歩く量が減ったときの体の変化は、体重だけでは捉えきれない。健康な高齢者の歩数を減らした試験と、寝たまま過ごす実験を分けて読み、筋肉・体脂肪・インスリン感受性・体力の結果を確かめる。変わらなかった指標や運動で守れなかった機能にも目を向け、活動を再開するときに役立つ見方を探る。
歩く量を減らす実験と、ベッドで寝たまま過ごす実験では、体の変化が異なる。健康な高齢者の歩数を制限した試験では脚の除脂肪量が維持された一方、高齢者のベッドレスト実験では筋肉や身体機能の低下が報告されている。[8][11]
歩数計の表示が低い日を見て、筋肉まで急に失われたと決めつけるのは早い。同時に、休んでいる間に体重が下がったからといって、脂肪が落ちたと喜ぶのも早い。寝たまま過ごす実験には、脂肪量が有意に変わらず、脂肪以外の部分が減った例がある。[1][8]
ここで焦点を当てるのは、運動を増やして痩せる方法ではなく、活動を意図的に減らしたときに何が起こるかである。歩数制限、厳しい安静、その後の運動を分けると、体重・筋肉・体力を同じ物差しで見ない理由が具体的になる。[2][8][10]

歩数制限と寝たきりでは実験の条件が違う
歩数を減らす試験の代表として、Walkerらはけがや病気の症状がない70〜80歳の66人を、介入群と対照群へ無作為に割り付けた。参加者の79%は女性であった。介入群は日々の歩数を2週間、2,000歩未満に減らし、加速度計で活動を確認された。その後は歩数制限が解除され、4週間の運動リハビリテーションに移った。対照群は普段の身体活動を続けた。[8]
この試験では、歩数を減らしても脚の除脂肪量に変化はなく、制限期間中の身体機能や体組成にも変化が認められなかった。除脂肪量とは、ここでは体の重さのうち脂肪を除いた部分を測る指標であり、研究は脚の量を主要な評価項目にしている。少なくとも、この対象と条件では「歩数が少なくなれば直ちに脚の量が落ちる」という結果にはならなかった。[8]
対してベッドレスト研究は、日常の移動を減らす段階を越え、横になった姿勢を保つ実験である。Hajj-Boutrosらの試験では、55〜65歳の健康な23人が頭を低くした姿勢で14日間連続して過ごした。宇宙で体に重さがかかりにくい状態を地上で調べるための方法であり、家で仕事をして外出が減る生活と同じ条件には扱えない。[2]
歩数制限の試験で重要なのは、開始時と終了時だけを比べていない点である。対照群が普段の活動を続けたことで、介入群に起きた動きを、制限を受けなかった人の変化と照らせる。さらに検査は制限の後と運動の後に行われ、活動を減らす段階と再開する段階を分けている。この順序によって、制限そのものの影響と、その後の運動に伴う変化を追跡できる。[8]
歩数を少なくする指示には加速度計による確認があった。それに対してベッドレストの試験では、姿勢を連続して保つという条件そのものが介入になる。日常生活を振り返る場合も、単に「運動不足だった」と言うより、外を歩く機会が減ったのか、安静を指示されて横になっていたのかを分けて考えたい。研究の条件と生活の状態の接点は、運動不足という名前より具体的な行動のほうにある。[2][8]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
体重が下がっても脂肪は減ったとは限らない
Debevecらは健康な男性11人に、通常の酸素環境でのベッドレスト、低酸素環境で動ける生活、低酸素環境でのベッドレストを、それぞれ21日間経験してもらった。同じ献立を用い、目標の摂取エネルギーは個人と活動条件を考慮して設定した。ただし、実際に食べた量はどの条件でも目標を下回っていた。[1]
通常の酸素環境で寝て過ごす条件では体重が3%低下したが、脂肪量の有意な変化はなく、全身の除脂肪量は4%減った。ほかの条件も体重と除脂肪量が減り、脂肪量には有意な変化がなかった。全身の除脂肪量の低下は下肢の減少に伴っていた。体重が軽くなったという結果だけを切り出すと、脂肪を減らすダイエットとしては評価できない変化を見落とす。[1]
この研究では、安静時に消費するエネルギーと自覚的な食欲に変化は観察されなかった。したがって、動かなかったことで体重が減った理由を、食欲の低下や安静時代謝の変化だけで説明することはできない。摂取量が目標より少なかったことも含め、体重の変化と測定された中身を合わせて読むべき実験である。[1]
食事との関係を別の条件で調べたのが、健康な若い男性9人の交差試験である。同じ参加者が、抵抗と振動を組み合わせた運動を行う条件と、行わない条件で21日間のベッドレストを経験した。研究ではエネルギー収支を保つよう管理したが、両条件で体重も除脂肪量も低下した。運動なしでは体重が3.2kg、除脂肪量が2.9kg減り、運動ありでもそれぞれ2.8kg、2.7kg減った。[10]
体組成の測定には、両研究ともX線を使って脂肪や除脂肪の部分を評価する方法が使われた。単なる体重測定と違い、どの部分が変わったかを調べるための工夫である。論文の結果を見るときには、全体の重さに加えて部位別の測定項目にも目を向けたい。体重が減った研究を探す作業と、脂肪が減った研究を探す作業は、ここで道が分かれる。[1][10]
摂取エネルギーが目標を下回った幅は、通常酸素の安静条件で5%、低酸素で動ける条件で14%、低酸素の安静条件で6%だった。研究者が用意した献立が同じでも、実際の摂取量まで同じになるとは限らなかったのである。水分収支は条件間で同程度で、低酸素を加えると体重や除脂肪量の減少がさらに悪くなるという仮説は支持されなかった。[1]
糖への反応と筋肉の量は別々に変わりうる
インスリン感受性は、インスリンに対して体がどの程度反応するかを示す指標である。Kennyらの交差試験では、運動を行わない安静の後にこの感受性が低下し、抵抗と振動を組み合わせた運動はその変化を和らげた。一方で、運動をした条件でも除脂肪量の低下は認められた。代謝と体組成では、運動による変化の現れ方が異なった。[10]
研究は筋肉の一部を採取し、細胞のエネルギー供給にかかわるミトコンドリアの呼吸も調べた。運動なしの条件では、組織重量あたりの呼吸能力が低下したが、運動ありの条件ではその低下がみられなかった。ただし、ミトコンドリアに関係する酵素活性で補正すると、指標によって結果の見え方が変わった。細胞の働きをどの量で割って表すかも、結論の範囲にかかわる。[10]
著者らは、筋肉の呼吸機能の低下、インスリン抵抗性、筋肉の量の減少が同時に起きることを示し、呼吸機能の変化が不活動への適応に関係する可能性を述べている。複数の測定によって、不活動に伴う量と働きの変化が捉えられた。[10]
歩数制限試験にも代謝の検査が含まれた。Walkerらでは、いわゆる善玉コレステロールにあたるHDLコレステロールが介入群で低下し、運動後に元の水準へ戻った。ただし、時間による変化が群間で違うかをみる交互作用の値はP=0.065であった。介入群内の変化はあったものの、対照群と異なる経過だったという統計的な裏付けは十分でなかった。[8]
検査結果を見比べる際には、脂肪、脚の量、血液の指標のどれを見ているかを先に確かめたい。歩数制限試験では、体組成と血中脂質がそろって同じ方向に動いたわけではなかった。[8]
数字で読む活動を減らす実験
66人:健康な高齢者の歩数制限と、その後の運動を調べた無作為化比較試験の人数である。[8]
2,000歩未満:同試験で設定した歩数制限の条件であり、健康のための目標歩数を示した数字ではない。[8]
3%:通常の酸素環境で21日間寝て過ごした条件の体重低下。脂肪量の有意な変化はなかった。[1]
2.9kg:若い男性の交差試験で、運動なしの安静後に減った除脂肪量である。[10]
949人:厳しい安静と最大酸素摂取量を調べたメタ分析に集まった参加者数である。[15]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
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