脂肪の味は減量で感じやすくなるのか 味覚の感受性と体重をめぐる研究の食い違い

肥満のある人は脂肪や甘さを感じにくいのか。低脂肪の食事と量を減らす食事を6週間比べた試験、1,576人の双子を9年後まで追った甘味の調査、ある試薬の味への感受性と中年女性のBMI、チョコレートを1粒ずつ食べ続けた試験を並べ、味覚と体重の関係で言えることと食い違いを確かめる。

体重が落ちていくあいだに、舌の側でも何かが変わっているのだろうか。過体重や肥満のある53人が、脂質を減らした食事か、食べる量を減らした食事のどちらかを6週間続けた試験がある。減った体重はそれぞれの群で2.9%と2.7%で、二つの群の差は有意ではなかった[4]。ところが同じ6週間で、体重とは別の変化も起きていた。どちらの群でも、それまで気づかなかった薄さの脂肪の味に、気づけるようになっていたのだ[4]。

太っている人は味に鈍く、だから濃い味や量を求める。この説明は分かりやすく、何度も語られてきた。けれども、脂肪の味、甘味、ある試薬の味と、調べる味を変えるたびに、研究の答えは少しずつずれる。肥満と甘味の感じ方の関係は結論が出ていない、と書いた総説もある[2]。

味覚が先に鈍って太るのか。太ったことで味覚が変わるのか。食事を変えれば、味覚は戻るのだろうか。ここでは、においや見た目を含めた「風味」全体ではなく、舌で受ける味の感受性に絞って、体重との関係を論文の順に確かめる。

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脂肪にも「味」があるという考え方

味といえば、甘味や苦味、うま味を思い浮かべる人が多いだろう。そこに脂肪を加える考え方がある。2025年の総説は、脂肪の味を「文献に最近加わった基本の味」と呼び、食べる量や体重との関係を検討している[9]。

2016年のLiuらの総説によれば、人と動物の研究の両方から、脂肪が分解されてできる脂肪酸に反応する味の感覚が存在することを示す証拠が増えている[7]。脂肪酸を感じ取る受容体やイオンの通り道には複数の候補があり、舌の周りでの仕組みは複雑で、まだよく分かっていない[7]。

2014〜2021年に発表された論文を系統的に集めたJaime-Laraらのレビューは、初めに見つかった4,062本から、基準に合う84本を選んで検討した[20]。脂肪の感知に欠かせないたんぱく質として、CD36とGPR120という二つの受容体を挙げ、その信号の伝わり方や、脳の回路、遺伝子の違いが脂肪の感じ方と食べ方にどう関わるかをまとめている[20]。

体重との関係について、Liuらの総説は慎重だ。脂肪酸を感じ取る力の低さが肥満と結びつくこと、脂肪の多い食事が脂肪酸を感じ取る力を下げることは、限られた数の研究が示唆しているにすぎない[7]。候補となる受容体の遺伝子の違いが、肥満や感じ取る力の低さと結びつくという報告もある[7]。

2025年の総説も、関係のつかみ方は割れていると書く。快楽としての食欲、腸内細菌、味の感じ方の低下、味を感じ始める濃さ(閾値)の上昇など、仕組みについていくつもの仮説が出されている。そして、脂肪の味の感じ方と肥満の間に有意な関連を報告した研究がある一方、有意差を見いだせなかった研究もある[9]。

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6週間の食事で、脂肪の味の閾値が下がった

冒頭の試験は、Newmanらの無作為化試験である[4]。過体重か肥満の53人を、脂質をエネルギーの25%に抑えた低脂肪の食事か、脂質33%のまま量を調整する食事に割り付け、6週間続けた。二つの食事は、体重の減り方がそろうように組まれている[4]。

調べたのは三つだ。感じ取れるもっとも薄い脂肪の濃さである閾値、食品の中の脂肪の濃さの違いを見分ける力、そして好みである。開始時と6週目に、体の測定と合わせて評価した[4]。

体重は、低脂肪の食事(26人)で−2.9%、量を調整する食事(27人)で−2.7%と、どちらも有意に減り、群の間に差はなかった[4]。脂肪の味の閾値は、どちらの食事でも下がった。つまり、より薄い脂肪にも気づけるようになった。その効果は低脂肪の食事のほうが強い傾向にあったが、統計的な差の判定はぎりぎり届かなかった(P=0.060)[4]。

食品の中の脂肪の濃さを見分ける力が上がったのは、低脂肪の食事の群だけだった(P=0.017)[4]。ところが、食べ物の好みは、どちらの食事でも変わっていない[4]。著者らは、二つの食事はいずれも過体重や肥満のある人の脂肪の味への感受性を高め、その効果は低脂肪の食事でもっとも強いと結論した[4]。

台所に置き換えると、閾値が下がるとは、同じ炒め物でも油の多さに気づきやすくなる、という変化に近いのかもしれない。ただし試験が測ったのは、決められた濃さの脂肪を感じ取れるかどうかと、濃さの違いを見分けられるかどうかまでである。その変化が、実際の献立で油を減らす行動につながるかは、別に確かめるべき問いとして残る[4]。

この試験は、味覚が「固定された体質」ではなく、数週間の食事で動きうることを示した。ただし、変わったのは感じ取る力までで、好みは変わらなかった。舌が先に学び、好みはまだ追いついていない。6週間のあとに感受性が保たれるのか、好みが遅れて動くのかは、この試験の期間では分からない。

運動で脂肪の味の感じ方が変わるかを扱った2026年の総説もある[17]。それによると、短期でも長期でも、身体活動が長い鎖の脂肪酸への感受性を変えうることを示す研究があり、脂肪の多い食べ物への好みや食べ方の変化につながる可能性がある[17]。一方で、人での変化の大きさや持続について、研究には大きな空白が残るとも書かれている[17]。運動で舌が変わる、と言い切れる段階にはまだない。

甘味の感じ方と体重は、測るたびに答えがずれる

甘味の研究は、脂肪の味よりずっと古い。Ribeiroらの2021年の総説によれば、過体重の人と動物が甘い食べ物を多く食べるという証拠は50年以上前からある[2]。ダイエットでエネルギーが足りなくなると、甘味などのおいしい味に引かれやすくなるという考えも、古くから唱えられてきた[2]。

そこから、肥満のある人と標準体重の人で甘味の感じ方を直接比べる研究が始まった。だが、測り方がばらばらで、結果も結論もそろわなかった[2]。総説は、肥満と甘味の感じ方の低下の関連について、文献は決定的ではなく、否定的な結果や食い違う結果が並んでいると書いている[2]。肥満のある人と標準体重の人を比べた研究だけでなく、同じ人の減量手術の前と後を比べた研究でも、結果はそろっていない[2]。

それでも、総説が変化の手がかりとして挙げた場面がある。胃バイパス術や袖状胃切除術という手術のあとには、甘味の感じ方、とくに報酬に関わる測り方で変化を示す証拠があり、大きな集団で、共通の方法を使って確かめ直すべきだという[2]。舌の感度そのものより、甘味を「うれしい」と感じる側の変化が先に見つかりつつある、と読める。

大きな集団で追った研究もある。Hwangらは、オーストラリアの思春期の双子1,576人について、ぶどう糖、果糖と、エネルギーのほとんどない2種類の甘味料の、計4つの甘味物質の感じ方を測り、9年後の若い成人期のBMIとの関係を調べた[5]。

9年後のBMIは、4つの甘味物質の感じ方のどれとも有意に関連し、もっとも強かったのは甘味料の一つで、相関係数は0.09だった[5]。同じ時期、つまり思春期のBMIとの関連は限られ、もっとも強いものでも相関係数は0.06にとどまった[5]。双子の比較と遺伝の解析からは、ぶどう糖などの感じ方とBMIの間に、遺伝の重なりも見つかっている[5]。

相関係数0.09は、統計的に有意でも、体重の違いのごく一部しか説明しない大きさだ。著者らも、思春期の甘味の感じ方は若い成人期のBMIの「目安になりうる」という言い方にとどめている[5]。一人ひとりの舌の感受性から体重を読み取れるほどの結びつきではない。ただ、遺伝子の一部が味の感じ方の経路を通じてBMIに関わっている可能性は、この研究が残した手がかりだ[5]。

数字で読む味覚と体重

−2.9%と−2.7%:低脂肪の食事と量を調整する食事の6週間で減った体重。どちらの群でも脂肪の味の閾値が下がった[4]。

84本:脂肪の味とにおいの仕組みを、4,062本の中から選んで検討した系統的レビューの対象[20]。

1,576人:甘味の感じ方と9年後のBMIの関係を調べた思春期の双子の数。相関係数は最大でも0.09[5]。

6と4:抑制の弱い中年女性で、ある試薬の味をほとんど感じない人と中程度に感じる人が、強く感じる人より重かったBMIの差[16]。

12.1粒:1粒ずつ渡されたチョコレートを、290人が自分でやめるまでに食べた平均の数[8]。

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