宗教の断食で体重はどう動くか 正教会の節食とダニエル断食ではっきり下がったのはコレステロール

正教会の断食期間やダニエル断食で、体重ははっきり減るのか。系統的レビューは体重の結論を保留し、研究の向きがそろったのは総コレステロールとLDLの低下だった。21日の試験、糖尿病のある人の断食期間、修道女の栄養、日中に飲まない断食の試験から、減るものと足りなくなるものを確かめる。

宗教の断食を調べた試験を二つ並べると、体重計の答えがそろわない。聖書のダニエル書にちなむ「ダニエル断食」を21日続けた男女43人は、断食の前より食事のエネルギー量が少なくなったのに、体重をはじめとする体の計測値のどれにも有意な差が出なかった[11]。ところが、バハイ教の断食を19日間行う組に割り付けられた人たちでは、摂取エネルギーが減り、体重も平均1.92 kg下がった[14]。

食い違いは、論文をまとめる側にもある。正教会の断食を扱った系統的レビューは、体重への影響については結論を引き出せないとした[4]。別のレビューは、断食の期間中、断食をする人は体重が軽く、食べるエネルギー量も少なかったと書く[6]。

二つの食い違いには、それぞれ手がかりがある。ダニエル断食は食べる量を決めない。動物性の食品や保存料を除いたものなら、好きなだけ食べてよい決まりだった[11]。バハイ教の断食のほうは、飲み物まで断つ「ドライ断食」の一つとして調べられている[14]。同じ「断食」の二文字が、中身の違う食卓を指していた。

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正教会の断食は、一年の半分ほどを菜食に寄せる暦である

ギリシャ正教の信徒は、一年のうち合わせて180〜200日を断食にあてるとされる[7]。主な期間は三つある。クリスマス前の40日、復活祭前の48日にあたる四旬節、そして8月の15日間である[7]。レビューは、三つの期間は違いより共通点のほうが多く、どれも菜食の変形として説明できるとした[7]。

別の系統的レビューは、正教会の断食を「周期的な菜食」と呼び、典型的な地中海食と多くの特徴を共有すると書いている[4]。精製された炭水化物が少なく、複合炭水化物(穀物や豆のように、ゆっくり消化される炭水化物)と食物繊維が多い食べ方だとするレビューもある[6]。つまり、正教会の断食でまず減るのは食事の回数より、動物性の食品が皿に載る日数である。

食べる時間に決まりが入ることもある。ギリシャ北部の二つの修道院の修道女を調べた研究では、修道女の食事は朝8時から夕方4時までの間に収められていた[2]。エチオピア正教会の断食は、エネルギーの制限、食べる時間の制限、菜食の三つを組み合わせたものとして説明されている[1]。カレンダーと時計と献立の三方から、食卓を囲い込む仕組みである。

日中の飲食を断つイスラム教のラマダンは、「ラマダンの断食と体重の科学 平均約1kgの減少と終了後に戻る数字の意味」の記事に譲る。ここでは正教会の断食とダニエル断食、バハイ教の断食に絞る。信仰の中身や是非には触れず、食卓の決まりが変わったときに体重と血液の数字がどう動いたかだけを追う。

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体重の結論を、系統的レビューは保留した

正教会の断食についての系統的レビューは、医学の主なデータベースを検索し、条件に合った10本の研究を集めて吟味した[4]。断食の期間には、エネルギーと脂質の摂取が減り、炭水化物と食物繊維の摂取が増えていた。たんぱく質については、研究によって結果が食い違った[4]。

そのうえで、体重と血糖については、データが限られ結果も相反するため結論は出せないと書いた[4]。食べるエネルギーが減っているのに、体重の結論が出ない。食べ方が変われば体重も変わるはずだ、という素直な見立てを、集まった10本は支えきれなかった。

2023年のレビューは、データベースから121件の記録を拾い、除外の条件を当てたうえで17本の臨床研究を残した[6]。断食をする人は断食の期間中に体重が軽く、摂取エネルギーも少なかった、というのがこのレビューの書き方である[6]。ただ、要約の文からは、同じ人が断食の前後で軽くなったのか、断食をする人としない人を比べて軽かったのかは読み取れない。

視野をさらに広げたものに、断食についての21本の系統的レビューを束ねた概観がある[19]。間欠的断食と正教会の断食についてのレビューは、体重、BMI、脂質と血糖、炎症の指標に利益を示したとまとめている[19]。宗教上の断食全般を扱った総説も、体重と血糖、心臓や代謝の危険の目印に良い影響があったと書く。同時に、利点を唱える声は多いものの、実際に調べた研究は仏教徒、キリスト教徒、イスラム教徒の集団での限られた数にとどまるとも認めている[20]。

利益を「示した」と書く概観と、結論を「出せない」と書く系統的レビューが、同じ断食について並んでいる。概観が束ねたのはレビューの結論であり[19]、系統的レビューが行ったのは個々の研究を読み直して質を吟味する作業だった[4]。体重について、いまの時点で言えるのは、減ると決めるだけの材料がまだそろっていない、ということである。

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はっきり下がったのはコレステロールだった

体重と違い、血液の脂質では研究の向きがそろっていた。系統的レビューは、総コレステロールとLDL-C(LDLコレステロール。健診の脂質の欄に並ぶ値の一つ)の低下を、研究をまたいで一貫した所見とした[4]。宗教の断食を扱った2010年のレビューも、正教会の断食の好ましい影響として、体重、総コレステロール、LDL-C、LDL-CとHDL-Cの比の低下を挙げている[7]。

2023年のレビューの結論も、血糖と脂質の管理には良い影響があり、血圧についてのデータは決め手を欠くというものだった[6]。体重では系統的レビューが、血圧では2023年のレビューが結論を保留し、脂質では二つのレビューがそろって良い向きを指す。正教会の断食を測った物差しのうち、いちばん素直に動いたのは脂質だった[4][6]。

ダニエル断食の21日の試験でも、総コレステロールは171.07 mg/dLから138.69 mg/dLへ、LDL-Cは98.38 mg/dLから76.07 mg/dLへ下がった[11]。体重計だけを成績表にしていたら、この変化は見落とされていたことになる。

動物性の食品を一部残した版のダニエル断食でも、もとの版と同じように血液の脂質が改善し、炎症の指標も下がった[10]。肉と乳製品をすべて抜くことが、脂質の改善の条件だったとは言いきれない結果である。

ダニエル断食の21日、食べる量が減っても体重計は動かなかった

ダニエル断食は、動物性の食品と精製された炭水化物、食品添加物や保存料などを口にしない[7]。期間は21日がいちばん多く、10日や40日の例もあるとされる[7]。

21日の試験を完了したのは、男性13人と女性30人の計43人で、年齢は20〜62歳、平均は35歳だった[11]。研究者が渡した詳しい指針に沿って、参加者は自分で食材を買い、自分で調理した。果物、野菜、全粒穀物、豆、ナッツ、種実は食べてよく、量の制限は無い。準備に1週間をもらってから、21日が始まった[11]。

決まりを守れた割合は、自己申告で平均98.7%だった[11]。10段階で尋ねた気分と満腹感は、どちらも7.9だった[11]。断食の前の7日間と、断食の最後の7日間の食事記録を比べると、1日の摂取エネルギーは2,185 kcalから1,722 kcalへ減っていた[11]。

それでも、体重を含む体の計測値には有意な差が出なかった[11]。下がったのは血液と血圧の数字である。収縮期血圧は114.65 mmHgから105.93 mmHgへ、拡張期血圧は72.23 mmHgから67.00 mmHgへ下がった。インスリン、インスリン抵抗性の指標(HOMA-IR)、炎症の目印のCRPも下がったが、統計的に意味のある差には届かなかった[11]。ほぼ完璧に守られた決まりは、21日の時点では、体重計の上にはまだ姿を見せなかったことになる。

この試験には比べる組が無く、同じ人の前後を比べた21日だけの記録である。著者らも、より長く、より大きな無作為化試験が要るとし、HDLコレステロールを保てるよう食べ物の選び方を少し変える案にも触れている[11]。

赤身の肉と脱脂乳を一皿戻した版

動物性の食品を除くと、たんぱく質と飽和脂肪酸の摂取がはっきり減る。その結果、除脂肪量(脂肪以外の体の重さ。筋肉などを含む)が減り、HDLコレステロールも下がる、というのが次の試験の出発点だった[10]。

この試験は、男女29人を、もとのダニエル断食か修正版のダニエル断食のどちらかに振り分け、21日間続けた[10]。修正版は、赤身の肉と乳製品(脱脂乳)を1日に1回分加えた点だけが違う。上乗せされたたんぱく質は、1日におよそ30 gである[10]。

結果は、どちらの版でも、始める前と比べて血液の脂質が同じように改善し、炎症も下がった[10]。著者らは、どちらの版の食事でも心臓と代謝の病気の危険因子を改善しうると結論している[10]。除脂肪量がどうなったかは、要約には書かれていない。肉を一皿戻しても脂質の改善が保たれた、というところまでが、この試験から言えることだ。

数字で読む宗教の断食

180〜200日:ギリシャ正教の信徒が一年のうちに断食する日数の合計として、レビューが挙げた値。[7]

最大17.8%と31.4%:正教会の断食の研究で報告された低下の幅。順に総コレステロール、LDL-C。[4]

2,185 kcalから1,722 kcal:ダニエル断食の試験の参加者の1日の摂取エネルギー。断食前の7日間と、断食の最後の7日間の食事記録で比べた値。[11]

98.7%:同じ試験で、参加者が自己申告した、断食の決まりを守れた割合の平均。[11]

およそ30 g:修正版のダニエル断食で、赤身の肉と脱脂乳の1日1回分から上乗せされたたんぱく質の量。[10]

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宮川涼 Founder

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