子どもの肥満予防には低脂肪乳、と考える前に、牛乳の脂肪を比べた研究を確かめたい。全乳を飲む子の体格が低い傾向を示す追跡研究と、体脂肪に差がなかった幼児の比較、血中脂質の結果を紹介する。全乳で痩せるとは言えない理由や、家族を責めずに飲む量と好み、成長を見ていく視点も整理する。
「子どもには低脂肪乳」。牛乳売り場で脂肪の表示を見るとき、この言い回しを思い浮かべることがある。子どもの体格を気にして商品を選ぶ大人にとって、脂肪の少なさは比べやすい目印だ。
その前提には、牛乳の脂肪を減らせば肥満も少なくなる、という期待がある。ところが、子どもを追った研究には全乳を飲む子の体格指標が低いという関連があり、血中脂質の結果も体格とは異なる。表示の数字から期待する変化と、研究が実際に測った変化を分けて確かめたい。[1][10][11]
乳製品全般と減量の話は「牛乳・ヨーグルトは体脂肪を減らすのか カルシウムと減量試験の条件を読む」の記事に譲り、ここでは子どもが飲む牛乳の脂肪に絞る。成長している子の体格を調べた研究と、大人が体重を減らす方法を探す話を、同じ答えで済ませないためである。[1][17]

全乳と低脂肪乳は、何を比べた名前なのか
牛乳の研究では、飲んだ量と脂肪の濃度を区別している。Vanderhoutらの追跡研究で扱った全乳は脂肪3.25%、比較した低脂肪側は0.1〜2%だった。保護者に、子どもが普段どの濃度の牛乳を飲むかを尋ね、身長と体重は研究スタッフが測定した。[1]
ここでいう「全乳」は、その研究の分類名である。日本の売り場の名称だけで研究の区分と同一視せず、表示された脂肪の割合を見ると、比較の中身がつかみやすい。また、濃度が同じでも飲む量は違い得る。研究も、脂肪の割合だけを尋ねて体格との関係を決めつける設計にはしていない。[1]
体格の指標はBMIの標準化得点である。BMIは身長と体重から見る体格の指標であり、この研究では成長基準に沿って標準化した値を用いた。子どもの結果を読むときに「体重が軽かった」だけに言い換えると、身長も伸びる時期の比較であることが抜けてしまう。[1]
家庭の会話では、「脂肪が多い」「太りやすい」「体に合う」が一続きになりがちだ。しかし研究が測ったのは、牛乳の脂肪の割合と、特定の時点や追跡中の体格である。味の好み、血中脂質、成長の様子は、それぞれ別の測定で確かめる対象になる。牛乳の棚の並びだけでは、その違いは見えない。[9][10][17]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
全乳を飲む子で、体格が低い関連が見つかった
Vanderhoutらは、生後9か月から8歳までの7,467人を対象に前向きコホート研究を行った。前向きとは、飲み方などを把握した集団をその後も追う方法である。このうち4,699人には繰り返し測定したデータがあった。牛乳を飲む量などを統計的に考慮しても、脂肪の割合が高いほどBMIの標準化得点が低い関連が見られた。[1]
脂肪の濃度が1ポイント高いことに対応する得点の差は、−0.05だった。95%信頼区間は−0.07〜−0.03で、推定の幅も負の側にあった。これは牛乳を替えた後に体重が何kg減ったという結果ではなく、集団の中で脂肪濃度と標準化した体格の値がどう結びついていたかを表す。[1]
全乳群と低脂肪群を比べる解析では、過体重のオッズ比は0.84、95%信頼区間0.77〜0.91だった。肥満のオッズ比は0.82で、信頼区間は0.68〜1.00である。オッズは、ある状態に当てはまる見込みを比較する統計上の指標だ。過体重と肥満で、推定の幅も異なっていた。[1]
この研究の強みは、身長と体重の実測値を使い、繰り返しの測定も含めたことにある。牛乳の量を考慮した後にも関連が残ったため、単に濃度と量を混同した比較より踏み込んでいる。ただし飲む牛乳を研究者が無作為に割り当てた試験ではなく、家庭で既に選ばれていた飲み方を調べた研究である。[1]
著者らは、低脂肪乳を勧めることが過体重や肥満の予防に有効とは限らない、と結論づけた。比較に用いた低脂肪側には脱脂乳、脂肪1%、2%の牛乳が含まれる。全乳との比較を、脂肪濃度の幅を持つ家庭の飲み方として捉えた解析だった。[1]

別の追跡研究は、体重以外の指標も測った
Zeitounらのカナダの研究は、5歳で飲んでいた牛乳の脂肪濃度と、その時点および8歳の体格との関連を調べた。身体測定の対象は5歳で2,043人、8歳で1,574人だった。牛乳の種類は養育者から聞き取り、社会人口学的な要因や生活習慣、ほかの食事の要因も考慮した観察研究である。[11]
脱脂乳と比較した全乳の関連は、5歳時点のBMI標準化得点で−0.34、95%信頼区間−0.54〜−0.13だった。さらに、後の時点ではBMIだけでなく、身長に対する腹囲の比率や、体脂肪の指標とも逆方向の関連が報告された。体重と身長の組み合わせだけに頼らず、腹部や脂肪の測定まで広げたことが、この研究の特徴だ。[11]
8歳でのBMI標準化得点との関連は−0.42、95%信頼区間−0.72〜−0.11である。同時期の肥満のオッズ比は0.31、信頼区間0.12〜0.80だった。脱脂乳を基準にした比較なので、低脂肪乳全体をひとまとめにした先の研究の数字と、大小を競わせる読み方は避けたい。[11]
この研究は、腹囲身長比の標準化得点、体脂肪率、肥満の分類を調べている。体脂肪率の測定には生体電気インピーダンス法を用いた。異なる指標を組み合わせた点は、子どもの状態を「体重だけ」で表すことの限界を考える材料になる。体格の数字が気になったときも、どの測定値について話しているかを明らかにできる。[11]
5歳の時点で最も多かったのは脂肪2%の牛乳で48.9%、全乳は23.9%だった。同時点の肥満のオッズ比は、脱脂乳を基準とした全乳で0.22、95%信頼区間0.07〜0.67。研究は、普段選ばれている種類の分布と、その時点の体格、その後の体格を組み合わせている。[11]
8歳時点の腹囲身長比の標準化得点との関連は−0.35で、95%信頼区間は−0.63〜−0.07だった。体脂肪の指標との関連は−1.58、信頼区間−3.10〜−0.06。いずれも5歳時点の全乳摂取を脱脂乳摂取と比べた値である。BMIに加え、身長に対する腹囲の大きさと体脂肪を調べたことで、同じ集団で複数の体格指標がどちらに動くかを示した。[11]
幼児では、脂肪摂取が減っても体脂肪は変わらなかった
Wosjeらは、健康な幼児が12〜24か月の間に飲んだ牛乳を比べた。全乳のみの群は23人、脂肪2%の牛乳のみの群は28人である。固形食を導入する時期を調べる大きな試験に参加していた子どもを対象に、牛乳の飲み方による群を比較した研究であり、牛乳の種類を無作為に割り当てたとは記載されていない。[17]
食事内容は3日間の記録で把握し、身長や体重だけでなく、二重エネルギーX線吸収法という検査で体組成も調べた。開始時点では、身長、体重、体脂肪率、総エネルギー摂取量は両群で同程度だった。食べたものと体の中身を対応させて見ようとした比較である。[17]
脂肪2%の牛乳を飲む群は、総脂肪と飽和脂肪の摂取が少なかった。それでも身長、体重、体脂肪率に群間の差は見られず、総エネルギー摂取量も少なくなっていなかった。食品に含まれる脂肪が減ることと、食事全体のエネルギーが減ることは、同じ結果として扱えなかった。[17]
ここには、低脂肪乳を使う意味をすべて否定しない読み方もある。著者らは、成長を損なわずに総脂肪と飽和脂肪の摂取を減らせると述べている。脂肪の摂取を減らす目的と、体脂肪を減らす目的を分ければ、「意味がある」「意味がない」の二択にする必要はなくなる。[17]
測定は12、18、24か月に実施され、食事記録もその成長の節目に集められた。体組成を測る検査に加え、身体の大きさの変化と食事摂取量について群間を比較している。牛乳の成分だけを計算するのでなく、実際に食べていた内容と成長の経過を対応させた点が重要だ。[17]
数字で読む子どもの牛乳の比較
3.25%:追跡研究の分類上の全乳の脂肪濃度。[1]
0.84:全乳群と低脂肪群を比較した過体重のオッズ比。95%信頼区間は0.77〜0.91。[1]
−0.42:別の研究で、全乳と脱脂乳を比較した8歳時点のBMI標準化得点との関連。[11]
12〜24か月:全乳と脂肪2%の牛乳を飲む幼児の成長・体組成を比較した期間。[17]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
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