立川の野鳥と生きもの タヌキは下水管で眠り、ホタルは公園に住み、タカの居場所は書かれない

立川でどんな野鳥や生きものに会えるのか。市民の写真でつくる図鑑には野鳥77の名前とアカギツネ、国の調査は多摩川で106種の鳥を数えた。タヌキは側溝や下水管をねぐらにし、ゲンジボタルは立川公園に住みつき、海で産卵するカニが多摩川を上ってくる。昭和の多摩川から、カラスの警告の声、観察の作法まで、公的資料でたどる立川の生きもの案内。

立川の下水管では、タヌキが眠っている。市が、自分のホームページにそう書いている。

私の知っている立川の生きものは、ハトとカラスと、駅前のデッキの手すりにとまるスズメくらいのものだった。人の多い街の鳥は、人の多い街に似合う鳥だけだと思っていた。

ところが、市民が写真を持ち寄ってつくった立川の生きものの図鑑を開くと、野鳥の索引に77の名前が並んでいた。カワセミがいる。オオタカがいる。ハトほどの大きさの小さなタカ、ツミの写真は7件もある。哺乳類の欄には、アカギツネとホンドテン。キツネとテンが、立川にいるのだ。

そして、その図鑑を眺めているうちに、私は奇妙なことに気づいた。ツミの7件、オオタカの2件。タカの写真には、撮った場所が一つも書かれていない。どれも「未指定」だ。タカたちは、いったいどこにいるのか。そして、なぜ誰もその場所を書かないのか。その問いを抱えて、立川の生きものを訪ねてみることにした。

立川の野鳥は何種類いるのか──市民がつくった図鑑の77の名前

その図鑑は「立川いきものデータベース」という。立川市の環境ブックによれば、NPO法人と市が協働で運営してきたもので、2016年9月から、市内で撮った昆虫の写真を投稿できるページをつくり、2025年3月末には掲載が10,000件を超えた。市の環境の指標の表には、11,298件という数字が載っている。名前がわからなくても投稿できる、というのがこの図鑑の気前のいいところだ。

データベースのページによれば、市の委託事業としての運営は2025年3月31日で終わり、その後は市民団体「ムシムシ探検隊・立川」の運営で、野草と昆虫の投稿だけを受け付けている。野鳥や哺乳類の新しい写真は、いまは増えない。それでも、それまでに集まった記録は閲覧できる。

野鳥の索引を、上から読んでいく。アオゲラ、アオサギ、アオジ、アカハラ、アトリ。イカル、イカルチドリ、イソヒヨドリ。ウグイス、ウソ、エナガ、オオタカ、オオバン。カイツブリ、カルガモ、カワウ、カワセミ、キジ。キジがいる。コゲラ、コサギ、ゴイサギ。ササゴイ、シジュウカラ、ジョウビタキ、セグロセキレイ。チョウゲンボウ、ツミ、トビ、ノスリ。タカの仲間だけで、オオタカ、ツミ、チョウゲンボウ、トビ、ノスリが並ぶ。

いちばん目を引いたのは、「は」の行の一つの項目だった。「ヒドリガモとアメリカヒドリの雑種」、4件。撮影場所は昭和記念公園。鳥の図鑑に、親の名前を二つ並べた欄がある。図鑑をつくった人たちも、さぞ扱いに困ったのだろう。結局、正直に二つとも書いた。私はこの一行で、このデータベースをすっかり信用する気になった。

索引の最後、「ら・わ」の行には、ワカケホンセイインコが1種だけ載っている。インドやスリランカに暮らすインコで、ペットとして飼われていたものが逃げ出して野生化した鳥だ。ウィキペディアによれば、日本で最初に定着が確認されたのは1969年、東京23区の西南部だった。それがいまでは、立川の西砂町・一番町の地域と、南の地域で写真に撮られている。昭和の家の鳥かごから逃げた鳥の子孫が、令和の立川の空を飛んでいる。

ただし、この77の名前は、立川の野鳥のすべてではない。写真を撮った人がいて、投稿した人がいた鳥だけの名簿だ。見つかりにくい鳥、撮られにくい鳥は、ここにはいない。では、国が本腰を入れて数えると、どうなるのか。その舞台は、街の南を流れる川だった。

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多摩川──国の調査が数えた106種と、帰ってきた鳥たち

国土交通省の京浜河川事務所は、全国の川で行われている「河川水辺の国勢調査」として、多摩川の生きものを定期的に調べている。2004年度の鳥類調査では、多摩川と支流の浅川の調査地点で、14目33科106種の鳥が確かめられた。2016年度の魚類調査では74種、2009年度の陸上昆虫類などの調査では1,268種。多摩川は、首都の郊外を流れる、たいへんにぎやかな川である。

その鳥のリストには、カワセミがいる。イカルチドリがいる。イソシギも、カワウも、ゴイサギも、ササゴイもいる。リストの欄の書き方を読むと、この調査票が参照した東京都のレッドリストでは、北多摩でのカワセミは準絶滅危惧、イカルチドリは絶滅危惧II類とされていた。

カワセミは、立川いきものデータベースでも11件と、野鳥の中で最も多い部類に入る。アオサギと並んで、いちばんの人気者だ。その11件のうち10件は、場所が「未指定」になっている。

多摩川には、鳥のほかにも、川を上り下りする生きものがいる。立川いきものデータベースには、多摩川で撮られたアユの写真が1件と、モクズガニの写真が2件ある。モクズガニは、川で育ち、秋から冬にかけて繁殖のために海へ下るカニだ。ウィキペディアによれば、幼生は塩分の濃い海でなければ育たない。立川の河原で見つかったカニも、いずれ多摩川を下って、海で子を残すのだろう。海までの長い道のりを、カニは脚だけで行き来している。電車で通勤する人間より、よほど勤勉である。

あのころ/いま──多摩川の生きもの

昭和の多摩川は、いまとはずいぶん違う川だった。市史編さんの広報紙『たちかわ物語』によれば、明治から昭和の初めにかけて、多摩川は水浴びや釣り客でにぎわう夏の代表的な行楽地だった。屋形船から鵜飼いの鮎漁を見物し、とれたての鮎を味わうのが、贅沢な休日の過ごし方だったという。ウィキペディアの多摩川の項は、『多摩川の野鳥』という本を引いて、昭和35年ごろまでは中流域にコアジサシの営巣地が44か所あったが、のちに壊滅したと書く。高度経済成長の時代には、流域の人口が急に増え、汚水の処理が追いつかないまま排水が流れこみ、川の生きものは一時ほとんど壊滅するところまで追いこまれた。

  • あのころ(昭和の初め): 屋形船と鵜飼い。夏の行楽客が、多摩川の鮎を食べにやってきた。
  • あのころ(昭和30年代〜40年代): コアジサシの営巣地が消え、川は排水に苦しんだ。
  • いま: 国の調査で106種の鳥と74種の魚。市民の図鑑には、多摩川のアユとモクズガニとイカルチドリ。

下水道の整備が中流域でほぼ終わったのは1980年代だと、同じ項は書く。2003年ごろからは、コアジサシが再び繁殖に挑む姿も見られるようになったという。昭和の行楽客が水浴びをした川を、令和の鳥がもう一度選びはじめている。

多摩川の支流は、立川の街なかにも細い水の道をつくっている。その一本、残堀川をのぞくと、思いがけない小さな魚の名前が見つかった。

残堀川の小さな魚と、メダカの「飼育品種」

立川市は、残堀川の水を、流域の武蔵村山市、瑞穂町と合同で調べている。市の環境ブック2025年版によれば、2024年度の下流の水生生物調査で確認された魚は11種類。コイ、オイカワ、カワムツ、アブラハヤ、モツゴ、ムギツク、タモロコ、ヒガシシマドジョウ、コクチバス、ムサシノジュズカケハゼ。そして最後に、「メダカ属(飼育品種)」とある。

ムサシノジュズカケハゼという名前には、「武蔵野」が入っている。ここの土地の名前を背負った小さなハゼが、街の真ん中を流れる川にいる。そして、その隣の「飼育品種」。誰かの家の水鉢か、学校の水槽で泳いでいたメダカが、なぜか川で見つかったということだろう。調査票は、それを野生のメダカとは区別して、正直に「飼育品種」と書いた。立川の調査員は、雑種のカモにも、飼い主のいたメダカにも、きちんと正直である。

市の南東、矢川では、市が年に一度魚を調べていて、きれいな水に暮らすホトケドジョウ(絶滅危惧種)が確かめられている。矢川の湧き水と湿地については、特集の別の記事に詳しい。

小さな魚の次は、小さな光の話をしたい。立川には、ホタルが戻ってきた場所が二つある。

玉川上水と立川公園のホタル

一つめは、市の北を流れる玉川上水だ。市の環境ブックには、二つの市民団体の報告が載っている。一つは、平成元年に活動を始めた「玉川上水の自然保護を考える会」。羽村の取水口から小平の監視所までの上水の上流部、12キロメートルの自然を守る活動をしていて、野草や野鳥、チョウの保護、ホタルの復活と保護、緑道の清掃、巣箱の点検や設置まで手がけている。2024年度の報告によれば、こんぴら橋から清願院橋の区間で、自生するようになったホタルが約80頭飛んだ。シジュウカラなどの小鳥が巣箱で子育てをし、キンランやギンランといった貴重な野草も守られたという。

夜の草むらで尾の先を緑色に光らせるゲンジボタル(愛知県で撮影)。
夜の草むらで尾の先を緑色に光らせるゲンジボタル(愛知県で撮影)。
写真: Kyu3a / CC BY-SA 4.0 / Wikimedia Commons

もう一つは、平成18年に活動を始めた「立川ホタルと鳴く虫の会」だ。玉川上水のゲンジボタルの復活と保護のほか、市内の小学校でヘイケボタルを教材にした環境学習を手伝い、6月には「ホタルの夕べ」を開いている。会は6月、玉川上水のこんぴら橋から清願院橋の区間で、ゲンジボタルの羽化の数を毎日数えて記録しているという。毎晩、ホタルを数える。眠れない夜に羊を数える人はいる。この街には、ホタルを数えるために6月の夜を使う人たちがいる。

二つめの場所は、思いがけないところにあった。同じ会の報告によれば、2021年、立川公園の「がにがら田んぼ」の裏の水路にゲンジボタルの幼虫を放したところ、そこに自生するようになった。会は今後、このホタルを、田んぼの活動をする市民の団体と協働で守っていきたいと書いている。

ガニガラ広場の名前の由来を、市は、昔このあたりに蟹がたくさんいたので「がにがら」と呼ばれていたから、と説明している。そして、今はカニはいないが、多種多様な動植物を見つけることができる、と続ける。蟹はいなくなった。だが、蟹の名前の付いた田んぼの裏で、ホタルが光りはじめた。

この会は、鳴く虫の会でもある。秋には「鳴く虫を聞く会」を開いていて、2024年度は砂川公園の管理棟で会員向けに開き、一般向けの見影橋公園の回は雨で中止になったと報告にある。会員が自宅で育てた鳴く虫の声を聞く会もあった。秋の夜に、虫の声を聞くためだけに集まる人たちがいる。立川という街の夜は、思っていたよりずっと耳がいい。

数字で読む立川の生きもの

  • 77 — 立川いきものデータベースの野鳥の索引に並ぶ名前の数。うち1つは「雑種」。
  • 106 — 種。2004年度の国の調査で、多摩川と浅川で確かめられた鳥。
  • 11 — 種類。2024年度の調査で残堀川の下流に見つかった魚。うち1つは「飼育品種」。
  • 約80 — 頭。玉川上水のこんぴら橋から清願院橋の区間で、2024年度に飛んだホタル。
  • 7 — 件。データベースのツミの写真。場所はすべて「未指定」。
  • 9 — 件。データベースのホンドタヌキの写真と、アライグマの写真。在来と外来が、同じ数で引き分けている。

ホタルと虫の声の話のあとは、もう少し大きくて、もう少し人の暮らしに近い生きものたちの話になる。立川の夜道を、彼らは私たちより上手に歩いている。

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