内分泌かく乱物質は太りやすさに関わるのか ビスフェノールとフタル酸エステルの疫学の確かさ

食品の包装やプラスチックに使われるビスフェノールAとフタル酸エステルは、太りやすさに関わるのか。人を追った研究の数字、75本の研究を集めた総説で結果がそろう層と割れる層、妊娠中と子どもの時期が注目される理由を確かめ、食事と運動の話との関係も整理する。

尿の中のビスフェノールAが多い人ほど、4年のうちにおなかの肥満になりやすかった。上海で40歳以上の888人を追った研究の結果だ[3]。始めの時点で尿に含まれていた濃度で参加者を3つの群に分けると、濃度の高い2つの群では、腹囲が基準を超える「おなかの肥満」が新たに起こるオッズ比が1.73と1.81だった[3]。オッズ比は起こりやすさを比べる物差しで、1より大きいほど起こりやすいことを表す。

ビスフェノールA(BPA)はプラスチックに広く使われ、身の回りの多くの品に含まれてきた化学物質だ[2]。食べ物へは包装から移ることがあり、とくにプラスチックの容器や缶詰の食品で指摘されている[6]。体のホルモンの働きを乱す物質は内分泌かく乱物質と呼ばれ、そのうち脂肪の蓄積と肥満を増やすと疑われるものはオビソゲン(肥満を促す物質)と呼ばれる[14]。

台所の保存容器を一つ残らず入れ替えたくなる数字かもしれない。ただ、上海の研究は観察研究で、尿の濃度と腹囲の変化が同じ方向にそろったことを示したにとどまる。仮説の中身、人で測った数字、研究を集めた総説の評価を順に並べると、体重を気にする大人が受け止めるべき大きさが見えてくる。

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「太らせる化学物質」という仮説は何を主張しているのか

肥満、糖尿病、心臓や血管の病気、高血圧、脂質の異常が重なる状態(総説はまとめて代謝症候群と呼ぶ)は、ふつう、体が必要とする栄養と食べ過ぎのずれ、そして運動不足で説明される。2007年の総説は、その上に有害な化学物質の負荷が重なり、肥満を始めさせたり悪化させたりするという「環境オビソゲン仮説」を紹介した[4]。最初の候補には、合成のホルモン剤ジエチルスチルベストロール、ビスフェノールA、フタル酸エステル、有機スズ化合物などが挙がった[4]。

フタル酸エステルは、プラスチックを柔らかくする可塑剤として使われる物質の仲間だ[7]。2013〜2023年の系統的レビューを集めた総説でも、主に取り上げられていたのはビスフェノールの仲間とフタル酸エステルだった[16]。

オビソゲンの定義は、直接または間接に脂肪の蓄積と肥満を増やす化学物質というものである[14]。2019年の総説は、脂肪が過剰にたまるのはエネルギーの摂取と消費の不均衡の結果だとしたうえで、それは食べ過ぎと運動不足だけの結果ではないと述べ、エネルギーの出入りを保つ仕組みを乱す物質の群を整理した[10]。

押さえておきたいのは、この仮説がカロリーの話を否定していない点だ。食事と運動で説明される部分に、化学物質という層を重ねる立て方である[4][10]。体重計の数字が化学物質だけで決まるという主張とは、出発点からして違う。

では、化学物質はどこから体に入るのか。2024年の総説は、空気、食品、食品の包装、家庭用品に含まれる化学物質を挙げている[11]。ビスフェノールAの総説も、プラスチックを通じて日用品のあちこちにあると強調する[2]。避けて暮らせる量ではないという事情が、この分野の研究を難しくしている。誰もが少しずつ触れているものは、触れた人と触れていない人を比べる方法が使いにくいからだ。

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体の中で何が乱れると考えられているのか

2024年のDalamagaらの総説は、細胞の実験、動物実験、人の疫学研究(メタ分析を含む)を集め、ビスフェノールやフタル酸エステルが肥満に寄与する方向へ証拠の重みが傾いていると評価した[7]。そのうえで、考えられる仕組みを6つ挙げている。脂肪細胞ができる過程への影響、発育の時期の遺伝子の働き方(エピジェネティクス)の変化、食欲と満腹を伝える神経と内分泌の信号への影響、脂肪組織に慢性の弱い炎症を起こすこと、腸内細菌と免疫の乱れ、熱を生む脂肪組織の働きの低下である[7]。

エピジェネティクスとは、遺伝子の文字の並びそのものは変えずに、どの遺伝子がどれだけ働くかという印が変わることを指す。発育の途中で起きた変化が、大人になってからの体の働きに永続的な変化を残しうるという見方が、この時期を重く見る理由になっている[14]。

仕組みの例としてよく引かれるのが、有機スズ化合物のトリブチルスズ(TBT)だ。総説はTBTをオビソゲンの代表例として扱い、脂肪細胞をつくる指令に関わるPPARγという受容体を働かせて、脂肪細胞の形成を促すことを示した研究を紹介している[14]。受容体とは、ホルモンなどの信号を受け取る細胞の部品である。本来の信号ではない物質が鍵穴に合ってしまう。かく乱という言葉は、この状態を指している。

2019年の総説は、人と動物と細胞の研究を見渡し、オビソゲンが脂肪組織の働きと食欲の制御の両方に悪い影響を及ぼすと整理した[10]。

2007年の総説も、候補の物質が性ホルモンの受容体や、脂肪細胞に関わる受容体の経路を標的にすると整理した[4]。そして、その乱れが胎児期や幼い時期に起きると、長く続く影響が大きくなりうると述べている[4]。

ただし、ここまでの仕組みの多くは細胞と動物で調べられたものだ。総説自身が、細胞と動物と疫学の証拠を合わせて評価している[7]。仕組みが説明できることと、人の日常の濃度で同じ大きさのことが起きることは、別々に確かめる問いになる。2013〜2023年の研究を集めた総説も、個々の物質や混ざり合ったもの、体内で変化したあとの物質が肥満の発生をどう早めるのかについては、さらに深い研究が要ると述べている[16]。

人の体を追った研究は何を見つけたのか

ビスフェノールAは糖尿病や肥満などの代謝の病気との関連が報告されてきたが、尿の濃度とおなかの肥満の起こりやすさを前向きに追った研究は限られていた[3]。前向きとは、結果が起こる前に測っておき、その後を追う方法である。

上海の研究を細かく見る。対象は2009年の時点でおなかの肥満がなかった40歳以上の888人で、平均4年の追跡中に124人(14.0%)がおなかの肥満になった[3]。おなかの肥満の基準は、腹囲が男性で90cm以上、女性で80cm以上と定められた[3]。尿中のビスフェノールAの対数値が1単位上がるごとに、交絡因子を調整したあとで起こりやすさは2.30倍(95%信頼区間1.39〜3.78)になった[3]。交絡因子とは、化学物質とは別に腹囲に関わりうる条件のことだ。

部分集団で分けると、関連がはっきり見えたのは女性、60歳未満、標準体重、たばこを吸わない人、お酒を飲まない人、高血圧のない人だった[3]。すでに体重の多い人より、標準体重の人で関連が見えた点は興味を引く。とはいえ、尿は開始時の朝に1回採っただけで、著者らの結論も「関連している可能性がある」という慎重な言い方にとどまる[3]。測定が1回だけであることは、結果の読み方に幅を残す。

もう一つは、米国シンシナティの母子206組の研究だ[17]。2003〜2006年に登録した母親から妊娠中に2回、子どもから1、2、3、4、5、8、12歳の最大7回、尿を採ってフタル酸エステルの代謝物9種類を測った[17]。12歳の時点で、X線を使う測定装置で全身と部位ごとの脂肪量と除脂肪量(脂肪以外の筋肉などの量)、内臓脂肪の面積を測っている[17]。

結果は意外な方向だった。代謝物の一つ、フタル酸モノベンジル(MBzP)の尿中濃度が10倍になるごとに、除脂肪量の指数の標準化した値は、妊娠中で−0.34(95%信頼区間−0.72〜0.05)、5歳で−0.44(同−0.83〜−0.05)、8歳で−0.35(同−0.71〜0.00)低かった[17]。ただし妊娠中の値は信頼区間が0をまたぎ、8歳の値も上限が0.00で、はっきりした差と言えるのは5歳の値だけだった[17]。一方で、別の代謝物は時期によって除脂肪量の多さと関連していた[17]。著者らは、関連の多くは弱かったとしている[17]。

肥満を促す物質の候補に名前の挙がる仲間の一つが、12歳の体では、脂肪の多さよりも筋肉などの少なさと並んで現れた。物質の呼び名どおりに体が動くとは限らない。「太る物質」というひとまとめの呼び方では、物質ごとの違いも時期ごとの違いも消えてしまう。

数字で読む化学物質と体格の研究

888人・4年:上海の追跡で、おなかの肥満が新たに起きたのは124人(14.0%)だった。[3]

2.30倍:尿中ビスフェノールAの対数値1単位あたりの起こりやすさで、95%信頼区間は1.39〜3.78だった。[3]

206組:母親は妊娠中に2回、子どもは12歳まで最大7回、尿を測った母子の数で、関連の多くは弱かった。[17]

75本:2014〜2024年に出た人の研究を集め、物質ごとの結果のそろい方を比べた総説の分析数。[20]

10本:2013〜2023年の系統的レビューとメタ分析を集めた総説の対象数。[16]

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