パンは太るのか 白いパンと全粒粉の38研究、サワードウの試験は食欲で答えが食い違う

「パンは太る」の「パン」は何を指すのか。精白と全粒粉のパンを含む食事を調べた38の疫学研究、サワードウで食欲を測った試験、48時間発酵の試験、クロワッサンの胃の測定から、パンと体重の関係を確かめる。レモン果汁やこね時間で食後の血糖が変わった条件まで読む。

パン屋の棚には札が並んでいる。食パン、全粒粉、サワードウ。トレーを手に札を見比べるとき、頭の隅にはたいてい別の言葉が居座っている。「パンは太る」。この一文の「パン」は、棚の上の何種類ものパンを一語に押し込んだ言葉である。

パンは太るという考えは一般に長く根づいていて、パンを控えたり、食事から外したりする人を生んできた。2012年のレビューはそう書き出し、パンを含む食事の型と体重の関連を38の疫学研究で確かめている[5]。答えは一語にまとまらなかった。全粒粉のパンと精白したパンは、同じ結果にならなかった[5]。

「サワードウ」の札にも同じことが起きている。サワードウの発酵は食後の満腹感や代謝に良いと考えられてきたが、それを人の体の中の条件で示した研究は足りないと、2017年の試験の著者らは書いた[20]。実際に食欲を測った試験の答えは、そろっていない[10][20]。問われているのはパンの是非より、どのパンを、何と比べた話かである。

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「パンは太る」を38の疫学研究で確かめると

レビューが集めたのは、過去30年の論文のうち、精白または全粒のパンを含む食事の型と、体重の状態や腹部の脂肪のつき方の関連を調べたものである[5]。調べられているのは「パン」そのものより「パンを含む食事の型」で、朝の食パンだけを切り出した話ではない。皿の横に何が並んでいたかも、数字の中に溶けている。

全粒粉のパンを含む食事の型は体重の増加に悪く働かず、体重の状態に良い可能性があった。精白のパンのほうは、研究の型で向きが割れた。ある時点の食事と体格を同時に調べる横断研究の多くは、良い関連を示した。もっとも横断研究は一度の測定なので、どちらが先かまでは語れない。ところが、設計のよいコホート研究(同じ人たちを時間をかけて追う研究)の多くは、腹部の余分な脂肪との関連の可能性を示した[5]。同じ白いパンについて、研究の型を変えると逆の向きの答えが出る。著者らも、設計の違いから確定的な結論は出しにくいとして、パンそのものに焦点を当てた研究を求めている[5]。朝の食パンを疑うにせよ弁護するにせよ、どちらの陣営にも引用できる論文があるという状態だ。

2025年の総説も、慎重な言い方を崩さない。この総説は、食事の型の中のパンと、パン単独の影響の両方を、太りすぎ、心臓や代謝の健康、消化の健康について見ている。パンを食べることが健康に良いか悪いかについて科学的な合意はなく、その影響は食事全体にも左右される。それでも全粒のパンについては、一貫して良い効果が示されてきたと書く[17]。足りないものとして挙げられているのは、パンを別の食品に置き換えたらどうなるかを計算する研究と、よく設計された臨床試験である[17]。

ここまでで言えるのは次の範囲だ。パンそのものが人を太らせると言い切る根拠は、この2本からは出てこない。どちらの論文も「太る」「痩せる」の一語で片づく話にはなっていない[5][17]。

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全粒粉のパンを選ぶ人は、ほかの暮らしも違っていた

全粒粉のパンの研究を読むときに、覚えておきたい調査がある。ノルウェーの3つの県で、35〜56歳の男性16,933人と女性16,915人にパンの種類と1日の枚数を尋ね、全粒粉のパンの点数を作って、1994年まで死亡を追った[18]。点数の下の端は全粒粉5%のパンを1日1枚、上の端は全粒粉60%のパンを1日9枚である。全粒穀物を米国の4倍食べている国の話だと、著者らは断っている[18]。点数が高い人ほど総死亡が低く、年齢、喫煙、BMI、活動量などを調整しても傾向は残った[18]。

全粒粉の勝利と書きたくなる前に、同じ論文の別の記述を読む。全粒粉のパンを食べる人は、白いパンを食べる人より喫煙が少なく、体をよく動かし、コレステロールと血圧が低く、脂肪の割合の低い食事をしていた[18]。パンの棚での選び方は、たばこや運動の選び方と重なっていた。朝の食パンを全粒粉に替えた人が、同じ春にたばこをやめて週末に歩き始めていたら、体重の変化がどれのおかげかは本人にも分からない。著者らは調整を重ねているが、これは観察研究で、パンを替えれば同じ差が出るという意味にはならない。そもそも測ったのは死亡で、体重ではない。

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サワードウの札の裏で、食欲の試験は食い違う

サワードウは、発酵種で生地を発酵させる作り方である。試験では、酵母で発酵させたパンなどと比べられる[15][20]。

プロピオン酸という酸を口からとると食べる量が減るという報告がある。ただしこの酸は揮発しやすく、においも味も強い。それをパンの中に自然な形で組み込めるのか、という発想から生まれたのが2012年の試験である。若くて標準体重の健康な20人が、プロピオン酸を多く含むサワードウと、味の近い対照のパンを朝食に食べた[10]。3時間後に好きなだけ食べられる食事を出しても、24時間の合計で見ても、摂取エネルギーに差はなかった。食欲の評価も、甘いものを食べたい気持ちを除いて変わらなかった。血糖にも差はなく、インスリンだけがサワードウの朝食の後に高かった[10]。著者らの結論は、大量のプロピオン酸を保存料として与えた場合と違い、このパンは食欲と摂取量に影響しない、というものである[10]。

2017年の試験は、別の景色を見せる。スウェーデンの成人24人が、全粒ライ麦をサワードウで発酵させたクリスプブレッド(薄く乾いたパン)、同じライ麦を発酵させないもの、酵母で発酵させた精白小麦のものの3種類を、決まった朝食の一部として食べ、食欲は6時間、血糖とインスリンは4時間追いかけた[20]。空腹感と食べたい気持ちは、サワードウのライ麦のほうが精白小麦より低かった。ここまではサワードウの勝ちに見える。ところがインスリンの反応がいちばん低かったのは、発酵させないライ麦だった。著者らは、発酵で粘りのある繊維が分解され、かんだ塊が早く崩れることが、発酵させないパンより代謝の反応が劣る一因かもしれないと書く[20]。

2本の食い違いは、比べる相手の違いでもある。前者は味の近いパンとの比較で、後者の空腹感の差は全粒ライ麦のサワードウと精白小麦の比較である[10][20]。差が発酵によるのか、全粒ライ麦によるのかは、この比較からは切り分けられない。「サワードウだから腹持ちがいい」と言い切るには、札の字が少し大きすぎる。

発酵を48時間に延ばしても、上乗せは見えなかった

長い発酵という言葉には、手間のぶんだけ体に良いはずだという響きがある。メタボリックシンドロームのある大人31人(平均67歳)を、48時間発酵と2時間発酵のサワードウのパンに割り付け、2か月食べてもらった二重盲検の試験がある[11]。二重盲検は、本人にも担当者にもどちらのパンか分からない形で進める方法で、2種類のパンの栄養の中身は近い。長い発酵の組に有利な結果は出なかった。炎症の指標の一つであるPAI-1は、短い発酵の組のほうが低かった。腸内細菌の豊かさや量には差がなかった[11]。

どちらの組でも、炎症の指標の一つと拡張期血圧は開始時より下がった。ただし両組ともサワードウを食べているので、サワードウを食べなかった場合との比較にはならず、人数も少ない。著者らは、サワードウが炎症の指標に良い可能性を挙げつつ、発酵を長くしても追加の利益はなかったとまとめた[11]。体重の結果は、論文の要約には書かれていない。48時間待った生地は、2時間の生地を追い越さなかった。それがこの試験の範囲で言えることだ。

数字で読むパンと体重

  • 38本:パンを含む食事の型と体重の関連を調べた疫学研究の数。内訳は横断研究22本、前向きコホート研究11本、介入研究5本[5]
  • 0.75と0.66:全粒粉のパンの点数が最も高い区分の総死亡のハザード比。比べる相手は最も低い区分で、順に男性、女性。体重ではなく死亡の数字[18]
  • 11%:サワードウのクロワッサンで小さくなった、食後3時間の胃の中の量の合計。比べる相手はビール酵母のクロワッサンで、17人の試験[15]
  • 66と81:白いパンのGI(血糖の上がりやすさの指標)。順に生地を15分こねたパン、10分こねたパンで、10人の試験[2]
  • 35%:レモン果汁と一緒に食べたときに低かった、食後55分の血糖値。比べる相手は水と一緒に食べたときで、10人の試験[1]
  • −744 pg/mL:2か月後のPAI-1の差。2時間発酵のパンの組の値を、48時間発酵の組と比べたもの[11]

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宮川涼 Founder

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