レプチンは多いほど痩せるホルモンなのか 肥満の人で高く、減量で下がる数値の読み方

食欲を抑えるホルモンのレプチンは、なぜ肥満の人ほど血中に多いのか。体脂肪と連動する値、多いのに効かないレプチン抵抗性、12か月の減量で値がほぼ半分になった研究、遺伝子の違いが減量後の体重に残す差を数字で確かめ、血圧や血管との関わりも整理する。

食欲を抑えるホルモンが、太っている人の血液ほど多く流れている。レプチンは脂肪組織でつくられるホルモンで、人では血中の濃度が体脂肪の総量と相関し、肥満の女性ではとくに高い値が見られる[6]。そして、レプチンには食欲を抑え、食べる量を減らす働きがあるとされる[20]。

それなら値が高い人ほど食欲は控えめになりそうだが、体はそう素直ではない。体重の多い人では、レプチンが多いのに体が反応しにくい「レプチン抵抗性」が見られる[20]。痩せるホルモンという呼び名は、半分しか当たっていない。

レプチンと空腹の関係の全体像は「食欲ホルモンとダイエット レプチンとグレリンから空腹の理由を読み直す」の記事に譲る。ここで扱うのはレプチンの「値」だ。減量で値はどれだけ下がるのか。遺伝子の違いは、減量した後の体重にどれほど響くのか。食欲の外では、どこに顔を出すのか。数字を報告した研究から順に確かめる。

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脂肪の量を脳に知らせるホルモン

レプチンは肥満(ob)遺伝子からつくられるたんぱく質のホルモンで、白色脂肪組織の脂肪細胞から分泌される[18]。血液に乗って運ばれ、レプチン受容体と呼ばれる受け手に結びつく[18]。受容体があちこちの組織にあるため、レプチンの働きは多方面に及ぶ。食べる量、体重、生殖の働きを調整し、胎児の成長、炎症に関わる免疫の反応、血管の新生、脂肪の分解にも役割を持つ[18]。

体重の調整で中心になるのは、脂肪組織と脳の視床下部の間の負のフィードバックだ[18]。脂肪が増えればレプチンが増え、脳がそれを受けて食べる量を減らす向きに働く、という往復の仕組みである。レプチンは16キロダルトンほどの大きさのペプチドで、視床下部の受容体に結びつくと、食べる量を減らし、体温とエネルギー消費を高める方向に働く[10]。

2021年の総説は、レプチンを、体にどれだけエネルギーが蓄えられているかの情報を伝える主要なホルモンと位置づけた[19]。内分泌の働きとエネルギーの収支の両方を調整する役である[19]。家の燃料計にたとえると分かりやすい。脂肪という燃料が多ければ目盛りが上がり、脳はそれを見て、もう十分に蓄えがあると判断する。

食欲を強める側のホルモンであるグレリンとの関係も整理されている。グレリンは視床下部の弓状核という場所で、食欲を高める神経を働かせる[20]。レプチンは、そのグレリンに働かされた神経を抑えると同時に、満腹を伝えエネルギー消費を高める神経を働かせて、食欲を抑える[20]。アクセルとブレーキの関係に近い。

この総説の題には「痩せ」と「肥満」の両方が入っている。レプチンの研究は、肥満だけでなく、エネルギーが足りない状態、糖尿病、心臓や血管の病気、脂肪肝の病気にまで及んできた[19]。蓄えが少なすぎるときにも、多すぎるときにも、この信号が関わるという見方である。

ただし、この総説は大事な断りを入れている。レプチンの仕組みを調べた研究の多くは動物で行われ、人での研究はずっと少ない[19]。動物と人の生理には似ている点と食い違う点があり、総説はその両方を論じている[19]。燃料計のたとえも、動物で描かれた図を人に重ねたものだと承知しておきたい。

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多いのに効かない、レプチン抵抗性

燃料計の目盛りが振り切れているのに、脳が「まだ足りない」と判断し続ける。レプチン抵抗性は、そう表現できる状態だ。同じ2021年に出た別の総説は、レプチン抵抗性を満腹感が弱まり、栄養をとり過ぎ、体重が増える状態と説明した[18]。そしてこれが肥満につながることが多く、外からレプチンを補う治療の効果を下げるとしている[18]。そこで、レプチンの効きを高める薬と組み合わせる方法が検討されている[18]。

2025年の総説も、値が高いのに体が反応しないレプチン抵抗性は、体重の多い人に見られる大きな課題だとした[20]。グレリンとレプチンの信号の乱れは肥満や代謝の病気と結びつけられており、二つのホルモンに関わる遺伝の要因を深く知ることが必要だと述べている[20]。

効かなさは食欲の話にとどまらない。血管でレプチンの働きを測った実験がある[9]。痩せた8人と、肥満に関係した代謝症候群のある8人で、腕の動脈にレプチンを流し、前腕の血流の反応を測った[9]。もともとの血中のレプチンは、代謝症候群の人のほうが高かった[9]。レプチンを流す前の時点でも、代謝症候群の人では、血管を縮めるエンドセリンの受け手を遮る薬で血管がより大きく広がり、一酸化窒素をつくる酵素を止める薬での縮み方は小さかった[9]。血管の調整の釣り合いが、もともと違っていたことになる。

痩せた人では、レプチンは血管を広げる一酸化窒素と、血管を縮める方向に働くエンドセリン1の両方の働きを高めた[9]。ところが代謝症候群の人では、レプチンを足しても、どちらの反応も変わらなかった[9]。すでに値が高い人は、追加のレプチンに応えなかったのである。著者らは、こうした人の高いレプチンは、血管を傷める原因というより、血管の働きの不調を映す目印かもしれないと結論した[9]。

外から補う治療の効きが下がる、という指摘と合わせると、「レプチンを足せば痩せる」という単純な図は成り立ちにくい。総説は、次の世代のレプチンの類似物質の開発が進んでいることにも触れているが、それが人の減量で何をもたらすかは、これからの研究に委ねられている[19]。

減量すると、値はどこまで下がるのか

では、体重を減らすと、レプチンの値はどう動くのか。2001年の研究は、肥満の健康な人10人、尿にたんぱくが少し漏れる腎臓の初期の変化(微量アルブミン尿)がある肥満の糖尿病の人12人、その変化がない肥満の糖尿病の人10人に、12か月の集中的な減量プログラムを行った[7]。

始める前の時点で、微量アルブミン尿のある糖尿病の人は、ない人より血中レプチンが高く、微量アルブミン尿のない糖尿病の人と健康な肥満の人の間には差がなかった[7]。

BMIは3つの群でほぼ同じように下がった。微量アルブミン尿のない糖尿病の群で35.2から29.9、ある群で35.7から30.3、健康な肥満の群で35.5から30.1である[7]。同じ期間に血中のレプチンは、微量アルブミン尿のない糖尿病の群で37.6から19.7へ、健康な肥満の群で37.1から20.1へ下がった[7]。微量アルブミン尿のある群は、42.4から30.3へと下がったが、ほかの2群より高い値にとどまった[7]。

数字を並べると、BMIの下がり幅は2割に届かないのに、レプチンはほぼ半分になっている[7]。体脂肪と連動する値だとしても、この研究では体重の動きより大きく揺れていた。著者らは、代謝の管理の良し悪しにかかわらず、減量中にレプチンは下がり、その変化は糖尿病のない肥満の人と似ていたとまとめた[7]。3つの群を合わせても30人あまりの小さな研究で、食欲そのものは測っていない。それでも、満腹の側の信号とされるレプチンの値が、減量の途中で大きく下がることは数字に表れている。

ここから先は推論になる。レプチンが食欲を抑える側の信号だとすれば、値がほぼ半分になることを、抑える力が弱まる方向の変化と考えたくなる。ただ、食欲への影響はこの研究では測られていない。肥満の人ではもともと値が高くても効きにくいことが知られており[20]、値の下がり方をそのまま食欲の強さに置き換えるのは早い。

子どもの肥満では、2006年の総説が、1994〜2005年の文献を調べ、運動の取り組みがレプチンの濃度に与える影響を検討した研究をまとめている[1]。総説は、レプチンが視床下部に直接働いてエネルギーの収支を調整すること、遊離型と結合型と総量、さらに受容体の一部が血中に溶けた形まで測ることが理解に欠かせないこと、そしてレプチンの濃度が取り組みへの反応のしやすさを決める要因になりうることを挙げた[1]。

数字で読むレプチンの研究

37.6→19.7:糖尿病のある肥満の人が12か月減量したときの血中レプチンで、BMIは35.2→29.9だった。[7]

3.03%:レプチン・メラノコルチン経路の遺伝子に変異がある人の、減量手術後の総減量率の不足分。[2]

15.2ng/mL:乳がんの手術を受けた女性471人の血中レプチンの平均値。[14]

2.7ng/mL:乳児期の値がこれを下回ると、のちのBMIが高かった境目。[11]

8人と8人:痩せた人と代謝症候群の人で、レプチンへの血管の反応を比べた人数。[9]

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