WHO発表の生活習慣病関連の損失余命は?
01 損失余命とヨガ
損失余命という考え方をみなさんは聞いたことがありますか?損失余命というのは、「政策科学(policy science)」や「規制科学(regulatory science)」と呼ばれる学問分野から生まれた言葉です。政策科学や規制科学は、社会をよくしようとする動機に基づいており、「弱者に向けた科学」と呼ばれることもあります。実際の政府や地方自治体が行う様々な政策・規制について、それが本当に割に合うものかどうかを調べたり、逆に、予めあらゆる政策や規制のコストやリスク、さらにはその効果を試算することによって、本当にその政策・規制を実施すべきかどうかを判断する材料にしたりします。その過程で、コストやリスクを分かりやすく示し、比較するための道具として生まれてきたのが「損失余命」という考え方です。
損失余命は、過去の有力な研究などをもとに、特定の要因の影響がある場合と、ない場合の手段での生存曲線を比較し、それにより集団での全損失時間を計算したうえで、それを一人あたり、さらには使いやすい単位あたりの数字に修正することで、数値を算出しています。こうした損失余命は、その分かりやすからWHOなどで従来から使われております。
それでは、代表的な損失余命、とりわけヨガやピラティス、HIIT、キックボクササイズなど運動を行うことで減らせるはずの損失余命を概算してみましょう。
高血圧 5.94年
脂質代謝異常(コレステロール関係の異常) 3.01年
肥満 1.92年
運動不足 1.78年
合計 13年
簡単に試算すると、13年という数字が出てきます。人生100年時代ともいわれる高齢化社会ではありますが、人生100年と考えても13年は大きいですね。一割以上を上回っています。
02 高血圧のリスクは喫煙に次ぐ
喫煙という行為自体は、ヨガやピラティス、HIIT、キックボクササイズを行うかどうかに関係なく生ずる要因だと思うので、上記の算出表からは省きましたが、喫煙(タバコ)を吸うことは、1本あたり約12分もの寿命を縮めると考えられており、大体6.5年近く寿命を縮めるリスクがあるとされています。しかし、高血圧もそれに負けないぐらいのインパクトのあるリスクです。
では、高血圧はどうして私たちの寿命を減らしてしまうのでしょうか。それは、高血圧になると、全身の血管にかかる血液の圧力が上がり、血管の動脈硬化症が進行し、心筋梗塞や脳卒中、狭心症などの突然死を引き起こすような循環器系の大病を起こす危険性を高めるからです。
日本人の死因の第一位は、ここ30年ほど変わらず、「がん」ですが、第二位の死因は、心筋梗塞や狭心症などを指す「心疾患」です。また、脳卒中などを指す「脳血管疾患」も第四位の死因に入るなど、どちらも血管の動脈硬化症による病気に起因し、最終的に血管が切れた部位が異なるだけで合算すれば、死因の第一位の「がん」とほぼ同じくらいの割合の人が循環器系の病気で亡くなっていることがわかります。
高血圧は、この大きな原因となるため、決して無視できない存在です。運動不足と同じく、高血圧にはメリットは一切ありません。ですから、早期に解消したい状態であるといえるでしょう。ただ、いったん高血圧になってしまうと、そう簡単に高血圧を治すことはできません。そもそも、高血圧を発症してしまう大きな要因の1つは加齢なので、実質的に体を若返らせることができない限り、治療は困難ともいえます。医師の診断を受け、必要に応じて降圧剤などを飲みながら、減塩に気をつけ、症状をコントロールし、大きな病気の発症を防ぐしかありません。
03 脂質代謝異常は無視することができない
これも同じくWHOが公表する生活習慣関連の損失余命の1つです。「脂質代謝異常」とは、要するに、血液中のコレステロール関係の異常のこと。以前は、「高脂血症」などと呼ばれていましたが、コレステロールのなかには、いわゆる「善玉コレステロール」などっむしろ血液中に多く含まれている方がよいものがあるため、近年になって呼び名が変えられたものです。日本人の平均余命を83.7歳で割って単位でそろえると、1年あたりで13.1日、1週間あたりで6時間、1日あたりでは51.8分の損失余命となります。
これは、生活習慣に関する数値としては、煙草、高血圧に次ぐ高い数値で、決して軽視することはできません。ただし、コレステロールに関しては、近年、これまでの医学的な常識がかなり揺らいでいることも認識しておきましょう。従来、総コレステロール値が高いと、動脈硬化が進みやすくなり、死亡リスクが高まると考えられてきたのですが、近年、より大規模で、精緻な疫学調査が行われた結果、総コレステロール値と死亡率との間には、明確な因果関係がないことが分かってきたのです。
こうした結果を受けて、2007年には、日本動脈硬化学会が、総コレステロール値と動脈硬化には因果関係がないことを認めて、新しい診断ガイドラインを公表したりもしました。要するに、コレステロール値は、とにかく下げれば良いという訳ではないということです。なお、もし現在、医師からの指示でコレステロール値を下げる薬を飲んでいる方がいても、自分だけの安易な判断で薬を飲むのを辞めたりはしないでくださいね。
病気によっては、特定のコレステロールの値が高いと、死亡率が上がることも確実視されているものもありますし、いわゆる「悪玉コレステロール」については、やはり多すぎると血管の動脈硬化を進める危険性が高いとみられています。現在、薬で症状をコントロールしているのであれば、突然薬を辞めると病状が一気に悪化するリスクもあるわけです。
ただ、この悪玉コレステロールについても、完全に悪い働きをするばかりではなく、全身のさまざまな細胞で必要とされるため、最低限の量は必要だと言われており、意外と複雑です。このように、コレステロールと一口にいっても、実はさまざまな種類があり、またそれぞれの種類のコレステロールが、良い働きもすれば、悪い働きもすることがあります。私たちの体内での、コレステロールの働きは、従来考えられていたよりも、ずっと複雑で、重層的なのです。