警察官は本当に鍛えているのか。体力試験が予測するもの、訓練校の伸び方、訓練生と現職の差、12年の代謝症候群、ストレスの5年、夜勤に適応しやすい人としにくい人の研究を読み、体重と体力が仕事の条件の中でどう動くかを確かめる。責める話ではなく、働く人に共通する条件の話として読む記事。
交番の前を通りかかると、制服の警察官が立っている。肩幅に目が行き、「鍛えている人たちだ」と思いながら、買い物袋を持ち直して通り過ぎる。
この「鍛えている」という言葉には、いつの話かが抜けている。訓練校に入るときの話なのか、訓練校を出るときの話なのか、現場に出て十数年たった話なのか。論文を読むと、同じ職業の中に、数字のかなり違う何人もの警察官がいる。
体力という一語も広い。走る力、腕立て伏せの回数、脂肪の量、血液の中の脂質まで、一緒に語られがちだ。警察官は仕事に必要な体力を検査で測られる職業で[9]、座っている時間の合間に、急に体を使う場面が挟まる[3]。交替勤務とストレスも加わる。読者の勤め先に似た条件が、この職業には一通りそろっている。

入り口の体力は、一般の人より高いことが多い
「鍛えている」の半分は当たっている。59本の論文をまとめた系統的レビューは、警察官の体力は一般の人と同じか、それより上の値を示すことが多いと整理した。もっとも、持久力の多くは直接の測定ではなく、間接的な推定である[9]。
カナダのケベック州で2004〜2017年に採用の体力検査を受けた7,234人の記録からは、最大酸素摂取量(体が使える酸素の上限で、持久力の指標)の推定値が、男性で平均53.3、女性で平均43.8 ml/分/kgと出た。単位は体重1 kgあたりの値である。著者は、北米の同業者よりかなり高いと書いている。14年の間に、ごくわずかに上向く傾向も見られた[7]。
ここで確かめておきたいのは、数字の主語である。この7,234人は、警察官になろうとして検査を受けた人たちだった。男性は全体の7割で、女性が3割である[7]。入り口を通ろうとする人の体力が高いことは、職業の入り口に検査があることの結果でもある。現場に出て何年もたった人の数字は、ここからは分からない。
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
体力試験は、訓練校を出られるかをどこまで予測するか
なぜ入り口で測るのか。マサチューセッツ州の訓練校に2015〜16年に入った人を、卒業か脱落まで前向きに追った研究がある。卒業した人は平均して体が引き締まり、体力全般も高かった。年齢、性別、BMIで調整しても差は残り、卒業できないオッズ比は、1.5マイル走が15分20秒より遅い人で18.4(10分37秒〜12分33秒の人に対して・95%信頼区間6.8〜50.2)、腹筋運動が15回以下の人で9.6(41〜60回の人に対して・同3.5〜26.3)、腕立て伏せが20回以下の人で6.7(41〜60回の人に対して・同2.5〜17.5)だった。この結果は、過去の研究で示された入校時の最低の目安と目標の目安を支持している[4]。
別の訓練校の結果は、これほどはっきりしない。男性151人、女性42人の研究では、全ての種目で平均を下回る人が多数派で、どの種目も単独では卒業を予測できなかった。性別、年齢、腕立て伏せ、懸垂を合わせても、説明できたのは卒業のばらつきの18%である。男性は懸垂、腹筋運動、柔軟性を除く種目で女性を上回り、卒業のしやすさも4.68倍だった。著者は、女性は入校前の訓練で得るものが大きいかもしれないとした[1]。
二つを並べると、走る力や回数が低い人に卒業の壁があることと、一つの種目では将来を言い当てられないことは両立する。18.4という数字も、幅の広い信頼区間の中の値であり、何倍も卒業しにくいとそのまま読むものではない。卒業できない理由には学業やけがも含まれうるので、体力の不足だけが原因だと決めることもできない。

訓練校で伸びる体力には、順番と止まる時期がある
入り口の次は訓練校である。16週の訓練校の研究は、週3日、1回1時間の運動を続け、55人が8週目と16週目の検査まで受けた。腹筋運動、腕立て伏せ、すばやさ、下半身のパワーなどは最初の8週で向上したが、後半の8週で有意に変わった項目は一つも無かった。走る検査の向上が統計に表れたのは16週を通した比較のほうで、持久力は回数より遅れて動いたようにも見える。体脂肪率や皮下脂肪の厚さも測られていたものの、有意に変わった項目には挙がっていない。著者は、8週を過ぎた後の訓練の中身を変える余地があるとしている[17]。
もう一つ、読者に関係のある結果がある。10期715人の記録を調べた研究では、入校時の体力が低い人ほど、訓練の間の伸びが大きかった。著者は、上の人が天井に近かった可能性のほか、体力の高い人に訓練の負荷が足りなかった可能性を挙げている[3]。
体力が低いことは、伸びる余地が大きいことでもある。訓練校の話ではあるが、運動を始めるのが遅かったと感じている人には、覚えておいてよい数字の向きだろう。
現職の体力差は、年齢だけでは説明しきれない
では現場に出た後はどうか。ある警察の訓練生84人と現職80人を比べた研究がある。男性の平均年齢は、順に27.96歳、39.43歳だった。男性の脂肪量は現職のほうが多かったが、この差は年齢の差で説明された。ところが持久力と筋持久力は訓練生のほうが高く、その差は年齢では説明されなかった。瞬発的な力の差は、年齢で一部だけ説明された。女性でも、現職は7人と少ないものの、上半身の筋力と筋持久力は訓練生が高く、年齢とは関係なく差が残っている[19]。
世間の感覚とは逆向きの結果である。お腹まわりの変化は仕事から、体力の低下は年齢から来ると考えたくなるが、この研究では脂肪の差が年齢で説明され、体力の差が説明されなかった。著者は、現職の体力の低さは加齢より警察官という仕事の側で説明されるのかもしれないとして、現職向けの正式な運動の仕組みが要ると述べた[19]。自分に引き寄せるなら、問いは何歳になったかではなく、いまの仕事の一日のどこに体を使う時間が残っているかになる。
注意点もある。これは別々の人を比べた研究で、同じ人を追ったものではない。訓練生の時に高かった人が、どう下がったのかは見ていない。訓練中の人の数字が高いのは当然とも言える。
下がらなかった集団もある。特殊部隊の47人を13か月の間隔で2回測った研究では、体重に有意な差は無く、20 mのシャトルランの回数は平均72.62回から77.51回へ増えた。著者は、任務の負担があっても高い体力の基準は維持でき、向上もできると書いた[6]。特殊部隊は体力の要求がもともと高い集団で、一般の警察官には当てはめられないが、仕事に就いた後に必ず下がるわけではないことは示している。
現職の警察官に運動の時間を設けて効果を測った試験は、集めた論文の中に無かった。レビューも現職向けの介入の研究が要ると書いている[9]。職場の仕組みがどれほど効くのかは、まだ答えが出ていない。
12年の追跡で、新たに当てはまる人が最も多かったのは腹囲
体重の話に近い数字は、代謝症候群(腹囲、血圧、血糖、血液の脂質の異常が重なる状態)の研究にある。警察官を開始時と7年後、12年後に調べた研究では、新たに代謝症候群になった人の割合は、7年でも12年でも2割ほどだった。項目ごとに見ると、新たに当てはまる人が最も多かったのは腹部の肥満で、最も少なかったのは善玉コレステロールの低下である。血糖の異常が新たに起きる危険は、7年の時点で男性が女性の2倍だった。12年の時点の男女差は分からないので、女性は安心だと読むのは早い[18]。
この数字を「警察官は不健康だ」と読むことはできない。論文の要約に、一般の人との比較は出てこない。測られているのは同じ職業の中の変化で、12年の間に人は年も取る。分かるのは、長く働く間に新たに当てはまりやすい項目は腹囲らしいということである。体重そのものを長く追った数字は、ここで読んだ範囲には少ない。
数字で読む警察官の体
12.4 kgと15.1 kg:脂肪量の平均。順に男性の訓練生、男性の現職の値で、この差は年齢の差で説明された[19]。
88.84 kgと89.24 kg:特殊部隊の47人の体重の平均。順に初回と13か月後の値で、有意な差は無かった[6]。
51.06と52.56 ml/分/kg:同じ47人の推定の最大酸素摂取量の平均。順に初回と13か月後の値で、差は小さいが有意だった[6]。
0.8、0.7、0.5:血液のインターロイキン6の調整平均を対数で表した値。順に夜勤に適応しにくい人、適応している人、日勤の人の値[2]。
20.4%と22.2%:開始時から新たに代謝症候群になった警察官の割合。順に7年の追跡(276人)、12年の追跡(191人)の値[18]。
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
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