消防士は体を使う仕事でも、体力と心臓の健康が同じ方向に動くとは限らない。山火事の活動期、体重の長期追跡、防護装備での作業試験、運動介入の研究から、脂肪を減らす目標と仕事に必要な力を保つ目標を整理する。海外の消防士の結果を、立川で暮らす大人が受け取れる範囲も確かめる。
山火事の活動期を終えた消防士では、有酸素の体力が少し改善しても、体重と血中脂質は悪化していた。防護装備を着て動き、人を救助する職業でも、体力と健康の指標は同じ方向に動くとは限らない。[6]
息が続くようになることと、血液検査の結果が良くなることは、別々に確かめる必要がある。仕事で動けたという実感の隣に、体重や血圧、脂質の結果も置く。消防士を調べた研究は、その理由を具体的に示している。[4][6]
このずれは、仕事でよく動く大人にも考える材料を与える。消防活動に特有の装備や熱の負荷も含めて、体脂肪、作業に必要な力、心臓や血管の指標を見ていこう。[2][3][6]

活動期を終えても、血中脂質は改善しなかった
山火事に対応する消防士100人を、5か月の消火活動期の前後で調べた観察研究がある。測ったのは体重や血圧、握力、ステップテスト中の心拍数に加え、血液中のコレステロールや中性脂肪だった。体重だけで活動期を採点せず、体力と血液の指標を同じ対象で追った点が、この研究の読みどころだ。[6]
活動期の後には、ステップテストの心拍数が平均5%低下した。著者らは有酸素の体力の小さな改善と捉えている。その一方で、体重は2%、総コレステロールは5%、低密度リポたんぱくコレステロールは8%、中性脂肪は30%増えていた。握力と拡張期血圧には有意な変化がなかった。全部の指標がそろって悪くなったわけでも、そろって良くなったわけでもない。[6]
収縮期血圧は活動期の後に平均2%下がっていた。中性脂肪と高密度リポたんぱくコレステロールの比は37%上昇し、超低密度リポたんぱくコレステロールも31%増えた。心拍数、血圧、脂質をそれぞれ測ったことで、活動期の変化の組み合わせが見えてくる。[6]
忙しい時期を終えて「前より動けた」と感じたとき、その感覚は大切だ。しかし、それを血液検査の代わりに使うことはできない。この研究から日常へ移せるのは、疲れにくさを否定することではなく、疲れにくさだけで健康全体の判定を終えない姿勢である。[6]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
体重の長期変化には、血圧や脂質を添えて見る
職業消防士656人について、約5年を隔てた職業健診を比べた研究では、半数が体重増加の群に入った。体重を減らした群は12%、維持した群は38%だった。研究では体重の変化が3%を超えるかどうかで群を分けている。維持群には体重変化が±3%以内の人を含めた。[4]
全体の平均体重増加は2.5kgだったが、体重増加群では平均6.6kg増えていた。この群では総コレステロール、低密度リポたんぱくコレステロール、血糖値が上昇し、高密度リポたんぱくコレステロールが低下した。平均値だけを見ると見落とす、体重の増え方による違いがあった。[4]
逆に体重減少群では平均7.2kg減り、総コレステロールや低密度リポたんぱくコレステロール、血圧の低下と、高密度リポたんぱくコレステロールの上昇が見られた。減少群で動いたのは、体重だけでなく複数の心血管の危険因子だった。[4]
また、消防士という職業集団を、一般の人より一律に不健康だと扱うのも粗い。フランスの消防士417人を職業健診の情報から調べた後ろ向き研究では、過体重と肥満を合わせた割合が62.1%、高血圧が27.8%だった。一方、心血管の危険因子の頻度は一般人口より低いと報告され、職業消防士とボランティアの間に有意差はなかった。[19]
フランスの調査では、現在喫煙している人は16.1%だった。417人の職業健診の情報から心血管リスクを評価すると、肥満は最も多い危険因子であり、とくに心血管リスクが高い消防士で目立った。職業名を一括りにするより、体重、血圧、喫煙などの項目をそろえて見ることで、集団の特徴が具体的になる。[19]
体重を減らした群では、収縮期血圧が平均5.3mmHg、拡張期血圧が平均4.2mmHg低下していた。血圧の上下の値を分けて測り、体重以外の変化も確認した結果だ。減少群の総コレステロールは平均8.5mg/dL、低密度リポたんぱくコレステロールは6.7mg/dL低下し、高密度リポたんぱくコレステロールは2.3mg/dL上昇した。体重の増加群と減少群で、脂質の動く向きも対照的だった。[4]
軽ければ作業が速い、という試験結果ではなかった
男性の消防士応募者414人が、防護装備を着て最大負荷のトレッドミル試験と模擬作業を受けた研究がある。応募者を70kg未満から110kg超までの6群に分け、各群は69人だった。体重別に成績を比べると、重い側の群ではトレッドミルの成績が低かった。しかし、水を通したホースを進める作業では軽い側の群が遅く、最も軽い群では重り付きそりの牽引、強制進入、救助の試験にも時間がかかった。[3]
最も重い群は、はしごを上る試験で遅かった。持久力を要する試験と、力を要する試験では、体重と成績の関係が同じ形にならなかったのである。さらに、体重で説明できた成績のばらつきは4〜19%だった。体重の情報は一部を説明するが、それだけで作業能力の順位は決まらない。[3]
航空救助消防士の男性42人を調べた別の横断研究では、模擬緊急対応の所要時間が、有酸素能力や無酸素能力、体組成と関連した。体組成とは、ここでは脂肪や脂肪以外の部分を含む体の中身のことである。脂肪量や体脂肪率が高いほど所要時間が長く、除脂肪量が多いほど所要時間が短い関係だった。[7]
ただし、この模擬緊急対応では筋力や筋持久力、柔軟性との関連は見られなかった。この研究の作業課題にはホースや人形の牽引、階段上り、のこぎりを保持する課題が含まれていた。模擬緊急対応の速さを、実験室で測ったさまざまな体力の指標と対応させている。[3][7]
減量中に体重の数字を小さくする目標だけを置くと、仕事で保ちたい能力が見えにくい。階段を上ること、物を持つこと、移動を続けることのうち、自分は何を保ちたいのか。体重の変化とともに、続けたい日々の動作を目標に含めると、減量中も保ちたい力が具体的になる。[3][7]
航空救助の研究では、参加者全員が5分50秒という模擬緊急対応の基準時間内に課題を終え、平均所要時間は4分31秒だった。有酸素能力と所要時間の相関係数は−0.514、体脂肪率では0.481。一定の作業ができる集団の中にも、速さと関連する体力や体組成の違いがあった。[7]
体組成は、2種類のエックス線を使う測定法で評価された。筋力はベンチプレスとレッグプレス、筋持久力は上体起こしと腕立て伏せの最大回数で測っている。参加者の平均年齢は38.4歳、平均BMIは26.2だった。体力を一つの点数にまとめる前に、体の中身と力の出し方を複数の方法で調べた研究なのである。[7]
数字で読む消防士の体重と体力
100人:山火事の活動期の前後を観察した研究の参加者数だ。[6]
656人:約5年の体重変化と心血管の危険因子を比べた職業消防士を指す。[4]
4〜19%:男性応募者の試験成績のばらつきのうち、体重で説明できた割合だった。[3]
42人:航空救助の模擬緊急対応と体力・体組成の関係を調べた男性の人数である。[7]
9件:消防士への運動介入を統合したメタ分析に含まれた無作為化比較試験の数である。[17]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
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