肉体労働で動く分は運動に数えてよいか 仕事の動きと余暇の運動を分けて追った研究

肉体労働で一日動いた日も、運動は足りていると言えるのか。仕事中の身体活動と余暇の運動を分けて追った研究を、心肺の体力、女性の心臓、農家の血液の値、建設現場の死因、職場の食べ方と体重の調査までたどり、体を使って働く人が余暇に何を足せるかを確かめる。

「運動」と「身体活動」は、ふだんの会話ではほとんど同じ意味で使われる。足場を上り下りし、資材を肩に担いで現場を往復した日の夕方、「今日はもう十分に運動した」と口にする人は多い。その言い方の底には、体を動かした分はどれも同じ勘定に入る、という前提がある。

働く人の健康を調べる研究は、この勘定を一つにまとめない。仕事の時間に体を使う量を「仕事の身体活動」、仕事の外で自分から動く量を「余暇の身体活動」と呼び、別々の物差しで分類してから、死亡や心臓の病気との関係を見る[1][3]。同じ一日の汗でも、研究の帳簿では入る欄が違う。

欄を分けてみると、二つは必ずしも同じ向きの結果にならなかった。仕事で体を使う量が多いことが、そのまま心臓を守る材料にはならない場面があり[3]、逆に、仕事の外で動く量の差ははっきりと数字に出た[1][5]。現場で一日動いた体に、帰り道の運動はまだ要るのか。その問いは、汗の量ではなく、どの欄の汗かで答えが変わる。

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研究は「身体活動」を仕事と余暇の二つの欄に分ける

仕事の外で動く量と死亡の関係を、仕事の重さごとに確かめた研究がある。21件のコホート研究から、一人ひとりの参加者のデータを集め直して統合した解析で、公表された研究だけでなく、公表されていないデータも含めている[1]。コホート研究とは、ある集団を先に調べておき、その後に何が起きたかを追う観察の研究のことだ。

参加者の条件は、仕事の身体活動と余暇の身体活動の両方について個人ごとのデータがあり、全死亡か心血管の病気による死亡の記録があることだった。仕事の身体活動は「座りがち」「低い」「中程度」「高い」の4段階に分けられ、その段ごとに、余暇の活動の多い人と少ない人の死亡の起こりやすさが比べられた[1]。

解析は2段階で進められた。まず研究ごとに比例ハザードモデルという手法で関係を計算し、次にその結果を、研究どうしのばらつきを見込む方法でまとめている[1]。結果はハザード比で示される。比べる相手の死亡の起こりやすさを1としたとき、どれだけ高いか低いかを表す値で、1より小さければ相手より起こりにくいことを意味する。

ここで押さえておきたいのは、この解析が観察の研究を集めたものだという点だ。余暇に動く人を無作為に選んで動かしたわけではない。数字が示すのは結びつきであって、余暇に動いたから死亡が減ったと言い切れる形ではない。それでも、21件の集団を仕事の重さで分けて同じ問いを立てた点に、この研究の重みがある[1]。

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仕事が重い男性でも、余暇に多く動く人は死亡の危険が低かった

結果は、仕事の重さを問わず、余暇の身体活動が多いほど全死亡と心血管の死亡の危険が低い方向にそろっていた。男女ともに、仕事の身体活動の段の多くでこの傾向が見られた[1]。

座りがちな仕事の男性では、余暇の活動が高い人は、余暇も座りがちな人に比べて全死亡のハザード比が0.77(95%信頼区間0.70〜0.85)、心血管の死亡が0.76(同0.66〜0.87)だった[1]。95%信頼区間は、推定値がおよそこの範囲に収まると見込まれる幅で、1をまたがなければ偶然とは考えにくいと読む。

では、仕事の身体活動が高い男性ではどうか。余暇の活動が高い人の全死亡のハザード比は0.84(0.74〜0.97)で、こちらも低い側に出た。心血管の死亡は0.79(0.60〜1.04)で、信頼区間が1をまたいでいる[1]。仕事で体を使っている人の心臓について、余暇の運動の結びつきは数字の上では低い側にあるが、確かとまでは言えない幅だった。

もう一つ見落とせないのが、余暇の活動が「低い」「中程度」の段だ。仕事の身体活動が高い男性では、この二つの段のハザード比は0.87〜0.97の範囲にあり、統計的に意味のある差にはならなかった[1]。差が確かめられたのは、余暇に多く動く段の人だった。ただし、有意でないことは効果が無いことを示すわけではなく、この解析では差を確かめきれなかった、という意味にとどまる。

女性でも多くの結果は男性と似ていたが、推定の幅が広く、とくに仕事の身体活動が高い段で不確かさが大きかった[1]。著者らは、仕事の身体活動の水準にかかわらず、働く人は余暇の身体活動を高い水準で行うことで利益を得られる可能性がある、と結んでいる[1]。

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体力が低いまま重い仕事を続けた男性で、心血管の死亡が多かった

仕事の重さと体力を組み合わせて見た研究もある。欧州の5つのコホート研究を統合し、男性の労働者だけを対象にした解析だ。仕事の身体活動は本人の申告で3段階に分け、心肺の体力は客観的な測定で低い・中程度・高いの3群に分けている[3]。心肺の体力とは、心臓と肺が体に酸素を送り続ける力、いわゆる持久力のことである。

対象は9,922人の男性で、平均年齢は46.8歳だった。平均25.6年の追跡のあいだに55.7%が亡くなり、そのうち29.3%が心血管の病気による死亡だった[3]。解析では年齢、BMI、喫煙、余暇の身体活動、学歴を考慮している。

体力が低く、仕事の身体活動が高い男性は、体力が低く仕事の活動も低い男性に比べて、心血管の死亡のハザード比が1.27(95%信頼区間1.04〜1.55)、全死亡が1.22(同1.07〜1.40)と高かった[3]。体を使う仕事に就いていることが、体力の低い人では心臓の側の不利と結びついていた。

体力が高い群では様子が変わる。仕事の身体活動が高くても、心血管の死亡のハザード比は1.08(0.79〜1.48)で、はっきりした上昇は見られなかった。一方で全死亡は1.27(0.98〜1.83)で、体力の高さによる歯止めは確かめられなかった[3]。著者らは、心血管の死亡については体力の高さが体を使う仕事の労働者を守る可能性があり、仕事に見合う体力を求める考え方を支える、としながら、全死亡では同じ守りが見られなかったことも書いている[3]。

この解析は男性だけのものだ。女性の体を使う仕事に、同じ数字を当てはめる根拠はここには無い。また、体力は仕事をしていれば自然に上がる、という前提もこの研究からは引き出せない。仕事の活動と体力は別々に測られ、体力の低い人が重い仕事の段にもいたからこそ、この組み合わせが比べられた[3]。

女性の心臓では、仕事の量より余暇との組み合わせが目立った

女性について、仕事の身体活動と心臓の病気を調べた研究もある。女性の健康イニシアチブと呼ばれる、女性の健康を追った大規模な観察研究の中で、症例コホートと呼ばれる方法を使った[5]。冠動脈の病気の無い女性から無作為に5,243人を抜き出して比べる側の集団とし、2013年までの追跡で、心筋梗塞か冠動脈の病気による死亡が3,421件確認された。平均年齢は63.4歳である[5]。

仕事の身体活動は、本人の職歴を職業の分類の番号に置き換え、仕事の内容を記した職業のデータベースと結びつけて見積もった。生涯に積み重なった量と、直近の仕事の量の二通りである。余暇の身体活動は質問票で聞き取っている[5]。

人口の条件や社会経済的な条件を考慮すると、仕事の身体活動の量そのものは、冠動脈の病気の危険と結びついていなかった[5]。体を使う仕事をしてきた女性だから心臓の病気が多い、という形ではなかったことになる。

違いが出たのは組み合わせだった。仕事の身体活動が低く余暇の活動が高い女性を1としたとき、累積の仕事の活動が中程度で余暇の活動が低い女性のハザード比は1.54(95%信頼区間1.26〜1.88)、累積の仕事の活動が高く余暇の活動が低い女性は1.46(同1.20〜1.78)だった[5]。著者らは、仕事の身体活動の影響は余暇の身体活動の水準によって変わる、と述べている。

この結果を、仕事を続けた女性への警告として読む必要は無い。仕事で体を使うこと自体には全体として結びつきが見られず、目立ったのは仕事の外で動く時間が少ない組み合わせのほうだった[5]。帰宅後に家の用事が続き、自分のために動く時間が残らない日々を思い浮かべると、この数字は他人事ではない。

数字で読む仕事と余暇の身体活動

  • 21件:仕事の重さごとに余暇の活動と死亡の関係を調べるために、参加者のデータを集め直したコホート研究の数[1]
  • 0.84:仕事の身体活動が高い男性のうち、余暇の活動が高い人の全死亡のハザード比。比べる相手は、同じく仕事の活動が高く余暇は座りがちな男性[1]
  • 1.27:体力が低く仕事の身体活動が高い男性の心血管の死亡のハザード比。比べる相手は、体力が低く仕事の活動も低い男性[3]
  • 25.6年:欧州の5つのコホートで9,922人の男性を追った平均の期間[3]
  • 1.54:累積の仕事の活動が中程度で余暇の活動が低い女性の、冠動脈の病気のハザード比。比べる相手は、仕事の活動が低く余暇の活動が高い女性[5]

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宮川涼 Founder

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