八王子・高尾山散歩 立川から乗り換えなしで行く「世界一」の山と、首を賭けて守られた森

暖かい森と寒い森の境目、高尾山の生きもの

ケーブルカーを降りて山道に入ると、木の種類が変わることに気づく。高尾登山電鉄の解説によれば、1号路の尾根をはさんで、南斜面にはカシ類などを主体とした暖帯林が、北斜面にはイヌブナなどの落葉樹を主体とした温帯林が広がっている。薬王院も、高尾山の自然が豊かな第一の理由に、暖帯系の常緑広葉樹林と温帯系の落葉広葉樹林の境目にあたることを挙げる。南の森と北の森が、一本の尾根で背中合わせになっているのだ。

だから、植物の数が桁違いに多い。高尾登山電鉄は、高尾山と周辺に生える高等植物は153科1,300種類に及ぶと書く。そのうち、高尾山特有の植物として原記載され、学会に発表された野草は65種類に達するという。すみれだけでも、周辺で約40種類が確認されている。よく見られるのはそのうち15種類ぐらいだというから、残りの25種類は、よほど目のいい人にしか会ってくれない。

ブナの話がおもしろい。同社によれば、ブナは関東地方では深山でなければ自生せず、東北地方の低い山でようやく見られるほどの木だ。それが高尾山では、容易に見ることができる。ケーブルカーの山上駅の広場北側から4号路の吊り橋付近までがイヌブナの自然林で、高尾山でもここだけ、周辺の山々では見ることができないという。東北の木が、東京の山の北斜面にひっそり残っている。立川から乗り換えなしで行ける山で、ちょっとした北国の森を歩けるわけだ。

動物も多い。高尾登山電鉄の一覧には、タヌキ、ムササビ、リス、イタチ、フクロウが並ぶ。春の鳥にはオオルリ、キビタキ、サンショウクイ、夏はアカショウビン、ホトトギス、ヨタカ。冬にはルリビタキやミソサザイ。チョウには、何百キロもの旅をすることで知られるアサギマダラの名もある。セミの一覧にはエゾセミからミンミンゼミまで8種類が並ぶ。夏に高尾山で鳴き声を聞き分けられたら、もう立派な通だ。私は今のところ、ミンミンゼミとそれ以外、の2種類にしか分けられない。

中でも高尾山の顔になっているのがムササビだ。八王子市の日本遺産の資料によれば、江戸時代に千人同心の組頭が編んだ地誌『武蔵名勝図会』には、すでに高尾山のムササビが描かれている。いまも観察会が開かれ、日没後や日の出前に、薬王院の周りなどで、巣穴から顔を出す様子や木々の間を滑空する姿を見ることができるという。200年前の地誌に描かれた動物と、同じ森で今も会える。首を賭けて守られた森は、ちゃんと住人を守り続けてきた。

植物の採取や動物の捕獲は、もちろんできない。高尾山は国定公園で、高尾登山電鉄は全山で焚き火が禁止されていることも念を押している。見るだけ。持ち帰るのは写真と、筋肉痛だけでいい。

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展望台から立川が見える、高尾山と立川の縁

ケーブルカーの高尾山駅のそばに展望台がある。高尾登山電鉄の解説を読んで、一行に目が止まった。北には奥秩父連山や日光連山、北東には関東平野の向こうに筑波山。そして、八王子・立川の市街地、高層ビル群、横浜ランドマークタワーや東京タワーまで一望できる、と書いてある。

高尾山の金比羅台から見た夕暮れの八王子の市街地。遠くに都心の高層ビルがかすむ。
高尾山の金比羅台から見た夕暮れの八王子の市街地。遠くに都心の高層ビルがかすむ。
写真: Tobihino1977 / CC0 / Wikimedia Commons

立川が、ちゃんと名指しで見えることになっている。ふだん駅前のビルの間を歩いている街を、599メートルの山の中腹から見下ろす。立川の人間としては、なかなか悪くない気分だ。夏の夕方には、ここから夜景も楽しめるという。昼に見つけた立川の街が、日が暮れると光の粒になって、平野の中に溶けていく。

高尾山と立川を結ぶ縁は、眺めだけではない。まず、同じ線路だ。立川市の年表によれば、明治22年(1889年)4月に甲武鉄道、いまのJR中央線の新宿と立川の間が開通し、同じ年の8月には立川と八王子の間がつながった。立川駅の先へ線路が延びたことで、八王子、そして高尾の山が、電車で行ける場所になっていった。いまも立川から下りの中央線に乗れば、多摩川を渡り、乗り換えなしで高尾駅に着く。

次に、同じ殿さまだ。高尾山を手厚く守った北条氏照は、八王子城の城主だった。立川市歴史民俗資料館の手引き「中世立川氏と立川氏文書」は、戦国時代の末、立川の地を治めた立川氏が「八王子の北条氏照配下」になっていたと書く。天正18年(1590年)、豊臣秀吉の関東攻めで主家が滅びたとき、立川氏もその憂き目にあった。高尾山に「下草も伐るな」と命じた殿さまは、立川の武士たちの主君でもあったのだ。立川氏と立川の古い寺社の話は、この特集の「普済寺と諏訪神社」の記事でも歩いている。

もうひとつは、絹の縁だ。文化庁の日本遺産の頁によれば、江戸時代、八王子を中心とした絹産業は薬王院への信仰と深く結びつき、養蚕農家は大切な蚕を鼠から守る「蚕守」の護符を薬王院に求めた。参道に並ぶ杉苗奉納の板や石碑には、群馬や埼玉など絹産業と関係の深い人々の名が刻まれているという。立川もまた、養蚕の村だった。立川市によれば、砂川地区には万延元年(1860年)に蚕の神さまである蚕影神社がまつられ、昭和の初めころまで養蚕が農業の中心を占めていた。鼠よけの札を求めた人々の中に、立川の村の誰かがいたかどうかまでは、資料は語らない。けれど、同じ悩みを抱えた村が、高尾の山を見上げる平野のあちこちにあったことは確かだ。

日本遺産「霊気満山 高尾山 ~人々の祈りが紡ぐ桑都物語~」は、令和2年(2020年)に認定された。八王子市の資料は、東京都で初めてかつ唯一の日本遺産だと書く。山の頂から関東平野を見渡すと、北条氏の領地と、八王子を中心とした絹の経済圏と、薬王院の信仰圏が重なり合って見える、と文化庁の頁は結んでいる。その重なりの東の端あたりに、立川がある。

季節の高尾山、立川から日帰りで歩く楽しみ方

高尾山は、季節を変えて何度でも登れる山だ。高尾登山電鉄は、山頂付近からは南に丹沢の山々、天気がよければ富士山の姿もくっきり見え、空気の澄んだ冬には南アルプスを遠く望めると書く。四季それぞれに景色が広がるが、秋の紅葉は格別だという。

冬には、とっておきの見ものがある。12月、冬至の前後に、高尾山の山頂から見ると、夕日が富士山の真上に沈む。いわゆるダイヤモンド富士だ。高尾登山電鉄の案内によれば、日没は16時15分ごろで、見ごろの時間は16時から16時15分ごろ。山頂か、山頂から徒歩約5分のもみじ台が参観の場所になる。ケーブルカーの高尾山駅から山頂までは、徒歩約40分。日が沈んだあとの山道は暗いので、懐中電灯を持ち、1号路を下ってケーブルカーを使うように、と同社は念を押している。期間中はケーブルカーの延長運転があるが、天候が悪いと中止になる。最新の日程は、その年の案内で確かめたい。

山に登る準備について、高尾登山電鉄の「登山ガイド」がやけに親身で、読んでいて楽しい。前の晩の夕食は腹9分目くらいにしっかり食べておく。早く寝ようと意識しすぎると寝つけず、その反動で熱を出すこともある、それを「遠足熱」とも言う、とまで書いてある。いつもの時間に寝て、いつもより少し早く起きればいい、という。鉄道会社に寝かしつけられる日が来るとは思わなかった。ほかにも、雨具は山登りには絶対必要、甘さひかえめの飴より昔ながらの砂糖のかたまりのような飴がよい、と細かい。

道は、体力に合わせて選べる。高尾登山電鉄によれば、山頂まで歩いて登る道は3ルートあり、どれも1時間30分ほどで山頂に達する。6コース設けられた自然研究路には、高尾山特有の動物、植物、昆虫、野鳥の解説板が取り付けてあり、山全体が「自然の野外博物館」になっている。行きはケーブルカーで中腹まで上がり、薬王院にお参りして山頂へ、帰りは別の道を歩いて下る。私のように膝と相談しながら歩く人間には、それくらいがちょうどいい。

春には、薬王院の大きな行事がある。八王子市の日本遺産の資料によれば、毎年3月に開かれる「火渡り祭」は、護摩木を焚いたその上を素足で渡って除災開運を願う行事で、修験者に続いて一般の人も火渡りを体験できる。冷え性の人には魅力的に聞こえるかもしれないが、足湯とはだいぶ趣が違う。

そして、高尾山の楽しみは山を下りてからも続く。高尾山を富士山の「前立ち」とする信仰が、江戸の富士講にはあったと薬王院は書く。江戸から八王子に出て高尾山に参り、小仏峠を越えて富士へ向かう。それが富士講の主な道筋のひとつだった。江戸の人々にとって、高尾山は大きな旅の最初の一歩だった。立川の人間にとっても、高尾山はちょうどいい一歩目になる。行こうと思えば、明日の朝にでも行ける。新宿から中央線で来る人も、川崎から南武線で来る人も、立川で同じ下りの電車に乗り継げば、富士講の一歩目を週末の朝に踏める。

山頂でおにぎりを食べながら、東のかすみの中に立川の街を探す。見つかったら、さっき乗ってきた線路をたどって、同じ電車で帰ればいい。高尾山の森は、首を賭けて、祈りを重ねて、守られてきた。その森の空気を胸いっぱいに吸って、私たちは乗り換えなしで家に帰る。

寄り道クイズの答え

答えは(B)首を切る。薬王院が紹介する天正18年(1590年)2月の制札は、竹や木はもちろん、下草であっても刈った者は、一族ともども首を切ると定め、薪は武蔵野へ出て取るよう命じていた。高尾山の森が今も深い理由のひとつである。

訪ねる前に

  • 立川駅からの行き方: JR中央線の下りで高尾駅まで乗り換えなし(立川から日野、豊田、八王子、西八王子の次)。高尾駅で京王高尾線に乗り換え、隣の高尾山口駅で降りる。ケーブルカーの清滝駅とリフトの山麓駅は、高尾山口駅から徒歩約5分(高尾登山電鉄による)。所要時間は列車によって変わるので、乗る前に時刻表で確かめてほしい。多摩モノレールで高幡不動へ出て京王線に乗り継ぐ道もある(この特集の多摩モノレールの記事で紹介した高幡不動駅)。
  • 都心・神奈川から: 立川までは、新宿からJR中央線快速で30分台、川崎からはJR南武線で乗り換えなしの約1時間。立川で高尾行きの下りに乗り継ぐ。
  • ケーブルカー・リフト: 高尾登山電鉄 https://www.takaotozan.co.jp/ (運賃・運行時間・ダイヤモンド富士の延長運転は公式で確認を)
  • 薬王院: 高尾山薬王院 https://www.takaosan.or.jp/ (行事の日程・護摩祈祷は公式で確認を)
  • 登山道と自然の情報: 東京都高尾ビジターセンター https://takaovc.ces-net.jp/
  • 観光の案内: 八王子観光コンベンション協会 https://www.hkc.or.jp/takaosan/
  • 日本遺産の物語: 文化庁 日本遺産ポータル https://japan-heritage.bunka.go.jp/ja/stories/story088/
  • 歩き方の注意: 山頂までは歩いて1時間30分ほど(高尾登山電鉄による)。焚き火は全山で禁止、ごみは持ち帰り。雨具と水を持ち、足に馴染んだ靴で。植物の採取や動物の捕獲は国定公園のためできない。
  • 組み合わせるなら: 高尾駅から西東京バスで行ける八王子城跡(この特集の「八王子城跡と桑都・八王子」の記事)と合わせると、北条氏照の山と城を一日で歩ける。

帰り道に、立川駅北口で

高尾山から乗り換えなしで立川に戻るころには、脚には登りの疲れが、肩には山の冷えが少し残っているかもしれない。

立川駅の北口から徒歩1分、立川市曙町2-14-10のエトロワビル3階に、オンザショア立川店がある。溶岩プレートを敷いたスタジオで行うホットヨガのスタジオだ。常温のヨガやピラティス、女性専用のキックボクササイズ、ボクササイズ、HIIT、パーソナルトレーニングもあり、ヨガだけで25種類以上のレッスンがある。

営業は8時から23時30分まで、年中無休で、曜日による違いはない。朝いちばんの電車で高尾山に向かい、昼すぎに山を下りても、夕方に下山しても、立川に戻ってから寄る時間は十分にある。

ヨガの体験レッスンは税込1,980円。60分のレッスンに、バスタオル2枚、フェイスタオル1枚、ヨガマットのレンタルが含まれる。リュックを背負ったままでも、身ひとつで寄れる。

妊娠中の人は溶岩ホットヨガには参加できないが、常温のマタニティヨガがある。医師から運動を止められている人は利用できない。

料金は https://ontheshore.jp/price/ 、店の案内は https://ontheshore.jp/ 、体験の予約は https://site.locaop.jp/C0aVK?_src=hp で確かめられる。

山の展望台から見つけた街に、夕方、自分の足で帰ってくる。立川の一日は、そういう終わり方もできる。

冒頭の写真: 高尾山の山頂の広場。柵の向こうに丹沢の山並みが青く連なっている。(写真: Koda6029 / CC0 / Wikimedia Commons)

この記事の情報は2026年10月時点のものです。

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