立川の銭湯と湯の文化 6円が600円になるまで、市内に残る3軒の湯けむり

市になった年に、湯が生まれた──梅の湯と高砂湯

立川町が市になったのは、昭和15年(1940)のことだ。市の年表は、その年に立川町が市制を施行したと記している。

そして、立川湯屋敷 梅の湯の紹介記事には、この湯が昭和15年に創業した、と書かれている。

立川市と梅の湯は、同い年なのだ。

同じ年の生まれは、もう一軒あった可能性がある。2023年に閉じた高砂湯だ。サウナの記録を集めたサイトに、閉店の直前に訪れた人の書き込みが残っている。それによれば、店の入口の上に飾られた絵に、創業1940年から1990年までの初代の建物の時代が50年、1991年から「コミカ風呂」という新しい型の銭湯になって32年、と記されていたという。記憶の話として受け取りたいが、もし本当なら、立川という市と同じ年に、二つの湯が湯を沸かし始めたことになる。

市になったばかりの立川は、軍都だった。陸軍の飛行場があり、飛行機の工場があり、人が集まっていた。人が集まれば、湯が要る。市制と銭湯の誕生が同じ年に重なるのは、偶然というより、その時代の立川の勢いを映しているのかもしれない。

梅の湯は、いまや立川でいちばん目立つ銭湯になった。組合の地図の説明によれば、2階建ての大きな建物で、休憩室には1万冊の漫画が置かれている。ジェット、バイブラ、電気風呂、水風呂、露天風呂、壺風呂、岩盤浴まであり、男湯と女湯は週替わりで入れ替わる。タオル類の貸し出しも充実していて、手ぶらで行ける。銭湯ランナーも歓迎、荷物の一時預かりもできる。営業は午後3時から深夜0時まで、正月三が日を除いて休みは無い。

組合のウェブマガジンは、2015年にこの湯を漫画で紹介している。「漫画」と「銭湯」で検索して見つけた立川の銭湯で、一歩入ると1万冊の漫画とフィギュアの収集が並ぶ、スーパーマニアックな銭湯だった、と。別の紹介記事は、漫画を1万2千冊を超えると書く。数え方で2千冊も違う。いずれにせよ、一度の湯上がりで読み切れる量ではない。

市と同い年の湯が、漫画の殿堂になって生き残った。一方、高砂湯は閉じた。その最後の月の様子を、何人もの人が書き残している。

ある人は、子どものころ母に連れられて買い物に来て、高校には毎日通った立川の街を思い出しながら、閉店前の湯を訪ねた。中央線で駅の外がいちばん変わったのは立川だと思う、と書き、そんな街の歴史と一緒に歩んできた湯だと記している。常連が次々に詰めかけ、主人夫妻にねぎらいの言葉をかけていたという。別の人は、脱衣所から「炭酸泉ください」と声がかかると、「はいよ」と持っていく主人の姿を書いた。

湯屋は、湯だけを売っていたのではなかった。名前を知らない常連同士の挨拶と、主人の「はいよ」を売っていた。それは、統制額の600円の中には、たぶん入っていない。

梅の湯と高砂湯の話は、駅の北と南の話だった。立川には、もう一つ、湯が二軒並ぶ町がある。南武線の小さな駅の近くだ。

初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。

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羽衣町の二つの湯──薪で沸かす美保湯と、生まれ変わった松見湯

南武線の西国立駅で降りると、羽衣町に二つの銭湯がある。組合の地図によれば、松見湯は駅から徒歩3分、美保湯は徒歩5分。立川の銭湯の3軒のうち2軒が、この小さな駅のそばに集まっている。

南武線の西国立駅。羽衣町の二つの銭湯は、この駅から歩いて数分
南武線の西国立駅。羽衣町の二つの銭湯は、この駅から歩いて数分
写真: LERK / CC BY-SA 4.0 / Wikimedia Commons

美保湯の説明は、短い。薪でお湯を沸かしている。薬湯がある。駐車場がある。設備の欄には、「薪」の文字と、「ペンキ絵」「座風呂」の印。昭和の銭湯の作法を、いまも守っている湯だ。ただし、組合の地図では、いまは「休業中」とされている。訪ねる前には、必ず最新の情報を確かめてほしい。

薪で湯を沸かす銭湯が、2026年の東京にまだある。そのこと自体に、私は少し胸を打たれる。再び暖簾が上がる日を待ちたい。

松見湯のほうは、まったく別の道を選んだ。組合の地図によれば、2022年4月5日にリニューアルオープンした。細かい泡が毛穴の奥まできれいにしてくれるというシルキーバス、ジェットバス、バイブラバス、電気風呂、水風呂、露天風呂。電気風呂は4種類のリズムを繰り返すという。サウナは男湯だけにある。

組合のウェブマガジンが2022年に載せた漫画の紹介では、店内はどこもピカピカで、ゆったりとした浴室に、設定温度14℃の水風呂がある。露天風呂と水風呂を行き来して、温冷交代浴や外気浴を楽しんだ、と描かれている。同じ紹介は、立川駅の北側に点在するパブリックアートを眺め、多摩モノレールに乗り、地元の野菜の直売所に寄ってから、歩いて松見湯へ向かう道筋を描いている。立川を一日歩いて、最後に湯に沈む。この特集が勧めたい歩き方を、銭湯の漫画が先にやっていた。

4種類のリズムの電気風呂、というのが、私はどうにも気になる。湯船に浸かって、電気に拍子を取られる。ライブハウスの低音とは違う、ずいぶん控えめなリズムだが、体は正直に反応するらしい。

薪の湯と、泡の湯。片方は昭和の作法を守り、片方は令和の設備で生まれ変わった。同じ町の、歩いて数分の距離に、銭湯の二つの生き方が並んでいる。

湯屋の主が、市長になった

立川の湯の話をするなら、どうしても書いておきたい人がいる。

百科事典にまとめられた経歴によれば、平成19年(2007)から4期、立川市長を務めた清水庄平は、昭和20年(1945)に砂川村、いまの西砂町に生まれた。信用金庫に勤めたあと、昭和47年(1972)1月に退職して、家業の公衆浴場の経営にあたった。昭和57年(1982)に市議会議員に初当選し、収入役を経て、市長になった。

湯屋の主が、街の主になった。番台から市役所へ。こういう経歴を持つ市長は、全国を探しても多くはないだろう。

同じ経歴の欄には、市長時代に、駅前の喫煙所を廃止したことも記されている。たき火のような煙がもうもうと上がるのは、この街にふさわしくない、と述べたという。湯けむりを知る人は、煙の種類にうるさかったのかもしれない。これは私の勝手な想像である。

銭湯の作法──立川の湯に入る前に知っておきたいこと

銭湯に慣れていない人のために、作法を書いておく。東京都浴場組合の「銭湯の入り方」が、いちばん確かな手引きになる。

まず、持ち物。タオル、石けん、シャンプーなど、家で使う道具をバッグに入れていけばいい。何も持たずに行っても、たいていの銭湯では小さな石けんやシャンプー、タオルを売っている。梅の湯や松見湯のように、シャンプーとボディーソープを備えつけている湯もある。

入口で履物を脱いで下足箱に入れ、札を抜く。番台かフロントで料金を払い、脱衣所へ。ロッカーには鍵をかけ、鍵は手首に巻いておく。組合はわざわざ、パンツを脱がないまま浴室へ向かう人がときどきいるが、それはだめだと書いている。わざわざ書かれるほど、いるらしい。

浴室に入ったら、まず掛け湯をする。湯船に入る前に体を流して清潔にするのが、銭湯の始まりだ。湯に体を慣らす意味もある。長い髪を湯につけない。タオルを湯船に入れない。

湯が熱すぎるときの作法もある。銭湯の湯は家の風呂より熱めのところが多く、それは江戸以来の伝統だという。どうしても我慢できないときは、一緒に入っている人にきちんと断ってから、水でうめる。黙って水を出すと、もめごとのもとになる。熱い湯は5分から10分、ぬるい湯は20分くらいが目安で、額に汗をかく程度に温まるのがいいと組合は勧めている。

上がるときは、脱衣所に戻る前に、濡れた体をタオルでよく拭く。足の裏の水気も取る。床が濡れていたら、あなたも不愉快でしょう、と組合の手引きは少しだけ口調をくだけさせて書いている。入浴の前と後には、必ず水を飲むこと。

子ども連れの人に、ひとつ大事な決まりがある。東京都は条例を改め、令和4年(2022)1月1日から、7歳以上の子どもは男女で一緒に入れなくなった。それまでは10歳だった。

銭湯の暖簾や看板で、「ゆ」の字を図案にした印を見かけることがある。組合の説明によれば、これは銭湯のシンボルマークで、昭和63年(1988)5月に開かれた全国の浴場組合の会議で決まった。親子のふれあいと人と人とのふれあいを表した「ふれあいマーク」だという。立川の湯の入口でも、探してみるといい。

組合のウェブサイトには、詩人の田村隆一の言葉も紹介されている。銭湯すたれば人情もすたる。タオルのしぼり方、体を洗う順序など、基本的なルールはだれが教えるのか。家に風呂がある時代に、銭湯は湯に浸かる場所であると同時に、他人と同じ湯を分け合う作法を覚える場所でもあるのだ。

湯けむりの残る街──立川に湯が残った理由

冒頭の問いに戻ろう。なぜ立川には、多摩のほかの市より多くの湯が残ったのか。

確かな答えは、資料の中には無い。都の表は、軒数を示すだけで、理由までは書いていない。だから、ここから先は、歩いて考えた私の半分の答えだ。

立川の湯は、それぞれが別のやり方で生き延びてきた。梅の湯は、1万冊の漫画と2階建ての大きな湯で、手ぶらの若い客や走る人まで迎え入れた。松見湯は、建物ごと生まれ変わって、水風呂と外気浴の時代に応えた。美保湯は、薪の火を守った。そして、市と同い年の湯がもう一軒、常連たちに見送られて暖簾を下ろした。

駅の北と南と、南武線の小さな駅のそば。三つの湯は、三つの違う答えを出している。人が集まる街だから湯が残った、と言うのは簡単だ。けれど、本当は、湯屋の主たちが、それぞれの答えを出し続けてきたから残ったのだろう。残りの半分は、湯に浸かりながら考えてほしい。

あのころ、立川の人々は、家に風呂が無いから湯屋へ通った。いま、立川の人々は、家に風呂があっても、わざわざ湯屋へ行く。湯の値段は100倍になった。それでも暖簾をくぐる人がいる。それは、600円で買えるものが、湯だけではないと知っているからだ。

寄り道クイズの答え

正解は2の洗髪代。東京都浴場組合の一覧によれば、昭和23年(1948)には大人の入浴料6円に対して、洗髪にも6円かかった。のちに10円、昭和40年からは5円になり、昭和45年(1970)5月1日からは取られなくなった。髪の長さで料金が変わったわけではないらしい。

訪ねる前に

  • 立川湯屋敷 梅の湯: 立川市高松町3-13-2。JR立川駅から徒歩7分。組合の地図では営業は15時〜24時、正月三が日を除き無休。
  • 松見湯: 立川市羽衣町1-8-12。JR南武線の西国立駅から徒歩3分。組合の地図では営業は15時〜23時、休みは毎月2日・12日・22日。
  • 美保湯: 立川市羽衣町1-2-18。西国立駅から徒歩5分。組合の地図では「休業中」。再開の情報は組合の地図で確かめてほしい。
  • 最新の営業日・時間・設備は、東京都浴場組合の地図で: https://www.1010.or.jp/map/archives/area/%E7%AB%8B%E5%B7%9D%E5%B8%82
  • 入浴料金: 令和8年(2026)8月1日から、都内の大人の入浴料は600円、中人(小学生)200円、小人(未就学児)100円(組合の案内による)。最新は https://www.1010.or.jp/guide/%e5%85%a5%e6%b5%b4%e6%96%99%e9%87%91%e3%81%ae%e3%81%8a%e7%9f%a5%e3%82%89%e3%81%9b/ で。サウナなどは別料金のことがある。
  • 入り方の手引き: https://www.1010.or.jp/guide/howto/
  • 組み合わせるなら: 西国立の二つの湯は、立川駅から南武線で一駅。梅の湯は、北口のファーレ立川のパブリックアートや昭和記念公園の散策のあとに。湯を出るころには、歩いた距離のぶんだけ、湯がありがたくなっている。
  • 来やすさ: 新宿から中央線の快速で30分台。神奈川からは、川崎から南武線に乗り換えなしで約1時間、西国立は立川の一つ手前の駅だ。

湯のあとは、立川駅北口で

湯上がりの体は、思っているよりよく動く。温まった筋肉は、冷えた日よりずっと素直に伸びる。

立川駅の北口から徒歩1分、立川市曙町2-14-10のエトロワビル3階に、オンザショア立川店がある。溶岩プレートを敷いたスタジオで行うホットヨガのスタジオだ。常温のヨガやピラティス、女性専用のキックボクササイズ、ボクササイズ、HIIT、パーソナルトレーニングもあり、ヨガだけで25種類以上のレッスンがある。

営業は8時から23時30分まで、年中無休で、曜日による違いはない。銭湯の多くが午後に開くのに対して、こちらは朝から開いている。午前にヨガ、午後に湯、という一日も組み立てられる。

ヨガの体験レッスンは税込1,980円。60分のレッスンに、バスタオル2枚、フェイスタオル1枚、ヨガマットのレンタルが含まれる。銭湯と同じく、手ぶらで寄れる。

妊娠中の人は溶岩ホットヨガには参加できないが、常温のマタニティヨガがある。医師から運動を止められている人は利用できない。

料金は https://ontheshore.jp/price/ 、店の案内は https://ontheshore.jp/ 、体験の予約は https://site.locaop.jp/C0aVK?_src=hp で確かめられる。

湯けむりの街の、駅前の3階で、もうひとつの汗をかく。帰りの電車の窓に映る顔は、来たときより少しだけ、ゆるんでいるはずだ。

冒頭の写真: 銭湯でおなじみの黄色い湯桶「ケロリン」。昭和40年ごろに広まった(写真: Miya.m / CC BY-SA 3.0 / Wikimedia Commons)

この記事の情報は2026年10月時点のものです。

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