立川のロケ地と作品の舞台を歩く──神様も防衛隊員も、なぜ立川へ「休みに」来るのか

立川はドラマ・映画・アニメのロケ地と作品の舞台の街。観光協会のロケ地特集161件を数えると、サンサンロード、立川競輪場、病院や市役所が名脇役として並ぶ。『凪のお暇』『シン・ゴジラ』『怪獣8号』、学園都市のモチーフとして8年連続で「アニメ聖地88」に選ばれた「とある」シリーズ、エキストラ400人の撮影支援、そして住宅地や私有地での聖地巡礼の作法まで。

立川に来たことがない人でも、たぶん立川を見たことはある。

財務省の広報誌『ファイナンス』の2021年10月号は、立川を紹介する記事の中で、首都圏のテレビニュースでは、雪が観測されたときに立川の映像が映し出されることもある、と書いている。雪が降ると、カメラは立川へ行く。立川は、雪のニュースの常連である。本人に頼まれたわけでもないのに、冬が来るたびに出演が決まる。

雪の日だけではない。日曜の夜のドラマで主人公が走っている広い歩道も、深夜のドラマで刑事が話を聞いている病院の廊下も、ヒーローが怪人と戦っている駅前の広場も、気づかないうちに立川だったりする。立川観光コンベンション協会は、自分の街を「物語の生まれるまち」と呼んでいる。

なぜ、これほど撮られるのか。そして物語の中の人物たちは、なぜ、あんなに立川へ「来る」のか。休むために、逃げ込むために、あるいは立て直すために。画面の中の立川をたどりながら、その理由を探してみた。

立川のロケ地を数えてみた 観光協会の「ロケ地特集」161件

手がかりは、協会のウェブサイトにある「立川ロケ地特集」だ。市内で撮影された映画やドラマ、番組、CM、ミュージックビデオが、作品ごとに頁になって並んでいる。協会はこの特集で、立川を、数多くの映画やドラマ、PVやアニメ作品の舞台として取り上げられ、聖地巡礼も楽しめるまちだと紹介している。

2026年10月10日、私はこの一覧を最後の頁まで数えてみた。載っていた作品は161件。いちばん古いのは2013年で、最新は2026年のドラマである。年ごとに見ると、2013年が2件、2015年が3件、2016年から2020年までは、年に0件から2件。それが2021年に26件、2022年に28件、2023年に34件と跳ね上がる。2024年は17件、2025年は32件、2026年は10月までに12件。もちろん、これは協会が載せた数で、撮影された数そのものではない。それでも、毎月のようにどこかの局が立川で何かを撮っている、ということは十分に伝わってくる。

場所ごとに数えると、街の「出演歴」が見えてくる。町名を別にすれば、いちばん多いのはサンサンロードで34件。続いてファーレ立川アートが16件、GREEN SPRINGSが14件、立川競輪場が11件。立川病院、立川市役所、立川商工会議所がそれぞれ8件、諏訪の森公園も8件、立川中央病院が7件。町名では曙町が63件と群を抜き、錦町32件、緑町30件、柴崎町25件と続く。駅の北側と南側、そして基地の跡地に開けた緑町。立川の中心部は、ほぼまんべんなくカメラの前に立っている。

161件の顔ぶれは、驚くほど幅が広い。朝の連続テレビ小説、日曜劇場、深夜ドラマ、特撮のヒーロー、刑事もの、医療もの。映画、CM、ミュージックビデオ、バラエティ番組。こうなると、立川を舞台にした作品を探すより、立川に来たことのない撮影班を探すほうが難しそうだ。

ここで、少し昔の立川も思い出しておきたい。三井住友トラスト不動産の「このまちアーカイブス」によれば、1960年代の立川には、北口にシネマ立川、立川セントラル、立川松竹、立川中央、南口に立川名画座、立川日活、立川大映、東映立川南座、立川東宝、立川新東宝と、10館の映画館があり、「映画の街」とも呼ばれた。北口のシネマ立川は、大正14年に「立川キネマ」として開いた立川で最初の映画館で、昭和51年に閉館した。跡地には案内板が建ち、周りにはいまも「シネマ通り商店街」という名前が残っている。名前を並べるだけで、看板の色を思い出す人もいるはずだ。

あのころ、立川は映画を観る街だった。駅の北と南に、10の劇場の看板が掛かっていた。いま、立川は映画やドラマに撮られる街でもある。同じアーカイブスによれば、市内の映画館はいま4館23スクリーンあり、立川は「映画の街」として復活したといえる、と書かれている。観る街のまま、撮られる街にもなったわけだ。映画館そのものの来歴は、特集の別の記事に詳しい。

では、立川の中で、いちばんの売れっ子はどこなのか。答えは、駅の北口を出てすぐのところにあった。

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サンサンロードとファーレ立川 駅前の数百メートルがいちばん忙しい

34件。サンサンロードは、協会の一覧で最も多く登場する場所である。

この道は、立川駅の北口から、多摩モノレールの軌道の下を北へまっすぐに延びている。頭の上をモノレールが走り、両側にビルと並木が続く。ドラマの撮影班から見れば、都会らしさと開放感と、どこか近未来めいた風景が、一度に手に入る場所なのだろう。協会は、特撮ドラマ「暴太郎戦隊ドンブラザーズ」にGREEN SPRINGSが登場したときの記録に、モノレールがある景色はこういう作品でも生かされている、と書き添えている。空を走る電車は、ヒーローの背景にちょうどいい。

サンサンロードの34件には、ドラマ「凪のお暇」、映画「Gメン」、テレビ東京の「ウルトラマントリガー」、TBSの日曜劇場「Get Ready!」と「GIFT」の最終回などが並ぶ。2015年公開の映画「レインツリーの国」では、主演の二人が雨の中を歩く場面がサンサンロードで撮られた。

雨といえば、もう一つある。2023年秋のフジテレビのドラマ「いちばんすきな花」の第1話には、ファーレ立川のあたりが登場した。協会はその撮影の記録に、雨を作り出すスタッフのみなさんの努力の結晶、と書いている。立川の駅前は、どうやら人工の雨によく降られる。本物の雨を待っていては、撮影の予定が組めない。

ファーレ立川の16件も、同じ理由で選ばれているのだろう。109の作品が置かれたこの街区は、それだけで画面に奥行きを足してくれる。ファーレ立川の作品そのものは特集の別の記事に譲るが、ドラマ「夕暮れに、手をつなぐ」「Get Ready!」、MBSのドラマ、そして藤子・F・不二雄のSF短編をドラマにしたシリーズまで、作品の並ぶ街角は、いろいろな物語の通り道になってきた。

テレビ朝日のドラマ「ちょっとだけエスパー」の第7話では、主人公がエスパーの出現予告に従って各所を回る場面のために、市内の3か所で撮影が行われた。協会は、監督の「画変わり」という注文に応えられた撮影だった、と記録している。画変わり、つまり場面ごとに景色ががらりと変わること。駅から歩いて数分の範囲で、それができる。サンサンロードの34件は、その便利さの勲章だ。

だが、立川のロケ地の本当の面白さは、駅前の目抜き通りにはない。むしろ、少し意外な場所にある。

立川競輪場という万能の舞台

立川競輪場が、ドラマの中で何度も別の顔を演じている。そう聞いて、すぐに信じる人は少ないだろう。

立川競輪場のバンクで、色とりどりのユニフォームの選手が発走を待つ
立川競輪場のバンクで、色とりどりのユニフォームの選手が発走を待つ
写真: Furmanj / CC BY-SA 3.0 / Wikimedia Commons

協会の一覧には、立川競輪場が11件出てくる。2021年のTBSのドラマ「俺の家の話」では、競輪場の地下通路が使われた。2023年のNHKの夜ドラ「ユーミンストーリーズ」では、主人公が働くスーパーのフードコートの撮影で、競輪場が登場している。2024年のTBSの金曜ドラマ「笑うマトリョーシカ」第6話では、競輪場の売店のあたりで撮影が行われ、選挙カーを入れた場面には市民のエキストラも参加した。協会は、登場人物の熱のこもった演説に外の熱気も加わって、熱々の現場になった、と書いている。

このほかにも、ドラマ「女神の教室」「クロサギ」「六本木クラス」「インビジブル」「ONE DAY」、そして特撮の「暴太郎戦隊ドンブラザーズ」。協会によれば、ドンブラザーズの第31話では、競輪場にヒーローたちが勢ぞろいした。

競輪場には、地下通路があり、売店があり、広い観客席がある。地下通路は秘密の通路になり、売店はフードコートや選挙の演説会場になり、観客席は群衆の場面になる。一つの施設が、ここまで多くの役をこなす。演技の幅で言えば、立川競輪場はかなりの芸達者である。

いちばん可笑しいのは、2023年の映画「翔んで埼玉 琵琶湖より愛をこめて」だ。協会によれば、立川も撮影で使われ、競輪場や錦町が一覧に並び、協会のエキストラ登録者も参加した。埼玉をめぐる騒動の映画を、東京の立川で撮る。しかも副題は琵琶湖である。立川の人は、どんな気持ちでエキストラに立ったのだろう。少なくとも、引き受けた度量は大きい。

競輪場が芸達者の主役級なら、病院と役所は、名前の出ない名脇役である。

病院、市役所、商工会議所 どこにでもある建物の名演

ドラマの世界では、病院と役所と会社の会議室が、いつも足りていないらしい。

協会の一覧で、立川病院は8件、立川中央病院は7件、立川市役所は8件、立川商工会議所も8件ある。立川病院は、ドラマ「君が心をくれたから」「18/40」「D&D」などに登場し、立川中央病院は「相棒」「しあわせな結婚」「天久鷹央の推理カルテ」などに顔を出す。立川市役所は、ドラマ「霊媒探偵 城塚翡翠」の第1話や「Dr.チョコレート」、「警視庁・捜査一課長」などで、役所以外の何かにもなってきた。

2022年秋のフジテレビのドラマ「silent」では、立川の2か所が、手話教室という設定で使われた。手話教室のビルと教室と事務室には市内の専門学校が、別の教室には南口のホールが選ばれた。画面の中では、そこは立川ではなく、ただの「手話教室」である。

2025年のテレビ朝日「仮面ライダーガヴ」第34話では、緑町の自治大学校が舞台になった。協会は、自治大学校の研修生のみなさんが逃げまどう中、仮面ライダーたちがしっかり救ってくれた、と書いている。自治体の職員を研修する国の学校で、研修生が怪人から逃げまどう。行政の危機管理の研修としては、かなり実践的である。

ここで気づくのは、立川が多くの場合、立川としてではなく「どこか」として撮られている、ということだ。病院は名もない病院になり、市役所は名もない役所になり、競輪場はフードコートになる。画面の中で、立川はたいてい名前を名乗らない。

ところが、作品の中には、はっきりと「立川」を名乗る立川もある。しかもそこへ来る登場人物たちには、ある共通点がある。

物語の中の立川 なぜ主人公たちは、立川へ休みに来るのか

まずは、2019年の夏のドラマから始めよう。

協会の紹介によれば、「凪のお暇」は、コナリミサトが秋田書店の『エレガンスイブ』に連載した漫画で、2019年7月にドラマになった。主人公が立川市のアパートに移り住む設定で、立川駅やサンサンロード、国営昭和記念公園など、立川市内の実際の場所が作中に描かれている。ドラマもその設定を引き継ぎ、市内の多くの場所でロケが行われた。協会の一覧では、中央図書館、GREEN SPRINGS、多摩川緑地野球場、オニ公園も挙がっている。

題名の「お暇」は、休みのことだ。張りつめた暮らしに疲れた主人公が、それまでのすべてを手放して、休むために移り住む先が立川だった。

ここで、もう一つの作品を思い出す。中村光の漫画「聖☆おにいさん」では、ブッダとイエスがバカンスとして下界に降り、東京・立川のアパートで共同生活を送っている。漫画とオニ公園の話は特集の別の記事に詳しいので、ここでは一つだけ言っておきたい。世界の二大宗教の開祖が休暇を過ごす街と、疲れた主人公がお暇をとる街は、同じ立川なのである。休みたい人は、どうも立川へ来るらしい。

休むためだけではない。立て直すためにも、人は立川へ来る。

2016年の映画「シン・ゴジラ」については、立川広域防災基地の記事で詳しく書かれているので短くとどめる。協会の記録によれば、撮影は2015年10月10日から12日にかけて立川広域防災基地で行われ、多くのエキストラも参加した。財務省の『ファイナンス』は、立川の聖地の一つとして、映画に登場する内閣府の災害対策本部予備施設を挙げている。首都の機能が失われたとき、政府が立て直しのために向かう先が立川だ、という設定は、虚構ではない。内閣府の資料によれば、官邸、内閣府、防衛省の中央指揮所が使えなくなったときの、国の災害対策本部の置き場所が、この立川の予備施設なのである。

2024年には、漫画「怪獣8号」のアニメと立川市が組んだ。公式の特設サイトによれば、主人公が入隊を志す「日本防衛隊」の基地の一つが立川にあることがきっかけで、「怪獣8号×立川市 防衛隊員の休日」という催しが、4月26日から6月30日まで市内で開かれた。駅の自由通路や百貨店に等身大の怪獣8号が巡回し、サンサンロードには描き下ろしのイラストの旗が並んだ。催しの名前を、もう一度見てほしい。防衛隊員の「休日」。怪獣と戦う隊員たちもまた、休日には立川で過ごすことになっている。

協会によれば、テレビアニメ「かいじゅうせかいせいふく」もまた、東京都立川市が舞台になっている。どうやら立川は、怪獣とよく縁がある。

疲れた人が休みに来て、神様がバカンスに来て、政府が立て直しに来て、防衛隊員が休日を過ごしに来る。物語の作り手たちは、立川を、何かをいったん置いて、もう一度始める場所として選んでいる。それがなぜなのかは、最後にもう一度考えたい。

数字で読む 画面の中の立川

  • 161 — 件。2026年10月10日に数えた、観光協会のロケ地特集の作品数。2013年から並んでいる。
  • 34 — 件。そのうちサンサンロードが登場する作品。立川でいちばんの売れっ子。
  • 11 — 件。立川競輪場が登場する作品。地下通路も売店も、それぞれ別の役を演じる。
  • 400 — 人。2026年2月時点の、立川ロケーションサービスの登録エキストラ。あなたが401人目になってもいい。
  • 8 — 年連続。「訪れてみたいアニメ聖地88」に、立川市が「とある科学の超電磁砲」で選ばれた回数。
  • 21 — か所。立川市内にある「とある」シリーズのラッピング自動販売機。

旅人の寄り道クイズ

立川観光コンベンション協会の前身、立川観光協会が、「とある魔術の禁書目録」との初めてのコラボイベントを開いたのは何年だろう。(A)2005年(B)2010年(C)2018年。答えは最後に明かす。

その前に、立川といちばん長く付き合ってきた作品の話をしなければならない。舞台は、架空の都市である。

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