西洋政治思想史(10)

政治思想基礎 第十講 逆説の近代 & 現代思想の源流(1) マルクス
法学部 萩原能久
http://www.law.keio.ac.jp/̃hagiwara/ hagiwara@law.keio.ac.jp

Ⅰ近代への転換の一般的契機
経済的:産業革命 →「合理性」、「進歩」
政治的:市民革命→「人民主権」、「民主主義」
思想的:ルネサンス、宗教改革、科学革命 →「個人主義」「主体」「理性」「客観性」
「世界の_________」Entzauberung der Welt
ハーバーマスの「文化的モデルネ」論
近代以前における宗教的・形而上学的世界像に表現されていた実体的理性の分化
・真理 科学(学問) 認識的・道具的
・規範的正当性 道徳 道徳的・実践的
・純粋性・美 芸術 美的・表現的
真・善・美という三領域の自律性(相互関与の排除)
専門家vs.素人 例:「学生の授業評価」、「行政国家」
ブラックボックス化した科学
*ハーバーマスの問題意識:この文化的近代の合理化が、逆に生活世界の貧困化をまねく
というパラドックス
近代というパラドックス
確実性のありえぬところに確実性を求め、異なる生活様式を容認はできても、それを正当化できず、自己の立場か
らその正しさの根拠を示しえない。また物質的・技術的「進歩」を享受しつつ、事実からはいかなる価値も政策も
引き出すことが禁じられているので実践的に無力である。
Ⅱ 近代のパラドックス
1). 統一的世界像の解体と自然科学的世界像の成立
→存在と当為、科学と道徳の分化
2) 主体・客体認識構図の成立
1.Objectivism…認識の「アルキメデスの点」、あるいは神の玉座
2.Subjectivism
3.Absolutism
4.Relativism
客観主義と相対主義(これのみが現代において唯一、理論的に容認されうる選択肢)は、それぞれ容認され
えない選択肢としての主観主義と絶対主義をとりこんでいる。 …R.Bernstein,『科学、解釈学、実践』
3) 人間中心主義
存在と当為(科学と道徳)、主体と客体の分離
科学の人間中心主義(認識プロセスへの観察者の参与)と人間中心主義の破壊unreliability of human thought
→科学の進歩と非科学の隆盛
→科学による「世界の魔術化」と哲学の秘教化
4) 世界の脱魔術化と再魔術化
近代化・合理化と意味の喪失・自由の喪失
5) 正当化主義、基礎づけ主義
正当化主義の帰結=ミュンヒハウゼンのトリレンマ…ハンス・アルバート『批判的理性論考』

  1. 無限遡及 2. 循環論法 3. 恣意的作業中断
    Ⅲ 現代思想の源流(1) カール・マルクス
    マルクス思想の三つの源泉 (レーニン)
    1)______の政治経済学
    2)_____の社会主義思想
    3)____観念論哲学
    マルクスの歴史・経済理論:「史的唯物論」
    生産手段 ┐
    │土台 → 上部構造
    生産諸関係 ┘
    社会の現実的基盤たる経済構造(土台)によって規定された法律、道徳、宗教、芸術、哲学などの社会的意
    識形態(上部構造)
    人間は社会的生産において、一定の発展段階に相応する生産諸関係にはいる。これら生産諸関係と生産手段の総体
    が社会の経済構造を形成する。これが土台となり、その上に法的・政治的上部構造がそびえたつ。そしてこれに対
    応するのが社会的意識形態(イデオロギー)である。
    『ドイツ・イデオロギー』
    1)人間の物質的生存 ┐
    2)欲求充足と欲求産出│
    3)社会関係の形成 ├→「意識」の形成
    4)生産…人間と自然 │
    …人間と人間 ┘
    分業による
    ┃ 肉体労働と精神労働の分化
    ┃ 労働と生産物の不平等な分配(所有)
    ┃ 特殊利害と普遍的利害の対立
    ┃ 疎外の発生 └→共同幻想としての国家

    イデオロギーの成立
    社会革命の思想
    社会の物質的生産諸力は、発展のある段階で、既存の生産諸関係、あるいはその法的表現たる所有(財産)諸関係
    と矛盾するようになる。そのとき、革命の芽が生じる。こうした経済的土台の変化とともに巨大な上部構造も、徐々
    に、ないしは急激にくつがえる。
    人類史=アジア的 → 古代的 → 封建的 → 近代ブルジョワ的生産様式
    …生産力のそれぞれの発展段階に対応した生産諸関係による類型化
    革命の必然性
    資本制の起源:諸個人からの生産手段の略奪 資本制の現状:生産諸関係と生産諸力の矛盾の増大
    →絶対的「窮乏化」理論 → 社会革命
    マルクス主義の論争点
    ①土台̶上部構造関係
    ②共産主義社会の位置付け
    ③「疎外」の克服?
    ④商品‐貨幣論
    ⑤革命の客観的条件と人間の主体性
    ⑥プロレタリアートの「懐柔」化?
    ⑦マルクス主義=代替宗教?
    ⑧「弁証法」:論理学か詭弁か?
    参考文献*
    ユルゲン・ハーバーマス『近代─未完のプロジェクト』、岩波現代文庫
    リチャード・バーンスタイン『科学、解釈学、実践─客観主義と相対主義を越えて』Ⅰ、Ⅱ、岩波SELECTION21
    Bernard Susser, The Grammar of Modern Ideology, Routledge, 1988
    テリー・イーグルトン『イデオロギーとは何か』、平凡社ライブラリー
    ハンス・アルバート『批判的理性論考』、お茶の水書房
    カール・マルクス『ドイツ・イデオロギー 新編輯版』、岩波文庫
    カール・マルクス/フリードリッヒ・エンゲルス『共産党宣言』、岩波文庫
    カール・マルクス『資本論』1~4、世界の大思想11、河出書房新社
    フリードリッヒ・エンゲルス『空想より科学へ』、岩波文庫
    ウラジミール・レーニン『国家と革命』

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【監修者】宮川涼
プロフィール早稲田大学大学院文学研究科哲学専攻修士号修了、同大学大学院同専攻博士課程中退。日本倫理学会員 早稲田大学大学院文学研究科にてカント哲学を専攻する傍ら、精神分析学、スポーツ科学、文学、心理学など幅広く研究に携わっている。

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