キックボクシングは短いラウンドなら無酸素?打つ瞬間と全体の供給を読み分ける

キックボクシングは短時間だから無酸素運動なのか。打撃の瞬間とラウンド全体を分け、競技選手の研究から有酸素系・解糖系の関わりを読む。心拍数や乳酸、消費カロリーの数字をそのまま一般のレッスンに当てはめず、練習の時間と内容をどう記録するかまで具体的に考える。

ミットを打つ時間は短い。それでも終了の合図の後には息が弾む。仕事帰りに運動の記録をつけようとして、「これは有酸素運動と無酸素運動のどちらなのか」と手が止まることがある。

短いラウンドでも、全体では有酸素系の供給が大きくなる。競技選手の模擬試合を扱ったレビューでは、ボクシングの酸化系による供給は86%と報告されている。一方、得点につながる重要な動作には無酸素系が関わる可能性がある。同じ競技の中で、全体を支える仕組みと強い打撃を支える仕組みを分けて考える必要がある。競技選手を対象とした値を、18〜39歳の女性の一般レッスンへそのまま当てはめることはできない。[1]

既存記事「女性のキックボクシングは予備動作に惑わされる?フェイントと注意の時間差を読む」に相手の動きを見抜く問いを譲り、ここでは時計で区切った時間とエネルギー供給の関係を扱う。ボクシングとムエタイの競技研究を手がかりにするが、その数字を女性向けのキックボクササイズの実測値として扱うことはしない。

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打つ瞬間とラウンド全体では、答える問いが違う

エネルギー供給を調べるとき、まず確かめたいのは集計する範囲である。「強く打ったときに何が働くか」と「試合の間に何が多くのエネルギーを供給したか」は、似ていて別の問いだ。オリンピック格闘技のナラティブレビュー、つまり研究を整理して説明する総説では、競技全体では酸化系の寄与が大きくても、重要な攻撃には無酸素系が関わるという見方が示されている。[1]

このレビューが扱うのは、ボクシング、空手、テコンドーなどの模擬試合である。打撃系競技の酸化系の割合は62〜86%、ATP-PCr系は10〜31%、解糖系は3〜21%の範囲だった。ただし、これらは別々の競技やラウンドから得た範囲であり、下限どうし、上限どうしを足して架空の競技を作ってはいけない。[1]

酸化系は酸素を使うエネルギー供給、解糖系は糖を分解する経路、ATP-PCr系は筋肉内の高エネルギー物質を使う経路として捉えると読み進めやすい。ここで区別しているのは供給の仕組みである。レビューもこれらの経路を別々に推定しており、「有酸素か無酸素か」という単独の札だけでは試合の特徴を表せない。[1]

たとえば映像から鋭い連打だけを切り出せば、試合はずっと爆発的な動きに見える。しかし模擬試合全体の集計には、その見せ場以外も含まれる。打つ場面の印象から、模擬試合全体で酸化系が占めた割合を否定することはできない。逆に、全体で酸化系が多いという結果から、打撃の瞬間にも同じ割合だったと断定することもできない。[1]

見たい場面を先に決めると、研究の数字が使いやすくなる。連打の力を考えるのか、ラウンドを通して動く負担を考えるのか。前者に関心がある人へ全体の平均だけを渡しても、後者に関心がある人へ攻撃の瞬間だけを見せても、答えはずれる。数字の大小より先に、数字が受け持つ時間を読むのである。

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ムエタイの模擬試合では、供給の関わりが途中で変わった

時間経過を見る手がかりになるのが、男性選手10人を対象にしたムエタイの模擬試合研究である。携帯型の呼気ガス分析器を使い、酸素摂取量、二酸化炭素排出量、心拍数を測定した。さらに過剰な二酸化炭素排出を、無酸素性解糖の関わりをみる指標として調べている。男性競技選手の模擬試合なので、18〜39歳の女性が参加するレッスンの供給割合を直接示す結果ではない。[2]

過剰な二酸化炭素排出は最初のラウンドで急増し、636±66.5 mL/分に達した後、試合の進行とともに徐々に低下した。著者らは、初期に無酸素性解糖の大きな関与があり、その後は有酸素的な供給が次第に増えたと解釈している。ラウンドをまとめて「短時間」と呼ぶだけでは、この経過が消えてしまう。[2]

この結果は、後半には解糖系が完全に止まるという意味ではない。研究が示すのは、有酸素代謝と無酸素性解糖の両方が大きく関与し、その関わり方が時間とともに変わるということだ。最初にきつさを強く感じた記憶だけで、最後まで同じ経路だけが働いたと判断するのは飛躍になる。[2]

また、酸素摂取量と心拍数は、事前の漸増負荷試験で評価した無酸素性閾値の水準を試合中ずっと上回っていた。それでも著者らは、有酸素的なエネルギー供給の増加を認めている。「閾値を超えた」という言葉と「酸素を使わなくなった」という説明は、同じではない。[2]

夕方のレッスンで、最初の連打が特に忙しく感じられたとする。その体感を書き残すことには意味がある。ただし、体感の記録と代謝の測定は分けておきたい。この研究では呼気などの測定をもとに時間変化を検討しているのであり、供給割合の検討には体感とは別の測定を用いている。[2]

ムエタイの模擬試合は、日常のレッスンをそのまま再現したものではない。それでも「ラウンドの初めと終わりを同じ状態と考えてよいか」という問いを立てる材料になる。研究から日常へ持ち帰るなら、競技選手の割合を借りるより、始まりと後半を分けて見る視点を借りたい。

心拍数が高いだけでは、解糖系の割合は決まらない

心拍数の画面には数字が出る。数字が出ると、体内の内訳まで見えている気になる。しかし、十分に鍛えた男性アマチュアボクサー11人の研究では、運動の種類によって心肺反応が異なっていた。対象者は走行、腕こぎ、バッグへのパンチ、競技試合をそれぞれ実施している。男性の熟練競技者の比較結果を、18〜39歳の女性の心拍数や運動強度の目標へそのまま当てはめることはできない。[5]

最大努力時の心拍数は、競技試合で197.7±5.9拍/分、走行で196.5±8.7拍/分だった。これに対し、腕こぎは179.8±9.2拍/分、バッグへのパンチは184.1±12.2拍/分だった。競技試合と走行の最大心拍数には差がなかった一方、腕こぎとパンチでは低かった。[5]

ところが、無酸素性解糖の関与が最も高いと評価されたのはバッグへのパンチだった。最大心拍数の順番と解糖系の関与の順番は、同じ説明にはならない。腕時計に大きい数字が表示されたからといって、その分だけ無酸素性解糖の割合が大きい、と読み替えることはできないのである。[5]

この研究では、呼気ガスと心拍数を測った運動課題と、心拍数だけを測った実際の競技試合も区別されている。試合形式は3分を3ラウンドだった。実戦の心拍数が測れていても、実戦の酸素摂取量まで同時に測れたことにはならない。どの課題で何を測ったかは、結論の読み方を左右する。[5]

走行時の最高酸素摂取量は55.3±5.9 mL/kg/分で、比較した運動の中で最も高かった。パンチでは呼吸交換比、つまり呼気の二酸化炭素と酸素摂取の比が最も高く、1.26±0.09だった。酸素の最大値、心拍の最大値、呼気の比はそれぞれ別の指標であり、同じ「きつさの点数」として交換できない。[5]

記録する際も、心拍数を見たのか、息の弾みを感じたのか、動作が続けにくかったのかを分けるとよい。研究の測定器と同じ精度を目指す必要はない。観察したことを、そのままの言葉で残すのである。「脈が高かった」を「解糖系だけで動いた」に翻訳しないだけで、記録の誤解は減らせる。

競技をまたいだ幅を読むときにも、最大値だけを抜き出さない工夫が要る。レビューでは、打撃系の解糖系の寄与の下限にあたる3%はテコンドーの第3ラウンド、上限の21%は空手の値である。ATP-PCr系の10%はボクシング、31%はテコンドーから得られた。競技の違いと時間の違いを含む幅なので、「短い格闘技なら解糖系はこの割合」とひとまとめにはできない。[1]

この整理には実用的な意味がある。検索で見つけた数字が自分の予想と食い違ったら、まず競技名とラウンドを確認するのである。ボクシングの全体像を説明する値と、テコンドーの後半の値では、前提が違う。どちらかの数字を誤りとして消す前に、それぞれが指している場面を確かめたい。研究の結果が並ぶ表は、条件ごとの測定結果として読む。[1]

ムエタイ研究の読み方も同じだ。最初のラウンドの過剰な二酸化炭素排出と、試合中の平均消費量は、同じ対象者から得た値でも集計の仕方が異なる。時間経過をみる値と全体をならした値を分ければ、「平均では高い負担だった」と「途中で供給の関わりが変わった」を同時に理解できる。平均値は経過を消して提示するため、経過を知りたい問いには時間ごとの観察も必要になる。[2]

数字で読むラウンドとエネルギー供給

86%:レビューに整理されたボクシング模擬試合の酸化系の寄与。一般レッスン共通の割合ではない。[1]

10人:ムエタイ模擬試合研究の対象となった男性選手の人数。[2]

636±66.5 mL/分:ムエタイ研究の最初のラウンドで到達した過剰な二酸化炭素排出の値。[2]

3分×3ラウンド:男性アマチュアボクサーの心肺反応研究で扱った競技試合の形式。[5]

4倍:男性キックボクシング選手の練習後に観察された唾液中の乳酸濃度の増加。[6]

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宮川涼 Founder

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