ほうれん草の葉から取り出した膜チラコイドは、試験で空腹や甘いものへの欲求を下げたが、次の食事の量には差が出なかった。12週の体重の試験、短い期間に偏るメタ分析、運動と比べた結果、葉を皿で食べた試験を並べ、この成分でどこまで言えるかを確かめる記事。
「緑の葉の力で、甘いものに手が伸びなくなる」。健康食品の棚にありそうな言い回しだ。そう言われて袋を手に取る人を、私は笑えない。夕方の引き出しのチョコレートとの攻防は、できれば葉っぱに任せたい。
その葉の成分はチラコイドという。ほうれん草の葉から取り出した膜で、人を対象にした試験が確かにある。過体重の女性が朝食の前に1回飲むと、その日の間食や甘いものへの欲求は偽薬より36%低かった。ところが同じ試験で、実際に食べた量には統計的に有意な差がつかなかった[3]。欲しい気持ちは動いたのに、口に運ばれた量は、平均では動かなかったのである。
売り文句と論文のずれは、ここにある。「欲求が減る」「食べる量が減る」「体重が減る」は一本の線の上に並ぶように聞こえるが、試験の上では別々の測定値だ。葉を皿で食べる話と、濃縮した粉を飲む話も、同じ話ではない。

チラコイドは、葉の中で光を受け止める膜
チラコイドは、緑の植物の葉緑体の中にある円盤のような膜で、光合成の光の反応を担っている[1]。栄養素の名前というより、葉の中の構造の名前に近い。試験で使われているのは、ほうれん草からこの膜を濃縮した抽出物で、「緑の植物の膜」と呼ぶ論文もある[19]。
それがなぜ食欲の話になるのか。説明の中心は消化の速さにある。チラコイドは脂肪の消化を遅らせ、満腹に関わるホルモンの放出を促すと考えられている[4]。ミニレビューは、食事の脂肪や炭水化物の吸収が遅くなることが、いくつかの効果に関係しているらしいと述べる[1]。
登場するホルモンは主に2つだ。GLP-1は満腹に関わるホルモンで、食べることの報酬の信号にも関わるとされる[3]。CCK(コレシストキニン)は、チラコイドを加えた食事の後に分泌が増えたと報告され、満腹の信号を強める方向の変化として読まれている[15]。
同じミニレビューは、動物と人の研究はまだごく少数で、そのすべてが良い結果だったと整理し、設計のしっかりした研究がなお必要だと書く[1]。少数の研究がそろって良い結果という状況は、期待の材料にも、注意の合図にもなる。
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
「空腹」と「欲しい」を分けて測った朝の試験
Stenblomらの2015年の試験は、2種類の空腹を分けて測った点に特徴がある。ひとつは体の求めに近い空腹、もうひとつは、おいしいものを「欲しい」「好きだ」と感じる気持ちで、論文は後者を快楽的な空腹と呼ぶ。過体重の女性に、朝食の前に1回だけチラコイドか偽薬を飲んでもらい、感覚を線の上の目盛りで答えてもらった[3]。
偽薬と比べて、空腹は21%低く、満腹感は14%高かった[3]。おいしいものへの気持ちだけでなく、体の側の感覚も動いたことになる。
気になるのは、感情で食べる傾向との関係だ。間食全体、とくに甘くて脂っこいものを欲しがる気持ちへの効果は、感情で食べる傾向の得点が高い人ほど大きかった[3]。嫌なことがあった夜の甘いもの、という人には目の留まる結果だが、これは相関である。その人たちを集めて効き目を確かめた試験とは違う。
読み飛ばせない記述がもう1つある。欲しさと好ましさの得点の変化は、チラコイドによる食べる量の減りと相関していた[3]。全体の食べる量に有意な差はなかったのに、である。平均では動かなくても、欲しさが大きく下がった人では食べる量も減っていた、という読み方はできる。それでも1回の摂取の話であり、体重の話にはまだ届かない。
欲求を軽く見るわけにもいかない。別のレビューは、食べ物への強い欲求はその後の食事や体重の結果と関連し、欲求を抑えられるかどうかが、カロリーを制限する食事を守れるかを左右すると述べる[17]。チラコイドが注目される理由は、ここにある。

満腹感の差は2時間、ピザは4時間後に来た
Rebelloらの二重盲検の交差試験は、過体重と肥満の60人に、濃縮品と偽薬を少なくとも1週間あけて順に飲んでもらった[4]。交差試験とは、同じ人が両方の条件を受ける比べ方である。朝に決まった朝食をとり、4時間後に5gの抽出物と決まった昼食をとる。さらに4時間後、好きなだけ食べてよいピザの夕食が出る。
偽薬と比べて、空腹と食べ物を恋しく思う気持ちは2時間にわたって低く、食後の血糖値は高かった。一方、血中の脂質と、夕食のエネルギー摂取量には差がなかった[4]。論文の結論も「2時間の満腹感」までである。満腹感の差が確かめられたのは2時間で、ピザが運ばれてきたのは、そのさらに2時間後だった。昼休みに飲んだと置き直すなら、差が確かめられているのは午後の早い時間までで、残業の前に引き出しを開けたくなる時間帯はその外にある。
炭水化物の多い朝食に足した試験もある。Stenblomらの2013年の試験では、適度に過体重の女性20人が、スウェーデンの朝食をチラコイド入りで2回、なしで1回、1週間ずつあけて食べた。4時間の観察で、チラコイドを加えた日は空腹の動機が抑えられ、CCKの分泌が増え、食後の低血糖が防がれた[15]。
血糖の向きを確かめておきたい。昼食の試験では食後の血糖が偽薬より高く[4]、朝食の試験では食後の低血糖が防がれた[15]。どちらも、食後の血糖が低くなりにくい向きの結果である。著者らはこれを、その日の後の埋め合わせの食べ方を防ぐ助けになるかもしれないと見ているが、見立ての段階だ[15]。血糖に関わる結果である以上、糖尿病などの治療を受けている人が自分の判断で濃縮品を足す話にはならない。足してよいかは、主治医か薬剤師に先に聞く。
12週の試験で、偽薬の群も3.5kg減っていた
体重まで届いたと報告した試験を見る。Monteliusらは、40〜65歳、BMI(体格指数)25〜33の女性38人を2群に分け、緑の植物の膜5gか偽薬を、毎日1回、朝食の前に12週間とってもらった。全員に、間食をしない三食と、身体活動を増やすことが指示された[19]。
平均の減量は、膜をとった群が5.0kg、偽薬の群が3.5kgで、統計的に有意な差があった[19]。総コレステロールとLDLコレステロールも偽薬より下がり、1日目と90日目の食事試験では、膜をとった群で食後のGLP-1の放出が増え、甘いものとチョコレートへの欲求が減っていた[19]。
見落としたくない点が2つある。1つ目は、偽薬の群の減り方だ。間食なしの三食と活動を増やす指示の下で起きた数字で、指示を受けなかった群がないため、このうち何kgが指示の力かは分からない。それでも、2つの群の開きより大きな変化が、成分をとらなかった側で起きていた。
2つ目は、腹囲、体脂肪、レプチンが両群とも減ったのに、群の間に差がなかったことだ[19]。体重計の数字には開きが出たが、巻尺と体脂肪の数字には出なかった。著者らは、減量の仕組みが食後のGLP-1の放出の増加にあるかもしれないと見ている[19]。
差が大きく出た試験もある。Tabriziらの二重盲検試験は、肥満と多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)のある女性48人に、全員カロリーを制限する食事を組み合わせ、チラコイド5gかコーンスターチ5gを毎日、12週間とってもらった[11]。体重の減りはチラコイドの群が6.97kg、偽薬の群が3.19kg、腹囲の減りは順に7.78cmと3.73cm、脂肪の量の減りは順に5.19kgと1.36kgで、いずれも有意な差だった[11]。インスリンの値やインスリン抵抗性の指標、テストステロンも、チラコイドの群で偽薬の群より下がった[11]。
こちらでは腹囲と脂肪の量にも開きが出た。同じ5g、同じ12週でも、対象も併用した食事も違う。どちらも小さな試験で、一方を一般の人の答えとして採ることはできない。PCOSのある女性の結果を、他の人にそのまま広げて読まないことも大切だ。
数字で読むチラコイドと食欲
38%と30%:過体重の女性が朝食前に1回飲んだ試験で、間食への欲求が偽薬より低かった割合。順に甘いもの、塩味のもの。[3]
28%:同じ試験で、甘いものの「好ましさ」が偽薬より低かった割合。欲しさとは別の項目として測られた。[3]
0.08:過体重と肥満の60人の交差試験で、男性の夕食のエネルギー摂取量が偽薬より減る傾向を示したときのp値。傾向にとどまり、差が確かめられたわけではない。[4]
90分と180分:適度に過体重の女性20人の試験で、チラコイドを加えた日に変化が見られ始めた時点。順に、食後の低血糖が防がれ始めた時点、CCKの分泌が増え始めた時点。いずれも食事の後から数えた時間。[15]
5gと7.4g:チラコイドと空腹・満腹のメタ分析で、空腹を下げるのにより有効とされた1日の量。試験で使われた量で、勧める量とは別である。[16]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
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