よく噛んでゆっくり食べるダイエットの科学 食事量と体重は同じように変わるか

よく噛んでゆっくり食べると、食事量や空腹感、体重はどう変わるのか。メタ分析と成人の比較試験から、咀嚼回数を増やす効果と限界を読む。食べる速さを落とせても摂取エネルギーが減らなかった研究も取り上げ、回数のノルマに頼らず食卓で試せる工夫と、長期の減量についてまだ分からないことを整理する。

昼休み、弁当のふたを開けたと思ったら、もう底が見えている。食べ終わった感覚より、午後の仕事に間に合った安心が先に来る。夜は夜で、家族の皿を片づけながら自分の食事も終わる。「よく噛もう」と思い出すのは、たいてい飲み込んだあとだ。

食べる速さは、献立を変えずに触れられる部分である。実際に、食べる速さを操作した研究の統合結果では、遅く食べる条件では、その食事の摂取エネルギーが少ない傾向が認められる。ただし、食後の空腹感まで確実に減るわけではない。[1] 皿に残った量、本人が感じる満腹、翌朝の体重。これらを同じ成績表に入れると、研究の意味を取り違える。

この記事で見るのは、食事の時刻ではなく口に運ぶペースである。食べる時間帯は時間制限食の記事、食品の加工度は超加工食品の記事に譲る。ここでは、噛む回数を増やす試験と、食感によって自然にペースを変える試験を読み、日常に持ち帰れる範囲を探る。

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ゆっくり食べると、その食事の量は減るのか

食べる速さと食事量の関係を調べた、2014年の系統的レビュー・メタ分析がある。系統的レビューは条件を決めて研究を集めて吟味する方法、メタ分析は複数の結果を統合する方法だ。この研究は、食べる速さを実験的に変えた22研究を対象にした。遅い条件では速い条件より摂取エネルギーが少なく、標準化平均差は0.45、95%信頼区間は0.25〜0.65だった。[1]

標準化平均差は、測定値のばらつきを基準にして差の大きさを表す指標である。この0.45を「45%減」と読み替えることはできない。信頼区間は推定の不確かさを表す幅だ。研究全体として差が認められたことと、自分の弁当から一定の割合だけ減ることは別の話になる。[1]

研究間の結果には大きなばらつきがあった。食べる速さを変える方法別に見ても方向はおおむね一致した。著者らが次の課題としたのは、日常で採用でき、過剰な摂取を抑える有効な介入を見つけることだ。実験でペースを操作する段階から、本人が食卓で続けられる方法を作る段階へ、検討の焦点が移っている。[1]

具体的な食事を使った試験を見ると、その距離が少し見えてくる。2014年のランダム化クロスオーバー試験では、18〜45歳の成人45人が、ピザの昼食を、心地よく満腹になるまで食べた。標準体重、過体重、肥満の参加者を含み、同じ人が異なる咀嚼条件を経験した。クロスオーバーとは、参加者自身が比較の相手にもなる研究の組み方である。[8]

この試験では、普段の噛む回数を測ったうえで、その回数の100%、150%、200%で飲み込む条件を比べた。摂取量は通常の条件に比べ、150%条件で9.5%、200%条件で14.8%少なかった。噛む回数を増やすと食事時間も長くなり、食べる速さは下がった。この差は、同じ人が異なる条件で昼食を食べたときの摂取量を比べた結果である。[8]

ここでの工夫は、全員に同じ絶対回数を課さなかったことだ。出発点を本人の普段の食べ方に置いている。もともとよく噛む人と、急いで飲み込む人を同じ回数で管理する方式とは違う。日常で試すなら「今の自分より丁寧に噛めるか」という比較の仕方が参考になるが、試験で使った倍率を毎食守るべき基準と考える必要はない。[8]

一方、サンドイッチを用いた2019年のランダム化クロスオーバー試験では、健康体重と過体重の若い成人41人に、ひと口を15回または50回噛んでもらった。50回の条件では体重区分にかかわらず摂取エネルギーが少なかった。最初に普段の食べ方を調べた段階では、ひと口の大きさ、口に運ぶ頻度、噛む頻度、食品の重量あたりの咀嚼回数も測っている。健康体重の参加者は過体重の参加者より、ひと口あたりの咀嚼回数が多かった。[2]

ピザとサンドイッチの試験を並べると、噛む回数を増やす行動には、食事量を抑える候補として根拠がある。比較の基準は異なり、片方は本人の普段の回数、もう片方はひと口の絶対回数だった。ピザでは心地よく満腹になるまで自由に食べ、サンドイッチでは咀嚼条件ごとの摂取量に加えて食後の血液検査も行った。[2][8]

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満腹感と食事量は、別々に動く

少なく食べたなら、空腹が強くなるのだろうか。逆に、長く噛めば必ず強い満腹を感じるのだろうか。どちらも単純には決まらない。先ほどの22研究のメタ分析では、食事終了時から、その後3.5時間までの空腹感について、食べる速さとの有意な関係は認められなかった。摂取エネルギーの差と、本人が報告する感覚の差は一致していない。[1]

ピザを使った成人45人の試験でも、噛む回数を増やして食事量が減った一方、食事終了時や直後の主観的な食欲には差がなかった。[8] ここから読み取れるのは、少ない量でも食欲の評価が同程度だったという結果である。「もっと満腹になった」という感想がなければ、食べ方を変えた意味がない、と判定する必要はない。

咀嚼そのものを調べた2015年の系統的レビューは、15論文、17試験を集めている。自己評価による満腹に有意な影響があったのは、評価された16実験のうち5実験、食事量が減ったのは16実験のうち10実験だった。食事量の変化は比較的多く見られたが、満腹の感覚はそれほど一様ではなかった。[6]

このレビューのメタ分析では、長く噛むことで自己申告の空腹が減る結果も報告された。ただし、研究間のばらつきと、出版バイアスの兆候が認められている。出版バイアスとは、結果の出方によって公表されやすさが偏り、集まった論文が全体を代表しにくくなる問題である。著者ら自身が、知見は予備的で、統一された実験設計が必要だと述べている。[6]

さらに、2018年の口腔内での食べ物の扱いに関するメタ分析では、38論文、40研究の結果を統合した。咀嚼回数、食べる速さ、食感の操作などに関連した効果は、食事量でマイナス0.28、95%信頼区間はマイナス0.36〜マイナス0.19、空腹感ではマイナス0.20、同区間はマイナス0.30〜マイナス0.11だった。ここでも食欲の評価より、実際の食事量への影響が目立った。[7]

これらのレビューは、互いに完全に矛盾しているわけではない。食べる速さ全般を調べた22研究では、食事終了時から3.5時間後までの空腹との有意な関係はなかった。[1] 咀嚼に焦点を当てたレビューでは、空腹が減る統合結果に研究間のばらつきと出版バイアスの兆候が伴った。[6] 口の中での扱いまで含めたレビューでは、食欲より食事量への影響が強かった。対象とする行動の範囲が違うため、「空腹が減るか」という問いへの答えも一様ではない。[7]

食後の気分だけで効果を判定しないために、試すときは問いを分けるとよい。食事のペースは変わったか。食べた量は変わったか。食後にまだ食べたい感じはあるか。これは研究で別々に測っている項目を、日常の観察に置き換えた案である。[1][8] 満腹感を無理に作り出すより、何が変わり何が変わらなかったかを見たい。

よく噛む理由を、ホルモンだけで片づけない

噛む行為は、食べ物が口の中にある時間も変える。2018年のメタ分析は、咀嚼に関係する口腔内の処理が、食事量と空腹感の両方に影響することを示した。一方、食べ物を口の中で滑らかに扱う働きについては、食欲との関係を調べた研究が少なかった。口に入れてから飲み込むまでには、噛む回数だけでは表せない要素がある。[7]

2015年のレビューでは、ひと口の咀嚼を増やして関連する消化管ホルモンが増えたのは、該当する5研究のうち3研究だった。そのうち主観的な満腹と結びついたのは2研究である。ホルモン反応は仕組みの候補だが、噛む回数から満腹、減量へと一直線につながる経路が確定したわけではない。[6]

記憶や食後の間食まで見た小規模な研究もある。2018年の実行可能性を探る試験では、健康な体格で平均年齢23歳の21人が、600kcalの食事を6分または24分で食べる条件にランダムに割り当てられた。食事量を自由に選ぶ試験と違い、ここでは最初の食事のエネルギーが決められていた。[18]

遅い条件の群では、食後2時間の満腹感が高く、効果量は0.7だった。食べた量についての記憶も正確で、効果量は0.4だった。食欲に関わるホルモンであるグレリンの食後の抑制も大きく、効果量は0.8だった。効果量は、比較する群の差の大きさを表す指標である。[18] 食事の3時間後に出された間食の摂取エネルギーは平均25%少なかった。ただし、少人数の探索的な試験であり、結果は主に効果量で報告されている。若く健康な体格の参加者が、決められた食事を食べたあとの反応として読む必要がある。[18]

しかも、普通の速さで食べた群のほうが、食事の楽しさと満足度を高く評価した。[18] 食事のペースを変えるときには、楽しさや満足度も評価の対象になる。噛む回数を数えることに忙しく、味わう余裕を失うなら、生活の工夫としては見直す余地がある。この試験は楽しさも測ったからこそ、食事量以外の変化を見落とさずに済んだ。

数字で読む食べる速さと咀嚼

22研究の統合:遅い条件の摂取エネルギーが少なく、標準化平均差0.45、95%信頼区間0.25〜0.65。割合の減少ではない。[1]

成人45人の昼食試験:普段の咀嚼回数の150%で食事量が9.5%、200%で14.8%少なかった。[8]

若い成人41人の試験:ひと口15回と50回を比較。多く噛む条件で摂取エネルギーは減ったが、食後の血糖とインスリンへの影響は認められなかった。[2]

成人の23観察研究:早食いと肥満の関連のオッズ比2.15、95%信頼区間1.84〜2.51。因果や発症確率の倍率ではない。[15]

成人20人の連続11日間の比較:遅い食感の条件で累積食事量は6%少なかったが、摂取エネルギーには有意差がなかった。[16]

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