配偶者との死別と体重 意図しない減少が目立つ一方、50〜60代の女性で肥満が多い調査も

配偶者を亡くした後の体重は減るのか、増えるのか。高齢期の研究を集めたレビューが強い証拠とした意図しない体重減少、9,043人を約10年追った調査、韓国の女性の調査、活動量の男女差、孤独と暮らしの動作の研究まで、死別の後の体に何が起きるかを論文で確かめる。

「少し痩せたんじゃない」。配偶者を亡くした人が、法事の席やスーパーの通路で受け取る言葉である。心配から出た一言だと分かっていても、返事はしにくい。体重の話が、そのままいなくなった人の話になってしまうからだ。

連れ合いを亡くすと人は痩せる。世間のこの見立ては、論文の答えと半分しか重ならない。

米国の全国調査の調査員は、ある時点で大人たちに話を聞き、体重を測り、およそ10年後にまた同じ人たちを測り直した[16]。9,043人の中には、そのあいだに配偶者を亡くした人が含まれていた[16]。二度の測定を並べると、配偶者を亡くした男性は、結婚が続いた男性より体重を多く減らしていた[16]。ところが別の国の別の調査では、配偶者を亡くした女性に、体重の多い人がかえって多かった[13]。減った人がいて、多い側に出た人がいる。体重は、悲しみの深さを測る目盛りにならない。

米国ニューオーリンズの家庭の台所にあるテーブル2026年2月の撮影 立川駅徒歩1分年中無休の溶岩ホットヨガスタジオ

「意図しない体重減少」は、減量の成功とは別の言葉

ダイエットの特集でこの題材を扱う以上、最初に線を引いておく。ここで言う体重の減少は、本人が狙ったものとは限らない。高齢期の配偶者との死別と生活習慣の変化を調べた系統的レビューは、32の研究に由来する34本の論文を集め、身体活動、栄養、睡眠の質、飲酒、喫煙、体重の六つの領域を見渡した[8]。死別との関係に強い証拠があるとされたのが、栄養のリスクと意図しない体重減少である[8]。睡眠の質の低下と飲酒の増加は中程度の証拠で、身体活動は結果が割れていた[8]。著者らは研究の方法の弱さもいくつか挙げている[8]。

人との関係の変化と肥満を調べた別の系統的レビューも、同じ向きを指す。死別や離婚で結婚が終わると、男女とも体重、腹囲、BMIが下がるという[20]。ただし著者らは、証拠は限られていると書いている[20]。このレビューの件数と中身は「離婚と体重 別れた後に増えるとは限らない、10年の追跡とレビューが集めた7研究の向き」の記事に譲る。米国の調査でも、婚姻の変化を含む社会的な条件は、体重の増加より減少のばらつきをよく説明していた[16]。

反対の方向の変化も報告されている。未婚の女性が結婚すると、結婚が続いた女性より体重が増え[16]、結婚に入ると男女ともBMIが上がるという[20]。結婚の状態が変わると体重が動くこと自体は、特別な話ではない。違うのは、死別の場合、その変化を本人が選んでいないことである。

この特集の他の記事では、体重が下がることはたいてい望ましい方向の変化として書かれる。この記事では、その読み方をいったん外す。同じ数字でも、献立を選んで減らした体重と、気づいたら減っていた体重では、読み手が見るものが違う。体重計の針が左に動いたことを、死別の後の人に「よかったね」と言える根拠は、ここで読む論文のどこにもない。

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肥満が多い側の数字は、断面から見えてくる

韓国の40〜69歳を調べた研究は、別の絵を見せる。配偶者を亡くした女性は結婚している女性に比べ、BMI25以上の人が多く(オッズ比1.17、95%信頼区間1.10〜1.25)、腹部肥満の人も多かった(オッズ比1.23、同1.16〜1.30)[13]。この関連が残ったのは50代と60代の女性だけだった[13]。未婚の人のBMI25以上のオッズ比は、結婚している人に比べて男性0.71、女性0.65と低く、論文の結びによれば、結婚している人より肥満が多かったのは配偶者を亡くした女性だけだった[13]。なぜ50代と60代に限って関連が残ったのかを、要約は説明していない。

ただし、これはある時点の人を並べた比較である。死別の前の体重が分からないので、「死別の後に太った」とは読めない。同じ人を追った研究と、ある時点の集団を比べた調査では、問うているものが違う。

イスラエルの67歳を超える人を調べた研究では、向きがまた変わる。配偶者を亡くした女性は、他の婚姻の状態の人に比べて、肥満になる見込みの推定値が6.58〜11.28%低かった[19]。ただ、同じ女性たちは、自分の健康が良くなったと答える見込みも6.55〜7.47%低かった[19]。肥満が少ないことと、体調の実感が良いことは、ここでも別の話である。国も年齢も違い、肥満の線の引き方も韓国はBMI25、イスラエルはBMI30である[13][19]。韓国の女性とイスラエルの女性の数字を足して二で割っても、日本の誰かの答えにはならない。

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食事の変化について、分かっていることは多くない

題材の中心にありそうな食事だが、細かな数字は乏しい。オーストラリアの既婚の33,184人(平均59.5歳)を追った研究は、喫煙、飲酒、食事、身体活動など9つの項目を調べ、約3.4年後の時点で2.9%の人が離婚し、2.4%の人が配偶者を亡くしていた[9]。離婚の直後には喫煙、生活の質の低さ、心理的な苦痛、不安、抑うつとの関連が見られ、死別でも似た、より弱い関連があった[9]。関連の見られた項目として要約が挙げた中に、食事は入っていない。

ひとりで食べることそのものを、配偶者を亡くした人で測った研究は、ここで集めた論文には無かった。同居か独居かといった暮らし方の変化、社会参加や人のつながりの変化が体格に与える影響についても、先のレビューは長期の研究の証拠が無いと書いている[20]。孤独と食べ方の関係は「孤独と肥満はどう関係するか 食べ方と体重、人との距離を分けて考える科学」の記事に譲る。

台所の道具も、買い物の単位も、二人で暮らしていたころの大きさのまま残る。その前に立つ人の体重がどう動くのかを、論文はまだ細かくは追えていない。

活動量は、増える人も、減る人もいる

心血管の健康を追う研究の中で配偶者を亡くした396人を、健康状態、年齢、性別をそろえた結婚が続く396人と比べた報告がある[3]。相手の健康状態までそろえることで、もともとの体の差を結果から遠ざけている。年齢は64〜91歳(平均72.7歳)で、配偶者を亡くした男性は、結婚が続く男性より身体活動を増やしやすかった[3]。この増加は続かず、時間とともに下がっていった[3]。さらに、配偶者が亡くなる前の1年のあいだにも、後に配偶者を亡くす男性の活動は増えていた[3]。女性にはこうした変化は見られなかった[3]。亡くなる前の1年の増加が何によるのかは、要約からは読み取れない。

オーストラリアの女性の調査では、別の絵が出る。51〜56歳の8,762人を3年の間隔で2回調べると、身体活動が増えることと結びついていたのは、退職と配偶者の死だった[18]。同じ調査の73〜78歳の女性では、活動の減少と結びついていたのは健康の衰えだった[18]。先の報告では女性に変化が見られなかったので、同じ「女性」でも、年齢と調査が変われば別の結果になる。

活動が増えた人を見て、元気になったと読むのも早い。増えた分は続かなかったという報告があり[3]、死別と身体活動の関係は先のレビューでも割れていた[8]。散歩の距離が延びた人が、歩きたくて歩いているのか、家にいられなくて歩いているのかを、活動量の数字は区別しない。

数字で読む死別の後の体

34本:高齢期の配偶者との死別と生活習慣の変化を調べた論文の数。意図しない体重減少と栄養のリスクに強い証拠があるとされた[8]。

9,043人:米国の全国調査で、約10年の間隔で2回測られた成人の数。配偶者を亡くした男性は、結婚が続いた男性より体重を多く減らしていた[16]。

1.17:配偶者を亡くした韓国の女性の、結婚している女性に対するBMI25以上のオッズ比。40〜69歳の調査で、ある時点の比較である[13]。

0.06時間:配偶者を亡くし孤独を感じていた高齢者の、1週間あたりの身体活動が、孤独でない人より1年ごとに余分に減った幅[1]。

3.92:配偶者を亡くし活動量も低い人の、どちらにも当てはまらない人に対する虚弱のオッズ比。中国の50歳以上の調査[11]。

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宮川涼 Founder

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