PYYは満腹を知らせる腸のホルモンか 食後の上昇と手術で減量した後の変化

PYYが増えたら、空腹は消えて体重も減るのか。腸から出るホルモンの働きを、全粒粉パスタ、小麦の難消化性でんぷん、運動、胃バイパス手術の研究から確かめる。血中濃度と満腹感、実際に食べた量を区別し、手術後の変化を普段の食事制限に当てはめないための読み方も整理する。

「満腹ホルモン」と聞くと、分泌されれば空腹が消え、食事を終えられる信号を思い浮かべるかもしれない。PYYという腸のホルモンも食欲に関わるが、その呼び名だけでは、血液中の濃度と本人の満腹感、その後に食べる量まで同じように変わるかは分からない。[2][6]

PYY、ペプチドYYは、食後に腸から放出される。食品の試験では、血液中のPYYが上がっても、本人が感じる空腹や満腹に差が出ない例がある。[6][14]

食欲全体の見取り図は「食欲ホルモンとダイエット レプチンとグレリンから空腹の理由を読み直す」の記事に譲り、ここではPYYという信号を追う。採血で分かったこと、本人が答えたこと、食べた量として確認されたことを別々に置くと、満腹ホルモンという名前との距離が見えてくる。[1][2]

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PYYは、腸から食事の到着を伝える

PYYを扱う生理学のレビューによると、このホルモンは腸のL細胞という分泌細胞で作られ、食物の摂取後に血液中へ放出される。食事のエネルギー量と濃度には関係がある。腸が食べ物を受け取った情報を、食欲を調整する仕組みに返す信号として研究されてきた。[6]

体内にはPYY(1-36)とPYY(3-36)という形があり、後者は前者が酵素DPP-IVの作用を受けてできる。受容体は信号を受け取る窓口に当たり、PYY(1-36)はY1、Y2、Y5に結びついて活性化する一方、PYY(3-36)はY2をより選択的に使う。食欲に関わる脳の視床下部には、このY2受容体を持つ神経細胞がある。PYY(3-36)を投与した動物で食事量が減ること、Y2受容体を欠くマウスではその反応に抵抗性があることが、作用の道筋を考える材料となった。[12]

また、PYYは独りで働く信号として整理しきれない。消化管ホルモンを広く検討したレビューは、胃から食物が送り出されること、小腸の分泌細胞が消化産物を感知すること、消化管の異なる部分の相互作用を分泌の要因として挙げている。食事の情報は、腸の複数の過程を経て入力される。[1]

PYYは36個のアミノ酸からできたペプチドで、消化管の中でも遠位側に高い組織濃度が見られると報告されている。L細胞からはGLP-1とともに分泌される。食後に出るという共通点を持つ信号が、腸から脳への情報伝達に参加している。[6]

GLP-1を含む薬の試験については「グルカゴンとGLP-1を狙う減量薬 第2相46週で体重と有害事象はどう動いた」の記事に譲り、ここでは食品を替えたときのPYYと食欲の結果を中心に扱う。

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食後の採血と、外から投与する試験は役割が違う

PYYの食後の動きをまとめた報告には、摂取後15分以内にPYY(3-36)が上がり、約90分で頭打ちになるという記述がある。これは血中濃度の時間的な経過である。「この時刻になれば誰でも満腹になる」と、食事の終了時刻を指定する読み方は避けたい。[12]

同報告では、人にPYY(3-36)を末梢から注入し、通常の食後に相当する濃度を作った実験も紹介している。食欲が低下し、24時間の食事摂取量は33%減った。ホルモンに摂食を抑える作用があると考える、人での実験的な根拠である。[12]

この投与試験で操作したのは、食物繊維の量でも運動の時間でもなく、ホルモンの投与だった。したがって、ある食品でPYYが増えたという別の試験を見つけても、同じ割合で食事量が減ると見積もることはできない。似ているのは信号の名前であり、介入の内容と測定の条件は異なる。[2][12]

長く続けた場合の問題も残る。治療への応用を検討したレビューでは、人での単回の注入による摂食抑制と、動物への継続投与での体重・脂肪量の減少を区別しており、人への慢性的な投与の研究が待たれるとしていた。短時間の食事量の変化と、長い期間の体重管理には、別々の証拠が要る。[18]

研究の読み方は、その後のレビューでも単純になっていない。2017年の総説は、肥満がある人や胃バイパス手術後の人における、PYYを含む消化管ホルモンの摂食への生理的役割には不確かさがあると評価した。投与すれば作用が出ることと、日常の食事で体内から出る信号の役割を確定することを、分けて考えている。[1]

同じ総説は、血液を介して離れた臓器に届く内分泌の信号に加え、分泌された場所の近くで働く局所的な信号も検討している。局所の作用が関わる可能性はあるものの、その生理的な役割を確かめる方法には課題が残るとした。採血は循環中の濃度を知る手段だが、腸の周辺で起きる情報伝達まで直接観察しているわけではない。[1]

全粒粉パスタでは、空腹感と食事量が別の答えを出した

食品を食べた場合の例が、健康な成人14人の無作為化クロスオーバー試験である。同じ参加者が別の日に全粒粉パスタと精製小麦のパスタを食べ、結果を比べた。平均年齢は30歳で、食物繊維以外の主要栄養素とエネルギーが近い食事を使っている。[2]

全粒粉側は117g、比較側は100gで、食物繊維はそれぞれ11gと3gだった。重さを同じにするのでなく、食事のエネルギーなどを近づけて比べた設計である。試験食は、繊維量の違いを比較しやすい組み合わせだった。[2]

全粒粉の食事後には、食べたい気持ちが16%、空腹感が23%低く、いずれも統計的に有意な差があった。一方、満腹感の増加は13%だったものの、統計的な有意差の基準を満たさなかった。空腹感の低下と満腹感の上昇を、どちらも同じ確かさで書くと、結果を強くし過ぎる。[2]

PYYでは、食後の濃度を時間に沿ってまとめた曲線下面積が44%高かった。曲線下面積は、単独の採血時点だけでなく、測定期間中の濃度の推移を集約した指標だ。食欲の評価の変化とPYYの濃度にも関連が認められたが、後の食事で本人が申告したエネルギー摂取量への影響は確認されなかった。[2]

試験では食後4時間の食欲や血液の反応を追い、さらに8時間の自己申告による摂取量を評価した。食事を取った直後の感覚と、後の摂食を別の時間軸で測っている。同じ献立を選ぶ判断でも、「空腹の感じ方を変えたい」のか「摂取エネルギーを減らしたい」のかで、根拠が答えられる範囲が違う。[2]

食事への反応として、この試験はインスリンやグレリンも測っている。全粒粉では食後30分のインスリン反応と60分のグレリンが低かった一方、血糖やGLP-1の反応には比較食との差が見られなかった。PYYに加えて複数の項目を測っており、同じ食事に対して反応の異なる指標が並んでいる。[2]

参加者の内訳は男性7人、女性7人で、比較した食事の間隔は1週間だった。食欲の質問だけで終えず、血糖、インスリン、脂質、消化管ホルモンを同じ試験の中で追っている。食べた食品への反応を、感覚と代謝の両側から調べた設計だ。[2]

数字で読むPYYの研究

+44%:全粒粉パスタ後のPYYの曲線下面積。精製小麦パスタとの比較である。[2]

−23%:同じパスタ試験での空腹感。食べたい気持ちは16%低かった。[2]

−33%:PYY(3-36)を注入した人の24時間の食事摂取量。食品を替えた結果とは介入が異なる。[12]

−14.6±1.2%:胃バイパス手術後6週の体重変化。この時点で食事へのPYY反応は高まっていた。[19]

+13%:全粒粉パスタ後の満腹感の変化。有意差には届かなかった。[2]

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宮川涼 Founder

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