プロトンポンプ阻害薬と体重 胃薬で腸の細菌が動いた7日間と、体格で割れた効き方

胃酸を抑える薬を飲むと腸の細菌はどう動くのか。健康な成人の7日間の試験、逆流性食道炎の8週間、肝硬変で服用をやめた15人、子ども20人の調査を並べて読む。服用者の体重を追った試験は集まらなかった一方、体格が薬の効き方に関わるかを調べた研究は向きが食い違っていた。飲み方を自分で変えないための見方も示す。

42倍。健康な成人 8 人に胃酸を抑える薬を 7 日間だけ飲ませた試験で、腸の中の Streptococcus anginosus という細菌は、飲み始める前の 42 倍に増えていた。[1]

この菌はもともと口の中、あるいは口と鼻のあたりに住んでいる。それが便の中から大きく増えた形で見つかった。胃酸を抑える薬(プロトンポンプ阻害薬。この記事では PPI と書く)は、胃食道逆流の治療と胃潰瘍の予防に使われ、世界で最も多く使われる薬の一群に数えられる。[1][13]

「胃薬を長く飲んでいると腸が荒れて太る」という言い方を見かけることがある。では、服用している人の体重を追った試験はあるのか。集めた論文を並べると、腸の細菌を調べた研究は次々に出てくる一方、体重そのものの変化を測った試験は無かった。代わりに現れたのは、向きが逆の問いである。体格のほうが、薬の効き方を変えているのではないか。[3][10][12]

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7日間で、口の細菌が腸から見つかるようになった

最初に挙げた試験は、健康な成人の志願者を無作為に 2 群へ分けている。一方の 8 人はエソメプラゾールを 1 日 40 mg、7 日間だけ飲んだ。もう一方の 8 人は同じ薬を飲みながら、毎食後にクロルヘキシジンの洗口液で口をすすいだ。便と唾液を 16S リボソーム RNA の配列で調べ、どの菌がどこから来たかを追っている。[1]

結果は分かりやすい形で出た。薬を飲んだ群では腸の Streptococcus 属が増え(P<0.001)、増えた種はいずれも口の部位、または口と鼻の部位に由来するものだった。中でも Streptococcus anginosus の変化が目立ち(P<0.004)、飲む前と比べて 42 倍になっていた(P=0.002)。洗口を足した群では 16 倍にとどまった(P=0.029)。[1]

菌の出どころを推定する解析でも、薬だけの群では口の細菌が腸の細菌に占める寄与が有意に増えた(P=0.026)。洗口を足した群では有意な差が出ていない(P=0.467)。試験管の中では、この菌は pH が 5 より低い環境では生き残れなかった。胃酸が薄まることで、口から飲み込んだ菌が胃を通り抜けて腸に届く、という筋道になる。[1]

同じ方向の結果は、患者を対象にした研究にもある。内視鏡で逆流性食道炎と診断された 20 人に 8 週間 PPI を使い、便の細菌と有機酸、血液中の細菌を服用の前後で比べた研究である。Lactobacillus 属は 4 週後(P=0.011)と 8 週後(P=0.002)の両方で、服用前より有意に増えていた。Streptococcus 属も 4 週後(P<0.01)と 8 週後(P<0.001)に増えている。[5]

ただし、この研究は「何でも変わった」とは報告していない。便の有機酸の総濃度には服用の前後で有意差がなく、血液中から細菌が検出された割合も服用前 22%、服用後 28% で、有意な差は出ていない。菌の組み合わせが動いたことと、体の中で何かが起きたことは、別々に確かめる対象である。[5]

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多様性が下がり、短鎖脂肪酸を作る菌が減っていた

1 本ずつの研究では、対象も人数も測り方も違う。そこで、16S rRNA 遺伝子の配列データが手に入る 4 つの研究を束ね、服用者の腸の細菌に共通する特徴を探したまとめの研究がある。研究ごとの違いはあったとしながら、共通点を 2 つ挙げている。[11]

1 つは Shannon の多様性指数の低下である。もう 1 つは Ruminococcaceae 科と Lachnospiraceae 科の菌の減少で、どちらも短鎖脂肪酸を作る役目を担う。短鎖脂肪酸のうち、代謝の健康を支える側に挙げられている代表が酪酸である。[11][3]

このまとめの研究は、6 つの属と 20 の機能遺伝子を、服用者を見分ける目印として機械学習で検証している。曲線下面積はそれぞれ 0.748 と 0.879 だった。値が大きいほど見分けがつく指標であり、属の構成よりも機能の遺伝子のほうが服用者の特徴をよく映していた。糖とエネルギーに関わる遺伝子が多く含まれ、代表に挙がったのはフルクトース-1,6-ビスホスファターゼとピルビン酸デヒドロゲナーゼだった。[11]

腸の細菌と結びつく薬は PPI だけでもない。服用者の細菌分類群を調べた研究では、そのうち 20% が非服用者と統計的に有意に違っていた。同じ研究は、抗生物質、抗うつ薬、スタチンなど、ほかの広く使われる薬にもそれぞれの細菌の特徴が結びつくことを報告している。薬と腸の細菌の結びつきは、PPI に限った話ではない。[13]

治療を終えた後に腸の多様性が戻るかを追った試験もある。ただし PPI の試験ではなく、ボノプラザン(PPI とは別の仕組みで酸を抑える、カリウムイオン競合型の薬)に抗菌薬を併用した除菌の試験である。中国の 12 施設で、ピロリ菌に感染した 18〜70 歳の 504 人を、ボノプラザン 20 mg を 1 日 2 回とアモキシシリンの低用量(1 g を 1 日 2 回)または高用量(1 g を 1 日 3 回)へ無作為に割り付け、14 日間の治療を比べた。便はベースライン、2 週後、8〜10 週後に採られた。腸の細菌の多様性は治療の後に下がり、8〜10 週の時点では両群ともベースラインの状態に戻っていた。β-ラクタム系に関わる耐性遺伝子は治療 2 週後に増え、低用量の群では治療前の水準に戻った一方、高用量の群では戻っていない。酸を抑える薬だけの影響ではなく、抗菌薬との併用による変化である点は読み落とせない。[4][12]

服用者の体重を測った試験は、集めた論文の中に無かった

ここまでの研究が報告しているのは、腸の細菌の組み合わせである。要約に、体重や体脂肪の結果は出てこない。では、細菌の変化と体重を結ぶ道筋はどのように語られているのか。[1][5][11]

肥満と PPI を扱ったレビューは、肥満を代謝的に健康な群と代謝的に不健康な群に分けたうえで議論を組み立てている。代謝的に不健康な群は、高血圧、脂質異常、高血糖、腹部の肥満といった代謝症候群の特徴を示す。逆流の症状は肥満のある集団に広く起こり、PPI は入手しやすさもあって、その症状に最もよく使われる薬である。[3]

このレビューが挙げる道筋は、腸の壁が緩む状態、全身の弱い炎症、そして酪酸などの短鎖脂肪酸の減少である。短鎖脂肪酸は代謝の健康を支える側に置かれている。食事の質の悪さと、PPI の短期・長期の使用が、どちらも腸の細菌の乱れにつながるという整理になっている。[3]

気をつけたいのは、これが機序の議論であって、体重の変化を測った結果ではない点だ。レビューは乱れを和らげる手立てとしてプロバイオティクスの利用も論じているが、服用者の体重が何 kg 動いたかという数字は現れない。腸内の細菌と体重の距離そのものは「腸内細菌とダイエット プロバイオティクスで体重はどれだけ変わるのかを読む」の記事に譲る。[3]

数字で読む胃酸を抑える薬と腸の細菌

42倍と16倍:健康な成人にエソメプラゾール 1 日 40 mg を 7 日間使った試験で、腸の Streptococcus anginosus が服用前と比べて増えた倍率である。順に、薬だけを飲んだ 8 人、薬と毎食後の洗口を併せた 8 人の値。[1]

20人:内視鏡で逆流性食道炎と診断され、8 週間の服用の前後で便の細菌と有機酸を調べた患者の数である。[5]

22%と28%:同じ研究で、血液中から細菌が検出された割合である。順に服用前、服用後で、両者に有意な差は出ていない。[5]

4研究:配列データが手に入る研究を束ね、服用者に共通する腸の細菌の特徴を探したまとめの研究が対象とした研究の数である。[11]

20%:服用者の腸で、非服用者と有意に違っていた細菌分類群の割合である。[13]

23.8:ボノプラザンと抗菌薬によるピロリ菌の二次除菌を受けた 33 人の解析で、除菌の成功と不成功を分ける境として算出された BMI の値である。[12]

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宮川涼 Founder

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