痩せた自分を思い描くだけで食べ方は変わるのか。食べたい気持ちが頭の中の像から育つという理論、近い目標の場面をいくつもの感覚で描く練習と動機づけ面接を比べた12か月の試験、フードコートやネットの買い物で先の自分を思い描いた実験、効かなかった試験までを数字で確かめる。
洗い物を終えて、台所の灯りを消そうとしたとき、戸棚の上の段にあるクッキーの缶が目に入る。指はまだスイッチにかかっているのに、頭の中ではもう、ふたを開ける音と、ひと口目のさくっとした歯ざわりが鳴っている。食べるかどうかを決めるより先に、食べる場面のほうが始まってしまっている。
欲しい気持ちを、こうした頭の中の像の育ち方として説明する理論がある。精緻化侵入理論と呼ばれ、食べ物についてふと浮かんだ考えが、感情を帯びた像で肉付けされていくときに、欲しい気持ちが生まれると考える[12]。像が欲しさを育てるのなら、別の像でその場所を先に埋めてしまえばよい。この発想から作られたのが、機能的イメージ訓練(FIT)と呼ばれる方法だ[2][4]。
BMI25以上の大人を対象に、FITと、同じ時間をかけた動機づけ面接とを比べた試験では、12か月後の体重の減りに5.77kgの差がついた[4]。ここでは、思い描く練習が食べ方と体重に何をしたのかを、間食の試験、実験室とフードコートの実験、効かなかった試験まで並べて確かめる。動機づけ面接そのものの効き方は「動機づけ面接はダイエットを助けるか 話を聞く支援と体重が変わる条件を知る」の記事に、行動の手順を前もって決めておく方法は「ダイエットの目標設定はどう変えるか 実行意図で明日の行動を決める科学」の記事に譲る。

欲しい気持ちは、頭の中の像として育つ
理論の出発点を、もう少し詳しく見ておく。精緻化侵入理論では、食べ物についての考えは、本人の意思と関係なく、ふいに頭に入り込んでくる[12]。その考えが、感情を帯びた像へと広げられていくと、欲しい気持ちになる[12]。像を思い描く作業は頭の中の作業の場所を使うため、別の作業でその場所をふさぐと、欲しい気持ちは弱まるとされる[12]。
この理論から、もう一歩進んだ予測が出てくる。入り込んできた考えが肉付けされる前に、別の像で頭を占めておけば、欲しい気持ちはそもそも育ちにくいはずだ、というものだ[12]。体の部位に順に注意を向けていくボディスキャンや、穏やかな場面を言葉で導かれて思い描く誘導イメージが、食べ物についての考えが浮かぶ回数を減らすことは、それ以前の研究で示されていた[12]。
その予測を確かめた実験がある。参加者に一晩食べずに過ごしてもらい、そのうえで10分間のボディスキャン、誘導イメージ、比べる役の心をさまよわせるだけの課題の、どれか一つをしてもらった[12]。参加者は課題の間に10回、どれだけ食べたいかを1つの質問で答え、課題の前後には欲しい気持ちを細かく測る質問票にも答えている[12]。
心をさまよわせた群では、課題の間に欲しい気持ちが高まっていった[12]。ボディスキャンと誘導イメージの群には、その高まりが見られない[12]。ただし、課題の前後に答えた質問票には、この違いが表れなかった[12]。著者らは、効果は別の課題に取り組んでいる間だけ現れるものだろうと考えた[12]。
効き目は、課題を続けている間に限られていたらしい。それでも、道具も材料も要らず、人目にもつかない方法なので、著者らは短い誘導イメージを、欲しい気持ちに取り組む減量プログラムの部品になりうるものと位置づけている[12]。食べ始めてからの注意の向け方を扱う「マインドフルイーティングは減量に効くのか 食べ方の変化と体重差を論文で読む」の記事とは、食べる前の頭の中を見るという点で分かれる。
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
近い目標の場面を、いくつもの感覚で描く
FITは、手順が手引きにまとめられた新しい方法で、前向きな目標の像を描く練習をする[2]。思い描くのは、本人にとって近い目標の具体的な一場面だ[2]。見える物、聞こえる音、体の感じまで、いくつもの感覚を使ってその場面を呼び起こし、繰り返し練習する[2]。その像で意欲を保ち、役に立たない欲しさと張り合わせるのが狙いである[2]。
この方法で間食が変わるかを試したのが、減量したい人、または間食を減らしたい人45人の試験だ[2]。参加者は、すぐにFITを受ける群と、2週間待ってから受ける群に無作為に分けられた[2]。FITは1回の面談に、後押しの電話を1回添えただけのものだった[2]。砂糖や脂肪の多い間食の量は、開始時、2週、4週の時点で、直前の3日間を一日ずつ振り返って記録する方法で測られた[2]。
2週の時点で、すでにFITを受けた群の間食は、まだ受けていない群より少なかった[2]。待っていた群も、2週から4週の間にFITを受けると、同じように間食が減っている[2]。受ける時期をずらしても同じ形が出たことは、たまたまの差ではないと考える手がかりになる。
もう一つの結果は、頭の中の変化を示している。FITのあと、間食を減らすことについての意欲的な考えが浮かぶ回数は両方の群で増え、その増え方は、間食の減りとも体重の減りとも相関していた[2]。クッキーの缶の像に場所を取られていた頭に、別の考えが入る回数が増えたことになる。ただしこれは相関で、意欲的な考えが増えたから間食が減ったとまでは、この試験からは言えない。
同じ時間の面接と比べて、12か月で5.77kgの差
FITを体重で正面から試したのが、BMI25以上の大人141人を地域の新聞で募り、1つの施設で無作為に2つの群へ分けた試験だ[4]。一方はFIT、もう一方は動機づけ面接で、面談の時間と回数は両群でそろえてあった[4]。動機づけ面接は、相手の話を聞きながら、本人の中にある変わりたい理由を引き出していく面接の方法で、この試験のFITもその相手中心の話し方で行われている[4]。
どちらの群も、1回目は対面で1時間、2回目は電話で最大45分の面談を受けた[4]。その後、3か月目までは2週ごとに、6か月目までは月に1回、最長15分の後押しの電話が続いた[4]。1人あたりの個別の面談は、合わせて最大4時間になる[4]。体重と腹囲を測ってデータを分析した研究者には、誰がどちらの群かが伏せられていた[4]。
FITでは、本人に合わせた、感情を伴う目標の像を使って、行動を計画し、障害を予測し、過去にうまくいったやり方を頭の中で試すことを習慣にする練習をする[4]。食事や運動についての知識や助言は、FITには含まれていなかった[4]。
6か月の時点で、FITの群(59人)は体重が4.11kg減り、腹囲は7.02cm細くなった[4]。動機づけ面接の群(55人)は、0.74kgと2.72cmにとどまっている[4]。体重の差は3.37kg(95%信頼区間2.1〜5.2)、腹囲の差は4.3cm(同2.6〜6.3)だった[4]。かっこの中の幅は95%信頼区間で、偶然のぶれを考えに入れても本当の差がまず入ると見てよい範囲を表す。
面談の期間が終わったあとも、差は縮まらずに広がった。12か月の時点で、FITの群は6.44kgと9.1cm、動機づけ面接の群は0.67kgと2.46cmで、体重の差は5.77kg(95%信頼区間4.4〜7.5)、腹囲の差は6.64cmに開いた[4]。FITの群は、電話も来なくなった後半の6か月にも、体重を2kgあまり減らし続けていたことになる。論文は、FITが生活の知識や助言を含まないにもかかわらず、動機づけ面接だけの場合より減量と体重の維持に大きな利益をもたらすと結論した[4]。
数字は大きい。だからこそ、読み方の条件を書いておく。これは1つの施設で行われた1本の試験で、参加者は新聞の募集に応じた人たちだ。比べた相手は何もしない群ではなく同じ時間の動機づけ面接で、その群は1年でほとんど体重が動いていない。差の大きさの一部は、比べた相手の側の小ささから来ている。また、ここで試されたのは面接者が対面と電話で導く形で、ひとりで書き出す形の効果は確かめられていない。別の施設、別の人たちで同じ差が出るかは、まだ確かめられていない。
数字で読む思い描く練習
5.77kg:12か月の時点で、FITの群と動機づけ面接の群の体重の減りについた差[4]。
6.64cm:同じ12か月の時点の、腹囲の減りの差[4]。
4時間:6か月の間に、1人が受けた個別の面談の最大の合計[4]。
45人:1回の面談と1回の電話で、間食が減るかを確かめた試験の参加者[2]。
10分:一晩食べずにいた人が、ボディスキャンや誘導イメージを続けた時間。その間だけ欲しい気持ちが高まらなかった[12]。
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
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