ストレッチ
ストレッチの効能について
ストレッチの効能について。これからご説明していきたいと思いますが、まずは、簡単な概略をUPしておきます。
【ポイント】
01 使わない筋肉は硬くなる
若い人ほど筋肉が柔らかく、加齢と共に筋肉は硬くなると信じている人多いと思います。しかし、筋肉は加齢によって硬くなりわけではありません。実際私などは中学生ぐらいの時が一番身体が硬かったです。筋肉は加齢で硬くなるのではなく、使わないでほったらかしにするから硬くなるのです。筋肉は、筋繊維という細長い細胞を無数に束ねたものです。
筋繊維にはアクチンとミオシンが交互に重なるサルコメアというユニットが一列に連なる筋原繊維が詰まっています。運動神経から信号が伝わるとアクチンがミオシンの間に滑り込み、サルコメアが一斉に短くなり、筋肉は収縮します。信号が消えるとアクチンは元に戻ります。筋肉を使わないとサルコメアが減り、筋原繊維が短くなるため、動ける範囲が狭まって筋肉は硬くなるのです。
また、デスクワークなど長時間同じ姿勢で居続けると特定の筋肉に負荷が集中してサルコメアがフリーズします。これも身体を硬くする原因です。筋肉が硬いと血液循環は悪くなり、姿勢も崩れます。その結果、身体の動きが乱れて運動時の怪我や日常生活での転倒などを招きやすくなるのです。
02 固くなりやすい筋肉が姿勢を狂わせる
筋肉には硬くなりやすいタイプと弱くなりやすいタイプがあります。硬くなりやすいのは大胸筋を始めとする姿勢に関わる筋肉。多くは二つの関節を動かす二関節筋です。一方、弱くなりやすいのは菱形筋など、姿勢に関わる筋肉と対照的な動きをする拮抗筋。多くは、一つの関節のみを動かす単関節筋です。硬くなりやすい筋肉をストレッチで柔らかくするだけでは、拮抗筋が弱いままで正しい姿勢を長くキープできません。なので、ストレッチと並行して、弱くなり安い筋肉に適度な負荷をかけて鍛える筋トレも必要です。
3 柔らかくなるメカニズムには筋肉がある
硬い筋肉を柔らかくするのがストレッチ。では、どうやって筋肉は柔らかくなるのか。筋肉は伸縮自在なゴムのようなものだと思われがちですが、それは誤解です。実際は縮むだけで伸びはしません。筋肉はゴムではなく、ロープのようなもので、ストレッチを続けると筋肉が伸びやすくなるのは、ロープを足したようにサルコメアの数が追加されて筋原繊維が長くなるためです。
筋肉の両端は骨に着くので長さは変わりませんが、筋原繊維が長くなると柔軟性が上がり、関節可動域も広がります。個人差もありますが、ストレッチを3ヶ月間ほど続けると変化が実感できるでしょう。短期的には筋肉を包む筋膜の影響もあります。ストレッチを1セットではなく、2~3セット行うと後半ほど柔軟性が上がります。短期間にサルコメアが増えるわけはないので、ストレッチを継続することで、筋膜の抵抗性が下がり、柔軟性が増していくのです。
04 動的ストレッチで血流UP。関節も健康に
ストレッチには、大きく二種類があります。一つ目は筋肉を静かに伸ばす静的ストレッチ。もっともポピュラーですね。もう一つは、動的ストレッチ。イメージとしてはラジオ体操のようにダイナミックに筋肉を動かします。動的ストレッチの大きなメリットというのは、動的ストレッチで筋肉を動かすうちに血液循環が良くなり、体温が上昇します。コロナの感染リスクを抑えるのに重要なことですね。こうして体温が上がり、関節の滑りをよくする。
ちなみに、最新の研究結果では、静的ストレッチはあまりお勧めされていません。というのも、30秒以上(10秒以上という研究結果もある)行う静的ストレッチを行った結果筋力が低下するという報告があるからです。
静的ストレッチングは 30 秒間では筋出力を低下
谷澤他「短時間の静的ストレッチングが柔軟性および筋出力に及ぼす影響」(2014)
静的ストレッチングにより筋腱複合体スティフネス低下と筋活動低下が生じ、その結果、最大等尺性筋力が低下した
武内他「静的ストレッチング後の有酸素運動が筋力と柔軟性に及ぼす影響」
なので、静的ストレッチで柔軟性を向上することができる反面、筋力が低下するというリスクがあるため、お勧めとしては動的ストレッチを行うことを推奨します。但し、引用文献の後者で、静的ストレッチの後に有酸素運動を行った場合は筋力低下は抑えられることも分かっているので(*1)、静的ストレッチを行った後は有酸素運動を行うことが望ましいでしょう。
ちなみに、静的ストレッチの理想的な時間は8秒ということも分かっています。それ以下の短い静的ストレッチだと柔軟性の向上効果はあまり望めないでしょう(*2)。
*1:「静的ストレッチング後の有酸素運動は筋活動を増加させることで筋力を増加する」
武内他「静的ストレッチング後の有酸素運動が筋力と柔軟性に及ぼす影響」
*2:「8秒間の静的ストレッチングでは、大腿直筋の筋力が維持され、柔軟性が向上するのに対し、10秒以降では柔軟性が向上し、筋力は低下する」
鎌田他「8秒間の静的ストレッチングで大腿直筋の柔軟性が向上し筋力は維持される」(2016)
5 ストレッチで予防できる病気がある
ストレッチを続けると柔軟性が高まり、快適に動けるようになります。筋肉の緊張がオフになり、肩や腰も楽に。加えてストレッチでは、動脈硬化の予防にも効きます。動脈硬化とは、動脈が硬く狭くなり、血液が詰まりやすい状態になることです。動脈硬化は、心臓病や脳卒中の元凶です。
その点、ストレッチを行うと、血圧を下げる作用があります。筋肉が硬いと血管が圧迫され、血圧が上昇しやすくなってしまいますが、ストレッチで体が柔らかくなると欠陥が広がり、血圧も下がります。その結果、動脈硬化のリスクが低減します。その他、股関節など下半身の柔軟性が上がると歩幅が広がり、日常での活動量がアップし、体脂肪が燃えやすく肥満防止にも繋がります。
6 ストレッチは毎日継続、そして一日の中でも複数回やりましょう!
短時間で良いので毎日継続がポイントです。そして、出来れば一日の中でも数回やってみましょう!
【監修者】 | 宮川涼 |
プロフィール | 早稲田大学大学院文学研究科哲学専攻修士号修了、同大学大学院同専攻博士課程中退。日本倫理学会員 早稲田大学大学院文学研究科にてカント哲学を専攻する傍ら、精神分析学、スポーツ科学、文学、心理学など幅広く研究に携わっている。 |