食べずに運動を重ねると体に何が起きるのか 利用可能エネルギーの不足と、月経・骨の実験

食べた量から運動の分を引いた利用可能エネルギーの考え方、月経が乱れる「30」の線をめぐる議論、食事制限と運動のどちらで骨の目印が有意に下がったか、不足の深さと骨の目印、食べることを強く抑える女性の月経、競技者の骨の記録を、試験の人数と期間を添えて確かめる。

月経が規則的で、ふだんから体を動かしている女性10人が、3回の月経周期にまたがる実験に加わった[6]。周期の前半にあたる卵胞期に、条件の違う3日間を一度ずつ、順番を無作為に決めて過ごす[6]。いつもどおりに食べる3日間。食事を大きく減らす3日間。そして、食事はいつもどおりのまま、監督のもとで1日に平均129分走る3日間である[6]。

食事を減らした3日間と走った3日間は、体に残るエネルギーが同じになるよう組まれていた[6]。条件ごとに前後を比べると、骨をつくる働きの目印が有意に下がったのは、食事を減らした3日間だけだった[6]。ただし、2つの条件を直接比べた差は有意ではなかった[6]。その一方で、成長にかかわるホルモンのIGF-1と、脂肪から出るホルモンのレプチンは、どちらの3日間でも似た幅で下がっていた[6]。

食べずに運動を重ねると、体のどこで何が起きるのか。この分野の研究はアスリートを中心に積み上がってきたが、運動の習慣がない若い女性に、食事と運動でエネルギーの不足をつくった試験も含まれている[4][15]。

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食べた量から運動の分を引いた残りで、体は回っている

利用可能エネルギーは、食事からとったエネルギーから運動で使ったエネルギーを引き、除脂肪量1kgあたりに直した値である[12]。除脂肪量は体重から脂肪の重さを除いた分で、筋肉や骨、内臓などがここに入る。運動のあとに残り、体のほかの働きすべてに回せるエネルギーを表す、というのがこの計算の考え方だ[4]。

冒頭の実験に当てはめると分かりやすい。いつもどおりの条件では、食事が除脂肪量1kgあたり1日45kcalで、残りも45kcalになる[6]。食事を減らした条件は、食事そのものが15kcal。走った条件は、食事は45kcalのまま走ることで30kcalを使い、残りが15kcalになる[6]。財布に入るお金を減らしても、出ていくお金を増やしても、手元に残る額は同じになる。違うのは、その額に至る道筋だけである。

利用可能エネルギーが長く足りない状態は、スポーツにおける相対的エネルギー不足(REDs)という枠組みで整理されてきた[1]。2024年のレビューは、エネルギーの不足が性ホルモンを変え、それが月経の乱れとして表に出ること、さらにほかのホルモンの系統も乱れて、骨、代謝、体組成、免疫、心臓と血管、鉄の欠乏、持久力と筋力の発揮にまで悪い影響がおよびうることを描いている[1]。そのうえで、ホルモンの乱れと成績の低下を直接結びつける科学的な証拠はまだ限られている、とも認めている[1]。

月経、骨、食べ方の3つが絡み合った状態は、以前から女性アスリートの三主徴と呼ばれてきた[14]。2002年のレビューは、それを月経が止まること、摂食の乱れ、骨粗しょう症の組み合わせとして描き、原因をエネルギーの摂取と消費の不釣り合いに置いた[14]。見た目の細さが重んじられる競技で最も多く起きる、ともしている[14]。

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月経が乱れる線は「30」なのか

利用可能エネルギーには、よく引かれる数字がある。2003年に、除脂肪量1kgあたり1日30kcalを下回ると、排卵にかかわる黄体形成ホルモン(LH)の分泌のリズムが乱れると提案された[7]。2024年の批判的レビューは、この「30」の線が本当に切れ目なのかを確かめている[7]。

短期の実験では、運動の有無にかかわらず30kcalを下回る状態を4〜5日続けると、月経が規則的で運動の習慣のない女性で、甲状腺ホルモンのT3と、LHの分泌の回数が下がった[7]。長い期間の研究は少ない。運動量を急に増やして体重を約4kg減らした無作為化試験では、2周期のあいだに黄体期(排卵から次の月経までの期間)の不全、月経の遅れ、無排卵が起きた[7]。3周期にわたって食事と運動でさまざまな大きさの不足をつくった別のランダム化比較試験では、57%の女性に、黄体期の不全、無排卵、月経の間隔があくことのいずれかが起きた[7]。

同じレビューによれば、30kcalを下回ると月経の乱れが起きる見込みは50%高まった[7]。ところが、乱れは30を上回る人にも下回る人にも見られた[7]。LHの回数の変化が予測できたのは黄体期の不全だけで、月経の間隔があくことや無排卵は予測できなかった[7]。レビューの結論は、30は「これを下回ると乱れる」切れ目ではなく、乱れの危険が高まる目安だ、というものである[7]。

レビューが挙げた3周期の試験とよく似た条件の試験を、利用可能エネルギーの値で解析し直した論文もある[4]。同じ試験のデータを使っている可能性もある。対象は、運動の習慣がなく、排卵のある18〜24歳の女性35人(平均体重59.0kg、BMI21.8)で、3周期にわたる食事と運動の介入に加わった[4]。不足の大きさが違う群に無作為に分け、毎日の尿のホルモン、周期の中ほどのLH、月経のカレンダーで乱れを判定している[4]。追加の解析で利用可能エネルギーを計算すると、その値が1上がるごとに、乱れの起きる見込みは9%下がった(オッズ比0.91、95%信頼区間0.84〜0.98)[4]。これより下なら乱れる、という特定の値は現れなかった[4]。

参加者を利用可能エネルギーで3つに分けると、低い群は23.4〜34.1、中くらいの群は34.9〜40.7、高い群は41.2〜50.1だった[4]。卵巣のホルモンの尿に出る代謝物と黄体期の長さは有意に下がり、その低下はどの群に属していたかと関係なく起きていた[4]。著者らは、閾値は見当たらず、利用可能エネルギーが下がるほど月経の乱れは直線的に増えると結論した[4]。安全な線が一本引かれているのではなく、不足が深くなるほど危険が少しずつ積み上がる、という絵になる。

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食事を減らした3日間でだけ、骨をつくる目印が有意に下がった

冒頭の実験に戻る。参加した10人は、最大酸素摂取量が平均48.1ml/kg/分と、持久力の高い女性たちだった[6]。測ったのは、骨をつくる働きの目印P1NPと、骨を壊して吸収する働きの目印β-CTXのほか、カルシウムの代謝とホルモンである[6]。

食事を減らした3日間では、P1NPが54.8から45.2μg/Lへ17%下がり、いつもどおりの条件の3日後の値52.5μg/Lより低かった[6]。走った3日間では55.3から50.9μg/Lへの動きにとどまり、有意な変化とは言えない[6]。骨を壊す側のβ-CTXは、どちらの条件でも変わらなかった[6]。

ただし、2つの条件の反応を直接比べると、P1NPにもβ-CTXにも有意な差はなかった[6]。ホルモンの動きもよく似ていて、IGF-1は13%と23%、レプチンは59%と61%下がった[6]。はっきり違ったのは、T3が食事を減らした条件だけで15%下がり、リン酸が走った条件だけで9%下がったことくらいである[6]。著者らの結論は、食事制限による不足は骨をつくる働きを有意に下げ、運動による不足は骨の代謝を有意には動かさなかった、というものだ[6]。

10人の、3日間の結果である。ここから「運動で使う分には骨は平気だ」とまでは読めない。言えるのは、この試験で骨をつくる目印が有意に下がったのは食事を削った条件だけで、条件どうしの差は有意でなかった、ということだ[6]。

女性と男性、軽い不足と強い不足

同じ研究グループは、男女を並べた実験もしている[8]。月経が規則的な女性11人と男性11人が、利用可能エネルギーを45kcalに保つ5日間と、15kcalに下げる5日間を、順番を入れ替えて経験した[8]。どちらの条件でも毎日トレッドミルで最大酸素摂取量の70%の速さで走り、運動で15kcalを使ったうえで、食事を60kcalか30kcalにした[8]。

女性では、15kcalの5日間で骨を壊す目印β-CTXが増え、骨をつくる目印P1NPが減った[8]。男性では、どちらも有意には動かなかった[8]。インスリンとレプチンが有意に下がったのも、女性だけだった[8]。ただ、男女のあいだで直接比べると、骨の目印にもホルモンにも有意な差は見つからなかった[8]。女性では変化がはっきりし、男性でははっきりしなかったが、性差があるとまでは言い切れない、という結果になる。

不足の深さで骨の反応がどう変わるかを調べた研究もある[15]。女性兵士の栄養の指針を詰める目的で、月経が規則的で運動の習慣がなく、体組成が標準的な若い女性29人を集めた[15]。少なくとも2か月あけた2回の月経周期の前半に5日間ずつ、監督のもとで有酸素能力の70%の運動を行い、1日15kcalを使っている[15]。そのうえで、45kcalの釣り合った条件と、10・20・30kcalのいずれかの不足の条件を、無作為の順に経験した[15]。

骨をつくる側の2つの目印は、10でも20でも30でも、不足の条件すべてで下がった[15]。そのうち1つは利用可能エネルギーに比例して直線的に下がり、もう1つは20から30のあいだで急に下がった[15]。一方、骨を壊す側の目印が増えたのは、最も強い10kcalの条件だけだった[15]。骨をつくる働きは軽い不足でも鈍り、骨を壊す働きは強い不足になって初めて強まる、という順番である[15]。著者らは、強い不足が続けば骨密度の回復しない低下につながるおそれがあり、軽い不足でも若い女性が本来届くはずの骨量の最大値に届かなくなるかもしれない、と書いている[15]。

数字で読む利用可能エネルギー

月経の乱れの見込み:利用可能エネルギーが1上がるごとに9%下がった(オッズ比0.91)[4]。

30kcalを下回ると:乱れの見込みは50%高まったが、30を上回る人にも乱れは見られた[7]。

3周期の不足:57%の女性に、黄体期の不全・無排卵・月経の間隔の延びのいずれか[7]。

食事を減らした3日間:骨をつくる目印P1NPが17%低下、走った3日間は有意な変化なし[6]。

不足の深さ:骨をつくる目印は利用可能エネルギー30の条件でも低下、骨を壊す目印が増えたのは10の条件だけ[15]。

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宮川涼 Founder

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