アジア人のBMI基準はなぜ低いのか 病気を見つける境界と目標体重の違い

アジア人のBMIは低めに判断するべきなのか。同じBMIでも異なる体脂肪、糖尿病や高血圧の追跡研究から、境界値を下げる意味を確かめる。年齢・性別・集団で変わる数字と、腹囲や健診結果を合わせる考え方を整理し、研究の基準をそのまま自分の目標体重にしないための読み方を示す。

健診の紙では体重に目立った印がない。それでも血糖の欄には印がついている。「体重が普通なら大丈夫」という理解では、この組み合わせをうまく説明できない。米国の中年成人の診療記録を調べた研究でも、低めのBMIで体格を分類したアジア系集団に、白人集団より糖尿病が多いという結果が出ている。[2]

ここで気になるのが「アジア人はBMIの基準を低くする」という話だ。BMIは体重と身長から体格を表す指標であり、単位はkg/m2で表される。同じ値でも体脂肪の割合が集団によって異なることが、シンガポールのレビューで報告されている。[14] ただし、基準を低くする話を、そのまま「もっと軽くなるほどよい」と受け取ると、研究の問いから離れてしまう。

この話の主役は、理想の細さよりも、健康上の確認を始める位置である。糖尿病を予測する境界、血圧の上昇を捉える境界、死亡との関連を調べる区分では、研究から出てくる数字がそろわない。[1][5][10] なぜそろわないかを追うと、体重計の表示に求めすぎていた役割が見えてくる。

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同じBMIでも、体脂肪の意味はそろわない

シンガポールの中国系、マレー系、インド系の主要な民族集団を扱ったレビューでは、同じBMIの白人と比べて、シンガポールの対象者は体脂肪率が高かった。肥満を区切る従来の値よりかなり低いBMIでも、心血管系の危険因子を持つリスクが高まっていることが論じられた。[14] 体格の数字と、体の中の脂肪を同じものとして扱わないことが出発点になる。

たとえば同じ体重欄を見たとき、そこから体脂肪の割合まで読み取ったつもりになる場面がある。しかし、このレビューが問題にしたのは、体格と体脂肪の対応関係そのものが集団間でずれる点だった。[14] 体重計は表示された重さには忠実でも、その横に書きたくなる「安心」までは印刷してくれない。

ここでいうアジア人は、均質な集団を意味しない。米国の診療記録研究では、中国系、フィリピン系、南アジア系で糖尿病の有病割合に差があり、フィリピン系と南アジア系で高かった。[2] 同じ広い地域名に含まれるという理由だけで、誰にでもぴったりの境界を決められるわけではない。国や民族の名前は研究対象を確認する手がかりとして使いたい。

この違いは、日本で暮らす読者にも関係する。ただし、シンガポールの体脂肪の比較を、日本人全員の体脂肪率の証明に置き換えることはできない。[14] 日常で役立つのは「アジア人だから必ず隠れ肥満だ」という決めつけより、BMIが同じでも検査結果まで同じとは限らないという見方である。自分の検査用紙を、体格の欄だけで閉じない理由になる。

また、体脂肪率の違いを論じる研究と、病気の発症を予測する研究は役割が違う。前者はBMIが何を表しているかを問い、後者は将来の病気をどこまで見つけられるかを問う。[14][5] 体脂肪の説明がもっともらしいだけで、特定の境界値が自動的に正しくなるわけではない。次に見るのは、実際に病気が起きた人を追った結果だ。

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糖尿病の境界は、年齢によっても動く

中国の糖尿病のない成人8,735人を平均6.0年追跡した研究では、825人が2型糖尿病と診断された。対象は開始時に20〜74歳であり、全体ではBMIの高さと糖尿病の新規発症に正の関連があった。[5] この研究は、その時点で病気のある人を数えるだけでなく、時間を置いて発症を確認した縦断研究である。

発症の確認には、体格の測定に加え、75gのブドウ糖を飲む検査の2時間後の血糖と、血糖の状態を表すHbA1cを開始時と追跡時に測定していた。[5] 体重だけを追って病気を推測した設計ではなく、血糖に関する測定を重ねた研究である。BMIという入口の指標と、糖尿病を確認する検査が別の役割を担っている点も、この結果を読む際に押さえたい。

興味深いのは年齢別の結果だ。発症リスクを予測する最適なBMIの境界は、20〜39歳では男性25.5、女性24.4、40〜59歳では男性23.5、女性23.0だった。[5] 若い集団と中年の集団では、同じ病気を調べても境界が異なる。検索で見つけた数字を使う前に、その数字が誰を対象に出されたものかを見る意味はここにある。

さらに60〜74歳の集団では、男女ともBMIに糖尿病発症を予測する性能が認められなかった。[5] これは高齢になれば糖尿病を気にしなくてよいという結果ではなく、この集団でBMIだけから発症を見分ける働きが乏しかったという結果である。境界を低くすれば必ず解決する、という単純な道筋にもならない。

米国の別の研究は、発症の追跡ではなく、診療記録による後ろ向きの横断研究だった。45〜64歳の白人283,110人、中国系33,263人、フィリピン系38,766人、南アジア系17,959人を調べている。アジア系では健康体重の範囲をBMI18.5以上23未満、白人では18.5以上25未満と設定して比較した。[2]

このようにアジア系の区分を低めにしても、どの体重区分でも糖尿病の有病割合は白人より高かった。健康体重の区分に限ると、年齢とBMIを調整した中国系の有病割合比は男性2.1、女性3.4だった。南アジア系では男性5.9、女性8.0であり、集団間にも大きな幅があった。[2] これらは将来の発症確率をそのまま表す数字とは区別して受け取る。

有病割合比は、比較する集団で病気を持つ人の割合がどの程度違うかを表す。女性の比が大きいことから、個々の女性の発症率が男性より必ず高いとは読めない。比の分母に当たる白人集団も男女で別だからだ。[2] 数字を大きい順に並べるだけでは、研究で比較した相手を見失ってしまう。

ここまでの結果は、BMIが低めなら血糖の確認を省いてよい、という考えを揺さぶる。[2][5] 一方で、これらはBMIをある値まで下げたら糖尿病がどれだけ減るかを試した介入試験ではない。体重に目標線を引く話と、検査や評価の入口を広げる話を分けることが、日々の判断では役立つ。

高血圧を見つける線にも、取りこぼしがある

中国の18〜65歳を対象にした前向きコホート研究では、4年間の高血圧の累積発症割合が女性13%、男性19%だった。BMIが高くなるほど発症が多い関係があり、発症を見分ける感度と特異度の釣り合いが最もよかったBMIは、女性23.5、男性22.5と報告された。[10] ここでの問いは血糖ではなく血圧である。

感度は、その後高血圧になった人を境界の上側でどれだけ拾えるかを示す。特異度は、高血圧にならなかった人を下側でどれだけ正しく分けられるかを示す指標だ。この研究で得られた境界では、両者は約60%だった。[10] 最適という言葉が付いても、全員を間違いなく分ける線にはならない。

境界をBMI25にした場合、感度は女性36%、男性29%に下がる一方、特異度は女性80%、男性85%と高くなった。[10] 上側に入る人を絞ると、そこに入らない将来の発症者も増える。反対に、入口を広くすると、将来発症しない人まで確認の対象に含めやすい。この交換関係を知ると、低い境界の狙いを「見落としを減らすため」と理解しやすい。

別の中国の前向き研究では、18〜65歳を5年間追跡し、高血圧の発症を予測するBMIの境界は男性23.53、女性24.25だった。[12] 先の研究と向きは近いが、小数点まで同じにはならない。異なる追跡期間や対象から得た結果を、どちらか片方が誤りと切り捨てずに並べることが大切である。

この後の研究ではBMIだけでなく、腹囲や腹囲と身長の比なども調べている。高血圧の累積発症割合は男性21.5%、女性16.5%で、体格や腹部の指標が高くなるほど発症が多い傾向だった。[12] 境界の候補が複数あるのは、健康状態を捉える入口も複数あるためだ。数字を細かくするほど自分の未来が精密に分かる、とまでは考えない方がよい。

高血圧の最初の研究では、BMIによる判別性能を表す指標も調べていた。年齢を調整する前の値は男女とも0.62、調整後は男性0.68、女性0.71だった。[10] 対象者の年齢という情報を加味すると、同じ体格の指標でも評価が変わる。境界値だけを表から抜き出すより、体格と年齢を組み合わせて判定していた研究として読む方が、実際の結果に近づける。

数字で読むアジア人のBMI

8,735人:糖尿病のない中国の成人を追った研究の対象者数である。[5]

23.5と23.0:同研究の40〜59歳で得られた、男性と女性の糖尿病予測のBMI境界に当たる。[5]

女性36%、男性29%:中国の高血圧研究でBMI25を境界にした場合の感度である。[10]

76,227人:中国の総死亡と心血管疾患を調べた統合解析では、この人数を対象にしていた。[1]

3.10:日本の高齢者の研究で、体重減少群の死亡に対するハザード比である。95%信頼区間は1.31〜7.31だった。[20]

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