アルギニンのサプリで脂肪は減るのか。8本の無作為化比較試験の統合では腹囲が縮んだ一方、体重とBMIに有意な差は出なかった。動物の研究から生まれた期待、成長ホルモンの上がり方、運動と組み合わせたシトルリンの試験、量を増やした試験の異変まで、論文の数字で確かめる。
「非必須アミノ酸」と書かれていると、飲まなくてもよい、格の落ちる成分のように聞こえる。ところが、この呼び名が指しているのは成分の値打ちではない。体が自分で作れるので、食事から必ず摂らなければならない種類には入らない、という分類の札である。シトルリンはその非必須アミノ酸として紹介され[1]、アルギニンは体の中で作られ、食べ物にも含まれるアミノ酸と説明されている[14]。
もう一つ紛らわしいのが「燃える」という動詞だ。脂肪が本当に減ったかどうかを、研究者は炎ではなく、巻き尺と体重計と体組成の測定で確かめる。腹囲を測った試験、体重を測った試験、血液の中の物質だけを測った試験では、同じ「燃える」の一語に別々の答えが返ってくる[2][12]。
アルギニンを脂肪と結びつける話の多くは、ラットや豚の実験と、細胞の中の仕組みの説明から始まっている[4]。人に飲ませた試験の数字は、それよりずっと地味で、ずっと具体的である。言葉の響きを一度脇に置き、巻き尺の目盛りの側から読んでいく。

「燃える」の出どころは、ラットと豚の脂肪だった
アルギニンが脂肪を減らすという期待をまとめた2010年のMcKnightらの総説は、食事にアルギニンを足すと脂肪が減ったという報告を並べている。対象は、遺伝的に太りやすいラット、高脂肪の餌で太らせたラット、出荷前の肥育期の豚、そして2型糖尿病のある肥満の人だった[4]。人の報告は、糖尿病のある肥満の人という限られた集団に寄っている。
総説が挙げる仕組みは込み入っている。アルギニンから作られる一酸化窒素などの信号の分子を通じて、細胞の中でエネルギーを作るミトコンドリアが増え、褐色脂肪組織が育つ可能性。ブドウ糖や脂肪酸を燃料として使う遺伝子の働きが強まる可能性。「燃える」という言い方は、この燃料を使う側の話にいちばん近い[4]。総説はこれらを「可能性」の言葉で書き、結びでは、脂肪を減らし筋肉を増やす安全で費用の安い栄養素として大きな見込みがある、と著者の期待を述べている[4]。期待の表明と、人での試験の結果は別の棚に置いておきたい。
12年後のSzlasらの総説は、ずっと慎重である。アルギニンが肥満の代謝の乱れ、血圧、2型糖尿病の症状の管理に役立つかもしれないとしながら、その仕組みは十分に解明されていないと書く[14]。同じアミノ酸について、「大きな見込み」から「分かっていないことが多い」へ、書きぶりが10年あまりで変わった。
肥満の体の中でアルギニンがどう扱われているかを、直接測った研究もある。Wierzchowska-McNewらは、BMIが30未満の中年83人と、BMIが30を超える高度の肥満の80人を比べた横断研究で、目印を付けたアミノ酸を入れて、体全体での作られ方を調べた[3]。肥満の群では血漿のシトルリン濃度が低く、一酸化窒素は多く作られ、体内で新たに作られるアルギニンは少なかった。一方で、アルギニン、シトルリン、オルニチンが体全体で作られる量そのものには群の差がなかった[3]。
著者らは、この違いが肥満でアルギニンの必要量が増えたためなのか、代謝の適応なのかは、これからの研究で確かめると結んでいる[3]。一時点の比較である横断研究は、どちらが先に起きたかを決められない。肥満の人の体でアルギニンの回り方が違うことは分かっても、そこから「足りないから補えば痩せる」までは、まだ何本も橋が架かっていない。
読んだ分のカロリーは、石の上で返せる。
8本の試験を合わせると、腹囲だけが縮んだ
アルギニンを飲んだ人の体の測定値を集めたのが、Mousaviらの系統的レビューとメタ分析である。系統的レビューは決まった手順で関係する研究を漏れなく集める方法で、メタ分析はその数字を統合する計算を指す。2017年9月までの論文を検索して見つかった1,598件から、無作為化比較試験8本、介入の群にして9つが残った[2]。
結果は、体のどこを測ったかで分かれた。腹囲はアルギニンを飲んだ群で縮み、比べる群との差の重み付き平均は−2.97 cm、95%信頼区間は−4.75〜−1.18 cmだった[2]。これに対してBMIの差は−0.51 kg/m²で信頼区間は−1.11〜0.08、体重の差は−0.57 kgで信頼区間は−1.77〜0.61と、どちらも0をまたいでいる[2]。信頼区間が0をまたぐというのは、差が無いという可能性を、数字の上で退けられないということだ。
試験を期間や量で分けて見た解析では、8週以上続けた試験に限ると体重にも好ましい効果が出て、1日8 g未満の量を8週以上続けた条件ではBMIの低下が有意になった[2]。ただしこれは、すでに行われた試験を条件で並べ替えて見た比較であり、何gを何週飲めばよいという処方を試したものではない。著者らが全体の結論として書いたのは、腹囲は減らせる可能性があるが、体重とBMIには有意な効果がない、という一文だった[2]。
腹囲が縮み、体重が変わらないとき、体の中で何が起きているのかは、この分析からは決められない。脂肪の付く位置が変わったのか、測り方の揺れなのか、腹囲を報告した試験に偏りがあるのか。要約には、統合された試験の参加者がどんな人だったかも、1本ずつの量も書かれていない。題にある「肥満に関連する指標」は、測った物差しの名前であって、参加者の条件ではない。

1日4.5 gを4週間、変わったのは血液の中の小さな割合
量と期間を決めて飲ませた試験を一つ、細かく見ておく。Diminaらの試験の参加者は平均45歳の過体重の健康な成人32人で、空腹時の中性脂肪が150 mg/dLを超え、腹囲が男性で94 cm、女性で80 cmを超えるという、心臓と代謝の危険因子を持っていた[12]。少しずつ溶ける形のアルギニン1.5 gを1日3回、合わせて4.5 gを4週間飲む期間と、偽薬を飲む期間を、順番を入れ替えて両方経験する交差試験で、本人も研究者もどちらを飲んでいるか知らない二重盲検だった[12]。
飲む期間の最終日、参加者は900 kcalのうち80%を脂肪が占める食事を負荷として食べた。空腹時と食後2、4、6時間に血液を採り、そこに含まれる代謝物をまとめて測っている[12]。血液の変化の大部分を説明したのは、4週間の服用ではなく、最終日の脂っこい一皿のほうだった。アルギニンの効果が説明したのは全体のばらつきの0.5%で、統計的には意味のある差とされた[12]。
アルギニンを飲んだ期間に減っていたのは、分岐鎖アミノ酸を含む多くのアミノ酸と、腸内細菌の働きと関わるトリメチルアミンNオキシドという物質である[12]。著者らは、長い目で見た健康への意味はこれからの研究を待つとしている。要約の結果の欄に、体重や腹囲の変化は出てこない。分岐鎖アミノ酸と肥満の関係そのものは、「BCAAは減量の味方か、肥満の印か 分岐鎖アミノ酸をめぐる二つの顔」の記事に譲る。
成長ホルモンの上がり方と、肥満の人の鈍い反応
アルギニンは、成長ホルモンの名前と一緒に語られることが多い。Apolzanらは、体をよく動かす18〜39歳、BMIが18.5〜25の健康な男性30人に、一晩絶食した朝、アルギニン10 gの飲み物と偽薬の飲み物を、日を変えて飲んでもらった[16]。アルギニンの血中濃度は1.5時間後に146%、3時間後に95%増えた。成長ホルモンは24時間後に、偽薬を飲んだときより193%高かった[16]。
この数字は大きく響くが、著者らの結論の言葉は「控えめに増やした」である[16]。同じ試験では、血糖が1.5時間後に5%、3時間後に3%、偽薬より高く、甲状腺刺激ホルモンも24時間後に10%高かった[16]。気分には差が無かった。主な測定項目に体脂肪や体重は挙がっておらず、ホルモンの一時点の比を、脂肪が減る量に読み替える手がかりはこの試験には無い。
肥満の人では、事情がさらに違うかもしれない。Maccarioらは、BMIが平均33.2の肥満の6人に、体重1 kgあたり0.5 gのアルギニンを30分かけて点滴する検査を行った[5]。この論文は、肥満の人ではアルギニンに対する成長ホルモンの反応が低いことを前提に置き、ドーパミンに働く薬を一緒に使っても、その低い反応は改善しなかったと報告している[5]。
点滴の検査と、口から飲むサプリは別物である。それでも、「アルギニン、成長ホルモン、脂肪の減少」という三段の話は、肥満の人では最初の段から細くなっている可能性がある。成長ホルモンそのものを補った試験は、「成長ホルモンは大人の内臓脂肪を減らすのか 補充の試験が示した範囲」の記事で扱っている。
数字で読むアルギニンとシトルリン
−2.97 cm:8本の無作為化比較試験を統合した、アルギニンを飲んだ群と比べる群の腹囲の差(重み付き平均)。95%信頼区間は−4.75〜−1.18 cmだった[2]。
−0.57 kg:同じ統合での、体重の群の差。信頼区間は−1.77〜0.61 kgで、0をまたいだ[2]。
0.5%:過体重の成人32人が1日4.5 gを4週間飲んだ交差試験で、血液の代謝物全体のばらつきのうち、アルギニンの効果が説明した割合。大部分は脂っこい負荷の食事が説明した[12]。
193%:健康な若い男性30人が10 gを1回飲んだ24時間後の成長ホルモンの、偽薬を飲んだときに比べて高かった幅[16]。
83人と80人:アルギニンの体内での作られ方を比べた横断研究の人数。順にBMI30未満の群、BMI30を超える群である[3]。
読んだ分のカロリーは、石の上で返せる。
1
2






