13条
すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
→13条は人権保障の包括的な規定
→14条~40条には個別具体的な権利が置かれている
(1) 事例
公道で、政治デモに参加していたYを、現場に居合わせた警察官が写真撮影した。
そこで、Yは、警察官の無断写真撮影により人権を侵害されたから、この警察官に暴行をしても無罪だと主張した。
憲法14条以下に列挙されていない権利は、人権として認められないのか。 (社会の変化により、憲法制定当初は予定されていなかった権利を人権として認める必要性が生じてきているが、これをどう考えるのか) | |
判例・通説 理由 |
判例 最大判昭和44年12月24日 |
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学生デモ隊の学生を、京都府警察官が写真撮影を行った。これを妨害しようとしたXが、公務執行妨害と傷害で起訴された事件。 「憲法13条は、…国民の私生活上の自由が、警察権等の国家権力の行使に対しても保護されるべきことを規定しているものということができる。そして、個人の私生活上の自由の1つとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態(以下「容ぼう等」という。)を撮影されない自由を有するものというべきである。これを肖像権と称するかどうかは別として、少なくとも、警察官が、正当な理由もないのに、個人の容ぼう等を撮影することは、憲法13条の趣旨に反し、許されない」 |
補足 |
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・本事例で、1審・2審ともに「みだりにその容ぼう等を撮影されない自由」は認めていましたが、それが憲法上の権利なのか、何条で保障されるのかは不明でした。最高裁が、これに答えたということで有名になった判例です。 ・「肖像権」という言葉は2審で用いられた用語のようですが、その内容が不明確であるため、最高裁は「みだりにその容ぼう等を撮影されない自由」としています。 |
(2) 人格権相互の関係
※各用語の意味は、論者によって定義が異なりますので、唯一の正解はないものと思われます。論文答案では、「○○権」という名称で考えるのではなく、「○○が~~されない権利」などのように、具体的な内容で論じること。
2 新しい人権
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・憲法に規定されていない主な新しい人権として議論されているものには、次のようなものがあります。
【具体例】
・プライバシー権(肖像権、前科等をみだりに公開されない権利、指紋押捺を拒否する自由)
・自己決定権
・環境権・日照権・平和的生存権
では、いかなる基準で新しい権利を「人権」と認めるべきか? | |
結論(通説) 理由(積極方向) 理由(消極方向) |
(1) プライバシー権
・プライバシー権とは何かについて、定義自体に争いがあります。
裁判例 東京地判昭和39年9月28日 |
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「いわゆるプライバシー権は私生活をみだりに公開されないという法的保障ないし権利として理解される」 ※三島由紀夫が、著名な政治家をモデルにした小説「宴のあと」を執筆した事件。後に和解。 |
→自由権的・消極的側面を重視
→しかしプライバシーの観念は時代とともに変化している(高度情報化社会になった今日では、行政機関などに個人情報が一方的に収集・管理されている)
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・現在では、自己に関する情報をコントロールする権利として広くとらえるべき
(2) 前科等をみだりに公開されない権利
・プライバシー権の一種としての、「前科等をみだりに公開されない権利」について。
判例 最判昭和56年4月14日 |
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「前科及び犯罪経歴は、人の名誉、信用に直接にかかわる事項であり、前科等のある者もこれをみだりに公開されないという法律上の保護に値する利益を有する」 ※弁護士会からの照会に対し、京都市中京区が、Xの前科及び犯罪歴を回答した事件。国賠違法でX勝訴。 |
(3) 指紋押捺を拒否する自由
・プライバシー権の一種としての「指紋押捺を拒否する自由」について。
判例 最判平成7年12月15日(指紋押なつ訴訟) |
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「個人の私生活上の自由の一つとして、何人もみだりに指紋の押なつを強制されない自由を有する」 ※日系米国人のXが、新規の外国人登録に際して指紋押なつを拒否し、起訴された事件。もっとも、押なつ制度は合理的かつ必要であるとされ、有罪とされた。 |
(4) 個人情報を無断で警察に提供されない自由
判例 最判平成15年9月12日 |
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「本件名簿は、氏名等の情報のほかに、「本件講演会に参加を希望し申し込んだ学生である」との情報をも含むものであるところ、このような本件個人情報は、プライバシーの権利ないし利益として、法的保護に値する」 ※早稲田大学で実施された江沢民講演会に参加した学生Xの住所・氏名・電話番号等が記載された名簿を、大学が警視庁に提出した事件。X勝訴。 |
(5) 住民基本台帳ネットワークの合憲性
判例 最判平成20年3月6日 |
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住民基本台帳ネットワーク(住基ネット)制度に反対するXらは、住基ネットによって本人確認情報を国の機関等が共有することは、憲法13条の規定するプライバシー権その他の人格権を侵害するなどと主張して、Y市に対し、国賠請求、及び住民票コードの削除を求めた事案。 個人の私生活上の自由の一つとして、何人も個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由を有するが、住民基本台帳ネットワークに管理、利用等される本人確認情報は個人の内面に関わるような秘匿性の高い情報ではなく、それが法令等の根拠に基づかずに又は正当な行政目的の範囲を逸脱して開示又は公表される具体的な危険がないので、行政機関が住基ネットにより住民の本人確認情報を管理、利用等する行為は、当該個人がこれに同意していないとしても、右の自由を侵害するものではない、とした。 |