残業と体重の関係を12万人のデータで見る 時間の長さは小さく一貫、ストレスは測り方しだい

週55時間以上働く人は、標準の体重から過体重へ移る危険がわずかに高かった。12万人の個人データの分析、働く時間と肥満の用量反応、45〜50歳の女性の研究、残業と夕食の時刻の相関、仕事の緊張と腹囲の研究を数字で確かめ、働き方を変えられない人にもできることを示す。

1.17。週に55時間以上働く人が、平均4.4年のうちに標準の体重から過体重以上へ移る危険を、週35〜40時間の人と比べた値である[2]。欧州、米国、オーストラリアの19のコホート研究から、122,078人の一人一人のデータを集めて重ねた分析から出ている[2]。

残業が続くと太る、という話はよく聞く。だが、この数字を出した論文自身は、結論を「小さな」上乗せの危険と書いている[2]。長く働く人で過体重が少し多いことは見られたが、その差は、よく聞く言い方から想像するほど大きくはない。そして、標準の体重の人が過体重になる入口と、すでに肥満のある人のその後とでは、結びつき方が違っていた[2]。

働く時間の長さと、仕事の緊張、つまり仕事のストレスは、同じ職場の話でも研究の答えがかなり違う。だから2つを分けて読む。夜勤のある働き方は「夜勤・交代勤務と体重の科学 食べ過ぎだけでは説明できない肥満リスクを読む」の記事に、家で働く日の食べ方は「在宅勤務で太るのか テレワークの調理・欠食と体重を読む、家で働く日の食べ方」の記事に、会社の健康づくりの取り組みは「職場の健康プログラムとダイエット 体重が変わる支援と参加するだけの違い」の記事に譲る。

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働く時間が長い群ほど、過体重への移り方が少しずつ増えた

冒頭の分析を詳しく見る。2020年に発表されたこの研究は、19のコホート研究の個人のデータを、ランダム効果モデルという統計の手順でまとめたメタ分析である[2]。働く時間は始めの時点で一度測り、週35時間未満の短時間、週35〜40時間の標準(比べる基準)、41〜48時間、49〜54時間、55時間以上の長時間、の5つに分けた[2]。

結果として見たのは4つだった[2]。始めに過体重でも肥満でもなかった人が、過体重以上になったか(BMIが25以上)、あるいは過体重(BMI25〜29.9)になったか。始めに過体重だった人が肥満(BMI30以上)になったか。始めに肥満だった人が体重を減らせたか、である[2]。

始めに過体重でも肥満でもなかった61,143人のうち、追跡のあいだに過体重以上になったのは20.2%だった[2]。年齢、性別、社会経済的な地位をそろえて比べると、標準の週35〜40時間に対する相対危険は、短時間で0.95(95%信頼区間0.90〜1.00)、41〜48時間で1.07(同1.02〜1.12)、49〜54時間で1.09(同1.03〜1.16)、55時間以上で1.17(同1.08〜1.27)だった[2]。相対危険とは、ある群で出来事の起きる割合を、基準の群の割合で割った倍率で、1より大きければ起きやすいことを表す。

働く時間が長い群ほど、倍率は少しずつ上がっていた。働く時間とともに危険が上がる傾向は統計的にはっきりしていて、ほかの条件を加えて調整しても、部分集団に分けて見ても、結果はよく似ていた[2]。短時間の群はわずかに低い向きだったが、信頼区間の上の端が1.00に届いており、はっきり低いとまでは言えない。

もう一つの結果が、この研究の読みどころである。長時間労働が結びついていたのは、標準の体重から過体重への移行で、過体重から肥満への移行ではなかった[2]。始めに肥満だった人が体重を減らせるかどうかとも、長時間労働は結びつかなかった[2]。長く働くことが重なって見えたのは、太り始める入口のところだった。

読むときの前提も押さえておく。追跡は平均4.4年で、働く時間は始めに一度測っただけである[2]。途中で部署が変わり、残業が増えたり減ったりしても、この分析には映らない。それでも、12万人を超える規模で、働く時間の段階に沿って危険が少しずつ上がる形が出た。長く働く人ほど過体重が少し増えるという結びつきに、控えめだがはっきりした数字が付いたことになる。

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働く時間と肥満の危険は、まっすぐではなくJの字を描いた

働く時間と肥満の関係を、別の集め方で確かめたメタ分析もある。2021年2月26日までに発表された観察研究10本、独立した20の報告、合わせて189,590人を集めた研究だ[8]。この分析は、比べる基準を週40時間以下の群でそろえ、肥満の線引きも統一したうえで結果を重ねている[8]。

長時間労働と肥満の危険の結びつきを、調整したオッズ比で表すと1.13(95%信頼区間1.01〜1.26)だった[8]。オッズ比は、ある群とない群で出来事の起きやすさを比べた値で、1より大きいほど起きやすい。どれか1本の研究を外して計算し直しても、まとめた結果は変わらなかった[8]。

働く時間の長さと肥満の危険の形を、なめらかな曲線で調べると、Jの字の形の関係が見つかった[8]。まっすぐな比例ではなく、ある長さまでは低いまま進み、その先で曲線が上へ折れていく形である。著者らは、長く働く人ほど肥満になりやすいとまとめ、結果を確かめる研究と、働き方の適切な組み立てが要ると述べている[8]。

それ以前の研究を整理した系統的レビューも同じ向きを示していた。2012年9月までに出た原著論文39本を集めたもので、長時間労働を調べた研究のおよそ70%が、体重にかかわる結果との正の結びつきを報告していた[12]。残業と体重の増加を調べた4本(縦断研究3本と横断研究1本)は、どれも男性で正の結びつきを示し、そのうち2本は女性でも結びつきを見ていた[12]。著者らは、長時間労働、残業と体重の増加のあいだに、特に男性で結びつきが見られたとまとめている[12]。

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45〜50歳の女性では、体重が大きく増えた人で差が開いた

この記事の読者に近い年代の研究がある。オーストラリアの女性の健康を長く追う調査から、1996年と1998年の両方に答えた45〜50歳の女性9,276人を対象にしたものだ[1]。対象はオーストラリアの人口を代表する標本として集められていた[1]。

研究者たちは、2年間の体重の変化率を、分位点回帰という方法で調べた[1]。これは、体重の変化の分布を、あまり増えなかった人から大きく増えた人まで並べ、その下の方、真ん中、上の方のそれぞれで、働き方との関係を別々に推し量る方法である。平均だけを見ると見えない、増え方の大きい人たちでの違いを拾える。

働いていない、あるいは失業中の女性は、働いている女性より体重の増え方が小さく、減り方が大きかった[1]。この結びつきは、増え方が小さいから中くらいの範囲で強かった[1]。ただし、失業と体重の変化の結びつきは、健康状態を調整すると統計的に意味を失った[1]。体の具合が仕事に就けるかどうかに関わっていれば、失業と体重の関係は、健康の違いで説明されてしまう。

働いている女性の中では、短時間勤務に比べて、標準(週35〜40時間)、長時間(41〜48時間)、とても長い時間(49時間以上)と、働く時間が長いほど体重の増え方が段階的に大きかった[1]。この結びつきは、全体として体重が大きく増えた女性ほど強かった[1]。

著者らは、働く時間が長いほど、健康に響く大きな体重の増加の側で結びつきが強かったことを重く見ている[1]。そのうえで、女性が長く働くほど、体重の増加と結びつく暮らしの選択をしやすくなるのではないかと推し量っている[1]。これは著者らの解釈で、この研究で暮らしの選択そのものを測ったわけではない。それでも、平均の差は小さくても、増え方の大きい人たちの側で差が開くという形は、12万人の分析で見た「小さな上乗せ」の読み方に一つの層を加える。

残業の長さは、夕食の時刻とも相関していた

残業と体重を結ぶものは何か。手がかりの一つが、管理職でないホワイトカラーの男性を調べた1998年の研究にある[10]。体重、身長、腹囲、皮下脂肪の厚さ、血液の脂質を測り、3年前の体重、身長、腹囲の記録と合わせ、暮らしの様子は質問票で尋ねた[10]。

残業の時間は、3年間のBMIの変化と相関し、相関係数は0.206だった[10]。腹囲の3年の変化とも相関した(0.218)[10]。相関係数は、2つの量がそろって動く度合いを−1から1で表す値で、著者ら自身もこの結びつきを弱いと書いている[10]。一方、測った時点の体格や血液の脂質とは、残業の時間は相関しなかった[10]。残業の長さと結びついていたのは、その時点の体の大きさではなく、3年のあいだの増え方だった。

目を引くのは、残業の時間と夕食の時刻のあいだにも、0.436の相関があったことだ[10]。ただし、残業が増えると夕食の時刻がどう変わるかを追って確かめたものではない。著者らは、結びつきは弱いとしながら、残業をする人の食べ方が体格の変化の間に入っている可能性を述べている[10]。

働く時間が変わったときに、何が変わるのかを見た研究もある。カナダの全国の世帯調査で、前の年を通じて週35時間以上働いていた25〜54歳の3,830人(男性2,181人、女性1,649人)を2年追ったものだ[19]。標準の時間から長時間の勤務に移った男性では、健康によくない体重の増加が見られた[19]。たばこは男女とも増え、女性では飲酒も増えた[19]。長く働いた女性は、その後うつを経験する見込みも高かった[19]。身体活動については、働く時間の変化との結びつきは見つからなかった[19]。

身体活動に結びつきが見られなかったことからは、長時間労働と体重の結びつきを、運動の時間の減り方だけで説明できるとは限らない、と読める。夕食の時刻[10]や、たばこと酒の量[19]のように、働く時間と一緒に動いていた暮らしの要素はほかにもある。

数字で読む長時間労働と体重

1.17:週55時間以上働く人が、標準の体重から過体重以上へ移る相対危険(週35〜40時間と比べて)。[2]

20.2%:始めに過体重でも肥満でもなかった61,143人のうち、平均4.4年で過体重以上になった人の割合。[2]

1.13:週40時間以下と比べた、長時間労働と肥満の調整オッズ比(10研究・189,590人)。[8]

9,276人:働く時間と2年の体重の変化を調べた、45〜50歳のオーストラリアの女性。[1]

0.436:管理職でないホワイトカラーの男性で、残業の時間と夕食の時刻のあいだに見られた相関係数。[10]

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宮川涼 Founder

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