人工膝関節・人工股関節の手術の前後で、体重は何に関わるのか。手術に至る危険と腹囲、7.5%を超える減量と膝の手術の少なさ、肥満の膝で緩みや輸血が増えなかった結果、BMI35以上で半年後の機能が低かった結果、術後にBMIが下がった41人の追跡を、研究の型と対象を添えて確かめる。
皮膚に金属の試薬を貼り、赤く反応するかどうかを見る検査がある。その検査で反応が出た人たちが、金属に反応しにくい被膜をかけた部品で、膝の内側だけを置き換える手術を受けた。研究者は手術の前日から最後の診察の日まで、どこまで体を動かせるようになったかを点数で追い、BMI(体重を身長の2乗で割った体格の指標)も手術の前と最後の診察で調べた。手術から平均67.03か月後の最後の診察で、41人の平均のBMIは手術前の27.97から26.84に下がっていた。論文は、大半の人が手術の後に体重を減らし、体を動かす量を増やしたとまとめている。比べる相手の組を置かない前向きの観察研究である。[4]
手術の後に体重は増えるのか、減るのか。手術の前の体重は、そもそも手術を受けるかどうかに関わるのか。太っていると、手術そのものの危なさは増すのか。論文をたどっても、答えは一つの数字にまとまらない。手術の後の体重を大人数で追った研究は集めた論文の中に見当たらず、ほかの研究が測っていたのは、手術に至る前の体重と、手術の場面での体重だった。膝と股関節、出血と痛みと動く力。体重が関わる場面を、それぞれ別の研究が別の物差しで測っている。

41人の膝で、BMIと活動の点数はどう動いたか
この研究の第一の目的は、金属の検査で反応が出た人が、膝の片側だけを置き換える手術の後に運動へ戻れるかを調べることだった。体重は第二の問いで、体を動かす量が増えればBMIが下がるのかを確かめようとしていた。活動の程度を段階で表すUCLA活動尺度の平均は、手術前の3.68から、平均12.37か月後に6.1、最後の診察で6.34となり、約1年後から最後の診察までの伸びは統計的に有意ではなかった。名前のとおり活発な動きまでを測るHAASという点数は、6.15から10.34、11.0と上がり、約1年後から最後の診察までの小さな伸びも統計的に有意だった。1年目の後、UCLAの伸びは有意でなく、HAASは小さく伸び続けたことになる。どちらの点数でも、伸びの大きな部分は手術からの最初の1年にあった。意外なのは体重との組み合わせで、BMIが28以上の人は、28未満の人よりどの時点でもHAASが高く、手術前と最後の診察では、BMIが高い人ほどHAASも高いという正の相関が出た。重い人ほど活動の点数が低い、という予想とは逆の向きである。もっとも、比べる相手の組の無い41人の研究では、手術がBMIを下げたのか、年月や暮らしの変化が重なったのかを分けられない。研究自身も、証拠の水準をIVとしている。言えるのは、特別な部品を使ったこの41人で、手術の後にBMIが下がっていた、というところまでだ。[4]
読んだ分のカロリーは、石の上で返せる。
腹囲で見落とされる肥満と、膝の手術に至るまで
メルボルンの共同コホート研究は、1990〜1994年に体格を測った36,784人を、国の人工関節の登録と結びつけて追った。肥満は、BMIが30以上か、腹囲が男性102cm以上・女性88cm以上のどちらかで定めている。平均15.4年のあいだに2,683人が変形性関節症のために人工膝関節の手術を受け、肥満でない人と比べた手術のハザード比は、BMIで肥満とされた人で2.69、腹囲で肥満とされた人で2.28だった。ハザード比は、追跡の期間のうちに出来事が起きる速さを、二つの組で比べた値である。観察研究であり、肥満が手術の原因だと示したわけではない。[3]
体重計の数字だけを見ていると、見落とす人がいる。BMIか腹囲の一方だけで判定すると、参加者の11.7%が、もう一方では肥満なのに「肥満でない」に分類されていた。この人たちも、どちらでも肥満でない人に比べた手術のハザード比は2.06だった。研究者の計算では、この地域で行われた人工膝関節の手術のうち22.7%がBMIで定めた肥満に帰せられ、腹囲も使えばさらに3.3%を拾える。帰せられる割合は関連を因果と仮定したうえでの計算だが、研究の結論は、手術に至る危険のある人を見つけるにはBMIと腹囲の両方を使うべき、というものだった。BMIが30に届かなくても腹囲が基準を超えている女性は、体重だけを見ている限り、自分を「肥満でない」の側に置き続けることになる。[3]

7.5%を超えて減った人と、5%を超えて増えた人
体重の「変化」と手術の関係を見たのが、オーストラリアのニューサウスウェールズ州で45歳以上を追った45 and Up Studyの解析である。BMIが25以上で、人工膝関節・人工股関節の手術を受けたことのない23,916人について、2006〜2009年と2010年の体重を比べ、7.5%を超えて減った2139人、5〜7.5%減った1655人、変化が5%以内の安定した組、5%を超えて増えた4430人に分けた。その後の5.2年で、1009人(4.2%)が人工膝関節の、483人(2.0%)が人工股関節の手術を受けている。年齢、性別、BMI、社会経済と生活習慣の要因をそろえると、7.5%を超えて減った人の人工膝関節の手術のハザード比は、体重が安定した人に対して0.69だった。5〜7.5%の減少は、膝の手術とも股関節の手術とも関連しなかった。[5]
股関節の結果は、膝と入れ違った。7.5%を超える減少は人工股関節の手術と関連せず、逆に5%を超える増加が、人工股関節の手術の危険の高さと関連していた。体重の増加は、膝の手術とは関連しなかった。研究者は、膝の手術の危険を減らすにはある程度以上の減量が要り、股関節のためには体重の増加を避けるべきだと示唆している。ただ、体重が減った理由が意図した減量だったのかは要約には書かれておらず、病気でやせた人が混じっていた可能性も残る。減量が膝の痛みや動きそのものをどう変えるかは、「膝が痛い人の減量はどれだけ効くか 変形性膝関節症の痛みと動く力を分けて考える」の記事に譲る。ここでは、手術に至るかどうかという別の出口でも、膝と股関節で体重の変化との関連の出方がそろわなかったことを押さえておきたい。[5]
部品のゆるみと出血は、体重でどれだけ変わったか
人工膝関節の部品が、感染によらずに骨から緩むことを無菌性のゆるみと呼ぶ。354人の人工膝関節の手術を振り返った後ろ向きコホート研究は、BMI30以下と30を超える人を同じ人数ずつ並べて比べた。平均年齢は順に62.44歳、62.84歳である。全体で350人にゆるみは無く、ゆるみが起きたのは4人で、ゆるみの率にも、ほかの合併症の率にも、両群で有意差は無かった。研究者は、高いBMIがゆるみに関わる可能性は残るが、それだけで決まるものではないと結び、より大きな集団での長い追跡を求めている。出来事が4件しか無い比較では、差を見つける力そのものが小さいと考えるのが自然だ。[1]
出血の研究は、物差しによって見え方が変わった。922人の人工膝関節の手術を振り返った研究では、35.90%が肥満の1度、18.76%がそれより重い2〜3度の肥満だった。推定した循環血液量は、肥満でない組、1度、2〜3度の順に4390ml、4736ml、5030mlと大きくなる。失った血液の量は全体で平均1502mlで、三つの組で差は無かった。ところが、循環血液量に対して失った割合は、2〜3度の肥満で29.65%と、肥満でない組の33.55%、1度の30.97%より低かった。輸血の率は順に12.7%、12.1%、6.4%で、統計的な判定はP=0.062と、はっきりした差とまでは言えない値である。研究者は、2〜3度の肥満の人は血液の総量が多く、失う赤血球の量は同じくらいだったためではないかと説明している。[6]
青島大学の附属病院で2024年に片膝の人工膝関節の手術を受けた154人を調べた研究は、別の答えを出した。測ったのは隠れた出血で、手術の前後の出血全体の大きな部分を占めるとされる、目に見えにくい出血である。654ml以上を多い組とすると、BMIは多い組に入ることの独立した危険因子で、オッズ比は1.306だった(何単位あたりの値かは要約に書かれていない)。高血圧があることのオッズ比は2.986である。BMIで多い組を見分ける力は高血圧より高く、境目は26.34だった。研究者は、手術の前にBMIを確かめ、体重の調整の相談と出血を抑える備えにつなげることを勧めている。[11]
二つの研究は食い違って見えるが、測ったものが違う。922人の研究は循環血液量に対する割合と輸血の率を、154人の研究は隠れた出血のml数を見た。体の大きい人の方が血液の総量が多ければ、同じml数の出血でも割合は小さくなる。どちらも過去の記録を振り返った研究で、手術の前に体重を落とせば出血が減ると試した研究ではない点も共通している。[6][11]
数字で読む人工関節と体重
2.69:メルボルンの36,784人のうち、BMI30以上の肥満の人が、肥満でない人に比べて変形性関節症で人工膝関節の手術を受けたハザード比。平均15.4年の追跡である。[3]
11.7%:同じ研究で、BMIか腹囲の一方だけで判定したときに、もう一方では肥満なのに「肥満でない」とされた参加者の割合。[3]
0.69:BMI25以上の45歳以上で、体重が7.5%を超えて減った人の、体重が安定した人に対する人工膝関節の手術のハザード比。人工股関節の手術とは関連しなかった。[5]
4人:BMI30以下と30を超える人に分けた354人の人工膝関節の手術で、無菌性のゆるみが起きた人数。両群の率に有意差は無かった。[1]
12.7%、12.1%、6.4%:922人の人工膝関節の手術での輸血の率。順に肥満でない組、肥満の1度、2〜3度の肥満の組で、差ははっきりしなかった(P=0.062)。[6]
読んだ分のカロリーは、石の上で返せる。
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