GLP-1薬の吐き気は効いている証拠か 体重減少への寄与が1ポイント未満だった試験

GLP-1薬で吐き気が出るのは効いている証拠なのか。セマグルチドとチルゼパチドの解析では、症状のあった人となかった人の体重の減りは同程度で、リラグルチドの試験だけに開きが残った。頻度、重さ、増量の時期、中止の割合まで、副作用の数字の読み方を確かめる。

副作用という言葉には、薬のせいで起きたという判定が最初から入っている。論文の表でこれに当たる位置にある言葉は有害事象で、治療の期間中に起きた好ましくない出来事を、原因を問わずに数えたものだ。だからGLP-1薬の大きな試験では、薬を使っていない偽薬の群でも16.1%の人が吐き気を報告している[1]。

もう一つ、取り違えやすい言葉がある。「効いている証拠」である。吐き気が来ると薬が働いている合図だと受け取り、来なければ自分には効いていないのではと心配になる。症状と体重の減りを同じ線の上に置く読み方だが、試験の解析者はこの二つを別々の欄に分け、症状があった人となかった人の体重をそれぞれ計算している[1][2]。

この記事でいうGLP-1薬は、セマグルチド、リラグルチド、チルゼパチドなどを指す。21の試験をまとめた解析は、この3つを含む8種類を一つの仲間として扱った[13]。処方するかどうかも、副作用にどう対応するかも、判断するのは医師である。読者の手元に残せるのは、診察の前に読んでおける数字のほうだ。

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偽薬の欄を隠すと、吐き気は多く見える

週1回のセマグルチド2.4 mgを使う群と偽薬の群を68週まで比べた、STEP 1〜3を合わせた解析がある。対象は過体重または肥満の成人で、セマグルチド群2,117人、偽薬群1,262人だ。順にセマグルチド群、偽薬群で並べると、吐き気は43.9%と16.1%、下痢は29.7%と15.9%、嘔吐は24.5%と6.3%、便秘は24.2%と11.1%だった[1]。読むべきは左の数字より、右の数字との開きである。開きが最も大きいのは吐き気で、嘔吐を除く3つは偽薬の群でも1割台あった。吐き気の話題に隠れやすいが、セマグルチド群の便秘も4人に1人に近い。

チルゼパチドでは、肥満または過体重の成人を対象にしたSURMOUNT-1〜4の事後解析が、胃腸の有害事象を報告した人の割合を、チルゼパチドの群で27.8〜72.8%、偽薬の群で12.2〜32.5%と示している[2]。2型糖尿病のある人もない人も含む試験群の値で、幅がこれだけ広いと1つの平均のようには使えない。事後解析とは、試験が終わった後に、データを別の問いで分け直す解析をいう。後で触れる症状の有無別の体重の比較も、チルゼパチドではこの形で行われた[2][20]。

2型糖尿病の試験では、同じ薬で量を変えた数字が見える。SUSTAIN 1〜5は週1回のセマグルチド0.5 mgと1.0 mgを調べ、吐き気または嘔吐を経験した人の割合は順に15.2〜24.0%、21.5〜27.2%、比較の薬の群は6.0〜14.1%だった[9]。チルゼパチドのSURPASS-1〜5は全体で6,263人の試験で、チルゼパチドの群の吐き気は12〜24%、下痢は12〜22%、嘔吐は2〜13%と報告された[20]。この薬の試験ごとの減量幅は「チルゼパチドの減量効果を試験の数字で追う 72週の注射で体重が減った幅と副作用」の記事に譲る。

同じ「GLP-1薬の吐き気」でも、薬と量と対象が変わると、数字は一つにまとまらない。知人の体験談を聞いたときに、どの薬のどの量の話かを書き足して読むだけで、受け取り方はかなり変わる。

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「軽い」は重さの分類で、楽という意味とは限らない

STEPの解析で、セマグルチド群の胃腸の有害事象のうち99.5%は重篤でなく、98.1%は軽度から中等度で、多くは一時的だった[1]。ここで分母になっているのは人ではなく出来事の件数である。「ほぼ全員が軽かった」と読むと、数え方を一段ずらすことになる。胃腸の有害事象を理由に治療を完全にやめた人は4.3%で、こちらは人の割合だ。維持の段階を調べたSTEP 4は、20週の導入期間に耐えられた803人を対象にしており、2.4 mgの継続はよく耐えられたと報告された[1]。途中で離れた人が入っていない集団なので、この一文を「続ければ誰でも楽になる」へ広げることはできない。

チルゼパチドの解析でも、胃腸の有害事象の多くは重篤ではなく、治療をやめた人は1.0〜10.5%だった[2]。やめた人の割合は、続けた人の負担の大きさまでは教えてくれない。朝の電車に乗れなかった日が「軽度」に入るのか「中等度」に入るのか、この数字からは分からない。この分類は暮らしの言葉ではなく、試験の記録の言葉である。

リラグルチド3.0 mgの欧州の試験は、この隙間を少し埋めている。この群では48%が何らかの吐き気を、13%が何らかの嘔吐を報告し、離脱を報告したのは93人中4人だった[8]。20週の生活の質の得点は、吐き気や嘔吐があった人もなかった人も同じように改善している。症状と暮らしの評価を同じ試験で並べて見られる点が、この論文の値打ちである。

同じ論文には、吐き気の報告に国によるかなりの開きがあったとも書かれている。同じ薬、同じ量でも数字がそろわない。この試験で吐き気や嘔吐を1回以上報告した人は、偽薬とオルリスタットの群でともに4%で、STEPの偽薬の群の吐き気よりかなり低い。比べている症状の数え方が同じとは限らず、著者らは吐き気のデータの集め方を改善する必要があると結んでいる[8]。体重は測れば数字が出るが、吐き気は本人の言葉を通らないと記録に残らない。

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症状は量を上げていく週に集まりやすい

リラグルチドの試験では、吐き気や嘔吐の多くが増量の期間である1〜6週目に起き、程度は軽度か中等度だった[8]。チルゼパチドの4試験も、胃腸の有害事象の多くは増量の間に起きたと報告している[2]。2型糖尿病の人を対象にしたSURPASSの解析でも、吐き気、下痢、嘔吐は一時的で、軽度から中等度と書かれた[20]。

先のリラグルチドの試験と人数も群の組みも同じ、欧州の19施設の564人を追った2年の報告でも、薬に関連する副作用で最も多かったのは、軽度から中等度の一時的な吐き気と嘔吐だった[3]。別の試験の裏づけではなく、同じ顔ぶれと読める続きの数字として受け取りたい。参加者は、1日500 kcal減らす食事と運動の助言を受けたうえで薬か偽薬を使っている。リラグルチド3.0 mgは偽薬より1年で5.8 kg多く減らし、95%信頼区間は3.7〜8.0 kgだった。この数字の背後には食事と運動の支援があり、注射だけの成績ではないことも覚えておきたい。延長の期間に進んだのは398人、2年を終えたのは268人で、離れた人の理由までは追えない。「2年続けて一時的な吐き気だけ」と読むと、残った人の数字を全員の数字に広げてしまう。

一時的という語には、日数が付いていない。何日で治まるのか、何週で消えるのかという問いに、ここで読んだ論文の要約は日数では答えていない[1][3][20]。「すぐ治まる」と聞いて安心するのも、「いつまで続くのか」と不安になるのも、数字の裏づけは同じくらい薄い。分かっているのは時期の偏りまでである。

吐き気があった人となかった人の体重は、ほぼ同じだった

STEP 1〜3で、胃腸の有害事象がなかった人の平均の体重減少は9.6〜17.1%、あった人は11.4〜17.7%で、論文はこれを同程度と評価した[1]。さらに媒介分析で、薬の効果のうち症状を通った分を推定している。媒介分析とは、ある効果を、途中の出来事を通った分と通らない分に統計で切り分ける方法である。セマグルチドが偽薬より上乗せした7.6〜14.4%の体重減少のうち、胃腸の有害事象を通った分は1ポイントに満たなかった[1]。

同じ問いは他の薬でも調べられている。SUSTAIN 1〜5では、セマグルチドは比較の薬より2.3〜6.3 kg多く体重を減らしたが、その差のうち吐き気や嘔吐を通った分は0.07〜0.5 kgにとどまった[9]。SURPASSでは、吐き気・嘔吐・下痢があった人の平均の変化が−6.2〜−14.9 kg、なかった人が−6.2〜−13.3 kgで、比較の薬との差のうち症状を通った分は6%未満と見積もられた[20]。

肥満や過体重の人のSURMOUNTでも、吐き気がなかった人、吐き気だけがあった人、吐き気・嘔吐・下痢のいずれかがあった人の体重の減りは同程度だった[2]。吐き気・嘔吐・下痢と消化不良に関連した分は、体重減少全体の最大3.1%と見積もられている。著者らの言葉は「わずかに寄与しているように見える」で、寄与はゼロとは書いていない。数字が指しているのは、吐き気があったから減ったという図ではなく、吐き気がなくても減ったという図のほうに近い。

数字で読むGLP-1薬の胃腸の症状

98.1%:セマグルチド2.4 mg群で起きた胃腸の有害事象のうち、軽度から中等度だった件数の割合。分母は人ではない[1]。

93人中4人:リラグルチド3.0 mg群のうち、離脱を報告した人の数。同じ群で吐き気を報告した人は48%だった[8]。

1ポイント未満:セマグルチド2.4 mgが偽薬より上乗せした体重減少のうち、胃腸の有害事象を通った分[1]。

最大3.1%:チルゼパチドの体重減少全体のうち、吐き気・嘔吐・下痢と消化不良に関連した分[2]。

2.9 kg:リラグルチド3.0 mg群の1年の体重減少で、吐き気や嘔吐があった人がなかった人より多く減った幅。95%信頼区間は0.5〜5.3 kg[8]。

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宮川涼 Founder

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