
噛むと耳の前に汗が出る人たち
噛んだり唾液が出たりするたびに耳の前が赤くなり、汗をかき、熱くなる。これがフライ症候群である[8]。1923年にポーランドの神経科医ウツィヤ・フライが報告した[7]。
仕組みは配線の間違いだ。頭や首の手術などで神経が切れたあと、副交感神経の線維が、近くの神経を失った汗腺や皮膚の血管に誤ってつながる[7]。すると噛むことや唾液の合図が、そのまま汗の合図になる。配線図としては、悪趣味なほどよくできている。
原因になる処置は、唾液腺の手術から、やけどの再建、胸腔鏡による交感神経の手術まで幅広い[7]。まれに外傷、糖尿病、感染が原因になることもある[7]。症状は軽いものから、心理的、社会的に重いものまで幅がある[7]。治療の選択肢はいくつも提案されているが、多くは塗り薬で、症状を抑えるには生涯にわたって続ける必要があるという[7]。
疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。
食物アレルギーと間違われる子どもたち
意外なのは子どもの例である。手術にも糖尿病にも関係しない121例(男性67、女性54)を集めた系統的レビューでは、93%が18歳以下で発症し、原因らしきものが見つかった85例の多くは鉗子分娩の経験だった。全体の52%、63例である[8]。
45%は診断まで12か月以上かかり、半数でアレルギーの評価が行われていた[8]。原因が見つかった残りには、顔を強く打ったあとの例や、耳の前を通る神経の炎症のあとの例が含まれる[8]。レビューはこれを「偽のアレルギー反応」と呼び、小児科医やアレルギー医にもっと知られるべきだと書く[8]。食べると頬が赤くなる子を見てアレルギーを疑うのは自然なことで、そのごく一部にこの症候群が混ざっているのかもしれない。まれな話なので、自分の子がそうだと早合点する必要もない。

腎臓の移植のあと、味覚性発汗が消えた
糖尿病の側には、さらに不思議な観察がある。糖尿病の足の研究で知られる研究者の2017年の記念講演をまとめた総説によれば、頭と首の味覚性発汗は、神経障害の人より末期の糖尿病性腎症の人に多く、腎臓の移植を受けると消えた[18]。代謝に原因がある可能性を示す、という読みである[18]。
配線の間違いでも代謝の異常でも、同じ「食べると汗が出る」症状になる。出口が同じでも入口は一つではない。困っている人には、抗コリン薬のクリームの効果がランダム化試験で確認されている[18]。
手術の代金として出る汗
味覚性発汗は、別の手術の副作用としても現れる。顔の赤面を止めるための交感神経の手術を調べた9研究1,369人(8〜74歳、平均21か月の追跡)のレビューでは、赤面がよく改善した人が78.30%、完全に満足した人が84.02%いた一方、別の場所に汗が増える代償性発汗が74.18%、味覚性発汗が24.42%に出た。手術を後悔している人は6.79%だった[20]。ランダム化試験がなく、強い推奨はできないと著者らは断っている[20]。
胸腔鏡の交感神経の手術はフライ症候群の原因の一つにも挙げられていた[7]。赤面を止める手術の代金が、食事のときの汗として回ってくる人がいるということである。統合した割合は手術を受けた人の24.42%(95%信頼区間12.22〜36.61%)で、汗の出る場所までは分からない。
ここまでの例を並べると、出る場所は原因ごとに違う。フライ症候群は耳の前[8]、腎臓の例は頭と首[18]。汗の地図は神経の配線と体の状態で描き変わる。ふつうの人の鼻の下の汗も、この地図の一つの区画なのかもしれない。これは例から引いた私の推測で、鼻の下を測った結果ではない。

よくある誤解
辛いものの汗で体が冷えて涼しくなる。 人の塗る試験でも牛の試験でも、体温に差は出ていない[3][17]。食べて涼しくなることを人で測った数字が出るまでは、言い切れない話である。
汗の量は、体の熱さをそのまま映す。 汗の量と体の温度は別々に動きうる。メントールだけよりカプサイシン入りのクリームで汗は多かったのに、体温にも運動の限界までの時間にも差はなかった[3]。
食べると顔が赤くなるのは、すべて食物アレルギー。 子どものフライ症候群は、食物アレルギーと誤って受け取られることが多いとレビューは書く[8]。自分で決めず医師に見てもらえばよい。
今日からできること
- 辛いものの汗がふつうの範囲なら、ハンカチを1枚持つだけでよい。スープは少し冷ましてから飲む。43度の受容体に熱とカプサイシンを同時に送らないという理屈で、汗が減るかは試験で確かめられていない[5]
- 耳の前が噛むたびに赤くなる、汗で濡れるときは、辛さに関係なく医師に相談する[7][8]
- 首や耳の下の手術のあとに食事で汗が出るようになったら、執刀した医師に話す[7]
- 糖尿病があり、食事のたびに頭や首の汗がひどいときも主治医に。腎臓の病気が進んだ人に多く、腎移植のあとに消えた観察から、代謝に原因がある可能性が示されている[18]
- 子どもが食事のたびに頬を赤くするときは、アレルギーの検査とあわせて小児科で相談する[8]
オンザショアの汗は、味覚の汗ではない
汗には三つの出どころがあった[16]。溶岩プレートを敷いたオンザショア立川店のホットヨガでかく汗は、ふつうに考えれば体温調節の側で、担々麺の汗とは出どころが違う。そしてカプサイシンの試験が見せたとおり、汗の量は体の中の変化の物差しにならないことがある[3]。だから、ここでは汗の量を成果として数えない。
妊娠中の方は溶岩ホットヨガには参加できず、常温のマタニティヨガがある。暑い部屋が合わない日のために常温のヨガもあり、医師から運動を止められている方は利用できない。
店はJR立川駅北口から徒歩1分、8:00〜23:30で年中無休、レッスンの開始は時間割のとおりで、夜の遅い回は水曜と金曜の21時に始まる。立川で担々麺を食べる前の週に、別の汗も試したければ、ヨガの体験が税込1,980円でタオルとマットのレンタル込みである。体験の予約、料金、店のトップ。
鼻の下をぬぐうハンカチは、研究がまだ届いていない場所に当たっている。
参考文献
[2] TRPV1 Receptor Modulators: Emerging Therapies for Neuropathic, Osteoarthritic, and Perioperative Pain — Tsai EH, Gan TJ., 2026, CNS drugs. DOI: 10.1007/s40263-026-01272-1
[3] Topical application of isolated menthol and combined menthol-capsaicin creams: Exercise tolerance, thermal perception, pain, attentional focus and thermoregulation in the heat — Peel J, John K, Page J, Jeffries O, Heffernan SM, Tallent J, Waldron M., 2023, European journal of sport science. DOI: 10.1080/17461391.2023.2211966
[5] Neurotoxins Acting on TRPV1-Building a Molecular Template for the Study of Pain and Thermal Dysfunctions — Beignon F, Notais M, Diochot S, Baron A, Fajloun Z, Tricoire-Leignel H, Lenaers, 2025, Toxins. DOI: 10.3390/toxins17020064
[6] Role of transient receptor potential vanilloid-1 in behavioral thermoregulation of the Mongolian gerbil Meriones unguiculatus — Wen J, Bo T, Zhao Z, Wang D., 2022, Integrative zoology. DOI: 10.1111/1749-4877.12587
[7] Frey’s Syndrome: A Review of Aetiology and Treatment — Mantelakis A, Lafford G, Lee CW, Spencer H, Deval JL, Joshi A., 2021, Cureus. DOI: 10.7759/cureus.20107
[8] Auriculotemporal Frey syndrome not associated with surgery or diabetes: systematic review — Betti C, Milani GP, Lava SAG, Bianchetti MG, Bronz G, Ramelli GP, Goeggel Simone, 2022, European journal of pediatrics. DOI: 10.1007/s00431-022-04415-w
[13] The triple function of the capsaicin-sensitive sensory neurons: In memoriam János Szolcsányi — Pintér E, Helyes Z, Szőke É, Bölcskei K, Kecskés A, Pethő G., 2023, Temperature (Austin, Tex.). DOI: 10.1080/23328940.2022.2147388
[16] [Clinical significance of sudomotor evaluation for neurological diagnosis] — Asahina M., 2015, Brain and nerve = Shinkei kenkyu no shinpo. DOI: 10.11477/mf.1416200188
[17] Feeding encapsulated pepper to dairy cows during the hot season improves performance without affecting core and skin temperature — Vittorazzi PC, Takiya CS, Nunes AT, Chesini RG, Bugoni M, Silva GG, Silva TBP, D, 2022, Journal of dairy science. DOI: 10.3168/jds.2022-22078
[18] The 2017 Banting Memorial Lecture The diabetic lower limb – a forty year journey: from clinical observation to clinical science — Boulton AJM., 2019, Diabetic medicine : a journal of the British Diabetic Association. DOI: 10.1111/dme.13901
[19] The Mysteries of Capsaicin-Sensitive Afferents — Fischer MJM, Ciotu CI, Szallasi A., 2020, Frontiers in physiology. DOI: 10.3389/fphys.2020.554195
[20] Role of surgical thoracic sympathetic interruption in treatment of facial blushing: a systematic review — Girish G, D’souza RE, D’souza P, Lewis MG, Baker DM., 2017, Postgraduate medicine. DOI: 10.1080/00325481.2017.1283207
この記事の情報は2026年11月時点のものです。個別の健康状態については医師にご相談ください。
ヨガとからだの小さな疑問のほかの記事
- あくびはなぜ人にうつる?共感の証拠と言い切れない理由を、魚と胎児とアンドロイドで読む
- しゃっくりってなぜ起こる?砂糖で止まる話より先に知りたい、横隔膜と脳幹の不思議な反射
- 太陽を見るとくしゃみが出るのはなぜ?3%と57%に割れた光くしゃみ反射の調査と遺伝の話
- 音楽で鳥肌が立つ人と立たない人の違い、家族のつながりで最大29%、献血の意欲は動かない
- 寝言はなぜ出る?多い人、怒る人、眠りのどの段階かで三つに割れた分類と夢を映す説を読む
- 金縛りはなぜ起きる?体が動かず声も出ない夜の仕組みと、一般の人7.6%・学生28.3%の開き
- 夢を覚えている人と覚えていない人の違い、夜中の約2分の目覚めが夢を残すという説
- 二度寝はなぜだるいのか、57%が二度寝派の調査と寝起きに残る眠りの研究を読む
- ショートスリーパーの定義は?子どもなら9.5時間の研究と遺伝子で短く眠れる人
- 甘いものは別腹の科学的根拠、主菜を25%減らしてもデザートの量は変わらなかった
- お腹はなぜ鳴る?音と腸の動きの研究と、掃除の収縮で空腹感が高まる実験を読む
- 空腹でイライラする理由、ハングリーは気のせいか日常の記録と夫婦の研究で読む
- チョコを食べたくなる心理、マグネシウム不足説と生理前の欲求を実験と調査で読む
- コーヒーを飲むと眠くなる体質はあるか、カフェインの遺伝子差と抜いたときの眠気
- 泣くとスッキリする理由は本当か、涙のあとに気分が戻る仕組みと人に届く涙の研究
- ため息はなぜ出る?幸せが逃げる説より、数分おきに肺を開き直す呼吸の研究
- 指を鳴らすと太くなるは本当か、腫れが割れた2つの調査と60年決着しない音の正体
- 白髪はストレスで増える?1本の毛を読むと色が戻っていた研究と、戻す手立てがまだ無い理由
- 血液型と性格は関係ない?1万人調査の0.3%と、日本だけの話でもなかった信じられ方
- 右脳と左脳の性格診断にエビデンスはあるか、1,011人の脳画像が支持しなかった右脳派
- 歌うことの健康効果は本物か、カラオケ前に読む唾液の試験。認知症の人では読書の会と差なし
- 雨の日に眠い理由は言い切れない。1,233人の日記で読む気圧、日照と疲れの関係
- 満月の夜に眠れないのはなぜ?電気のある街でも眠りが短くなった研究と、苦情が出る日のずれ
- 春はなぜ眠いのか、春に長く眠る証拠は弱かった。春眠暁を覚えずを季節差の研究で読み直す
- 森林浴の効果は論文でどこまで?免疫力と血圧と気分、分けて読むと確かさが違う
- ととのうの科学的根拠はあるか、サウナと水風呂の快感は脳と血液の部品どまりだった
- 犬を飼うと寿命が延びる?384万人の24%減と、双子の登録で再現しなかった研究を読む
- 手書きは記憶に残るのか、有名な実験を再現したら手書きの優位は支持されなかった
- 独り言はなぜ言うのか、増えたら心配?言葉をふさぐ実験と自分への声かけの試験を読む
疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。
2






