雨の日に眠い理由は言い切れない。1,233人の日記で読む気圧、日照と疲れの関係

雨の日に眠いのは気圧のせいか。1,233人の日記と気象データを結ぶと、雨と気圧が疲れに及ぼす効果は日照を通したもので、天気が気分に与える平均の効果は小さかった。標高2,500mの疲れ、気圧と痛みの弱い相関、暑さと睡眠の研究も並べ、誰のせいにできる範囲かを確かめる。

雨の朝、起きた瞬間からまぶたが重い。容疑者はいつも同じ顔ぶれだ。気圧、日照、前の晩の蒸し暑さ。中央線が遅れていれば、そこに憂うつも加わる。

先に判決の方向を書く。雨の日の眠気を気圧のせいだと言い切れる証拠はない。1,233人の日記と気象データを結んだ研究では、雨と気圧が疲れに及ぼす効果は日照を通したものだった[21]。疲れについては、主役は気圧より日照のほうらしい。ただし天気が気分に与える平均の効果は小さく[21]、睡眠研究の側も、天気と眠りの関係はまだ十分に調べられていないと認めている[10]。

ほかの容疑者にも、それぞれ関わっていそうな筋道はある。ここからは1人ずつ呼び、どこまでなら責任を負わせられるかを確かめる。雨の日の運動のだるさや通い方は『梅雨の「今日はやめておこう」に一回だけ逆らう|雨の日のだるさと、続けられる運動の選び方』と『雨の日に立川駅南口から北口のホットヨガへ|ぬれない道を探す前に決めること』に譲り、ここでは眠気の理由だけを追う。

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「眠い」と「だるい」と「疲れた」を分ける

検索窓に打つ語と、研究が測っている語はずれている。打つのは「眠い」だが、ここで読む研究が測っているのは、日々の疲れ[21]、高地の疲労[18]、舌の痛み[1]、片頭痛[3]、夜の睡眠の質と量[15]だ。昼の眠気そのものではない。

この区別は意外に大事である。寝足りなくて眠いのか、体が重くて動きたくないのか、頭が痛くて横になりたいのか。雨の朝はこれらが一緒くたに「眠い」という一語に入る。研究の数字を借りるときは、どれの話なのかを確かめないと、別の症状の証拠で眠気を説明することになる。昼休みの机で突っ伏している同僚が、全員同じ理由で眠いとは限らない。

睡眠の総説は、天気のパターン、気温の揺れ、そのほかの大気の条件の役割がまだ十分に調べられていないと書き、細かな環境データが手に入るようになった今、この空白は目立つという[10]。

疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。

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第一の容疑者、気圧。山の話と混ぜない

気圧が下がると疲れる。これは山では確かな話である。総説によれば、高地では気圧が下がることで低酸素にさらされる。酸素の割合はおよそ20.9%で変わらないのに、体に入る酸素が減る[18]。標高1,500mあたりから呼吸や循環で補う反応が始まり、疲労や認知、感覚の乱れがふつう見られるようになるのは2,500mから、3,500mを超えると補いきれなくなり、高山の頭痛や高山病が出てくる[18]。

ただし、これは登山の話だ。立川の雨雲の下が標高2,500mに化けるわけではない。「低気圧でだるい」と「高地でだるい」は言葉が似ているだけで、同じ仕組みだと決める材料は、ここで読む研究の中にはない。

高地の総説は、もう一つ興味深いことを書いている。高地への反応の大きさには個人差が大きく、弱さの要因には睡眠不足や疲労が含まれる[18]。これは高地の話で、雨の朝へそのまま広げることはできない。

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舌の痛みと気圧を結ぶと、相関は弱い

気圧と症状を結んだ数字はある。舌の痛みの患者を対象にした多施設の探索的な試験では、外来のたびに気圧を記録し、痛みの強さとの相関を調べた。出た相関係数はおよそマイナス0.2で、著者らも弱いと書く[1]。この試験は、天気で揺れる舌の痛みに経験的に使われてきた漢方薬の五苓散を試したものだが、登録が足りず、12週間で痛みが20%以上改善した人の割合も五苓散の群で高くはなく、はっきりした鎮痛の効果は確かめられなかった[1]。

片頭痛の研究には、もっと目を引く話がある。11か国の専門家がまとめた総説によると、最も多い引き金はストレス、月経、睡眠の乱れで、気圧は東アジアで目立つ地域特有の引き金の一つとして挙がっている[3]。同じ棚に並ぶのは、ラマダンの断食、トルコのロドス風、北極圏の白夜、ブラジルのスイカだ[3]。「低気圧のせいで頭が痛い」は、世界共通の項目というより、東アジアで目立つ報告である。著者らも、これらの引き金の仕組みや因果はこれから調べるべきだと書いている[3]。

もっともらしい筋道も一つ紹介しておく。メニエール病の総説は、水分の調節に関わるホルモンのバソプレシンが、脱水や妊娠などと並んで気圧の変動にも影響を受け、そのホルモンが、ストレスと睡眠覚醒のリズムに関わる視床下部と下垂体、副腎の連絡に関わると書く[19]。気圧が眠気まで届く道として、地図の上ではつながっている。ただしこれは内耳の病気の仕組みを論じた総説で、雨の日の眠気を測ったものではない。

第二の容疑者、日照。疲れについては手掛かりがある

いちばん直接の手掛かりは2008年の研究である。1,233人にオンラインで日記をつけてもらい、気象台のデータと結びつけて、気温、風、日照、降水、気圧、日の長さの6つが、前向きな気分、否定的な気分、疲れにどう響くかを調べた[21]。

結果は、雨の朝の見方を変える。疲れに直接の効果があったのは日照で、雨と気圧の疲れへの効果は日照を通したものだった[21]。統計の上では、雨や気圧の疲れへの効果は、日照を介して現れていた、という形である。日記と気象データを結んだ観察の研究で、原因を確かめたわけではない。否定的な気分には気温、風、日照が効いていた[21]。

ただし、大きさを聞くと拍子抜けする。説明できる分で見ると、天気が気分に与える平均の効果は小さかった[21]。そして測ったのは「疲れ」で、昼の眠気そのものではない。雨の朝の疲れの主役に日照を据えるとしても、舞台は思ったより小さい。

日照で数字があるのは外出の量もそうだ。平均81.2歳の虚弱ぎみの高齢者385人を調べたドイツの横断研究では、実際に動き回っている範囲は、下肢の機能や栄養状態、人とのつながりとともに、日照時間と正の関連があった[4]。自分が感じる動きやすさや体の能力の分析では、日照は関連の項目に挙がっていない[4]。関連が出たのは体の力より、実際に出かける範囲のほうである。年齢層は読者と違うし、横断研究なので因果もわからない。それでも筋は通る。日が照らない日は外に出ない。外に出ない日は動かない。動かない日は眠気に気づく暇がある。この3段は私の見立てで、研究の結論ではない。

第三の容疑者、前の晩の暑さ。夜の眠りについては手堅い

3人の中で、夜の眠りとの関係の証拠がいちばん厚いのがこれである。実生活の睡眠を測った研究の系統的レビューは、屋外でも屋内でも気温が高いほど睡眠の質と量が悪くなる傾向があると結論した[15]。悪影響は暑い月や日ほど、弱い立場の人や暑い地域ほど強く、睡眠が暑さにすぐ慣れるという証拠は乏しい[15]。睡眠の総説も、天気が眠りに及ぶ直接の経路として温熱の乱れを、間接の経路として極端な天気による避難やストレスを挙げている[10]。

更年期の女性を調べたスコーピングレビューでも、涼しい環境は症状を減らし眠りを助ける可能性があるとされた[8]。梅雨時の雨の朝に眠いなら、責めるべきは今朝の気圧より昨夜の寝室かもしれない。ここまでは推測の鎖だが、鎖の最初の輪には、多くの研究に共通する傾向がある。冬の冷たい雨には、もちろん別の説明が要る。

数字で読む天気と体

  • 1,233人:日記と気象データを結んだ研究の人数。雨と気圧の疲れへの効果は日照を通していた[21]
  • 6つ:その研究が調べた天気の要素。気温、風、日照、降水、気圧、日の長さ[21]
  • 20.9%:高地でも変わらない酸素の割合。変わるのは気圧のほう[18]
  • 2,500m:疲労や認知の乱れがふつう見られるようになる標高の目安[18]
  • およそマイナス0.2:探索的な試験で見られた、舌の痛みと気圧の相関。弱い[1]
  • 385人:日照時間と動き回る範囲の関連を調べた高齢者の人数。平均81.2歳[4]

疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。

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宮川涼 Founder

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