VRで体を動かすと、普通の運動より消費カロリーは増えるのか。仮想の対戦相手による出力の変化、青少年の体脂肪を調べた比較試験、高齢者や患者の身体機能の研究をたどる。没入感、続けやすさ、減量を分けて考え、自宅で使う前に確かめたい研究の条件と、自分に合う運動の選び方を示す。
対戦相手は画面の中にいる。それでも、追い抜かれると脚に力が入る。高齢者を対象にした小さな実験では、仮想の競争相手を加えると、競争心の強い参加者ほど自転車をこぐ出力が増えた。相手が実在するかどうかと、こちらが頑張るかどうかは、別の話らしい。[16]
ただし、脚に力が入ったことから、そのまま「普通の運動より痩せる」までは進めない。過剰体重の青少年を対象にした比較試験では、仮想空間で行うスポーツによって対照群より体脂肪量が減ったが、現実のスポーツとの有意差はなかった。仮想現実を表すVRという言葉の新しさより、何を、誰が、何と比べて行ったかが答えを左右する。[8]

VRの研究は、ゴーグルの運動だけを指していない
VR運動と聞くと、頭に機器を着けて別世界へ入る姿を思い浮かべるかもしれない。しかし研究の範囲は広い。がんに関連する機能障害を扱ったスコーピングレビュー、つまり研究領域を広く整理した論文では、対象となった25研究のうち22研究が非没入型だった。仮想空間に視界を囲まれる形式だけでなく、画面と体の動きを組み合わせる運動も含まれていた。[6]
同レビューに含まれた没入型は2研究、現実の景色に情報を重ねる拡張現実は1研究だった。したがって、画面を見ながら行うリハビリテーションの成果を、家庭でゴーグルを使う運動へ無条件に移すことはできない。「VRが効いた」と短く伝わると、実際に用いられた仕組みが見えなくなる。[6]
ここで確かめたいのは、画面の精細さより体の仕事である。自転車をこぐ運動なのか、立った姿勢で重心を移す練習なのか、腕を動かす課題なのか。同じVRという呼び名でも、測る対象は違う。自転車の実験は出力、脳卒中後の研究は腕の運動機能や歩行を評価しており、同じ単位で成績を並べられない。[4][7][16]
既存のエクサゲーム記事は、体を動かすゲーム全般の活動量と体重を扱った。ここでは、その中でも仮想の相手や環境が加わると何が変わるかに焦点を絞る。たとえば競争相手を表示して頑張りを引き出す工夫と、運動の指導を仮想空間で行う工夫は、どちらもVRを使うが問いが異なる。[8][16]
購入を考える場面でも、この違いは役立つ。「VR対応」という表示だけで判断する代わりに、自分が体をどう動かすのかを言葉にしてみる。研究を選ぶときも同じである。医療者とともに行う身体機能の練習を探しているのか、家庭でスポーツを楽しむ入口を探しているのかで、参考になる対象者や評価項目は変わる。[6][8]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
仮想のライバルで出力は変わるが、万人共通の反応ではない
高齢者14人を対象にした実験では、参加者がVRを組み合わせた固定式自転車の操作を学び、通常のこぎ方を確認した後に、競争するアバターを導入した。アバターとは、仮想空間に表示される人物の姿である。研究者は事前に競争心を評価し、こぐ出力をワットで測定した。[16]
競争心の高低と、アバター導入前後との組み合わせで出力の変化に有意な違いがあり、競争心の強い参加者で努力が増えた。報告された交互作用の検定はP=0.003である。交互作用とは、ある工夫の作用が人の特徴によって変わることを指す。この実験では、相手を表示すれば誰でも一様に頑張る、という結果ではなかった。[16]
ここで測ったのは、その場でペダルに加える仕事の大きさである。何か月も運動を続けた後の体重差を比べた研究ではない。また、結果から家庭用の運動について「毎回これだけの消費カロリーが上乗せされる」と換算する材料も得られない。出力に変化があったという事実と、減量量の予測とは、間にまだ調べる段階がある。[16]
この読み方を暮らしに移すなら、競争を好む自分かどうかに目を向けたい。点数を追いかけることが楽しみになる人は、仮想の相手を使う工夫に関心を持てる。一方、相手を気にせず自分の動きに集中したい人が、同じ表示を選ぶ理由は薄い。小規模な実験が示したのは、機器の勝利より、人と仕掛けの相性だった。[16]
画面上の順位は分かりやすい。昨日より上がったかどうかも、すぐ見える。しかし、この順位と体脂肪量は研究上の別の評価項目である。競争の実験を読むときは出力の話として受け止め、体脂肪の話を知りたいときは体脂肪を実際に測った試験へ進む。この順序なら、楽しみを小さく見積もらずに、期待の行き先を整えられる。[8][16]
体脂肪を調べた試験では、現実のスポーツとも比べている
過剰体重の青少年227人を対象にしたランダム化比較試験では、参加者を現実の卓球、現実のサッカー、それぞれに対応するVRスポーツ、対照群に無作為に割り付けた。介入は8週間で、VR側には運動の指導を行う仮想のコーチを組み込んだ専用システムを用いた。単に映像を見る試験ではなく、スポーツの動作を行うプログラムだった。[8]
主な評価項目である体脂肪量は、VRスポーツ群で対照群より平均4.28 kg少なくなった。95%信頼区間は−6.35〜−2.22 kgである。信頼区間は、推定値にどの程度の幅があるかを示す。平均値だけを取り出すより、この幅も一緒に見るほうが、研究の結果を過度に細かく決めつけずに済む。[8]
現実のスポーツ群でも、対照群との差は平均−5.06 kg、95%信頼区間は−7.13〜−2.98 kgだった。そして、VRスポーツと現実のスポーツの間に統計的な有意差はなかった。VRの平均値と現実の平均値を見比べて、どちらが勝ったと順位をつける読み方は適切でない。試験が支持したのは、この対象とプログラムでVRスポーツにも体脂肪量の改善があったことである。[8]
逆に、有意差がなかったことを「完全に同じ効果が証明された」と言い換えるのも行き過ぎる。差を検出できなかったという結果は、あらゆる条件で同等という保証にはならない。家庭用の別の運動や、大人が自分で選んで行う場合まで同じ結果になるかは、この試験からは決められない。対象は青少年で、使ったのは研究用の指導システムだった。[8]
体力、心理的な健康、スポーツへの意欲も介入後に改善し、VR群ではこれらの改善が6か月後の追跡でも維持された。ただし、この記述を「脂肪が減り続けた」「体脂肪量の差もそのまま続いた」と読み替えない。長く残ったと報告された評価項目を、その名前のまま受け取ることが大切である。[8]
この結果に魅力を感じたときこそ、広告の数字と自分の条件を照らし合わせたい。体脂肪量なのか体重なのか、対照群との差なのか参加者自身の変化なのか、青少年なのか成人なのか。そこを省くと、同じ「減った」という言葉が別の約束になってしまう。研究の数字は、対象者と比較条件を連れて初めて使える。[8]
安全性の報告も、効果と同じように対象と条件を伴って読む。青少年の試験では、軽微なけがの割合はVRスポーツで7.69%、現実のスポーツで13.48%と報告され、重い有害事象はなかった。ただし、この割合の大小だけから、どの家庭用運動でもVRのほうが安全だと結論づけることはできない。専用のプログラムのもとで得られた報告だからである。[8]
がんに関連する機能障害のレビューでは、満足度を報告した8研究のうち1研究が、有害事象として軽い気分不良を報告していた。この「1研究」を「参加者のうち1人」と取り違えないことも大切だ。研究の件数と、人の割合は別の分母である。良い結果だけを並べるより、どこまで安全性の情報が集まっているかも合わせて見るほうが、使う前の判断に役立つ。[6]
機器の楽しさを期待することと、不調を軽視することを一緒にしなくてよい。医療の対象となる症状や運動の制限がある場合は医師に確認する。そのうえで、自分に合う運動の候補として考えるのがよい。
数字で読むVR運動
14人:仮想の競争相手と自転車の出力を調べた高齢者の実験の参加者数である。[16]
227人・8週間:体脂肪量を評価した青少年のランダム化比較試験の規模と介入期間である。[8]
−4.28 kg:同試験のVRスポーツ群における対照群との体脂肪量の差で、95%信頼区間は−6.35〜−2.22 kgだった。[8]
56試験・2,927人:健康な高齢者の歩行能力などを調べたメタ分析の規模である。[2]
23.49 m:慢性閉塞性肺疾患のリハビリテーションで認めた歩行距離の平均差で、論文が置いた臨床的に重要な差の26 mには届かなかった。[13]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
1
2






