授乳は母の体重を戻すのか 長期の減量と産後3か月の逆向きの結果を確かめる

授乳をしているのに体重が戻らないとき、何を手がかりに考えればよいのか。長く授乳した母親の追跡、産後早期に異なる結果が出た観察研究、授乳を続けにくい条件を整理する。子どもの肥満を調べたメタ分析と母親の減量を区別し、体重だけで授乳の成否を判断しない見方を示す。

夜中の授乳を終え、ようやく自分の食事に手を伸ばす。「母乳なら自然に痩せる」と聞いていたのに、体重は思うように動かない。赤ちゃんに飲ませる日々の疲れと、減量への期待が重なると、食べることにもためらいが生まれる。そんなとき、体重の停滞を授乳の成績のように受け取ってしまうかもしれない。

授乳にはエネルギーを使う側面がある。しかし母親の産後の減量を扱ったレビューは、授乳と体重減少の関連が見つかる研究と、有意な関連が見つからない研究の両方を挙げている。生理的にエネルギーが必要なことと、暮らしの中で体重がどれだけ減るかは、そのまま同じ答えにはならない。[5]

産後の運動や食事支援全般は、既存記事「産後の体重と運動、安全に戻すには何が必要か 授乳と食事支援を論文で読む」に譲る。ここで確かめたいのは、授乳そのものにどれほどの体重変化を期待できるかだ。長い経過を追った研究と産後早期の研究を、測った時期まで含めて見ていく。

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授乳のエネルギー消費は、減量の約束になるか

母乳をつくることに伴うエネルギーの負担は、母親の総エネルギー消費に関わる。2019年のレビューは、それがエネルギー収支を消費側へ傾け、体重減少につながる可能性を説明している。一方で結論は慎重であり、信頼できる答えには、より頑健な設計の研究が必要だとしている。[5]

このレビューが出発点に置くのは、産後に残る体重が、その後の過体重や肥満の可能性と関わるという課題だ。母親の健康を考えるために体重を調べる意義と、授乳による減量の確かさは、それぞれ評価されている。授乳に伴う代謝の経路や関係する条件も検討されており、単に母乳を与えたかどうかだけで説明を終えていない。[5]

過体重や肥満の女性の栄養を扱う2022年のレビューは、妊娠前を栄養状態を整える重要な時期と位置づけている。良好な栄養状態は母親と子どもの双方に関わり、妊娠前と産後の減量は臨床で扱われる課題とされる。その一方、授乳を成功させるうえでも健康的な食事パターンが中心にある。体重と栄養を一緒に扱うのが、このレビューの立て方である。[3]

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長く授乳した母親では、いつ体重が動いたか

1993年の追跡研究は、授乳期間が12か月以上の母親46人と、3か月以下の母親39人を、条件を対応させた集団として比較した。母親の体重と上腕の皮下脂肪の厚さを、産後24か月まで測っている。授乳を長く続けた人の経過を、出産直後の印象だけでなく、時間の流れの中で捉えた研究だ。[19]

産後1か月から12か月までの体重減少は、長く授乳した群で4.4kg、短い群で2.4kgだった。群間には統計的に有意な差があり、その違いは主に産後3〜6か月の減り方によっていた。少なくともこの集団では、授乳期間の違いに伴う減量の差は、出産後のどの時期にも均等に現れたわけではなかった。[19]

体重以外にも違いがあった。上腕三頭筋の部位で測った皮下脂肪の厚さは、長く授乳した群では0.4mm減り、短い群では2.4mm増えていた。体重計の数字に加え、決まった部位の脂肪の厚さも調べた点に意味がある。測定場所は上腕三頭筋の部位であり、体重とは異なる単位で皮下脂肪の変化を追っている。[19]

長く授乳した群の中では、産後6〜12か月の体重減少と、授乳の頻度や授乳に使う総時間にも関連があった。研究では授乳頻度と母乳として出るエネルギー量を、産後18か月まで3か月ごとに調べている。体重だけを追跡の終わりに尋ねた比較とは異なり、授乳に関する測定も経過に沿って重ねた構成だった。[19]

また、産後12〜24か月の母親の体重は、どちらの群でも有意に変わらなかった。追跡の後半には体重の変化が落ち着いていた。産後の今がどの時期に当たるのかを添えるだけで、研究の数字は「必ず戻る体重」の約束から、経過を考えるための情報に変わる。[19]

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産後早期には、完全母乳の群で残る体重が多かった

長期の追跡とは違う方向の結果もある。タスマニアの母子175組を対象にした観察研究は、完全母乳の群と、完全母乳以外の群について、出産時、産後3か月、6か月の体格や体組成を調べた。授乳方法は自己申告で集められており、無作為に授乳方法を決めた比較ではない。[7]

産後3か月の母親で、妊娠前から残っている体重は、完全母乳以外の群が平均0.68kg、完全母乳の群が4.55kgだった。この比較では完全母乳以外の群のほうが少なく、群間の違いには統計的な有意性があった。「完全母乳なら早く体重が戻る」という単純な期待と、逆向きの観察である。[7]

この研究では妊娠中から産後の母親の体格の推移にも群間差があり、出産時に外科的・医療的介入を受けた母親は完全母乳になりにくかった。正常な体格指数の母親では、肥満の母親に比べて完全母乳以外の割合が高い傾向も報告されている。体格と出産時の介入を含め、授乳方法ごとの背景を調べた結果である。[7]

この論文の結論は、授乳の継続が産後の母親の体重減少に寄与しうると述べているが、産後3か月の数字では完全母乳以外の群の体重保持が小さかった。継続による長い経過への期待と、早期の群間比較で得られた結果が、一つの研究の中に併存している。[7]

比較の時期をそろえるなら、「出産から今まで」と「妊娠前から今まで」も分けて考えたい。前者は産後にどれほど動いたかを見る問いであり、後者は妊娠前に対してどれほど残っているかを見る問いになる。長期追跡の減少量と、早期観察の残った量は、数字が同じ単位でも出発点が違う。友人と体重の話をする場面でも、その出発点を聞かずに大小だけを比べると、研究の読み違えと似たことが起きる。[7][19]

タスマニアの研究の参加条件は、18歳以上で、単胎の妊娠を経験し、英語を話して理解できる母親だった。赤ちゃんは在胎37週0日から41週6日の範囲に絞られている。参加者は2017年9月から2019年10月に対面で募集された。こうした条件の母子を対象に、出産時から産後6か月までを追った比較である。[7]

この母子の観察では、母親だけでなく赤ちゃんの体組成も評価した。産後6か月の赤ちゃんの除脂肪量は、完全母乳以外の群で5.59kg、完全母乳の群で5.33kgとなり、有意な差があった。出生時の平均はそれぞれ2.89kgと3.01kgで、大小の順序が逆だった。母親の残った体重と、赤ちゃんの体組成を別々に測ることで、母子それぞれの経過を記述している。[7]

数字で読む授乳と母親の体重

46人と39人:長期授乳群と短期授乳群の人数。大規模な無作為化試験の数字とは性質が違う。[19]

4.4kgと2.4kg:産後1〜12か月の体重減少。長期授乳群と短期授乳群のそれぞれの平均である。[19]

175組:完全母乳かどうかで母子の経過を比べた観察研究の対象である。[7]

0.68kgと4.55kg:産後3か月に残った体重。完全母乳以外の群、完全母乳の群の順である。[7]

170人:産後の授乳方法と体組成を調べた、別の非無作為のコホート研究の母親の人数である。[13]

体重が減っても、脂肪だけが減ったとは限らない

メキシコの母親170人を調べた非無作為のコホート研究は、母乳のみの群74人、母乳を一部使う群57人、母乳代替品を使う群39人に分け、産後8週と16週の体格や体組成を比較した。一定期間の変化と、授乳方法による違いを見ようとした研究である。[13]

母乳のみの群では、この期間に体重、体格指数、腰回りの周囲長などが有意に減少していた。一方で、脂肪を除いた体の部分を表す除脂肪量も減っていた。体重の低下という結果の中に、脂肪以外の変化が含まれている点を落とすと、実際より都合のよい説明になる。[13]

上腕の脂肪面積と上腕三頭筋の皮下脂肪の厚さは、母乳のみの群で他の群より低い傾向があった。この傾向は産後8週と16週の両方で見られた。一方、上腕の周囲長、上腕全体の面積と、それらを標準化した値は、授乳方法の3群すべてで増えていた。測定部位と指標によって、変化の方向も異なっている。[13]

とくに「除脂肪量」をそのまま「筋肉」と呼ぶと、測ったものを狭く言い換えてしまう。ここで分かるのは、減った体重の中身を脂肪だけに限定できないことだ。研究で測定した中心は体格と体組成であり、筋力の測定や運動の介入は含まれていない。体重、周囲長、体組成をそれぞれ別の指標として受け取ると、減量という一語の中身が見える。[13]

母乳のみの群で変化があったという結果は、授乳中にさらに食事を削ればよいという指示にも直結しない。過体重や肥満の女性の妊娠・授乳期の栄養を扱ったレビューは、授乳中の不健康な減量が母親に悪影響をもたらし、子どもにも影響しうると注意している。減った量を競うより、健康的な栄養の取り方と一緒に評価する視点が要る。[3]

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宮川涼 Founder

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