立川の新しい文化と公演のこれから──バレエの国際予選も「学園都市」の祭りも駅から歩ける

「学園都市」のモチーフになった街──アニメの聖地は、秋祭りになった

立川観光コンベンション協会の前身の立川観光協会は、2010年、テレビアニメ『とある魔術の禁書目録(インデックス)』と初めてのコラボ企画を行った。物語の舞台「学園都市」に、立川市に似た風景が登場するからだ。

それから十数年。一般社団法人アニメツーリズム協会が、国内外のアニメファンの投票をもとに選ぶ「訪れてみたいアニメ聖地88」の2025年版で、立川市は「学園都市」のモチーフとして2作品で選ばれた。『とある科学の超電磁砲』では2018年から8年連続8度目、『とある魔術の禁書目録』では2019年から7年連続7度目である。投票しているのは国内の人だけではない。海の向こうのファンも、立川を「行ってみたい場所」に数えている。

聖地は、年に一度の祭りにもなった。協会によれば、2026年は「とある暗部の少女共棲」の放送が始まった年で、11月14日と15日の2日間、「たちかわ楽市2026」の中で「とある自治体の地域振興2026」が開かれる。協会はこの催しを「秋の立川の風物詩ともなりつつある」と書いている。2026年2月22日には、シリーズで初めてのフィルムコンサートがTACHIKAWA STAGE GARDENで開かれることになり、協会はそれに合わせて、訪れるファンへの「おもてなし企画」を街で用意した。アニメの音楽をホールで聴き、そのまま物語の舞台に似た街を歩いて帰る。聖地とホールが歩いて行ける距離にあるのは、強い。

コラボの品の一覧を眺めていると、つい頬がゆるむ。「ゲコ太どら焼き」は1,340円。どら焼きとしてはなかなか強気の値段だが、相手は学園都市なのだから仕方がない。クリアファイルの名前には、国営昭和記念公園、サンサンロード、モノレール、立川バス、JR立川駅などが並ぶ。立川の日常の風景が、そのまま「推し」の背景として売られている。

立川を舞台にした作品は「とある」だけではない。神様二人が立川のアパートで休暇を過ごす『聖☆おにいさん』、立川市が舞台のテレビアニメ『かいじゅうせかいせいふく』など、作品とロケ地の話は、この特集のロケ地の記事に詳しい。市の第5次文化振興計画は、映画やまんが・アニメをはじめとするサブカルチャーを「立川ならではの文化資源」と書き、それを積極的に生かして発信すると定めている。アニメの聖地であることは、いまや市の計画の言葉になっている。

聖地の話の次は、30年前から駅前に立ち続けている「美術館」の、これからの話をしたい。

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109点の美術館の、次の30年──ファーレ立川アートと地下道の壁画

立川駅北口のファーレ立川には、36か国92人の作家による109点のパブリックアートがある。1994年に完成し、2024年10月に30周年を迎えた。換気口や車止めがなぜ美術なのか、という謎は、この特集のファーレ立川アートの記事で解いた。ここでは、その次の30年の話を書く。

上から見たファーレ立川の歩行者道。赤い大きな植木鉢の向こうを、モノレールが渡る
上から見たファーレ立川の歩行者道。赤い大きな植木鉢の向こうを、モノレールが渡る
写真: RuinDig/Yuki Uchida / CC BY 4.0 / Wikimedia Commons

市の計画は、ファーレ立川アートを「まち全体が美術館」構想の中核と位置づけ、世界的にも価値のある作品群として、守り伝えなければならないと書いている。守るのは市だけではない。街区のビルの持ち主、市民団体のファーレ倶楽部、市などでつくるファーレ立川アート管理委員会が、作品の維持と保全を担ってきた。ファーレ倶楽部は1997年に生まれたボランティアのグループで、作品の清掃とガイドツアーを続けている。

その一年の大きな催しが「ファーレ立川アートミュージアム・デー」だ。2026年は10月12日。10月6日からは女性総合センター・アイムの1階ギャラリーで企画展示が開かれ、市立小学校5年生が鑑賞のあとに作った作品、130点の応募から選ばれた写真コンテストの入賞作、計画段階の構想図や記録映像を集めたアーカイブ、武蔵野美術大学の学生の作品が並ぶ。当日はサンサンロードを巨大な人形とねり歩く「シアターパレード」もある。

鑑賞教室の話は、もう少し書いておきたい。市は2008年から毎年、市立小学校全19校の5年生を対象に「小学校ファーレ立川アート鑑賞教室」を開き、これまでに延べ1万人以上の子どもが地元のアートを見て回った。案内するのはファーレ倶楽部のメンバーで、子どもたちは約45作品を見る。市の文化振興推進委員会の記録では、委員の一人が、デッキの上を小学生が数人ずつ回っている姿をよく見かけると述べ、市内の小学生がみな見ていることになるのはすごいことだと語っている。立川で育った子は、大人になっても、駅前の車止めの作者の国を言い当てられるかもしれない。

美術は駅の地下にも広がっている。障害のある人の作品を紹介する「アール・ブリュット立川」は、2015年に伊勢丹立川店での展示から始まり、その後も毎年、市内各所で展示を続けてきた。立川駅の東地下道の壁は、アール・ブリュットの作家たちの壁画で彩られた。毎日、急ぎ足で通り過ぎる地下道の壁に、誰かの「生の芸術」が描かれている。

旧多摩川小学校の校舎を使う「たちかわ創造舎」も、これからの立川の文化の工房である。2004年に閉校した小学校の校舎と体育館をそのまま残し、2015年10月に「富士山の見える多摩川沿い」のカルチャー・ファクトリーとして開いた。市と地域文化振興財団と創造舎が組む「立川シアタープロジェクト」は、子どもと大人が一緒に楽しむ舞台をクリスマスのころに上演するシリーズを2016年から続けていて、第9弾は『ブレーメンの音楽隊』だった。2022年度からは、演劇のつくり手になりたい市民向けの「市民創作ゼミ」も始まっている。見る人を、つくる人に変える。そこまで見据えた仕掛けが、校舎の中で動いている。

では、こうした動きを、市はどんな言葉で束ね、どこへ導こうとしているのか。市の計画を開いてみる。

市の文化芸術の計画は何を目指すのか──第5次文化振興計画を読む

立川市が文化の計画を初めてつくったのは、平成7年度、1995年度である。平成8年度から15年間の「立川市文化振興計画」は、福祉、環境、都市整備、教育、産業まで、行政全般にわたる100のアクションプログラムでできていた。そこから数えて、いまの計画は5本目にあたる。

「立川市第5次文化振興計画」の期間は、2025年度から2029年度までの5年間。目的は、だれもが身近に文化芸術に触れることができ、多様な文化芸術活動を支えることだと書かれている。その先に、文化芸術が暮らしに浸透し、市民のウェルビーイングと地域の活力が高め合う循環をつくる、という像を描いている。

取り組みの柱は4つで、それぞれに平仮名の名前がついている。「ふれる、たのしむ」「はぐくむ、ささえる」「つたえる、とどける」「つながる、ひろがる」。計画をまとめた事務局の説明では、このうち、文化芸術活動の相談と支援の体制を強くすること、そして「文化芸術コーディネーター(仮称)」のあり方を検討することが、今回新しく盛り込まれた部分だという。コーディネーターとは、地域とアーティスト、市民や企業や大学をつなぎ、福祉や教育や環境と文化芸術を結ぶ役である。まだ(仮称)の段階で、どんな人がどう置かれるかは、これからの検討に委ねられている。

もう一つ目を引くのは、成果を測る物差しの減らし方だ。前の第4次計画は14の成果指標を掲げたが、新型コロナの行動制限で大きく揺れ、2023年度末の時点で目標に届いたのは14のうち6つだった。第5次計画は、指標を2つに絞った。「日頃から文化芸術に触れる機会がある市民の割合」を50.3%から53.0%へ。「文化芸術活動を行う市民団体との共催数」を15事業から18事業へ。数を減らして、狙いを絞る。どこかのダイエットの指南書のようだが、測れないものを測ろうとして迷うよりは、誠実な選び方なのかもしれない。

計画には、市史の仕事も入っている。立川市は平成27年度から令和10年度、つまり2028年度までの計画で「新編 立川市史」の編さんを進めている。前の市史の刊行から約50年がたち、街並みが大きく変わったからだ。

計画は、すべてが順調だとは書いていない。市の文化振興推進委員会の記録を読むと、論点もはっきり見えてくる。子どもや学生の参加にかかわる目標は届かず、少子化の影響から目標の見直しが要るのではないか、という声。市史の資料を残す場所が足りなくなっているという、市の側の説明。市民ライターが増えて発信がうまく回り出したのに、今度は予算が追いつかないという報告。そして、美術、とくにファインアートは、補助金の評価のような具体的な指標で測ると対象にすらならなくなる、分からないものや新しいものを掬い上げてこそ豊かな文化になる、という委員の指摘である。数字で計画を回しながら、数字で測れないものをどう守るか。この問いは、たぶん立川だけのものではない。

同じ記録には、ファーレ立川アートのツアー参加者を増やすには、海外からの旅行者に目を向けることがきっかけになるのではないか、という意見も残っている。周りの市と組み、地域としてまとめて人を呼ぶ発信が要る、という声もあった。では、海の向こうから来る人にとって、立川の文化はどのくらい手の届くところにあるのか。

海外から来る人へ──空港から立川へ、そして英語で歩く

羽田空港から立川駅へは、立川バスと京浜急行バスが高速バスの「羽田空港線」を走らせていて、立川駅の北口と南口に停まる。立川バスの案内では、大人の運賃は2,000円である。大きな荷物を抱えて電車を乗り継がずに、駅前まで来られる。

立川駅の駅ビル、エキュート立川の3階には、東京都の観光情報センターがある。都内に6か所ある観光情報センターのうち、多摩にあるのはここで、年中無休だ。ファーレ立川アートの地図もここで手に入る。TACHIKAWA STAGE GARDENには英語の案内の頁があり、立川駅の北口から歩いて8分だと書いてある。日本語の案内によれば、新宿からは中央線の特快で約25分だ。

ファーレ立川アートの作家は36か国92人にのぼる。海外から来た旅行者が駅前を歩けば、自分の国の作家の作品に、車止めや換気口の形で出会うことがあるかもしれない。故郷の美術に、異国の駅前でつまずく。なかなか味のある再会ではないか。

市は、立川駅の周りの将来像を描く「立川駅周辺の未来ビジョン(仮称)」をつくろうとしている。その検討の背景に、市は、立川が東京駅や羽田空港といった交通の結節点と、富士山や高尾山、奥多摩の自然や観光地との中間にあり、「ゲートウェイ」の役目が期待できると書いた。空港から都心を抜け、山へ向かう途中で、一晩、立川で演奏会を聴く。そういう旅の組み立ては、まだ私の見立ての段階だが、地図の上では十分に成り立っている。

謎を回収する──なぜ、世界を目指す踊り手が立川に来るのか

冒頭の問いに戻ろう。なぜ、世界を目指す子どもたちが、立川の大階段で踊ったのか。

資料で言える答えは、三つある。一つ目は、器があることだ。約2,500席のホールと、1,000席のスタンドを持つ国際規格のリンクと、3,000人が入るアリーナが、モノレールで数駅の範囲に並んでいる。二つ目は、それを動かす人がいることだ。国際コンペティションの日本予選を招いたのは立飛グループで、大学と市と組んで子どものための演奏会を3年続けてきた。三つ目は、市が文化を「担い手は市民」と条例に書き、5次にわたって計画を回してきたことだ。器と、人と、仕組み。そのどれか一つが欠けても、噴水の前の『白鳥の湖』は生まれなかっただろう。

ここから先は、私の見立てになる。立川の文化の面白さは、「世界」と「身近」が、いつも同じ週末に、歩いて行ける距離で起きていることにある。国際予選の会場の隣で、無料の広場が家族を迎える。アニメの聖地を巡る海外のファンの横を、ファーレ立川アートを見て回る小学5年生が通り過ぎる。市の計画が「だれもが身近に」と書き、立飛の発表が「本物に触れる機会を」と書く。二つの言葉は、別々の方向を向いているようで、同じ駅前で落ち合っている。

立川は、地味な街だと言われることがある。だが、この秋の立川では、世界を目指す踊り手が大階段で跳び、浅田真央さんのリンクで子どもが氷を蹴り、学園都市のファンが祭りの準備を待っている。新宿から中央線で一本、川崎から南武線で一本。週末に、立川で一つ舞台を見てみてほしい。帰りの電車で、この街の印象が少し変わっているはずだ。

寄り道クイズの答え

答えはAの「うどいなり」。立川観光コンベンション協会の「とある自治体の地域振興」の頁に、コラボの品として800円で載っている。Bのうどパイは、立川の推奨土産「立川のたいこばん」に認定された立川名物だが、コラボの品の一覧には見当たらない。学園都市の住人も、立川に来ればうどを食べる。

訪ねる前に

  • TACHIKAWA STAGE GARDEN(立川ステージガーデン): 東京都立川市緑町3-3 N1。JR立川駅から徒歩8分、多摩モノレール立川北駅から徒歩7分。新宿駅からJR中央線の中央特快・青梅特快で約25分(公式の案内による)。公演の予定は公式で: https://www.t-sg.jp/ (英語: https://www.t-sg.jp/en/ )
  • MAO RINK TACHIKAWA TACHIHI: 東京都立川市泉町935-1。多摩モノレール立飛駅から徒歩5分。滑走の時間と料金は公式で: https://maorink.com/
  • ファーレ立川アート: JR立川駅北口のすぐ北の街区。2026年のミュージアム・デーは10月12日(市の案内): https://www.city.tachikawa.lg.jp/kanko/bunka/1003079/1003104/1025242.html
  • 「とある自治体の地域振興2026」: 2026年11月14日・15日、「たちかわ楽市2026」の中で開催予定(立川観光コンベンション協会による)。最新の内容は: https://tokyo-tachikawa.org/toaru/
  • 12月の二つの演奏会: 12月12日「未来の大人たちへのスペシャルコンサート」、12月19日「TACHIKAWA Sound of CHRISTMAS 2026」。いずれも会場はTACHIKAWA STAGE GARDEN。チケットと内容は立飛ホールディングスの発表で: https://www.tachihi.co.jp/news-release/
  • 羽田空港から: 高速バス「羽田空港線」が立川駅の北口と南口に停まる。時刻と運賃は立川バスの公式で: https://www.tachikawabus.co.jp/highway/haneda/
  • 組み合わせるなら: STAGE GARDENのあるGREEN SPRINGSは昭和記念公園の向かい。ファーレ立川アートは駅からホールへ向かう途中にある。ホールで聴き、公園で休み、駅前の美術を見て帰れば、半日の文化の散歩になる。

舞台を見たあとは、立川駅北口で

演奏会のあいだ、人は思いのほか体をこわばらせている。拍手のために手を握り、息を詰めて最後の一音を待つ。ホールを出て駅へ歩く8分のあいだに、背中が少しずつほどけていくのが分かるはずだ。

立川駅の北口から徒歩1分、立川市曙町2-14-10のエトロワビル3階に、オンザショア立川店がある。溶岩プレートを敷いたスタジオで行うホットヨガのスタジオで、常温のヨガ、ピラティス、女性専用のキックボクササイズ、ボクササイズ、HIIT、パーソナルトレーニングもある。ヨガだけで25種類以上のレッスンがそろう。

営業は8時から23時30分まで、年中無休で、曜日による違いはない。昼の公演のあとでも、夜の公演の前でも、寄る時間はある。

ヨガの体験レッスンは税込1,980円。60分のレッスンに、バスタオル2枚、フェイスタオル1枚、ヨガマットのレンタルが含まれるので、チケットと財布だけで寄れる。

妊娠中の人は溶岩ホットヨガには参加できないが、常温のマタニティヨガがある。医師から運動を止められている人は利用できない。

料金は https://ontheshore.jp/price/ 、店の案内は https://ontheshore.jp/ 、体験の予約は https://site.locaop.jp/C0aVK?_src=hp で確かめられる。

舞台の上で跳んだ人を見たあとで、自分の体を、自分の呼吸で伸ばしてみる。観る文化の街で、最後に少しだけ、自分が演じる側に回る。

冒頭の写真: TACHIKAWA STAGE GARDENの正面。ガラスの壁の前に、数字を重ねた色とりどりの立体作品が立つ(写真: Kakidai / CC BY-SA 4.0 / Wikimedia Commons)

この記事の情報は2026年10月時点のものです。

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