後ろ歩きの消費と膝の痛み 同じ速さでも前歩きよりきつく、走りを含む6週で体脂肪率が下がった

後ろ向きに歩くと消費は増えるのか、膝の痛みは変わるのか。同じ速さで前歩きと比べた実験、走りを含む若い女性の6週の試験、膝の変形性関節症の試験とメタ分析、バランスの研究を読み、分かったことと、体重や屋外での安全についてまだ分からないことを分けて示す記事。

多摩川の土手で、後ろ向きに歩いている人とすれ違うことがある。ときどき肩越しに振り返り、足の裏で地面を探るように一歩ずつ下がっていく。犬を連れた人が、少しだけ遠回りをして追い抜いていく。

同じ動きを、サウジアラビアの大学の外来が試験にした。膝の変形性関節症の68人が三つの組に分かれ、ある組は理学療法の部門で、見守りのもと後ろ向きに10分歩いた。週に3日、6週間。別の組は同じ条件で前向きに歩いた。6週後に測られたのは、膝の痛みと、動かしにくさと、太ももの力である[2]。

土手の人が期待しているものは、たぶん一つではない。消費が増えること、膝が楽になること、ふらつかなくなること。論文はこの三つに、それぞれ違う確かさの答えを返している。いちばん頼りないのは、ダイエットの読者がまず知りたい消費の答えである。

家庭向けのランニングマシンを横から写した写真スタジオ撮影 立川駅徒歩1分年中無休の溶岩ホットヨガスタジオ

同じ速さなら、後ろ向きのほうが体にこたえた

1997年の実験は、平均25歳の17人(男性11人、女性6人)をランニングマシンに乗せ、毎分93.8 mの同じ速さで、6分ずつ4通りに歩かせた。前向きの平地、前向きの5%の傾斜、後ろ向きの平地、後ろ向きの5%の傾斜である。順番は無作為に入れ替え、酸素の摂取量、換気量、心拍数、主観的なきつさを測った。結果は単純で、同じ傾斜なら、心肺の反応も代謝の反応もきつさの感覚も、後ろ向きのほうが大きかった[4]。

これが「後ろ歩きは消費が多い」という話のいちばん素直な根拠である。ただし読み取れるのはここまでだ。論文の要約には、酸素の摂取量が何%増えたかの数字も、何kcalかの数字も出てこない。6分間の反応を測った実験であり、毎日続けた人の体重を追ったものでもない[4]。

同じ速さという条件も効いている。毎分93.8 mで後ろ向きに歩くのは、土手の人の足取りとは別物だろう。速さを落とせば、この比較はそのまま当てはまらない。

消費の話には、もう一つ掛け算がある。1分あたりの消費が大きくても、合計はそれを何分続けられるかで決まる。後ろ向きに歩ける距離は、場所と足元の安全で限られる。前向きに歩いていた時間のうち数分を後ろ向きに替えるだけなら、1日の合計はあまり動かないかもしれない。この掛け算を実際に測った試験は、ここで読んだ論文には含まれていない。

なぜきついのかは、この実験の問いの外にある。パーキンソン病の研究を集めたレビューは、後ろ歩きを要求の高い歩行の課題と呼ぶが[20]、それがきつさの原因だと確かめたわけではない。見えない後ろへ足を出す動きが難しいことだけは、確かである。

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若い女性の6週で動いた、体脂肪率と酸素の消費

体組成まで測った試験は、2005年の1本である。健康な女子大学生26人(18〜23歳)を13人ずつに分け、片方だけが6週間、後ろ向きに走ったり歩いたりするトレーニングをした。もう片方は、試験の前の4週と同じ日常の活動を続けた。トレーニングの組では体脂肪率が2.4%下がり、同じ運動をしたときの酸素の消費は、後ろ向きでも前向きでも約3割下がった[10]。

飛びつきたくなる数字だが、条件を確かめておく。まず、後ろ「歩き」だけの試験ではない。走りが混じっている。対象は健康な20歳前後の女性で、組は13人ずつと小さい。要約に出てくるのはトレーニングの組の変化で、体重が減ったとは書かれていない。1回の長さや週の回数も分からない[10]。30〜50代の体にそのまま当てはめる材料は、ここには無い。

酸素の消費の数字にも読み方がある。研究者はこれを心肺の体力の向上と読んでいる[10]。同じ運動が楽になったということだ。消費の側から見れば、慣れた体では同じ運動で使う酸素が減るという意味にもなる。これは私の読みで、論文の結論ではない。1997年の実験の「きつさ」が、6週続けた後も同じだけ残るとは限らない。

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坂を足すと、働く関節が入れ替わる

1997年の実験には、もう一つの結論がある。5%の傾斜をつけた後ろ歩きは、心肺の体力を維持するのに十分な刺激になりうるというものだ。平地や傾斜での後ろ歩きは、前十字じん帯の再建の後など、脚のけがのリハビリで使われてきた。臨床の関心は、その間の体力の維持にあった[4]。

もっと急な斜面で関節を調べた実験もある。健康な9人が、上り39%(21度)、平地、下り39%の斜面を後ろ向きに歩いた。上る向きの歩行では膝の関節のモーメント(関節を回す力)とパワーの発生が増え、下る向きの歩行では股関節のモーメントとパワーの吸収が増えた[16]。

39%は日常の坂とは比べものにならない急斜面で、人数も9人である。それでも、後ろ歩きと一口に言っても、傾きが変われば仕事をする関節が変わることは分かる。傾斜そのものの消費と膝への負担は、同じ特集の坂道の記事に譲る。

膝の痛みの試験で、後ろ向きの組に起きたこと

膝の試験が多いのには経緯がある。後ろ歩きは、膝のお皿の周りの痛みを減らし、脚を強くし、関節の位置の感覚やバランスを良くすると報告されてきた[3]。脚の筋力を高め、膝の内転モーメント(関節を回す力の一つ)を下げるとも書かれ、膝の変形性関節症のリハビリの候補に挙がっている[12]。前十字じん帯のけがでは、後ろ歩きを入れた運動で歩き方の指標と筋力が改善したという報告もある[19]。

冒頭の試験に戻る。68人は平均55.6歳で、女性が38人だった。後ろ向きの組と前向きの組は、通常のケアに加えて、見守りのもとで10分の歩行を週3日、6週間続けた。対照の組は、脚を伸ばしたまま上げる運動、浅いスクワット、レッグプレスなどの通常の理学療法を受けた[2]。

6週後、後ろ向きの組は対照の組より痛みの得点が大きく下がった(順に1.8、1)。動かしにくさの得点も同じで(順に4.8、2.2)、太ももの前の筋力の増え方(順に1.7 kg、0.7 kg)も大きかった。著者は、前向きの組や対照の組と比べて、後ろ向きの組で痛みと機能の改善が大きかったと結論している[2]。

この10分と週3日は、試験の条件である。膝の痛みのある人への処方として書かれたものではない。見守る人がいる外来で、通常のケアと一緒に行われ、期間は6週間だった。その後どうなったかは、この試験には含まれていない[2]。この数字を見て、翌朝から一人で土手を後ろ向きに歩き出すことは、試験が調べた条件とは別のことである。

前向きと差がつかなかった試験と、メタ分析の条件

反対側の結果もある。45〜70歳の34人(平均58.41歳)の試験は、両方の組に筋力トレーニングを行ったうえで、後ろ歩きと前歩きを週3回、12週間比べた。どちらの組も全ての項目で改善し、組の間の差は有意にならなかった。効果量は椅子から立つ検査を除いて後ろ歩きの組のほうが良かったが、統計的に確かな差とは言えない。著者の結論は、後ろ歩きは実行でき、前歩きに劣らない選択肢である、というものだ[3]。

複数の試験をまとめた研究は、もう少し前向きに書く。2026年のメタ分析は無作為化比較試験13本を統合し、通常のリハビリに後ろ向きの歩行を組み合わせると、痛みの標準化平均差(単位の無い効果の大きさ)が−0.997(95%信頼区間−1.373〜−0.620)、機能障害が−1.015(同−1.326〜−0.703)だったと報告した。効果は中等度から大きいと評価され、楽な速さの歩行とランニングマシンの歩行で大きかった。速いほど良いという話ではなさそうだ。ただし著者は、単独での効果、長期の影響、証拠の確かさを今後の課題に挙げている[12]。

2019年のメタ分析も、膝の変形性関節症について同じ向きの結果を出した。通常の理学療法に後ろ歩きを足した2〜4週で、標準化平均差は痛みが−0.87、機能障害が−1.19である。著者は、膝の変形性関節症では有効で臨床的にも価値があると結論したが、集めた研究の質の点数は高いとは言えない[19]。

二つのメタ分析が答えたのは、リハビリに足したときの話である。2026年のメタ分析は対照の種類で分けても差は有意だったとしているが[12]、その中身のうちどれだけが前歩きを相手にした比較なのかは、この数字からは分からない。34人の試験では前歩きと差がつかなかった[3]。前向きに歩くことに対する上乗せがどれほどなのかは、まだ確かとは言えない。

数字で読む後ろ歩き

19.7%:6週のトレーニングの組で減った、皮下脂肪の厚さの合計。体脂肪率とは別の測り方の値である[10]。

5.2%:同じ組で上がった、20 mシャトルランから推定した最大酸素摂取量[10]。

91%、87%、82%:6週の時点で測定を終えた人の割合。順に後ろ向きの組、前向きの組、対照の組の値[2]。

0.6秒と0.1秒:椅子から立って歩いて戻る検査で短くなった時間。順に後ろ向きの組、対照の組の値[2]。

5.4:2019年のメタ分析に入った21研究の、質の点数の平均。10点満点の尺度である[19]。

1.22:同じメタ分析の、太ももの前の筋力の標準化平均差。膝の変形性関節症の人に通常の理学療法と後ろ歩きを2〜4週行った値で、単位は無い[19]。

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宮川涼 Founder

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