに、ピラティスは現在のリフォーマーやキャデラックの初期モデルを次々と設置しはじ。ピラティスはすぐに、名ダンサーのジョージ・バランシンとマーサ・グラハムと仕事をするようになり、2人は、バレエ団員が怪我をするたびに、リハビリのためにピラティスのもとへ送り込んだ。そして最終的には、怪我の予防のための指導を頼むようになりました。
ピラティスの評判は次第にハリウッドにも及び、皆さんもご存じのハリウッドの名女優キャサリン・ヘプバーンやローレンス・オリヴィエなどのスターたちも顧客に加わっていきます。
アメリカでのピラティスブーム
ピラティスは、アメリカ人のライフスタイルを猛烈に批判していました。デスクでの座り方、動き方、野球などのスポーツに対する愛情でさえ、身体のバランスを崩していると指摘しました。
彼は1962年、アメリカのスポーツ週刊誌『スポーツ・イラストレイテッド』にこう語っています。
「アメリカ人は時速1000キロで進みたがるくせに、歩き方すら知らない。路上の人々を見てください。腰を曲げて咳き込んでいます。そしてあの血色の悪い顔! なぜ彼らの姿は動物と違うのでしょう? 猫やその他の動物を見てください。おなかが出ている動物は、豚くらいなものです!」
ピラティスは、独自メソッドで身体と心を完璧に調和させることで、アメリカ人を健康にできると信じていました。
「胃の筋肉を動かして身体を絞れば、風邪をひいたり、ガンになったり、ヘルニアになったりすることはないのです」
こうしてピラティスはニューヨークにて完成し、「コントロロジー」と名付けられました。
性格の激しいピラティスは、たとえ顧客であっても不満を感じると「出て行け!」と容赦なく言い放ったそうです。彼は片目が義眼だったが、それはボクシング事故が原因だったという人もいます。
義眼とふさふさの白髪のピラティスは、まるで漫画のキャラクターのようだったが、毎日1リットル以上のアルコールを飲み、15本の葉巻を吸う豪快な男でもあったそうです。
ピラティスは1967年に86歳で亡くなるまで、ほんの一握りの弟子しか指導しませんでした。
しかし彼ら弟子たちは、独立して自分のスタジオをオープンし、多くの後進を育てた。ピラティスのワークアウトはアメリカ全土の数か所のジムで静かに続けられ、支持者の多くは、柔軟で強靭な肉体を保つ必要のあったダンサーたちでした。
ピラティスがニッチなワークアウトからメジャーなものへと急拡大したのは、アメリカ人が心臓と身体を激しく動かすエアロビクスと重量挙げに飽きた1990年代のことです。
インナーマッスルの重視
フィジカルマインド・インスティチュートの創設者で、50年以上ピラティスを実践してきたジョアン・ブレイバートはこう語っています。
「ピラティスはすべてにおいて、当時の標準的な運動に異議を唱えるものでした。重量化ではなく、軽量化。スピードアップではなく、スローダウンを目指したのです」
1990年代に、ユマ・サーマンやシャローム・ハーロウといった女優やモデルがピラティスを支持したことで、ピラティス需要は一気に急増しました。
4 ピラティスの本質
少し話が長くなってしまいましたが、ピラティスは、このような歴史を持っているため、そのエクササイズは、ケガからの回復のための筋肉の強化や、身体のラインを整えるために効果を発揮します。
ピラティスは、呼吸と共に背骨やインナーマッスルを動かし、深く集中した状態を作ることで脳の神経を刺激しながら人間が本来持っている機能を正常化し、生きるための活力を最大限に引き出しますことを目的にしています。
しなやかなカラダを作るピラティス
ピラティスのエクササイズは、スポーツジムのトレーニングのように体の一部分に「負荷」を加えて強くするものではなく、戦傷兵であり、アメリカのマッチョ主義に反発したジョセフ・ピラティスが考案した通り、リハビリやカラダの軽量化、しなやかさの追求を目的に作られた身体と心のコントロール術です。そのため、運動経験や老若男女に関わらず安心して続けられるものとなっています。
ピラティスの3つの特徴
1.細部までこだわり、正しい身体の使い方が学べる
ピラティスレッスンでは、背骨の一つ一つを微細に動かしたり、足裏に均等に重心が乗るよう細部まで意識したりと、身体を効率よく、機能的に使うための動かし方やポジション(アラインメント)を重視します。
ピラティスの原則に”Awareness”(アウェアネス・気付き)というものがあります。これは、身体意識を向上し、常に身体全体を内観する習慣を付けることで、その日その時の自分との向き合い方を大事にしている考え方です。
ピラティスを通じて正しいカラダの使い方を学ぶ
ジョセフ・ピラティスが現代アメリカを批判したように、スピードが速く、情報に溢れた現代社会で生きる私たちは、仕事や家事、育児などの日常生活を生きることに精一杯で、自身の心身に目を向けることを疎かにしがちです。
その日の自分のココロやカラダの状態、忙しい毎日の中で身についてしまったカラダの癖、ココロの癖に気づき、それを改めていくことをピラティスでは大切にしています。
たとえば、「ダイエットなんてもう無理。コロナだし、家でテレビでも見ていよう」という諦め思考だったり、「外に出たらコロナに移されるかも。でも、運動不足だし、どうしたらいいのかなあ」といった変に慎重になる癖があり、すぐに行動に移せなかったりというような、カラダの癖だけでなく、自分の気持ちや思考の癖への「気付き」を増やすことが、豊かな心身への第一歩です。こうした些細な「気付き」を増やし、それをコントロールする術を学ぶことができるのが、ピラティスの魅力の一つだといえるでしょう。
2.深い呼吸で、カラダの外側だけでなく、内臓も元気に変える
デスクワークが続く日々、いつの間にか猫背になっていたりしませんか?PCと向き合うばかりの日々で、いつの間にか姿勢が崩れていくもの。しかし、そうして崩れてしまった姿勢のままの状態だと、呼吸の一つをとっても変わってきます。
猫背のまま浅い呼吸を繰り返すことで、肺に十分な空気が入っていかない。当然肺にしっかりと酸素が行き渡らないと、全身の血液の酸素が不足してしまいます。そして、そのダメージを最も受けるのが脳と言われており、浅い呼吸は脳細胞の機能を低下させてしまう危険が。
ピラティスの呼吸は、いわゆる胸式呼吸と呼ばれるものです。肋骨下部にある横隔膜(おうかくまく)、ウェスト横にコルセットのようにある腹横筋(ふくおうきん)、骨盤で内臓を支える骨盤底筋(こつばんていきん)を、深い呼吸と共にしっかりと動かし、内臓の細胞を刺激して活性化させていくのが、胸式呼吸の目的です。
胸式呼吸と正しい呼吸による活性化
正しい呼吸は、心肺系(心臓と肺)を強くし、循環器系(心臓と血管)の機能を高め、自律神経を整え、筋肉はもちろんのこと、内臓・神経・脳など、身体全体を活性化してくれます。
3.自律神経のバランスを取り戻し、ココロとカラダの調和を取り戻す
ピラティスのエクササイズには自律神経を整える効果があります。自律神経というのは、交感神経と副交感神経の二つから成り立っています。この2つの神経が互いに協力しながら、ちょうどシーソーのようにバランスを取り、体の機能を正常化しているのです。
交感神経は主に昼間仕事や勉強する時、体が活発に動く時に盛んに作用します。一方で副交感神経は主に活動を終えた夜、体が休息タイムに入りリラックスする際に優位になります。交感神経は心臓などの器官と脊髄を通じてつながっており、同時に複数の器官の動きをコントロールします。
反対に、副交感神経は、器官と個別につながっているので部分的に作用するのが特徴です。交感神経は、活動時に必要となる器官の働きを促します。具体的には心拍数が増えて血管が収縮し、発汗や排せつが起こりますが、胃腸の動きが緩慢になるのです。逆に副交感神経は心身の緊張を解き、休ませるのに必要な器官の働きを促します。心拍数が減り、血管が拡張して血流が促され、脳が落ち着いて消化器官が活発化することにより、唾液の量も自然と増えていきます。
自律神経のバランスを整える
身にかかるストレスや、不規則な生活により心身の休息が不十分となると、自律神経のバランスが崩れます。緊張状態が続くことで交感神経が優位になり続け、副交感神経が作用しなくなると、心身に様々な不調が起きてきます。
ジョセフ・ピラティスがアメリカ社会を批判したとおり、車でアクセルを踏み続けると、エンジンがオーバーヒートを起こして壊れてしまうのと似ているかもしれません。
交感神経が活発化し続けると、血管が収縮して血流が滞ります。さらに、体内の老廃物が排出されにくくなるため、首や肩のコリや、倦怠感や疲労感が増してきます。また胃腸機能が弱まるため、消化不良を起こして下痢や便秘を繰り返すことになってしまうことも。
それに対して、副交感神経は、心を落ち着かせてイライラを鎮める働きもあります。副交感神経が作用しないということは、気持ちもイライラして集中力がなくなる、気分が落ち込むなどメンタルにもダメージを受ける可能性があるのです。
自律神経のバランスを保つには、休息が必要な時に副交感神経がきちんと作用するように心身の調子を整えることが大事なのです。
過度なストレスが加わる、睡眠不足気味の生活を送っているなどすると、どうしても交感神経ばかりが優位になり続け、自律神経のバランスが崩れ、心身共に乱れてしまいます。
副交感神経への切り替わりがスムーズに行われるには、生活習慣を見直し、気分転換する時間を持つ工夫が必要です。夜更かしや朝寝坊の生活を改善し、早寝早起きを心がけましょう。朝起きたら太陽の光を浴び、きちんと朝ごはんを食べることも大事です。また日々のストレスを緩和・発散する方法を見つけましょう。
忙しい現代人だからこそココロとカラダにゆとりを
ぬるめのお風呂で半身浴する、音楽を聴いたりきれいな景色を見に行く、カフェでお茶を飲んだり読書するなどそれぞれ心が癒やされるものを生活に取り入れてもよいです。軽い運動をすることもストレス発散だけでなく、体を健康に保つのに効果的です。ウォーキングやストレッチなども始めやすいですが、ピラティスがおすすめです。
ピラティスで、しっかり呼吸を行いながらゆったりと体を動かすことで、体の奥の筋肉を鍛えていくことが可能です。カラダの一つ一つの小さな動きに意識が集中し、たっぷり酸素を取り込むことで心身が落ち着き、終わった後はすっきりとした気分が味わえるでしょう。簡単で体にも優しく、手軽に誰でも始められるエクササイズといえるでしょう。
ピラティスでリラックスさせよう!