食べ物のにおいは食欲を増やすのか減らすのか 嗅覚と体重を結ぶ研究の現在地

食べ物のにおいは食欲をあおるのか、それとも満たすのか。においを20分かがせ続けた実験、香りと味を分けた飲み物の試験、香りを複雑にしたヨーグルトの試験、肥満と嗅覚の機能を集めた分析、高齢者の調査を並べ、においが食べる量と体重に与える影響の大きさと限界を確かめる。

食べ物のにおいは、短い間かぐと食欲をそそるが、長くかぎ続けると、やがて満腹のほうへ働くのではないか。1〜3分ほどなら食欲を増し、10〜20分ほどたつと満たす側に回る。そんな仮説を確かめるため、ある実験は女性21人に、食べ物のにおいを満たした部屋で20分ずつ過ごしてもらった[5]。

答えは、仮説の後半を裏切った。食べ物のにおいは、かいでいる間もかいだ後も食欲を高め、20分たっても満腹のほうへは転じなかった[5]。焼き菓子のにおいをかぎ続ければ、食べた気になって手が止まる。そういう都合のよい話にはならなかった。

においと食欲の関係は、日常ではほとんど意識されない。けれども研究を並べると、においは食べる「量」より、何を食べたくなるかという「向き」を強く動かしていることが見えてくる。そして肥満と嗅覚の衰えの結びつきという、別の流れの研究もある。舌の側の話は「脂肪の味は減量で感じやすくなるのか 味覚の感受性と体重をめぐる研究の食い違い」に任せ、ここでは鼻の側から食べる量と体重を見ていく。

コーヒーカップとそのそばに置かれた茶色いコーヒー豆を写した写真 立川駅徒歩1分年中無休の溶岩ホットヨガスタジオ

20分かいでも、においは食欲を満たさなかった

冒頭の実験は、Ramaekersらが2014年に報告した交差試験である[5]。対象は、ふだん食事を強く制限していない18〜45歳の女性21人で、BMIは18.5〜25の範囲にあった。参加者は、5種類の食べ物のにおい、2種類の食べ物ではないにおい、においなしの計8つの条件で、それぞれ20分間、においの漂う部屋で過ごした[5]。においは、はっきり感じ取れる濃さに調整してある。

測ったのは三つだ。全体としての食欲、特定の種類の食べ物への食欲、そして唾液の量である[5]。後者の「特定の種類への食欲」は、甘い物を食べたいか、甘くない食事系の物を食べたいか、という向きごとの食欲を指す。

食べ物のにおいは5種類とも、においなしに比べて、全体の食欲も特定の種類への食欲も有意に高めた[5]。食べ物ではないにおいは、逆に全体の食欲を下げた[5]。そして、どの効果も20分の間に変化しなかった。かぎ始めの数分も、20分後も、においは同じように食欲を押し上げていた[5]。

向きの効果は、さらにはっきりしていた。甘くない食事系のにおいは、食事系の食べ物への食欲を高め、甘い物への食欲を下げた。甘いにおいでは、その逆が起きた[5]。著者らは、食べ物のにおいは特定の種類への食欲に大きく、全体の食欲には小さく影響したとまとめている[5]。

著者らはここから一つの仮説を立てた。体がある栄養の組み合わせの食べ物を受け入れる準備をしたあとで、それとまったく違う食べ物をとるのは、体にとって都合が悪いのかもしれない[5]。カレーのにおいが漂う帰り道なら、ケーキ屋の前を通っても、ケーキへの欲はむしろ引っ込むかもしれない。この実験の結果からは、そんな場面が想像できる。

もう一つ、意外な点がある。においの種類にかかわらず、唾液の量は変わらなかった[5]。食べ物のにおいで唾液が出る、というのは多くの人の実感に近い。後で見る2006年の総説も、食べ物のにおいが唾液の分泌を引き起こすと書いている[8]。この食い違いは、においの種類や濃さ、測り方の違いによるのかもしれないが、少なくともこの実験では、唾液は食欲ほど素直には動かなかった。

初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。

体験レッスンを予約体験専用 03-6665-0898LINE

においの好き嫌いは、経験で書き換わる

そもそも、なぜ食べ物のにおいは食欲を動かすのか。Yeomansの2006年の総説は、においが食べ物の風味の知覚で大きな役割を担うことから話を始める[8]。食べ物のにおいは、食欲の評価を高め、唾液の分泌や胃酸、インスリンの放出を引き起こすことが示されてきた[8]。

ただし総説は、においを食べ物のものとして見分ける力も、そのにおいを好むかどうかも、学習された反応だと強調する[8]。においを甘味や酸味と一緒に繰り返し経験させる条件づけの研究では、においだけをかいだときにも、組み合わせた味の性質が強く感じられるようになった[8]。

学習は、好き嫌いの向きまで変える。甘い味が好きな人では、砂糖と組み合わせたにおいの心地よさが高まり、キニーネという物質と組み合わせたにおいは好まれなくなり、苦みを強く感じさせるようになった[8]。さらに、空腹のときに砂糖と一緒に経験したにおいは、満腹の状態で試すと、好みが高まって見えなかった[8]。学習した好みが表に出るかどうかは、その時点の体の状態しだいということになる。

総説は、食べ物のにおいでも、同じ食べ物を食べ続けるとそれへの欲だけが下がる「感覚特異的満腹」が見られると書く[8]。一度食べ物の文脈で経験したにおいは、食べる準備の反応と、満腹に関わる反応の両方を動かす力を身につける、というのが総説の結論である[8]。

脳のどこでそれが起きているのかについては、Rollsの研究がある。サルの神経の記録と人の脳画像を合わせると、味、温度、食感は、まず島の前方にある一次味覚野で、空腹かどうかに関係なく表される[18]。その一つ先の眼窩前頭皮質で、一部の神経細胞が、学習によって味の情報をにおいや見た目の情報と結びつける[18]。

この眼窩前頭皮質では、ある食べ物を満腹まで食べると、その食べ物への神経の反応が下がり、ほかの食べ物への反応は下がらなかった[18]。感覚特異的満腹は、ここで計算されているということだ。人の眼窩前頭皮質の一部の活動は、食べ物の味とにおいの心地よさの主観的な評価と相関した[18]。そして、においと一緒に見せる言葉のラベルといった認知の要因が、においの心地よさと、それによる脳の活動を変えた[18]。同じにおいでも、添えられた一語で感じ方が変わる。

香りを足した飲み物と、香りを複雑にしたヨーグルト

においで満腹感を高め、食べる量を減らせないか。そう考えて香りを操作した試験がある。Yinらは、平均24歳、BMI平均20.9の女性26人に、15分かけて4種類のうち1つの飲み物を飲ませ、その65分後にパスタを好きなだけ食べてもらった[16]。

飲み物は、水(0 kcal)、いちごの香りを付けた水(0 kcal)、砂糖とクエン酸を加えた水(48 kcal)、いちごの香りと砂糖とクエン酸の両方を加えた水(48 kcal)の4種類である[16]。香りだけ、味だけ、その両方、と分けたことになる。

食欲の感じ方は、水、香りだけ、味だけの3条件で差がなかった[16]。香りと味の両方を加えた飲み物だけが、飲んでいる15分間の空腹感を、ほかの3つより抑えた。飲み終えたあとも、水に比べて5分、20分、30分の時点で空腹感が低かった[16]。風味がもっとも強く感じられたのも、この飲み物である[16]。

ところが、その後のパスタで食べた量は、4つの飲み物の間で変わらなかった[16]。香りは、味と組み合わさったときに満たされた感じを強めたが、次の食事の量までは動かさなかったことになる。

Ruijschopらは、香りの「複雑さ」を変えた[19]。若く健康で標準体重の41人に、いちごの香りを付けて甘くしたヨーグルトを2種類用意した。一つは多くの成分を組み合わせたいちごの香り、もう一つは単一の成分のいちごの香りで、香りの質や強さ、心地よさは同程度だが、前者のほうが複雑に感じられる[19]。

においを鼻に送る装置を使った設定では、複雑な香りをかいでいる間、参加者は有意に満たされた感じを強めた[19]。好きなだけ食べる設定でも、複雑な香りのヨーグルトを食べた10〜15分後に、満たされた感じが高まった[19]。しかし、好きなだけ食べたヨーグルトの量には影響がなかった[19]。

二つの試験の答えは同じ形をしている。香りの工夫で満たされた感じは動いた。食べる量は動かなかった[16][19]。気分としての満腹と、手を止めるかどうかの判断のあいだには、まだ距離がある。

数字で読むにおいと食欲

20分:食べ物のにおいをかぎ続けても、食欲を高める効果は時間とともに変わらなかった実験の長さ。対象は女性21人[5]。

0 kcalと48 kcal:香りだけの水と、香りと味の両方を加えた水。空腹感を抑えたのは後者だけで、次の食事の量は同じだった[16]。

41人:香りを複雑にしたヨーグルトで満たされた感じが高まったが、食べた量は変わらなかった試験の参加者[19]。

38と1432:肥満と嗅覚の関係を調べた分析で集めたデータの組と、嗅覚の検査の数。嗅覚の機能は体重と負の相関を示した[1]。

初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。

体験レッスンを予約体験専用 03-6665-0898LINE

💬 ご質問がある場合はこちらからどうぞ

オンザショアのチャットで質問する(24時間受付)

レッスン内容・料金・体験のご予約など、気になることをお気軽にお尋ねください。

1

2

Warning: Attempt to read property "show_author" on false in /home/c1531448/public_html/ontheshore.jp/wp-content/themes/heal_tcd077/single.php on line 165

関連記事

ご体験予約