
代謝が上がる日なら、多く食べてもよいのか
安静時のエネルギー消費とは、運動していない状態で身体が使うエネルギーである。食事量の変化を考えるうえで大切だが、運動や生活活動を含むその日の総消費量とは分ける必要がある。2024年の研究では、呼気などから消費エネルギーを推定する間接熱量測定を用いて、周期の時期ごとの差を調べている。[9]
自然な月経がある38人では、黄体期の安静時消費は卵胞期より平均40kcal/日高かった。ただし95%信頼区間は−2〜82kcal/日で、有意な差には届かなかった。信頼区間は差の推定にどの程度の幅があるかを表すもので、ここでは差がない値も含む。平均だけを取って「黄体期は必ず代謝が上がる」とするのは不正確だ。[9]
この研究は外れ値を除いた分析も行っている。測定間の差が大きい4人を除くと、黄体期の差は44kcal/日、95%信頼区間は12〜76kcal/日となり、有意だった。結果を説明する際には、全員の分析と除外後の分析を併せて示したい。都合のよい方だけを選ぶと、推定の不確かさが見えなくなる。[9]
同じ研究では血液中のホルモンと、測定後の3日間の食事も調べた。自然な月経がある群では、黄体期に脂質の摂取量が高く、レプチンと甲状腺ホルモンの一種も高かった一方、別の甲状腺ホルモンは低かった。経口避妊薬を使う群の安静時消費の平均差は−2kcal/日、95%信頼区間は−82〜79kcal/日だった。食事、ホルモン、代謝を同時に測ることで、同じ周期の比較にも複数の結果があるとわかる。[9]
2026年の系統的レビューは、健康で自然な月経がある女性の安静時代謝を扱う7研究を集めた。5研究は黄体期に高くなる傾向を報告し、4研究で有意な増加があった。推定された増加は約30〜120kcal/日で、その大きさは約3〜5%と小さい。著者らは日ごとの生物学的な変動、測定の限界、測定誤差と重なる可能性を挙げている。[15]
一方、食事を丁寧に測った18人の研究では安静時代謝にも有意差はなかった。黄体期中頃に平均104kcal/日高い傾向はあったものの、ばらつきは大きい。身体活動を行う21人の観察研究でも、周期を通じた安静時代謝の有意差は見られなかった。[3][6]
摂取量の平均差168kcalから別の研究の代謝差40kcalを引き、「差し引きの余剰」を計算したくなる。しかし対象も測定時期も方法も違う。別々の集団の平均を同じ人の収支として扱い、月経前に増える脂肪の量を算出することはできない。[1][9]
この系統的レビューは2020年1月〜2025年9月に発表された論文を検索し、331件から条件に合う7研究を選んだ。著者らは今後の研究で、排卵を確認したうえで同じ人を繰り返し測定し、時間を追う設計を優先するよう求めている。[15]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
増えた体重は、増えた脂肪と同じか
月経前に体重が増えたという経験と、黄体期なら必ず増えるという法則は区別したい。1983年の34人の女性を調べた研究では、卵胞期と黄体期の中頃を比較し、黄体期に体重と申告した食事量が有意に高かった。この研究の要約では、体重が何kg増えたか、脂肪が増えたかの記載はない。[14]
対して、身体活動を行う21人の最近の観察研究は、卵胞期初期の平均65.2kgから黄体期中頃の64.9kgへ、体重が有意に低下する結果だった。比較した時期が古い研究と同じではなく、対象も違う。「月経周期と体重」という同じ看板でも、どこからどこまで測ったかを確認する必要がある。[6][14]
21人の研究では、身体の電気的な性質を使う生体電気インピーダンス法で体組成も評価した。細胞外の水分の比率は卵胞期初期から黄体期中頃に低下した一方、脂肪を除いた身体の量と体脂肪率の推定値には有意差がなかった。著者らは、体重や電気的な測定値の変動は組織の変化より水分の移動を反映している可能性が高いと述べている。[6]
水分の移動という解釈は、この研究で体重、細胞外の水分、体組成を併せて測った結果から導かれた。今朝の自分の体重変化の内訳まで確定するものではない。[6]
朝の体重と前夜の空腹を結びつける前に、実際に食べた量、月経の時期、測定した条件を並べてみる。体重の横に時期と食欲を添えると、自分に繰り返される場面と、その月だけの出来事を見分ける材料になる。同じ人でも周期ごとに摂取量は変動し得るため、比較する数字にはその背景も添えたい。[2][6]

よくある誤解
「黄体期は食欲が増えるのだから、食べすぎても仕方がない」。集団で摂取量が増える傾向には根拠があるが、全員が同じ反応をするわけではない。食欲と摂取量をともに測って差がなかった比較研究もあり、空腹の強さと実際の食事量は別々の測定項目である。[1][3]
「卵胞期に食事を大幅に減らせば効率よく痩せる」。2007年のレビューは、周期に応じて食事の勧めやエネルギー制限の程度を変える発想を検討している。しかし結論は、そのような方法の減量成績を調べる研究が必要というものだ。生理学的に考えられることと、長期の体重管理で効果が確かめられたことをつないではいけない。[19]
「月経前は運動後にも必ず食べすぎる」。若い女性13人が30分の中強度のランニングを、卵胞期、排卵期、黄体期に行った比較研究では、運動後の食欲を調整する指標や空腹の感覚に周期による有意差がなかった。前日、当日、翌日の3日間の摂取量にも周期の効果は認められなかった。[17]
対象は経口避妊薬を使わず、規則的な月経がある若い女性で、比較したのは単回のランニングである。ほかの種目や長期の減量への影響はこの試験では確かめていない。[17]
今日からできること
- 黄体期という理由だけで間食を追加せず、食事は自分の空腹と実際に食べている量に合わせて用意する。平均168kcal/日は摂取量の観察結果として読み、追加分の献立を機械的に作らない。[1][3]
- 普段から走っている人は、月経の時期だけを理由に運動後の食べすぎを予想して中止する前に、その日の体調に合わせて実施を考える。研究で比較された行動は30分の中強度のランニングで、運動後の食欲と摂取量に周期の差は見られなかった。[17]
- 周期による食事の違いを比べたい人は、月経開始日を添え、異なる時期に3日間の食事メモを残す。研究でも日々の食事記録と周期の確認を組み合わせている。[16]
- 運動と食欲の関係を見たい人は、運動の前日・当日・翌日の3日間、食べた内容と空腹を感じた場面を記す。この範囲はランニングの比較研究で摂取量を調べた期間である。[17]
- 摂食の問題の既往がある人や、食事・体重の記録が負担になる人は、始める前に医師や専門家に相談する。

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参考文献
- The Effect of the Menstrual Cycle on Energy Intake: A Systematic Review and Meta-analysis — Jessica A. L. Tucker et al., 2024, Nutrition Reviews. DOI: 10.1093/nutrit/nuae093
- Dietary energy intake across the menstrual cycle: a narrative review — M. Rogan et al., 2022, Nutrition Reviews. DOI: 10.1093/nutrit/nuac094
- Energy intake and appetite in laboratory and free-living conditions may be consistent across menstrual cycle phases. — Miranda Smith et al., 2025, Appetite. DOI: 10.1016/j.appet.2025.108314
- Menstrual Cycle Phase Is Associated With Changes in Body Weight, Bioimpedance, and Carbohydrate Intake, but Not in Resting Metabolic Rate in Physically Active Females. — Michaela Wagner et al., 2026, International journal of sport nutrition and exercise metabolism. DOI: 10.1123/ijsnem.2026-0015
- Resting Energy Expenditure, Metabolic and Sex Hormones in Two Phases of the Menstrual and Hormonal Contraceptive Cycles — Ida E. Löfberg et al., 2024, Medicine & Science in Sports & Exercise. DOI: 10.1249/mss.0000000000003518
- Food intake, body weight, and sweetness preferences over the menstrual cycle in humans. — P. Pliner et al., 1983, Physiology & behavior. DOI: 10.1016/0031-9384(83)90240-8
- Resting metabolic rate fluctuations across the menstrual cycle: a systematic review — Anežka Hurtová et al., 2026, Frontiers in Physiology. DOI: 10.3389/fphys.2026.1778735
- Energy intakes are higher during the luteal phase of ovulatory menstrual cycles. — S. I. Barr et al., 1995, The American journal of clinical nutrition. DOI: 10.1093/ajcn/61.1.39
- No Effect of Menstrual Phase on Appetite-Regulatory Parameters Following a Moderate-Intensity Exercise Session. — Derek P. D. Bornath et al., 2025, Medicine and science in sports and exercise. DOI: 10.1249/mss.0000000000003839
- Impact of the menstrual cycle on determinants of energy balance: a putative role in weight loss attempts — L. Davidsen et al., 2007, International Journal of Obesity. DOI: 10.1038/sj.ijo.0803699
冒頭の写真: 開いた手帳にペンで書き込んでいる手元を近くからとらえた横長の写真。(写真: Shixart1985 / CC BY 2.0 / Wikimedia Commons)
この記事の情報は2026年10月時点のものです。個別の健康状態については医師にご相談ください。
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