坂道を歩くと消費はどう変わるか 同じきつさで増える酸素と、速さが左右する膝の力

坂道を歩くと体の数字はどう動くのか。同じきつさで比べた傾斜と平地の試験、山を歩いた60代の測定、坂の後の食事の血糖、ポールと義足の試験、膝の力を直接測った研究を読み、対象の違いを踏まえて、帰り道の坂に持ち帰れることと持ち帰れないことを確かめる。

還暦を過ぎた男女が、2日がかりで山道を歩いている。研究者は心拍と活動の消費を追い、疲れの感じ方、飲んだ水、食べた物、かいた汗まで記録していく。およそ63歳の21人にアミノ酸か偽薬の補給をつけて、標高2,857mの山で調べた試験である[18]。上りの平均の心拍は本人の最高の約100%、活動の強さは最高の有酸素能力の約60%に達し、下りでは順に約80%、約20%に落ちた[18]。1日の活動の消費は、ふだんの歩く練習の7倍だった[18]。

坂を選べば同じ時間でよく燃える、という言い方はよく聞く。山の数字を見ると、もっともらしく思える。ただ、これは60代の人が丸2日かけて山を歩いた話で、帰り道の緩い坂の話とは違う。

坂の研究を並べると、対象は登山の人、運動習慣のある若い女性、義足の人、膝を傷めた人、膝に測定器を入れた人とばらばらだ。「坂は効く」の一言でくくると、誰の話かが抜け落ちる。

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上りで増え、下りで減る

基本の事実から確かめる。多発性硬化症(神経の病気)のある18人と健康な成人23人が、トレッドミルで6分ずつ歩いて比べた観察研究がある[11]。どちらの群でも、上りの酸素の消費は平地より多く、下りは平地より少なかった[11]。当たり前に見えるが、ここがすべての話の土台になる。

難しいのは「どれだけ」である。駅からの帰りに坂を1本足そうと考える人が知りたいのは倍率だろうが、平地を1として上りがいくつ、という単純な答えは集めた論文の中に無かった。速さ、傾斜、荷物、対象の体力が試験ごとに違い、1つの倍率にならない。傾斜だけを並べても、減量中の女性の試験は2.5%[13]、筋肉を調べた研究は5%と10%[1]、ポールの試験は10〜25%[2]と開きがあり、山の試験は実際の山道である[18]。

その代わり、何が消費の差を作るのかには手がかりがある。傾斜0%、5%、10%のトレッドミルを16人が歩いた研究では、傾斜と2つの筋肉の活動を入れた式で、消費の違いの96%を説明できた[1]。ふくらはぎの奥のヒラメ筋と、太ももの外側の外側広筋である[1]。膝の曲がり具合と、膝、足首、股関節が出す力の最大値を使った式でも、89%を説明できた[1]。

これは統計の上で言い当てられたという話で、この2つの筋肉を鍛えれば消費が増えるという意味ではない。読み取れるのは、坂の消費が脚の働きの大きさと強く結びついていることである。上り坂でふくらはぎと太ももが張る、あの実感は、数字の側から見ても大きく外れていない。段差を上る動きの話は「階段ダイエットは何段で効くのか 体力と体重で違う階段昇降研究の答えを読む」の記事に譲り、ここでは傾斜のある面を歩く研究に絞る。

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同じきつさに感じても、傾斜のほうが数字は高い

運動の強さを息の上がり方や感覚で決めている人には、気になる試験がある。まずトレッドミルの負荷試験で、自分がどのくらいの負荷を何と感じるかを確かめる。次に、最大酸素摂取量(全力のときに使える酸素の上限)の50%と70%にあたるきつさを、傾斜0%と10%のトレッドミルの上で感覚だけを頼りに再現した。50%のきつさでは、心拍と酸素の量は傾斜10%で毎分139拍、1kgあたり毎分30.6mL、平地で123拍、24.3mLだった。70%のきつさでは順に169拍、41.1mLと155拍、35.1mLで、どちらのきつさでも平地のほうが有意に低かった[7]。本人は同じきつさのつもりで、体は傾斜の上でより多くの酸素を使っていたことになる。

一方で、負荷試験で覚えた感覚を傾斜10%の上で再現したときは、心拍も酸素も負荷試験のときと有意な差が無かった。感覚そのものがでたらめなのではなく、傾斜が変わると読み替えが要るということである。ただし、要約からは歩いたのか走ったのかが読み取れず、参加者の年齢や人数も載っていない。著者らの結論も利点の話ではなく、傾斜の上で覚えた感覚を平地の運動に持ち込むときは調整が要るかもしれない、という処方の注意だった[7]。これを逆向きに読んで、平地で覚えた「このくらい」のまま坂に入ると体は思ったより高い所で動いている、と考えるのは私の見立てである。当たっているなら、消費の面では悪くないが、心拍に余裕がない人には別の意味を持つ数字になる。

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坂の歩きは、食後の血糖にも顔を出す

体重の論文ではないが、減量を考える人に近い試験がある。上りは主に筋肉が縮みながら力を出す運動で、下りは主に筋肉が伸ばされながら踏ん張る運動である[16]。この違いが食後の体に影響するかを見ようとした。運動習慣のある18〜39歳の女性のうち、腹囲80cm未満の13人とそれ以上の10人が、坂を上る歩き、坂を下る歩き、安静の3条件を試し、その30分後に炭水化物の多い食事をとって血糖やインスリンを調べた[16]。

どちらの群でも、上りの歩きの後で血糖の反応が低かった[16]。腹囲の大きい群では、安静のときの食事でインスリンが腹囲の小さい群より高く出ていたが(順に48.5と22.9pmol/L)、上りでも下りでも、炭水化物の多い食事へのインスリンの反応に利点があったと著者らは書いている[16]。

もっとも、これは1回の歩きの後の話で、人数も少ない。体重が減ったという試験ではなく、18〜39歳の外の年代にどこまで当てはまるかも分からない。炎症の指標であるインターロイキン6が、上りの直後と下りの8時間後に上がったことも記録されている[16]。良い面だけを切り取らないほうがいい。

山では、消費より先に余力が問われる

山の話に戻る。長い山歩きを扱ったレビューによれば、食事が足りない局面でも血糖は保たれ、ここだけ読めば理想の燃え方に見える。ところが同じレビューは、十分に食べないことが、バランスを中心とした動きの低下や体温調節の乱れと関連してきたと書く。疲れて歩みが遅くなると体の熱の産生が急に落ち、それだけで低体温に傾く。グループで歩くと、体力の低い人ほど相対的に高い強度で歩くことになり、疲れやすい可能性がある[8]。

冒頭の21人の試験でも、著者らは山道の歩きを高齢の人に高い強度を求める運動だと結論している[18]。アミノ酸の補給の効果は控えめで、垂直跳びの高さは偽薬の群で約10%落ち、補給の群では保たれたものの、落ち方の差は群の間で有意ではなかった[18]。補給で山の負担を消せるという話でもない。

つまり山は、食事を削って消費を稼ぐ場所として読むと危ない。消費が大きいことと、削ってよいことは別である。体重の変化そのものは「山歩きとダイエットの科学 ハイキングの体重減少と歩く力を分けて考える」の記事に譲る。

数字で読む坂道の歩き

約100%と約60%:山の上りで、およそ63歳の21人が記録した平均の値。順に、本人の最高心拍に対する心拍、最高の有酸素能力に対する活動の強さである[18]。

96%:傾斜0%、5%、10%を歩いた16人の消費の違いのうち、傾斜とヒラメ筋・外側広筋の活動の式で説明できた割合[1]。

139拍と123拍:最大酸素摂取量の50%にあたるきつさを感覚で再現したときの毎分の心拍。順に傾斜10%、平地である[7]。

5.1倍と0.8倍:測定器つきの人工関節で測った膝の最大の力(体重に対する倍率)。順に時速4.5マイルで荷重100%、時速1.5マイルで荷重25%の条件である[14]。

5%:足首に動力のある義足で、+3度と+6度の上りの消費が、ばね式の義足より低かった幅。膝下を切断した10人の試験である[4]。

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宮川涼 Founder

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