握力と体重 50万人の追跡と、体重で割った握力が低い人に多かった心臓病の死亡

握力が5 kg低いごとに、死亡のハザード比はどれだけ違うのか。英国の約50万人と広島の追跡、体重で割った握力、透析の患者の研究を照らし、kgの区切りが集団で変わること、鍛えれば長生きするかは別の問いであることまで、手で測る数字の読み方を確かめる。

5 kg。英国の40〜69歳、約50万人を追った研究で、握力がこの分だけ低いごとに、全死因死亡のハザード比は女性で1.20、男性で1.16だった[1]。

体重の増減を追っている人にとって、握力はふだん視界の外にある数字だろう。道具は片手で握るだけで、測定は数分で済む[14]。そんな小さな測定が、数十年先の死亡まで見通す材料として調べられてきた。

ここで示せるのは関連である。握力計を強く握る練習をすれば寿命が延びる、とは、集めた論文の要約のどれにも書かれていない。そして体重を気にする人には、もう1つ別の問いが残る。同じ30 kgの握力は、体重が違っても同じ意味を持つのか。

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手の力が、全身の話として測られてきた

握力は手の力そのものより、全身の筋力を見積もる簡単な物差しとして使われてきた[19]。その物差しが長い年月に耐えるかを確かめた記録が、日本にある。広島の成人健康調査の対象者のうち35〜74歳の4,912人(男性1,695人、女性3,217人)が1970年7月から1972年6月の間に握力を測り、死亡が1999年末まで追われた。外因を除く全死因死亡の相対リスクは、握力が5 kg高いごとに男性0.89、女性0.87だった[19]。相対リスクは比べる相手を1としたときの起こりやすさで、1より小さいほど死亡が少ないことを示す。

男性を5等分すると、握力が最も高い5分の1は、真ん中の5分の1を基準にして、35〜54歳で0.52、55〜64歳で0.72、65〜74歳で0.67だった。女性にも似た傾向があった。5 kgあたりの相対リスクは、20年以上たった後でも0.92だった[19]。1970年代の一度の握力が、四半世紀後の死亡と結びついている。ただし測った後の暮らしに何があったのかは、この数字には映らない。

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50万人の追跡で、5 kgの差が映したもの

英国のUK Biobankの研究は502,293人(54%が女性)を平均7.1年追い、その間に13,322人(2.7%)が亡くなった。ハザード比は、ある時点での起こりやすさを比べた値で、1より大きいほど起こりやすい。握力が5 kg低いごとの値を順に女性、男性で書くと、心血管の病気による死亡は1.19と1.22、呼吸器の病気による死亡は1.31と1.24、がん全体の死亡は1.17と1.10である。例外は前立腺がんの死亡で、1.05(95%信頼区間0.96〜1.15)と有意な関連が見られなかった。ハザード比1.20は、2割の人が亡くなるという意味ではない。参加者全体で見れば、平均7年あまりの間に亡くなったのは2.7%である。その起こりにくい出来事の起こりやすさが、握力の差に応じてどれだけ違ったかを比べた値だ。5 kgの差も、1人の握力が5 kg落ちた話ではなく、測った時点で握力の違う人どうしを比べた結果である[1]。

興味深いのは、予測の式に足した結果である。年齢、性別、糖尿病の診断、BMI、収縮期血圧、喫煙から作る診察室の予測の式に握力を加えると、予測の当たりやすさを示すC指数が全死因死亡で0.013、心血管の死亡で0.012上がった。BMIがすでに入っている式に足してなお、小さいながら上積みがあったことになる。身長と体重だけでは拾いきれない情報が、握力の側に含まれている可能性を示す結果である。もっとも、著者らは臨床で使えるかどうかはさらに検討が要ると書いている[1]。

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体重で割ると、同じ握力が別の数字になる

握力のkgを体重のkgで割った値を、相対握力と呼ぶ。61〜74歳の861人を中央値17.3年追った研究は、この値で参加者を3等分した。最も高い3分の1は最も低い3分の1に比べて、ハザード比が致死的な冠動脈疾患で0.59、致死的な心血管疾患で0.59、全死因死亡で0.66だった。ただし既存の危険因子の予測式に相対握力を足しても、C指数は改善しなかった。差が出たのは、より敏感な統計の指標だけである。一方で、体重で調整した握力と心血管の死亡の関連は、臨床的に意味のあるいくつかの部分集団でも一貫していた[14]。関連があることと予測の役に立つことは、別の話である。

メタボリック症候群の発症を8年追った韓国の研究は、kgのままの絶対握力と相対握力を比べた。絶対握力は、高い群のハザード比が低い群に対して0.62だった。相対握力では中間の群が0.73、高い群が0.45である。著者らは、絶対握力より相対握力のほうが発症との関連が強いと結論している[15]。ただし要約には、相対握力を何で割ったかが書かれていない。

割る相手そのものを問うた研究もある。1,940人(56.2%が男性、平均57.2歳)の観察研究で、平均の握力は男性40.0 kg、女性24.2 kgだった。糖尿病の人は13.8%、前糖尿病の人は47.0%で、どちらにも当たらない人の割合は握力の強い群で最も高く、弱い群で最も低かった。BMIで調整しても、除脂肪量(体重から脂肪を除いた分)で調整しても、握力が強いほど糖尿病か前糖尿病である見込みが低いという関連は検出された。著者らは、研究の目的に応じて一方か両方を使うよう勧めている[10]。割る相手がどれであれ、問いは同じだ。体を動かす力が、体の大きさに見合っているか。

糖尿病と心臓の病気が重なる手前で

体重が増えて血糖や血圧を指摘された人には、この研究が近い。UK Biobankの493,774人を中央値12.1年追い、2型糖尿病、脳卒中、冠動脈疾患のうち2つ以上が重なる状態を調べた。はじめにどの病気も無かった人のうち4,701人が新たにこの状態になり、握力が最も低い4分の1の発症のハザード比は、最も高い4分の1に対して1.46だった。すでに1つの病気がある人でも同じ比較で差があり、2型糖尿病の人で1.35、脳卒中の人で1.23、冠動脈疾患の人で1.23である。すでに2つ以上が重なっている人の全死因死亡も、同じ比較で1.57だった[7]。病気が1つ見つかった後でも、握力の差は次の病気との関連を示し続けていた。著者らは握力を独立した予測の材料になりうると見ているが、これも観察研究で、握力を上げれば病気が防げるかどうかは確かめていない。

肥満と握力の低さが重なった人たち

腹膜透析を受ける199人を、握力と肥満の有無で4群に分けた研究がある(過去のデータの解析、追跡の中央値17か月)。握力が低く肥満もある37人の群は生存が最も悪く、多変量の解析でも死亡率が最も高かった。肥満でない人どうしでは、握力が保たれた群のほうが低い群より生存が良かった[5]。透析という特別な状況の結果で、一般の人に同じ差があるとは言えない。それでも、肥満の区分が同じでも握力で分かれる人たちがいることを、この研究は見せている。

ここで言えるのは、体重と握力を別の物差しとして持つ意味までで、減量で握力がどう変わるかまでは読めない。体の中身の測り方そのものは、「体脂肪率はどこまで本当か 家庭の体組成計とDXAのずれから数字の読み方を学ぶ」の記事に譲る。

数字で読む握力と体重

  • 1.20と1.16: 握力が5 kg低いごとの全死因死亡のハザード比。順に女性、男性で、英国の40〜69歳の502,293人の研究[1]
  • 0.66: 体重で割った握力が最も高い3分の1の、最も低い3分の1に対する全死因死亡のハザード比。61〜74歳の861人[14]
  • 0.45: 相対握力の高い群の、低い群に対するメタボリック症候群の発症のハザード比。韓国の8年の追跡[15]
  • 26 kgと16 kg: 英国の研究が筋力の弱さの定義に使った握力の「未満」の線。順に男性、女性で、研究の分類であり診断の基準ではない[1]
  • 40.0 kgと24.2 kg: 平均57.2歳の1,940人の平均の握力。順に男性、女性で、この研究の参加者の値[10]
  • 0.92: 広島の研究で、20年以上たった後の、握力が5 kg高いごとの相対リスク[19]

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宮川涼 Founder

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