アシュタンガヨガ (Ashtanga Yoga) について
アシュタンガヨガは、南インド・マイソールのシュリ・K.パタビ・ジョイス(Sri K. Pattabhi Jois)によって体系化され、現代に広く伝承されているヨガの一大流派です。呼吸と動作を連動させながら、決まったポーズの順番(シークエンス)を流れるように行っていくことで、心身を鍛錬し、瞑想へと導くことを大きな目的としています。その特徴的な点として、以下が挙げられます。
ヴィンヤサ(Vinyasa) と呼ばれる呼吸と動作を連動させる技術
固定されたシークエンス(シリーズ)に沿ったアーサナのプラクティス
集中的・反復的な練習を通じた身体的・精神的な変容
アシュタンガヨガは運動量が比較的高いスタイルであり、継続することで持久力や筋力、柔軟性が向上し、日常生活の質が大きく高まるといわれています。一方で、伝統的なアシュタンガヨガには厳密なルールや順番が存在し、それに忠実に従うことで、「ヨガとは何か」「自分自身の内面とは何か」を探求する深い旅路に導かれると考えられています。
ここではアシュタンガヨガの歴史的背景や特徴、練習方法、効果と注意点などを詳述しながら解説していきましょう。
1. アシュタンガヨガの歴史的背景
アシュタンガヨガの系譜は、20世紀初頭に活躍したクリシュナマチャリア(Tirumalai Krishnamacharya)にまで遡ります。クリシュナマチャリアは「近代ヨガの父」と称され、後の世代に大きな影響を与えた偉大なヨガ指導者です。彼の下で学んだパタビ・ジョイスは、師から伝えられたヨガの教えを独自に体系化し、それを「アシュタンガヨガ」と呼びました。
「アシュタンガ(Ashtanga)」という言葉はサンスクリット語で「八つの枝(八支)」を意味し、『ヨーガ・スートラ(Yoga Sutra)』においてパタンジャリが示した8つの修行段階(ヤマ、ニヤマ、アーサナ、プラーナーヤーマ、プラティヤハーラ、ダーラナ、ディヤーナ、サマーディ)に基づく命名と言われています。アシュタンガヨガでは、この八支則のうち特にアーサナの練習を重視しますが、最終的には自己の精神性を高め、サマーディ(深い瞑想・悟り)へと至る道として位置づけられています。
パタビ・ジョイスは、マイソールで自身のヨガスクール「アシュタンガヨガリサーチ・インスティテュート」を設立し、世界中から多くの弟子が彼のもとを訪れました。こうしてアシュタンガヨガは瞬く間に世界へ広まり、現在ではアメリカやヨーロッパ、日本をはじめ世界各地でクラスやトレーニングが開催されています。
2. アシュタンガヨガの大きな特徴
2-1. シリーズ(固定シークエンス)の存在
アシュタンガヨガには以下のように“シリーズ”と呼ばれる固定されたシークエンス(ポーズの連続)が存在します。それぞれのシリーズには目的や効果があり、段階を追って学んでいくのが伝統的なスタイルです。
プライマリーシリーズ(Primary Series) – ヨガチキッツァ(Yoga Chikitsa)とも呼ばれ、身体の浄化や基礎体力の向上にフォーカスする一連のシークエンス。アシュタンガヨガを始める人はこのプライマリーシリーズをじっくり練習し、ポーズとポーズを繋ぐヴィンヤサや呼吸、集中力を養っていきます。
セカンダリーシリーズ(Intermediate Series) – ナディショーダナ(Nadi Shodhana)とも呼ばれ、プライマリーシリーズを習得した後に進む流れ。プライマリーで培った基礎の上に、さらに背骨の柔軟性やエネルギーチャネル(ナディ)の浄化を深めるポーズが組み込まれていきます。
アドバンスシリーズ(Advanced A, B, C, D) – 上記のシリーズを極めた先にある高度なポーズ群。身体能力だけでなく、深い精神的統合が求められるため、多くの人はプライマリーやセカンダリーで十分な効果を得る場合が多いです。
このように、アシュタンガヨガでは決まった流れを丁寧に習得していくため、一朝一夕にマスターすることは困難ですが、それだけ深い学びと変化が得られるとも言われています。
2-2. ヴィンヤサ(呼吸と動作の連動)
アシュタンガヨガでは、「トリスターナ(Tristhana)」という3つの要素を同時に意識して練習します。
ウジャイ呼吸(Ujjayi Breathing)
喉を軽く閉めるようにして、摩擦音を伴う深い呼吸を保ちます。吸う息も吐く息もゆったりと鼻から行い、身体を内部から温めていく効果があります。バンダ(Bandha)
体のエネルギーを封じ込める“鍵”とも呼ばれ、代表的なものにウディヤナバンダ、ムーラバンダなどがあります。これらのバンダを意識することでコアを安定させ、ポーズの質が向上するとされます。ドリシュティ(Drishti)
アーサナ中に向ける視線のこと。伝統的には9箇所のドリシュティがあり、ポーズごとに視線の位置が決まっています。視点を固定することで集中力が高まり、マインドフルな状態に導かれやすくなります。
これらを保ちながらシークエンスをこなすアシュタンガヨガの練習は、一種の“動的瞑想”とも呼ばれます。ポーズが流れるように繋がっていく中で呼吸のリズムが乱れないよう意識し続けることは決して容易ではありませんが、同時に大きな達成感や内面の静寂を得やすいプロセスでもあります。
2-3. 「マイソールスタイル」と「レッドクラス」
アシュタンガヨガのクラス形態として、伝統的には2種類の形式があります。
マイソールスタイル(Mysore style)
参加者各自が自分のペースでシークエンスを練習し、インストラクター(ティーチャー)が個別に指導するスタイル。アシュタンガヨガの本場、インド・マイソールで行われている形態そのもので、初心者から上級者までそれぞれのレベルに合った練習ができます。レッドクラス(Led class)
インストラクターのカウントに合わせて、全員が一斉に同じペースで動くクラス。とてもダイナミックな雰囲気で、クラス全体の呼吸がシンクロする体験が味わえます。初めての人には少々難易度が高く感じられる場合もありますが、集団エネルギーの中で練習することの利点も大きいです。
どちらもメリットがありますが、マイソールスタイルの方が自分の身体と対話しながら無理なくステップアップできるという利点から、長期的な習得には好まれる傾向があります。一方でレッドクラスは、インストラクターのリードや周囲の仲間のエネルギーに引っ張られて集中力が増すという魅力があります。
3. アシュタンガヨガの効果
アシュタンガヨガでは、ダイナミックな動きと静的な保持を組み合わせたアーサナを連続して行うため、次のような効果が期待できます。
筋力・持久力の向上
一つひとつのポーズを呼吸と共にキープしながらヴィンヤサを行うため、体幹や四肢の筋肉を強力に鍛えられます。特に太陽礼拝ではプランクやチャトランガ(腕立て伏せのようなポーズ)が頻出し、腕や肩、背中の筋力が向上しやすいです。柔軟性の向上
シリーズでは前屈・後屈・ツイスト・バランスなど様々な方向への動きが含まれるため、全身の柔軟性が高まります。特にセカンダリーシリーズ以降では後屈系のポーズが多く取り入れられ、背骨や肩まわりを大きく開いていく効果が大きいとされます。心肺機能や代謝アップ
アシュタンガヨガは比較的テンポが早く、一連の動きを休みなく行うことで心拍数が上がり、発汗が促されます。定期的に練習を続けることで心肺機能が向上し、代謝の活性化や体脂肪の減少を感じる人も少なくありません。集中力・メンタルの安定
ウジャイ呼吸を維持しながらポーズを深めていく過程では、自然と今の瞬間に意識が向きやすくなります。雑念が入りにくい“動的瞑想”の状態が得られることで、日常のストレスや不安を客観的に捉える視点が養われ、メンタルの安定につながります。内面的な成長・セルフディスカバリー
アシュタンガヨガの厳密なシークエンスを繰り返し練習することで、日々の体調や精神状態の変化に気づきやすくなります。できないポーズに直面して自己の限界を認める、あるいは少しずつ進歩していくことで達成感を得るなど、自己探求や自己受容のプロセスが進むとも言われています。
4. アシュタンガヨガの注意点
ダイナミックなスタイルであるがゆえに、アシュタンガヨガを練習する際には以下のような注意点も挙げられます。
怪我のリスク
ポーズによっては関節や筋肉に大きな負担がかかる場合があります。特に初心者が無理にチャトランガや後屈ポーズを行うと肩や腰を痛める原因となることがあります。適切なインストラクションを受けながら、段階的に練習を進めることが大切です。呼吸の乱れ
ポーズを深めることに意識が向きすぎて呼吸を忘れてしまう、あるいは身体に合わせて呼吸が乱れてしまうケースがよくあります。呼吸と動作の連動がアシュタンガヨガの大きな要ですが、最初は慣れずに苦しくなってしまう人もいます。無理せず自分のペースで呼吸を整えましょう。シークエンスの忠実な順守
伝統的なアシュタンガヨガでは、シリーズを飛ばして難しいポーズを行うことは推奨されていません。初めはプライマリーシリーズを隅々まで理解し、身体が十分に準備できた段階で上のシリーズへ移るのが基本です。焦らずに着実にステップを踏むことが怪我予防にもつながります。休息日(ムーンデイなど)
アシュタンガヨガには、満月や新月の日(ムーンデイ)は練習を休む、女性は月経中には休むことが推奨されるなど、伝統的な考え方があります。近年では個々のコンディションやライフスタイルに合わせて柔軟に対応することもありますが、身体を休める日を設ける習慣は、オーバートレーニング防止の観点からも有効です。
5. アシュタンガヨガの現代的意義
一見するとハードなフィジカルエクササイズのように捉えられがちなアシュタンガヨガですが、その本質にはヨガ哲学を実践的に体現する要素が詰まっています。息が上がりそうになる時にこそ呼吸を整え、関節や筋肉に強い負荷がかかる時にこそ内面の集中力を高め、マットの上で葛藤や喜びを味わいながら自分自身と向き合う。このような体験は、日常生活でも「困難に直面したときに呼吸を意識して乗り越える」「内面の平穏を保つ」といった心の在り方に繋がると考えられます。
また、アシュタンガヨガは定型のシークエンスがあるため、自宅などでも継続しやすいというメリットがあります。クラスで覚えた流れを少しずつ日々の練習に取り入れることで、時間や場所の制約を受けずにヨガができるようになるのです。これは多忙な現代人にとって大きな利点と言えるでしょう。
さらに、スポーツ選手やダンサーなど、身体を酷使するプロフェッショナルの間でも、アシュタンガヨガはウォームアップやコンディショニング、メンタル強化のために採用されることがあります。高強度な運動能力だけでなく、バランスや柔軟性、呼吸法を総合的に鍛えられるスタイルとして、非常に有効だと評価されています。
6. まとめ
アシュタンガヨガは、ヨガの歴史や哲学を色濃く反映しながら、現代でも非常に人気の高い流派の一つです。決められたシークエンスを繰り返し練習するというストイックなイメージもありますが、その過程では驚くほど多くの身体的・精神的変容が得られる可能性があります。具体的には、筋力・柔軟性・持久力を同時に高め、動的瞑想として集中力を養うといった総合的なメリットが挙げられます。
ただし、そのダイナミックな特性から怪我のリスクや練習の継続難易度なども存在し、初心者が一人でDVDや動画などを見ながら独習する場合は特に注意が必要です。本来であれば指導経験のあるインストラクターのもとで基礎を習得し、自分の身体を理解しながらシークエンスを身につけていくことが望ましいとされています。
アシュタンガヨガに興味を持ってスタートする場合は、まずはプライマリーシリーズの序盤のポーズを少しずつ学ぶと良いでしょう。太陽礼拝と立位ポーズの習得だけでも十分に運動量があり、息が切れるほどのチャレンジングな体験が得られます。続けていくうちに、体力が向上し、ポーズの形や呼吸法への理解が深まり、やがては自分自身の内面世界への探求が自然と進んでいくはずです。
アシュタンガヨガは、決して一過性のフィットネスプログラムではなく、自分の身体と心に対する長期的な投資と言えます。真剣に練習を続けるうちに、単に見た目や体力面での変化を越えて、自己認識や生き方そのものに新しい視点がもたらされるかもしれません。そうした深遠な可能性を持つアシュタンガヨガは、ヨガの世界において今後も大きな存在感を放ち続けることでしょう。
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【監修者】 | 宮川涼 |
プロフィール | 早稲田大学大学院文学研究科哲学専攻修士号修了、同大学大学院同専攻博士課程中退。日本倫理学会員 早稲田大学大学院文学研究科にてカント哲学を専攻する傍ら、精神分析学、スポーツ科学、文学、心理学など幅広く研究に携わっている。 |