食べ終えたのに味を思い出せない夜。マインドフル食は、そんな食事を変える手がかりになるのか。肥満の女性を対象にした比較試験と系統的レビューから、体重減少と食行動の改善を分けて読む。研究結果が食い違う理由、効果の数字の読み方、日常で試す際の注意点まで、期待できる範囲を確かめる。
夕食の皿は空になった。スマートフォンの画面には、まだ読みかけの文章がある。何を食べたかは分かるのに、どんな味だったかは曖昧だ。お腹が空いているのか、もう少し座っていたいのかも区別しにくい。食事を済ませた記憶と、食事を味わった記憶は、同じではない。
そこで気になるのが、食事中の感覚に注意を向けるマインドフル食である。関連研究は、食べ方が変わる可能性を示している。一方、体重を減らす効果については、比較試験をまとめても明確な上乗せが示されない結果がある。[9] 食べる時間を丁寧に扱うことと、体重計の数字を動かすことには距離がある。
その距離を確かめてから、今日の食卓へ持ち帰ろう。食べる速さや噛む回数そのものは、特集の「よく噛んでゆっくり食べる」に譲る。ここで追うのは、食べ始めるきっかけ、食事中の満腹の感覚、食べ終わった後の評価である。

マインドフル食は、何に注意を向けるのか
マインドフル食は、本稿では食べる場面で身体の感覚や感情、食べたくなるきっかけに注意を向ける取り組みとして扱う。根拠となるレビューは、外からの刺激よりも身体内部の食べる合図への気づきが増すことを、考えられる仕組みとして挙げている。[3] これは仕組みの説明候補であり、すべての人でその経路が確かめられたという意味ではない。
外からの合図とは、たとえば目の前に食べ物がある、誰かが食べている、といった場面を思い浮かべればよい。身体の内側では、お腹の空き具合や満ちてきた感覚を確かめる。レビューが扱う「外的摂食」は外部の刺激に反応する食べ方、「感情的摂食」は感情に応じた食べ方である。[3] 同じ間食でも、何に反応したかという見方が加わる。
日常の例なら、仕事を終えて台所へ行き、戸棚を開ける場面である。夕食まで待てないほど空腹なのか、気持ちを切り替えたくて何かを探しているのか。ここで大切なのは、どちらが立派かを判定することではない。自分の状態を言葉にしてみるという、研究の着眼点を生活に置き換えた提案だ。戸棚は空腹の理由までは表示してくれない。
「ゆっくり味わう」という表現は入口にはなる。しかし、速度だけを変える方法と、感覚や気持ちに注意を向ける訓練は同一ではない。文献レビューに含まれる介入には、瞑想、食事への注意の練習、認知行動的な方法との組み合わせなどがあり、実施内容は多様だった。[4] 食事の所要時間だけで、研究と同じことを実践できたとは判断できない。
また、体の合図に従う「直感的な食べ方」とマインドフル食を一括りにするのも慎重でありたい。関連概念をまとめたレビューでは、直感的な食べ方についての根拠は当時まだ限られていた。[3] 似た言葉の間にある差を消すと、ある方法の結果が別の方法の宣伝に使われてしまう。
研究を読む際には、何を練習したかと、何を測ったかをセットにする。食べ方の質問票が改善したのか、実際の摂取量が減ったのか、体重が減ったのか。それぞれは異なる成績である。研究でも、食行動には変化があっても体重の比較では優位性が出ない結果が報告されている。[9][10] 自分の食卓を振り返る際にも、その区別が役に立つ。
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
「減った」と「ほかの方法より減った」を分ける
体重減少に前向きな結果を示す代表的な資料が、過体重や肥満の人を対象とする研究をまとめたメタ分析である。メタ分析とは、複数研究の結果を統計的に合わせて読む方法だ。この分析には、18の出版物に含まれる19研究、計1,160人が入っている。[2] 研究を集めた規模は、個別の小規模試験より大きい。
介入前と介入後を比べた体重の標準化効果量は0.42、95%信頼区間は0.26〜0.59だった。肥満に関連する食行動の効果量は0.70、信頼区間は0.36〜1.04である。[2] 標準化効果量は、異なる測定尺度の変化を共通の尺度にそろえた数字で、kgや食事量の割合ではない。食行動の値をそのまま減量の大きさとして読むことはできない。
ここで見逃したくないのが、介入前後の比較である。プログラムの終了後に体重が減っていたとしても、別の食事支援を受けた場合にどれだけ減ったかは、その数字だけでは分からない。食事指導を一緒に受けた影響などを分けるには、比較対象が必要になる。[2][9] 「参加した人が変わった」と「この方法だから余計に変わった」は、答えている問いが違う。
対照群を置いた無作為化比較試験だけを選んだ別のメタ分析は、この違いを見せる。無作為化とは、介入を受ける群などへの割り当てをランダムに行うことだ。過体重、肥満、または過食性障害のある人を対象とした12試験が選ばれ、主に食事や運動の行動変化を促す対照群と比べた。[9]
その結果、マインドフルネスの評価や過食性障害の症状は対照群より改善したが、体重減少では対照群を上回らなかった。[9] 要旨には、体重差の具体的なkgや信頼区間は示されていない。したがって「差は完全にゼロだった」と数値を補うこともできない。確認できるのは、この解析が減量の優位性を示さなかったという範囲である。
この結果は、食事への注意が無意味だという判決ではない。すでに食事や運動の支援がある状況で、追加の利益が明らかかという比較だからだ。[9] 同じように、介入前後で減った結果も、比較試験の限界を飛び越えて減量の保証にはならない。[2] よさそうな数字を見つけたら、まず「何と比べた数字か」を探す。それだけで読後の期待は変わる。
介入の組み立てによる違いも、このメタ分析では検討されている。日常の場面で行う練習と、時間を設けて行う瞑想を組み合わせた6研究では、体重の標準化効果量は0.55、95%信頼区間は0.32〜0.77だった。時間を設ける瞑想だけの4研究では0.46、区間は0.10〜0.83だった。[2] これは異なる研究を分類した結果であり、同じ参加者を練習の組み合わせだけで無作為に分けた直接比較ではない。食卓の注意だけを切り出す前に、プログラム全体を確認する材料になる。
肥満の女性の試験では、食べ方と体重が分かれた
生活に近い問いを置いたのが、肥満の女性138人を無作為に割り当て、6か月追った試験である。マインドフル食とエネルギー制限を組み合わせる群、エネルギー制限の群、マインドフル食の群を比べた。[10] 食べる量への支援に、食べる際の注意を加えるとどうなるかを考えられる設計だ。
マインドフル食の介入は、各90分の集団セッションを月ごとに計7回行うものだった。エネルギー制限を受ける群には、1日500 kcalの不足を設定した個別の食事計画が用いられた。[10] この数字は研究での条件であり、読者全員へ同じ制限を勧める基準ではない。普段の食事で味を意識してみることとも、介入の量は異なる。
体重は減ったが、群間には統計的に有意な差がなかった。組み合わせた群が、ほかの群より大きく痩せたわけではない。[10] 「有意な差がない」とは、この研究の解析では群の違いを統計的に明確に示せなかったという意味だ。効果が絶対に同じと証明した、と読み替えるのも避けたい。
一方、マインドフル食の群では、制御しにくい食べ方の低下がエネルギー制限の群より大きく、感情的な食べ方の低下もほかの群より大きかった。[10] ここに、この方法を評価する難しさがある。体重計だけを見ると群の差は見えないのに、食べ方の質問票では差が出る。測定したものを区別すれば、両方の結果は矛盾せずに読める。
ただし、介入を完了したのは70人だった。[10] 開始時の参加者全員が最後まで続けた試験ではない。要旨から離脱の理由や、続けられなかった人の生活を詳しく知ることはできない。毎月の集団セッションを受けられるかという問題も含め、研究のプログラムを日常へ持ち込むには、続けられる条件を確かめる必要がある。
体重に有望な小規模試験もある。肥満の35人を、個別の食事計画に8週間のマインドフルネスを加える群と、食事計画だけの群に分けた試験では、体重変化はそれぞれ−5.2 kgと−3.1 kgで、群と時間の交互作用は有意だった。[1] 食事支援への追加が利益を持つ可能性は残っている。
要旨が併記する範囲は、追加群で−6.9〜−3.5 kg、食事のみの群で−4.2〜−1.9 kgである。ただし、この体重の角括弧内の範囲が何の区間かは要旨中で明示されていないため、ここでは信頼区間と断定しない。[1] 大きく見える数字ほど、対象の人数、期間、比較条件まで一緒に持ち帰る。小さな試験の好結果を、長期維持や全世代の結果へ広げない。
対象の違いも、身近な実践へ翻訳する前に確認したい。関連概念を広く扱った文献レビューには、過体重や肥満の人への介入だけでなく、標準体重の人への介入や観察研究も含まれていた。摂取量の低下は過体重や肥満の一部の研究で見られたが、標準体重の研究ではそれほど明瞭ではなかった。[3] 食べ方の悩みが似ていても、参加者の身体の条件が違えば、同じ結果を期待する根拠にはならない。
また、介入後に食行動の得点が変わり、その変化と身体の指標が関連していても、変化の順序や原因まで決まるとは限らない。小規模試験では、食行動の得点の低下と、体格を表す指標の低下との関連も報告された。[1] それを「満腹に気づけたから体重が落ちた」と断定すると、関連の報告を原因の証明に変えてしまう。仕組みに関心を持つことと、仕組みが証明済みであることを分けて読む。
数字で読むマインドフル食
19研究・1,160人:介入前後をまとめた解析で、体重の標準化効果量は0.42。95%信頼区間は0.26〜0.59だった。[2]
12試験:無作為化比較試験をまとめた解析では、対照群に対する体重減少の優位性を示さなかった。[9]
138人・6か月:肥満の女性の試験では、体重減少に群間の有意差はなかった。完了者は70人だった。[10]
35人・8週間:食事計画に注意の訓練を加えた群の体重変化は−5.2 kg、食事のみの群は−3.1 kgだった。[1]
0.64:満腹への気づきの標準化効果量。体重の減少量でも、満腹感が増えた割合でもない。[5]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
1
2







