はじめて学ぶヨガ哲学~エクササイズとしてのヨガを超えて(4)
20 自然の摂理とは?
『ヨガスートラ』には、自然の摂理についてこう書かれています。「苦悩を行い、行いの結果から自由であるという特徴を持つ存在が、イーシュヴァラ(世界を維持する存在)です」と。パタンジャリは、イーシュヴァラ(自然の摂理)について、あらゆる苦悩から解放され、行いと行いの結果であるカルマの法に縛られない自由な存在がイーシュヴァラだと説明します。後のスートラ(詩)でイーシュヴァラと私たち個人の真実は、どちらも1つにの限りない存在、意識の根源、プルシャ(真実)だといいます。人間とイーシュヴァラの根源は、1つの揺るぎない存在であり、変わらない真実です。しかし、根源は同じでも、人間は悩み苦しみながら生死を繰り返す輪廻に縛られています。なぜなら、人間は本当の自分の姿を知らないという無知と、無知故の混乱があるからです。混乱が、不安と恐れと欲望を生み、そんな思いが人を行いに駆り立てて、カルマ(業)を生み出します。
世界と1つであること、今この瞬間、この場所の、実体があるすべての存在が自分の本当の姿。真実の自分を知らない無知が混乱を生み混乱が妄想を、妄想が苦悩を生み、苦悩が人に行いをさせる。そして、人はその行いとその結果であるカルマに繋がれます。カルマの束縛から自由になり、イーシュヴァラと完全に一致した自分でいるためには、本来カルマから自由である真実の自分自身を理解する必要があります。本当のことを見極める目を磨く方法がヨガであり、真実を深く理解するために瞑想があるのです。
また、イーシュヴァラは、何とも比べることのできない知恵の源であり、全知全能の存在です。自然を維持する法則を一つに束ね、森羅万象を動かす大いなる存在。日本では、八百万いる自然界の神々を統率する生命と知恵の根源といえるでしょう。世界をまとめて一つの方向に動かす存在を、サンスクリット語でイーシュヴァラと呼ぶわけです。イーシュヴァラは、世界を現し、維持し、収束させ、再び現し、循環させる存在です。それは物事を生み出す想像の力であり、動かし維持し、収束させる原理です。命の源として星や生物の生死を司り、養い、見守り、導く存在です。、従って、イーシュヴァラは、世界に現れた他のどんな物とも比べようがありません。物ではなく、すべての物に広がる自然の法と秩序そのものです。自然界そのものとして今ここに、この瞬間に、存在します。形も色も何かの特徴を当てはめることもできない限定できない存在であるわけです。
イーシュヴァラは、生物が生まれる前から存在し、時間、場所に制限されることがない生物の知性に宿り、真実を明かす存在だと『ヴェーダ』に記されています。宇宙はあるときに始まり、そして終わり、また始まるというサイクルを繰り返していると考えられています。現在の宇宙理論のビッグクランチ説と同じ考え方ですね。これは宇宙は膨張と収縮を繰り返していると考える説のことで、現在の宇宙理論の有力説の一つです。そして、この現代の理論と似たように、聖典でもその繰り返しはいつ終わるのか誰にも知ることはできず、巡り続ける世界を支える存在であるイーシュヴァラにも当然終わりも始まりもありません。イーシュヴァラは、私たちを取り込み、すべてに浸透し、限られた時間と場所にだけあるのではなく、どの時間にもどの場所にも広がっていると考えられています。遠い過去にも、未来にも、今この瞬間にも私たちを支えているのが、イーシュヴァラだと考えているのです。
自然界そのものの現れであるイーシュヴァラは、他の物とは比べることができない存在ですが、何にも制限されることなく、全生物の体に、心に、数億光年先の銀河の果てに、無数の星々の中に、鼻の中に、虫や風の中に、1つ1つの細胞の中にすべてに満ちている命の根源と考えられています。少し西洋における汎神論に似ていますね。世界がさまざまな形で現れる前にもあり、世界が形を失い潜在的な状態に戻るときにもイーシュヴァラだけがあrます。それは世界を現す知恵と力と存在のベースです。イーシュヴァラは世界の表れを私たちに教えるとともに、悩み苦しむ人に解放の知恵を与える存在であり、無知という闇をとり望む者(グル)であるとパタンジャリは考えています。
21 聖音Om(オーム)、摂理の呼び名
パタンジャリは、オーム(聖音)は、イーシュヴァラの一つの名前だと言います。全く同じ事が『ヴェーダ』にも記されています。オームという音は、サンスクリット語の「ア・ウ・ム」という三つの音からできています。この3つの音で、全世界の3つの状態、私たちが経験できる3つの次元を現します。それは、(1)起きている世界(2)夢の世界(3)熟睡している状態の3つです。この人が体験する3つの時間、3つの次元のすべてに浸透している存在がイーシュヴァラです。
この世界は音と形でできているとヨガでは考えます。音で現される意味と名前、それに伴った形で世界は構成されているというのです。口を大きく開けた「あ」という音で始まり、口を閉じた「ん」で終わるオームの音の間に、世界のすべてを表現できる音が入っていると考えます。人間は「あー」という鳴き声で生まれ、「ん」と口を閉ざす最後の一息で生を終えるように、「あ」から「ん」という音の間に人生で起きる経験が詰め込まれていると考えています。世界にある言語、世界に起こる現象のすべてが「あ」から「ん」の音で収まります。
全世界を現すオーム(聖音)は、イーシュヴァラの呼び名となるわけです。オームは、プラナヴァ(自然の摂理)とも呼ばれ、それはどの次元にもありながら、どの次元にも属さない4つめの次元のトゥーリヤ(3次元を超えた存在)です。それが全世界の名前であるオームとプラナヴァ(原初の音)の意味だと考えられています。
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【監修者】 | 宮川涼 |
プロフィール | 早稲田大学大学院文学研究科哲学専攻修士号修了、同大学大学院同専攻博士課程中退。日本倫理学会員 早稲田大学大学院文学研究科にてカント哲学を専攻する傍ら、精神分析学、スポーツ科学、文学、心理学など幅広く研究に携わっている。 |