民法1 民法の全体構造と民法の指導原理

01 私法と公法

法律は、大きく「私法」と呼ばれる私人間(我々一般市民のこと)の法律関係の規則と私人と国家との法律関係の規制をする「公法」の二つにわかれますが、民法は私法に当たります。

民法は、一般的事項を先に、個別的事項を後に規定するパンデクテン方式といわれる方式で構成されています。イメージとしては数のような形です。ドイツの民法学の理論体系を参考に作られたもので、条文の数が少なくなる(重複が少なくなる)という利点がある一方、たとえば、契約の成立には「債権」編と、共通事項である「総則」の要件を検討しないといけないなど、初学者にはわかりにくいという欠点もあります。少ないと言っても、1050条もあるので、法律を学ぶ科目の中ではもっとも大変な科目の一つといわれています。

02 法律要件と法律効果

それでは、早速、民法の使われ事例を見てみましょう。

事例)Aは、自家用車を50万円で売りたいと思い、友人のBにこの話を持ちかけたところ、Bはこれに応じて、同車を購入してくれることになった。

とします。Aが車に対して所有権を持っている場合は、売買契約などで他人に所有権を移転することが出来ます。AはBに対して車を引き渡す債務を負う一方、Bに対して車の代金を請求する債権を持ちます。反対にBは、Aに対して車を引き渡すよう債権を持つ一方、Aに対して車の代金を支払う債務を負うというわけです。

このような売買契約が成立する法律要件としては、

(1)ABの有効な意思表示

(2)意思表示の合致

といったことが必要となります。また、こうした法律要件により、売買契約が成立した法律効果として、先程も言ったとおり、AはBに対して車の代金を請求する権利(債権)を有し、BはAに対する自動車の所有権を移転して貰う権利(債権)を有します。このように法律は要件を満たすと効果が発生し、権利または義務が生じるという関係にあります。

しかし、このような権利義務関係というのは、目に見えないものなので、権利の存否というのは、その要件の有無を検討することによって行う必要があります。要件の有無の検討は、

(1)事実の存否を判断し(事実認定)

(2)これを法律要件に当てはまるかどうかを判断し

(3)権利の存否を結論づける

という手順によって行いますが、実際紛争になった場合などの訴訟においては、審理を合理的に進めるために、

(1)判断してほしい権利・義務を訴える側が提示

する必要があります。そのために、必要と考えられる法律要件に基づいて、必要な事実の有無を主張・立証するという手順が取られます。このように、構成される事実を、要件事実といいます。

03 民法の指導原理

民法の指導原理と呼ばれるものを説明します。これは民法がどのような価値観に従って規定されているのかということです。事件解決のためには、妥当な結論を出さなければなりませんが、もともと何が妥当な結論かというのは価値観によって決定されるものです。

これは基本書や学説などによって多少の表記の違いはありますが、①権利能力平等の原則、②所有権絶対の原則、③私的自治の原則、④契約自由の原則、⑤過失責任の原則が挙げられます。一つずつ説明していきましょう。

まず、①権利能力平等の原則、というのは、人種性別国籍年齢などに関わらず、平等に権利の主体となれるという原則です。次に、②所有権絶対の原則、というのは、権力からの干渉を受けず、所有権は完全円満な支配権であるという原則です。そして、③私的自治の原則、というのは、前項の所有権絶対の原則とも重なりますが、すべての個人は、自由な意思に基づいて自律的に法律関係を形成することができるという原則となります。法律の中の法である憲法でも、国民には財産権として「財産権は、これを侵してはならない」(憲法29条)や自己決定権として「すべて国民は、個人として尊重される。生命・自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り立法その他国政の上で最大限の尊重を必要とする(憲法13条)など各種の自由権が保障されています。また、明文にない原理的法則としては、自力救済の禁止もありますので、覚えておきましょう。

そして、④契約自由の原則は、契約などの法律行為については、個人の自由な意思により、自由に決定できるという原則で、これにより、私的取引による経済が多様に、かつ合理的に進化しました。最後に、⑤過失責任の原則とは、「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償をする責任を負う」(民法709条)とあり、故意または過失により他人の権利を侵害した場合にのみ、責任を負うという原則で、十分注意して過失がないようにすれば、責任を負うことはなくなり、自由な行動が保障されるとしています。

04 民法の基本事項

民法の基本事項としては、まず大まかに分けると、財産法と家族法という区分に分かれています。それをもう少し細かく分類すると、財産法の中に、物権、債権、契約以外の債務の発生があり、家族法の中に、親族法の四つの分野に分かれています。

まず、物権とは、民法175条にこう規定されています。「物権は、この法律その他の法律に定まるものほか、創設することができない」と。物権とは、物(ぶつ)に対する権利であり、法律に定めるもの以外の物権は認められていません。このことを、物権法定主義といいます。

物権の典型例は、所有権です。他に占有権、用益物権、担保物権などがあります。また、先程の事例の通り、物権は、移転することができますが、ただし、権利は目に見えないので、移転して取得したことを第三者に主張するためには、対抗要件を備えてこれを公示する必要があります。

対抗要件の典型例というのは、不動産についての登記で、「不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない」(177条)と記されています。

また、動産については、「動産に関する物権の譲渡は、その動産の引渡しがなければ、第三者に対抗することができない」(178条)と記されており、引渡しが対抗要件となっております。

その他、名前を明記する明認方法などもありますが、これは明文はありません。

次に債権についてですが、債権とは、他人に特定の行為を請求できる権利のことをいいます。請求できるという表現は不明確なことがありますが、概ね「請求が認められる」という意味として理解して置いてください。

債権の具体例は、金銭の支払請求権や物の引き渡し請求権、その他不作為の請求権などがあります。講学上、債権を矢印で表すことが多いですが、金銭の動きと逆に表現されることが多いので、注意しておきましょう。

そして、契約以外の債務の発生についてですが、債権債務というのは、契約以外の法律行為や事実によっても発生することがあります。典型的な例としては、不法行為に基づく損害賠償請求権や、他に事務管理、時効、相続などがあります。

最後に、家族法ですが、民法では、親族の関係について定めており、相互扶助・協力・連帯の原則を重んじる規定となっています。家族法では、夫婦・親子関係を中心に親族に関する定めが置かれています。たとえば、どのような場合に夫婦関係や親子関係が発生し、どのような場合に解消されるのか、夫婦や親子間では、どのような権利が発生し、どのような義務が発生するのかなどが規定されています。、財産法のドライな関係に対して、少し情緒的なイメージを持たれても良いかと覆います。

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【監修者】宮川涼
プロフィール早稲田大学大学院文学研究科哲学専攻修士号修了、同大学大学院同専攻博士課程中退。日本倫理学会員 早稲田大学大学院文学研究科にてカント哲学を専攻する傍ら、精神分析学、スポーツ科学、文学、心理学など幅広く研究に携わっている。

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