アヌサラヨガ (Anusara Yoga) について
1. アヌサラヨガの起源と背景
アヌサラヨガは、ジョン・フレンド (John Friend) によって1997年に創始された比較的新しいヨガスタイルです。アヌサラ (Anusara) という言葉はサンスクリット語で「心を開いて流れに沿う」「神聖なるものに従う」といった意味を持ち、ヨガのポーズ（アーサナ）を行うだけでなく、心を開き、喜びや肯定的なエネルギーと調和することを重要視します。
ジョン・フレンドはアイアンガーヨガやアシュタンガヨガなど様々な流派を学ぶ中で、「精密なアライメント（姿勢・骨格の配置）と、人生を肯定するポジティブな哲学の融合」をコンセプトに独自のヨガ手法を確立しました。アヌサラヨガは、当初は急速に人気を集め、世界中で多くのアヌサラ認定インストラクターが活躍しましたが、後にジョン・フレンド自身のスキャンダルが大きく報じられ、一時は組織が混乱する事態もありました。しかしながら、その後もアヌサラヨガの哲学や技法を継続する指導者と実践者は存在し、**“人生を肯定するヨガ”**として一定の支持を保っています。
2. アヌサラヨガの理念と特徴
2-1. タントラ哲学の影響
アヌサラヨガは、伝統的なハタヨガの技法に加え、タントラ哲学の考え方を取り入れている点が特徴です。タントラ哲学では、「この世界は神聖な意識（シヴァ）と創造的エネルギー（シャクティ）の交わりによって生み出されており、そのすべての存在は祝福されている」という肯定的な世界観があります。アヌサラヨガも、この「全ての存在を肯定する」精神を強く打ち出しており、ポーズを通じて自分自身や世界との調和を実感することを目指します。
2-2. ユニバーサル・プリンシプル・オブ・アライメント (UPA)
アヌサラヨガの大きな柱として、「ユニバーサル・プリンシプル・オブ・アライメント (Universal Principles of Alignment)」という5つの原則が掲げられています。これは、アイアンガーヨガにも通じる精密なアライメントをさらに体系化したもので、以下の5ステップでポーズを組み立てるという考え方です。
オープン・トゥ・グレース (Open to Grace)
身体と心を開く準備段階。呼吸を意識し、胸や背骨を優しく伸ばし、アヌサラヨガのポジティブな精神性に繋がる。マッスル・エナジー (Muscle Energy)
身体の中心部（骨格と関節）に向かってエネルギーを引き寄せ、筋肉を安定させる。コアのサポートを意識しながらアライメントを整えるステップ。インナー・スパイラル (Inner Spiral)
下半身を内旋・前傾方向へ導くことで、骨盤周辺や腰椎にスペースを作る。脚の内側に働きかけ、安定と拡がりを同時に得る。アウター・スパイラル (Outer Spiral)
インナー・スパイラルとバランスをとる形で外旋・後傾方向に働きかける。骨盤・大腿骨のポジションを調整し、お尻や腰のアライメントを整えながら安定度を高める。オーガニック・エナジー (Organic Energy)
身体の中心部から末端（手足や頭頂）に向かってエネルギーを伸ばすステップ。ポーズの最終形で空間に向けて心地よく広がっていく感覚を得る。
これら5つのステップは、どのポーズでも適用できる普遍的なアライメントの指針として位置づけられており、これをしっかり踏まえることで安全かつ深みのあるアーサナ練習が可能になるとされています。
2-3. 心を開くプラクティス
アヌサラヨガのクラスでは、胸を広げる後屈のポーズが多用されることが多いのも特徴です。タントラ哲学において、心（ハート）のセンターが宇宙との繋がりの窓口と捉えられており、「胸を開く」ことで精神的にもオープンになり、ポジティブな感情や喜びを体験しやすくなると考えられています。もちろん、ねじりや前屈、逆転などの多様なポーズも行われますが、**“ハートオープニング”**というキーワードがしばしば強調されます。
3. アヌサラヨガのクラス構成
アヌサラヨガのクラスには、アイアンガーヨガ的な丁寧さと、ヴィンヤサヨガ的な流動感の両面が見られることが多いです。典型的なクラスの流れは、以下のような要素を含んでいます。
テーマ設定とオープニング
クラス冒頭でインストラクターが、心を開く言葉やヨガ哲学の引用、タントラ哲学の視点など、ポジティブなテーマを提示する。参加者は、そのテーマを胸に抱きながら練習に入っていく。ウォーミングアップと簡単な呼吸法
身体を温めるための軽い動きや呼吸の意識づけを行う。オープン・トゥ・グレースのステップを体感しながら、内面に注意を向けていく。アーサナ・プラクティス
ヴィンヤサ的に流れるシークエンス：太陽礼拝や立位ポーズを連続させながら、動きと呼吸をリンクさせる。
ポーズのキープ：アライメント指導に基づき、マッスル・エナジーやインナー・スパイラルなどのステップを踏み、正確な姿勢と拡がりを探る。
ハートオープニングの後屈ポーズ：コブラ、アップドッグ、ダヌラーサナ（弓のポーズ）、ラクダのポーズなどを深める。
ねじりや前屈、逆転系：バランス良く取り入れつつ、アナトミカルな安全性を重視した誘導が行われる。
クールダウンとシャヴァーサナ
深いリラクゼーションや短い瞑想を通じて、身体に生じた変化を落ち着かせ、ハートに広がる感覚を味わう。クロージング
最初に設定したテーマを再確認し、ヨガ哲学を生活にどう生かすかを簡潔に共有してクラスを終える。
4. アヌサラヨガの効果とメリット
4-1. 精密なアライメントによる安全性と深化
ユニバーサル・プリンシプル・オブ・アライメントを実践することで、関節や筋肉への負担を最小限に抑えつつ、深いアーサナの効果を得られるとされています。身体を正しく配置することで、柔軟性や筋力をバランス良く育てるだけでなく、怪我のリスクを減らしながらポーズを深めることができます。
4-2. ポジティブな自己肯定感や喜びの体験
タントラ哲学をベースにした「人生は祝福されている」「全ては神聖なもの」などのメッセージが、アヌサラヨガのクラスでは繰り返し語られます。このような肯定的な世界観に触れながらポーズをとると、自己否定や不安が和らぎ、自分や周囲をポジティブに受け入れる感覚が得られやすいと報告する参加者も多いです。
4-3. 胸を開く後屈の充実によるストレス解消
後屈ポーズは、交感神経を活性化しつつも、胸を広げることでストレスや鬱屈を解放する効果を期待できます。アヌサラヨガは特に後屈が充実しているため、デスクワークや長時間のスマホ利用で猫背が進んだ人にとっても、姿勢改善や呼吸の質向上に寄与すると考えられます。
4-4. 体幹とコアの強化
インナー・スパイラルとアウター・スパイラルを意識しながらポーズを行うため、自然とコアの安定が高まりやすくなります。骨盤や背骨を適切な位置に保つ意識が育まれるため、腰痛予防や下半身のバランス強化にもプラスに働きます。
5. アヌサラヨガの注意点
ジョン・フレンドのスキャンダルによる組織的混乱
2012年頃、創始者ジョン・フレンドに関わる不祥事や財務管理の問題が発覚し、アヌサラヨガの公式組織が大きく揺らぎました。その結果、多くのインストラクターが離脱し、現在は「アヌサラインスティテュート (Anusara School of Hatha Yoga)」として再編成されています。クラスを探す際には、認定インストラクターかどうか、どのようなスタンスでアヌサラを教えているかを確認すると良いでしょう。ポーズの難易度や運動量に個人差
アヌサラヨガはアイアンガーほど静的ではなく、ヴィンヤサ系ほど連続的に動かない中間的スタイルが多いです。ただし、後屈の深め方やアライメントへのこだわりによって運動量や難易度に幅があるため、初心者クラスや基礎クラスから始めるのが安全です。過度な後屈への警戒
胸を開くポーズに魅力がある一方、腰椎に負担がかかりやすい後屈も多いので、インストラクターの指導に従いながら無理せず進める必要があります。痛みを感じた場合は修正ポーズやプロップスの使用を積極的に行いましょう。スピリチュアルなメッセージとの向き合い方
タントラ哲学に対する信仰や世界観の受け取り方は人それぞれです。クラスで語られる宗教的・哲学的要素をどの程度取り入れるかは個人の自由ですので、自分が心地よい範囲で学ぶと良いでしょう。
6. アヌサラヨガを学ぶ方法
公式認定インストラクターのクラス
アヌサラヨガの正式な教師資格を持つインストラクターが開くクラスやワークショップに参加するのがベストです。各国にある「Anusara School of Hatha Yoga」の認定リストを確認してみると、最寄りの教室や指導者が分かります。一般ヨガスタジオでのアヌサラクラス
大都市を中心に、アヌサラヨガを一部取り入れたスタイルや“Anusara-Inspired”と名乗るクラスを提供するスタジオがあります。最初は体験クラスで雰囲気を掴み、自分に合う指導者を探しましょう。ワークショップやリトリート参加
有名アヌサラ講師が主催する集中ワークショップやリトリートに参加し、ユニバーサル・プリンシプル・オブ・アライメントの理論と実践をじっくり学ぶ方法もおすすめです。オンラインレッスンや動画
近年はオンラインプラットフォームでアヌサラヨガを教える資格者によるレッスンや録画コンテンツも増えています。ただし、アライメント重視のスタイルゆえ、可能であれば直接の対面指導を組み合わせたほうが安全です。書籍やマニュアル
アヌサラヨガに関する書籍やウェブリソースを通じて、UPA（ユニバーサル・プリンシプル・オブ・アライメント）の理論を学ぶこともできます。英語の資料が多めですが、基礎知識を得るには十分な量の情報が公開されています。
7. まとめ
アヌサラヨガは、タントラ哲学を背景とする肯定的な世界観と、アイアンガーヨガ譲りの精密なアライメント指導が融合したユニークなヨガスタイルです。創始者ジョン・フレンドのスキャンダルによって一時は混乱がありましたが、現在もアヌサラヨガのエッセンスを大切にしながら教え続ける指導者は多数おり、世界各地で支持されています。
特徴:
タントラ哲学に基づく「人生を肯定する」メッセージ
5つのユニバーサル・プリンシプル・オブ・アライメントによる精緻なポーズ指導
胸を開く後屈（ハートオープニング）を重視
ポーズを通じて喜びや自己肯定感を育むスタイル
効果:
怪我を防ぎつつ深めるアライメントの習得
自己肯定やポジティブなマインドセット
胸を開く動作が多く、ストレス解放や呼吸の質向上
体幹とコアの強化による姿勢改善
注意点:
創始者に関する過去のスキャンダルと組織体制
後屈中心のシークエンスにおける腰への負担
宗教・哲学的要素（タントラ哲学）への受け止め方
学び方:
公式アヌサラ認定インストラクターのクラス受講
一般スタジオの“Anusara-Inspired”クラス
ワークショップやリトリート、オンラインレッスン
書籍・マニュアルからの理論学習
「ポーズを通じて心身を深く整えたい」「肯定的な世界観を味わいながらヨガを楽しみたい」「アイアンガーヨガのアライメント重視の良さとヴィンヤサの流動性の両方を取り入れたい」という人にとって、アヌサラヨガは非常に魅力的な選択肢と言えます。ぜひ機会があれば、アヌサラヨガのクラスを体験してみてください。ハート（心）の拡大と身体の安定が織り成す、新たなヨガの楽しみ方を発見できるかもしれません。
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お勧めのヨガスタジオ
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| 定休日 | 年中無休 |
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| 【監修者】 | 宮川涼 |
| プロフィール | 早稲田大学大学院文学研究科哲学専攻修士号修了、同大学大学院同専攻博士課程中退。日本倫理学会員 早稲田大学大学院文学研究科にてカント哲学を専攻する傍ら、精神分析学、スポーツ科学、文学、心理学など幅広く研究に携わっている。 |
